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第二十四章 第二話 アリシアの秘密

 今回のワード解説


 読む必要がない人は飛ばして本文のほうを呼んでください。


本文を読んで、これって何だったかな?と思ったときにでも確認していただければと思っています。


GABA……脳内でGABAは「抑制系」の神経伝達物質として働いている。GABAは正反対の働きをしている。脳内の神経伝達物質は、興奮系と抑制系がほどよいバランスをとっていることが大切である。興奮系が適度に分泌されると気分が良く、元気ややる気にあふれ、集中力やほどよい緊張感がある。


GABA神経系……GABAの神経系。


GABA受容体……イオンチャネル型受容体 および イオンチャネル内蔵型受容体 の一つである。 リガンド は主要な 中枢神経系 の抑制性 神経伝達物質 である γ-アミノ酪酸 (GABA)である。 活性化されると、GABA A 受容体は Cl − を選択的に イオンチャネル を透過させることにより、 神経細胞 に過分極が生じる。 これにより、活動電位が生じにくくなり 神経伝達 の阻害効果を引き起こす。


神経伝達物質……ニューロンと細胞との間で信号を伝達する脳内の化学物質です。少なくとも 100 の神経伝達物質があり、それぞれ異なる機能を持ちます。


脳回路……脳の中のネットワークのようなもの。脳の機能は神経細胞のネットワーク(神経回路)により担われており、神経回路は胎生期に遺伝的プログラムにより大まかに形成されたのち、主に出生後に使われながら再編され、成熟した回路になっていく。赤ちゃんの驚異的な成長スピードはこの回路再編機構のなせるわざであり、また回路再編が適切に進まないことが自閉症などの発達障害の一因となることも示唆されている。


脳神経……脊椎動物 の 神経系 に属する 器官 で、 脳 から直接出ている 末梢神経 の総称。


ヒスタミン覚醒系……肥満細胞のほか、好塩基球やECL細胞がヒスタミン産生細胞として知られているが、普段は細胞内の顆粒に貯蔵されており、細胞表面の抗体に抗原が結合するなどの外部刺激により細胞外へ一過的に放出される。また、マクロファージ等の細胞ではHDCにより産生されたヒスタミンを顆粒に貯蔵せず、持続的に放出することが知られている。



 俺の姿を見るなり声を張り上げた魔王セミラミスの言葉を聞き、俺は彼女の言葉の意味が分からなかった。


 魔力?あの方の子?どうして人間の味方をしている?どういう意味なんだ。


「それはどういう意味だ」


 彼女の言葉の意味が理解できず、俺は聞き返す。


「そのままの意味だ。わからないのであれば、もしかしたらわらわの勘違いかもしれない。お前にひとつ問おう。お前の母親は、腰まであるスカイブルーの髪に長い睫毛をしており、赤い瞳のほっそりとした体型の女性で合っておるか?」


 セミラミスが言う人物像は、すべて母さんと一致している。


「お前の言う女性は母さんで間違いない」


「そうか。これは興味深いことになった。まさかあの方がご子息に何も言ってはおらぬとはな」


 含みのある笑みを浮かべると、セミラミスは浮遊術を使ったようで、地面から足が離れると上昇し始めた。


「気になるのであればわらわの支配する大陸、オケアノスに来るがよい。我が城で話してやろう。現段階においてお前に話さないということは、あの方は最後まで隠し通すつもりであったのだろう。だが、運悪くわらわと出会ってしまった」


「逃げるな!待ちやがれ!」


 地上との距離を離すセミラミスに向けて、モードレッドは声を張り上げる。


「既にわらわの目的は達した。もうこの地に用はない。オケアノスで待っておるぞ、あの方の子よ」


 そうセリフを残すと、彼女はオケアノス大陸のある方角に飛んでいく。


 魔王の姿が見えなくなった瞬間だった。


 いきなり激しい眠気に襲われ、目を開けておくことが困難になる。


 タイミングは悪いとは言わないが、今になって副作用が発生するとは。


 メフィストフェレスの魔法対策として、ライリーにお願いした魔法には副作用が存在する。


 脳内で異常な興奮が起きたときに、それを押さえてくれる働きをする神経伝達物質のGABA(ギャバ)を、脳神経のGABA受容体に結合するようにした。


 その結果、脳回路が抑制されて余計な情報を遮断することができた。


 しかし、GABA(ギャバ)神経系が活発になると、ヒスタミン覚醒系を抑制するために眠気が誘発される。


 俺は睡魔に勝つことができずに膝をつくと、両の瞼を閉じた。


 あれかどのくらい時が経ったのだろうか。


 目が覚めると、俺は寝ぼけ眼のまま状態を起こす。


 軽く目を擦り、周囲の光景が認識できるようになるのを待ってから、辺りを見渡した。


 どうやら広いテントのような場所にいるようだ。


 そして俺はベッドに横になっている。


 他にもベッドがあるところを見ると、ここは医務室的な場所のようだ。


 この場所には見覚えがある。


 オルレアン軍の野営地の医務室だ。


 俺はベッドから降りて立ち上がろうとすると、テントの入り口から人が入ってきた。


 金髪をポニーテールに纏め、綺麗な顔立ちの女性だ。


 彼女は赤いシャツに短パンというラフな格好をしている。


「お、目が覚めたようだな。気分はどうだ?」


「モードレッド。ああ、気分のほうは大丈夫だ。メフィストフェレスを倒すために使った魔法の副作用で、眠ってしまっただけだからな」


 モードレッドは俺のところに来ると、隣に置いてあった椅子に腰をかける。


 彼女の顔を見ると、青い瞳のある目は充血しており、腫れ上がっていた。


 察するに、彼女は泣いていたのだろう。


 モードレッドが涙を流す理由に対して心当りがある。


 おそらくアルテラ王は亡くなってしまったのだろう。


 それで悲しみがこらえきれずに、彼女は泣いたのだと考えられる。


 それにいたった理由は、彼女の首につけている首飾りだ。


 あれは王を継承した証、それを身につけているということは、彼がこの世にはいないということを差す。


 俺は彼女にかけてやる言葉が見つからず、顔を俯かせる。


「どうした?どこか具合でも悪いのか?」


 表情を暗くしたことで、モードレッドを心配させてしまったようだ。


 彼女は覗き込むようにして俺をみる。


「いや、身体のほうは本当に大丈夫だ。ただ、モードレッドになんて言葉をかけてやればいいのかと思って」


「何だそんなことかよ。確かに親父は亡くなった。だけどそんなことで落ち込むほど、心は弱くない」


 彼女は観察力と直感力が高い。


 俺の表情や言葉のニュアンスを読み取って、何を言いたいのかを理解してくれた。


 口の端を吊り上げて笑顔を作り、白い歯を見せる。


「俺は親父からこの首飾りを受け取り、王となった。そこでだ。時期オルレアンの王となるお前にお願いしたいことがある」


「俺がしてやれる範囲でなら願いを聞こう」


 頼みごとを聞く姿勢を見せると、モードレッドは一度咳払いをして俺を見た。


「もう一度同盟を結び直そう。メフィストフェレスの策略でヒビが入ったが、関係の修復を図りたい」


 モードレッドが手を差し伸ばす。


 俺は彼女の手を握り、同名を結び直す意思を示した。


 握った手は剣タコができており、女性の手を握っている感じはしなかったが、それも彼女が努力をした証だ。


「願ってもない申し出だ。俺のほうこそよろしく頼む」


「あ、言っておくが、同盟を結ぶのはお前とだ。ペンドラゴン王とは結ばないから、そこのところは間違わないでくれよ」


 モードレッドの言葉に、俺は首を傾げる。


 俺と同盟を結んで父さんとはしない。


 それはつまり、父さんの代では協力関係は解消したままだが、俺に政権が渡り、王となってから同盟を結び直すということだ。


 どうしてわざわざそのような回りくどいことをするのだろうかと思うが、彼女なりに考えがあってのことなのだろう。


「これで同盟は結ばれた。何かあったら遠慮なく俺に言ってきてくれ。力になれることがあれば、協力する」


 互いに手を離すと、モードレッドはテントの出入口のほうに顔を向ける。


「そこでこそこそと立聞きしていないで、こっちに来ればいいだろう。入って来いよ」


 出入口に向けて彼女は声をかけた。


 俺は気づかなかったが、どうやら外で立聞きをしている人物がいるらしい。


 テントの中に入ってくるように彼女が言うと、金髪のミディアムヘアーで低身長の女の子と、薄い水色の毛先にウエーブのかかっているセミロングの女の子、それにクラシカルストレートの赤い髪に、漆黒のドレスを着ている女性がこちらにやってくる。


「やっぱりお前たちだったか。どうして立ち聞きなんか趣味の悪いことをした?」


 青い瞳で、彼女たちを見ながらモードレッドは尋ねる。


「余は立ち聞きなどせずに、堂々と中に入るように言ったのだ。しかしカレンとエミがそれを阻んだ」


「だって、真剣なことを話している様子だったし、私は空気が読めないようなことはしたくなかったのよ」


「そうそう。デーヴィットに空気の読めない女だと思われたくなかったから」


 三人がそれぞれ立ち聞きしていた理由を述べる。


「そうか。なら、あとは仲間水入らずで話せばいい。俺の用事は済んだ」


 モードレッドは立ち上がると、カレンの肩をポンと軽く叩く。


「じゃあな親友」


 ポツリと言葉を漏らすと、彼女はテントから出て行った。


「デーヴィット!目が覚めて何よりである!」


「うわっ」


 いきなりレイラが俺に覆い被さるようにして抱きついてきた。


 不意を衝かれた形となった俺は、彼女を支えることができずに押し倒される。


 服越しに柔らかい感触が伝わり、思わずにやけそうになった。


「ちょっと、いきなり何をしているのよ!デーヴィットは目が覚めたばかりなのよ!」


「カレンの言うとおりよ。早く離れなさい!」


 二人が離れるように言い、漆黒のドレスを掴む。


「引っ張るではない!余が着ておるのはドレスであるぞ」


「ドレスって言っても、あんたの魔力で作り出したものじゃない!」


 カレンとエミが引き剝がそうとしているが、それに対抗すべく、レイラは俺の身体にしがみつく。


 密着している状態の中、引いては押し寄せる波の如く、何度もレイラの胸が俺に当たって擦りつけられる。


 色々な意味でヤバイ。


 思わず身体が反応しそうだ。


「デーヴィットからも何か言ってよ!」


 カレンが赤い瞳で俺を睨んできた。


 俺は脳内でシミュレーションをしてみる。


 このままレイラに離れるように言わなかった場合、彼女の睨みは間違いなく、ゴミを見るような目に変わるだろう。


 そして誤解を招くような罵り方をされそうだ。


 更にそれを聞いたエミまでもが、カレンと同じ眼差しを向けて来る。


 最悪魔法をかけようとするだろう。


 失神魔法ならまだマシ。


 だけど石化魔法や勃起不全魔法なんてものをかけられては、俺は終わってしまう。


「レイラ、悪いけど離れてくれないか?目が覚めたばかりで気分が優れないんだ」


 彼女に嘘を吐き、離れるようにお願いする。


 本当はとても元気だ。


 身体が思わず反応しそうになるほど。


 だけど俺は、自身の身を守るために、レイラに離れるように要求する。


「そうであるか。それはすまなかった」


 レイラが離れ、俺はホッとする。


「今日は始まったばかりだというのに、何だか疲れてしまったわ」


「あたしも」


 今日が始まったばかりというカレンの言葉を聞き、俺はあれから一晩眠っていたのだということに気づく。


 俺は一晩眠っただけだというのに、身体の節々が痛いと思った。


 これも魔法の影響なのだろうか。


「それにしても、一晩眠っていただけだというのに身体が痛いや」


 凝り固まった筋肉を解すために、両の肩を回す。


「何を言っているのよ。デーヴィットは三日も眠っていたわよ」


「三日!」


 カレンが三日間も眠っていたことを教えてくれた。


 眠っていたのが一晩ではなかったことに驚き、俺は声が上げる。


 三日も眠っていたのなら、身体が痛くて当たり前だ。


「父さんは今どこにいる?」


「王様はいつもの玉座が置かれてあるテントの中にいると思うけど」


 父さんは今どこにいるのかを尋ねると、いつもいるテントの中にいるのではないかとカレンが答えてくれた。


 すぐに問い質さなければならないことがあったことを思い出した俺は、ベッドから降りる。


「父さんのところに行ってくる」


「ちょっと大丈夫なの?目が覚めたばかりなのに」


「大丈夫、これぐらいなら問題ない」


 カレンが心配そうな表情で尋ねてきたので、俺は笑みを浮かべて彼女を安心させる。


 そしてベッドから降りた俺は、医務室から出ると父さんのいるテントに向かう。


 玉座の置かれてあるテントの中に入ると、茶髪に切れ目の男性が玉座に座っているのが視界に入る。


「デーヴィット、目覚めてくれて何よりだ。身体のほうはどうだ?」


 俺の姿を見るなり、父さんは心配そうな顔で尋ねてきた。


「俺は元気だ。それよりも父さんに確認したいことがある」


「それは良かった。それで何を聞きたい?言ってみろ」


「母さんのことだ。ガリア国でセミラミスと名乗る魔王が、俺を見てどうして人間の味方をしているのかと問われた。そしてセミラミスは母さんを知っているような言い方をした。母さんは本当に精霊なのか?」


 オケアノスの魔王が話していたことを父さんに告げると、彼は難しい顔をする。


 何も言いたくないのか、しばらく沈黙が続いた。


 問いに答えてくれそうにない態度に、俺は拳を握って苛立ちを覚える。


 すると、父さんは小さく息を吐いて口を開た。


 どうやらやっと話す気になったようだ。


 ここまで溜めるだけ溜めたのだ。


 よほどのことを言おうとしているのだろう。


「アリシアは精霊だ。それは間違いない。だが、ワタシも詳しいことはわからない。夫であるワタシにも、出会う前のことは話そうとはしなかった」


 さんざん待たされたのにも関わらず、彼が言った言葉は俺の期待を裏切るものだった。


 だけど、それでも父さんは言いたくはなかったのだろう。


 表情を曇らせている。


 母さんは父さんにも過去のことを話していない。


 だとするならば、一度王都オルレアンに戻って直談判をしても、あのときのようにはぐらかされるだろう。


 なら、この先に何が待ち受けていようとも、俺はオケアノス大陸に向わなければならない。


「父さん、俺はオケアノス大陸に向かう。隠された母さんの秘密を知るために」


「そうか。ならば気をつけて行ってこい。ワタシたちは数日の内に王都に戻る」


 父さんの口から出た言葉が意外過ぎて、俺は彼を二度見する。


 前回のように冒険はさせないと言ってくると思っていた。


「意外だな。父さんが俺を止めないなんて」


「正直に言えば止めたいさ。これ以上は魔王に関わるようなことをせず、城で立派に王子としての職務を果たしてほしい。だけど止めたところで、ワタシの言うことを聞くとは思えないのでな。反対して親子の関係に亀裂が入るぐらいなら、息子の選んだ道を信じてやりたい」


 父さんの言葉に、俺はジーンときて温かい気持ちになる。


「身体だけは気をつけろよ、敵は魔物だけではない。その土地特有の病気だって存在している」


「ありがとう父さん。だけど俺は一人じゃない。頼りになる仲間たちがいる。皆で協力すれば、どんなことだって乗り越えて行けるさ」


 俺は彼に礼を言い、踵を返すとテントを出て行く。


 今日も最後まで読んでいただきありがとうございます。


 誤字脱字や文章的に可笑しな箇所などがありましたら、教えていただけると助かります。


 ブックマーク登録してくださったかたありがとうございます。


 お陰で目標ポイントに一歩近づきました。


 今後とも多くのかたに気に入ってもらえるように、執筆活動を頑張っていきます。


 明日も投稿予定なので、楽しみにしていただけたら幸いです。

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