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第二十四章 第一話 王より託されし物

 今回はモードレッド中心になっています。


 そのため三人称で書かせてもらっています。


 今回のワード解説


 読む必要がない人は飛ばして本文のほうを呼んでください。


 本文を読んで、これって何だったかな?と思ったときにでも確認していただければと思っています。


海馬……大脳辺縁系の一部である、海馬体の一部。特徴的な層構造を持ち、脳の記憶や空間学習能力に関わる脳の器官。


シャウト効果……大きな声を出すことで筋出力が高まる現象。


体幹……脊椎動物のからだを大きく区分すると体幹と体肢とになるが,体幹とはからだの中軸部で,これをさらに頭部,頸部,胸部,腹部,尾部に分ける。体肢は体幹から出る2対の枝で,前肢(ヒトでは上肢)と後肢(ヒトでは下肢)とからなる。


バインド……剣の刃同士が触れたこと。日本剣術の鍔迫り合いに近いイメージ。



 デーヴィットの拘束から解放されたモードレッドが次に見た光景は、突如出現した氷柱に、アルテラ王が串刺しになっている姿だった。


「あ、ああ、ああああ親父!」


 自身の目を見ている光景を疑いたい気分だ。


 自分はまだメフィストフェレスの魔法で幻覚を見させられている。


 そう思い込みたかった。


「まさかメフィストフェレスがわらわの命令を達成できずに死ぬとは思ってもいなかった。だが、ガリア国の王を始末することができたからよしとしよう」


 上空から聞いたことのない女の声が聞こえ、モードレッドは顔を上に向ける。


 そこには灰色のソフトウルフの髪を、ミディアムほどの長さでパーマをかけ、赤いドレスを着た色白の女がいた。


 唇と同じ青い瞳で、地上を見下ろしている。


 モードレッドは歯を食い縛り、彼女と同じ青い瞳で空中浮遊をしている女性を睨みつける。


「モード……レッド」


「親父!」


 弱々しい声でアルテラ王が自分の名を口にしていることに気づき、彼女は駆け寄る。


「親父、しっかりしろ」


「私は……もう……助からない……だろう」


「そんなことを言うなよ。大丈夫だ。すぐに助けてやる。だから今はしゃべるな」


「はは、お前の口……から……そんな……言葉を……聞く日が……来ようとは……な。どうやら、真実を……思い出した……ようだな」


 モードレッドはガリア国の王の手を優しく握る。


 メフィストフェレスが死んだことで、正しい記憶に戻ったモードレッドは涙を流す。


 魔物であるメフィストフェレスと初めて会ったそのとき、彼女はあの男の魔法で脳の記憶を司る海馬に偽りの記憶を植えつけられた。


 貧しい生活を送っていたのは事実だ。


 母親であるモルガンが病によって死んだことも嘘ではない。


 書き換えられていた記憶は、母親がこの国や王、そして民を恨んでいることと、誰も手を差し伸ばして助けてくれなかったということだ。


 貧しい生活であったが、貧困街ではできるだけ住民同士が協力しあって生活をしていた。


 それに毎月手紙と一緒に、お金が入った封筒が届けられていた。


 現金の入った封筒には、ガリア国の押し印が押されてあったのを思い出す。


 そう、アルテラ王はなるべく怪しまれない程度の少額を、モルガンたちに送っていたのだ。


 子どもの頃の正しい記憶が思い出される。


 母親は誰一人として恨んではいなかったのだ。


 死の間際にも、アルテラ王を許すように、モードレッドに言っていた。


 彼の王としての立場を理解し、恨んでいないとも彼女に語っていた。


 自分がガリア国の兵士に志願したのも、自身が王の子どもであることを認めさせるためではない。


 できるだけアルテラ王の傍にいられるようになり、父親の補佐をするために剣を握った。


 そして努力に努力を重ねて騎士団長にまで上り詰めた。


 真実を思い出すと、モードレッドの目からは涙が流れ落ちる。


 どうして自分は愚かなことをしてしまったのだろうか。


 全てはメフィストフェレスのせいで片付けられるが、魔物の魔法にかかってしまったのは、自分の鍛錬不足によるものだ。


 モードレッドは心の中で自身を責める。


「モードレッド……これを」


 アルテラ王は身につけている首飾りに手を置く。


「これは……精霊の雫という……ガリア国の……王を継承した……証だ。私の亡き後……は……お前……が……持て。お前……は……私の……可愛い……娘だ。迎えに行って……やれなくて……すまない」


 そのことを告げると、アルテラ王は目を瞑る。


「おい、しっかりしろ!死ぬな!死なないでくれ!」


 モードレッドは必至に父親に訴えかける。


 しかし彼からの返事は帰ってこない。


 手からはまだ体温を感じるも、次第に冷たくなっていくのがわかった。


 彼女はもう一度上空に視線を向けると、青い瞳で再び空中浮遊をしている女性を睨む。


「テメ―は許さねぇ。降りて来い!今から殺してやる!」


 できるだけ大きく声を張り上げ、モードレッドは上空にいる女に、下降するように要求する。


「どうしてわらわが、下等生物である人間の指図を受けなければならない」


 自分たちを見下ろしている女性と目が合う。


 その瞬間、モードレッドは悪寒が走った。


 この場に居てはいけないような気がして、彼女は咄嗟に横に飛び退く。


 すると彼女の立っていた位置に、地面から生えたように何本もの氷柱が飛び出ていた。


「ほう、わらわの攻撃を避けるか。直感力はそれなりに高いな。だが目障りだ。下等生物は下等生物らしく、虫けらのように地に這いつくばれ」


 空中浮遊をしている女性が右手を前に出す。


 その瞬間、再びモードレッドに悪寒が走り、彼女は今いる場所から横に跳躍して離れる。


 しかし、それでも嫌な予感は完全には消えなかった。


 すぐさま他の場所に移動する。


 彼女のあとを追うように、モードレッドが立っていた場所には次々と、地面から氷柱が顔を出す。


 どうやら自分の言った言葉が彼女の癇に障ったようだ。


 標的をモードレッドに絞り、彼女のみを攻撃している。


 これなら、自分が離れていくように躱し続ければ、デーヴィットたちが被害に遭うことはない。


 モードレッドは思考を巡らしながら、状況を把握する。


 父親の身体を貫いた女は、上空にいたまま降りる気配をみせない。


 だけど、彼女が浮遊している場所は大きい建物の真上だ。


 ならば、三角跳びで建物の間を移動しながら上に向えば、あの女のもとに辿り着ける。


「俺は早い。何者にもその速さは捉えることができずに、瞬く間に相手に食らい付く。俺は早い。俺は早い。俺は早い!」


 自身に自己暗示をかけ、モードレッドは地を駆ける。


 足の筋肉の収縮速度を早くした走りは、通常のスピードを遥かに凌駕し、素早い動きで建物の間に移動する。


 そして建物の側面を足場にすると、三角跳びで上方を目指す。


 壁を飛び、勢いをつけて灰色の髪の女性の上まで飛ぶ。


「俺は強い。その強さが誰にも負けず、いかなる相手も凌駕する。俺は強い。テメ―は死ぬ。俺は強い。テメ―は死ぬ。俺は強いテメ―は死ぬ。俺は強い!」


 再度自己暗示をかけたモードレッドは叫ぶように声を出す。


 大きな声を出すことで、息を吐くことになる。


 そのため、自然と肋骨が下に下がり、体幹を安定させるために重要な腹部の圧力が増す。


 この効果によって神経による運動能力の抑制を外し、自分の筋肉の限界に近い力を発揮することができる。


 暗示と声によるシャウト効果で、通常よりも筋肉の使い方が変わった彼女は力が増した。


「死ね!」


 モードレッドは剣を振り下ろす。


 空中にいた女性は金髪のポニーテールの女性に気づく。


 彼女は顔面を守るように両腕をクロスさせた。


 女性の行動を見て、モードレッドは一瞬だけ萎縮(いしゅく)してしまう。


 この女は本気なのだろうか。


 本当に腕だけで、自分の剣を防げられると思っているのだろうか。


 何を考えていようと自分には関係ない。


 とにかく目の前の女に刃を振るうだけだ。


「うおおおぉぉぉぉぉ」


 金髪のポニーテールの女性が振るった刃は、灰色の髪の女性の腕に当たる。


 一瞬のできごとであったが、モードレッドはまるでバインドをしているかのような感触を覚えた。


 刃は女性の腕を両断することはなかったが、空中浮遊をしていた女性は剣を防いだ衝撃で吹き飛ばされ、地面に落ちる。


 その光景を見て、モードレッドはニヤリと口角を上げる。


「ざまぁみろ、地面に叩き落してやったぜ」


 屋根の上に着地した彼女は、地面に顔を向ける。


 土煙が舞い上がり、落下した女性がどうなっているのかはわからないが、おそらく地面にへばりついているだろう。


 モードレッドは屋根から飛び降りると空中でクルリと一回転をして、地面に着地を決める。


 アクロバティックな動きだったために髪が乱れ、ポニーテールに纏めていた金髪が胸のほうにきた。


 彼女は纏めてある金髪を、手で背中のほうに持っていくと土煙を見る。


「これは驚いた。人間の分際でわらわを地面に叩き落すとはな」


 土煙の中から女性の声が聞こえる。


 どうやら声のトーンから察するに、まだまだ元気な様子だ。


「チッ」


 思わずモードレッドは舌打ちをする。


 土煙が消えると、ミディアムほどの長さのパーマをかけてあるウルフヘアーの女性が、赤いドレスに付着した土を手で払っている光景が視界に入った。


「魔王であるわらわに膝をつかせた人間は何百年振りだろうか」


「魔王だと!」


 茶髪のマッシュヘアーの男、デーヴィットが声を荒げた。


「そうだ。わらわは魔王セミラミス。貴様が、メフィストフェレスが言っていたデーヴィットとか言う男……!」


 魔王と名乗った女性は、デーヴィットを見るなり途中で言葉を詰まらせる。


 そして、とんでもないものを見るかのように大きく目を見開いた。


「貴様から僅かに感じるその魔力、もしかしてあの方の子か!どうして人間なんぞの味方をしている!」


 モードレッドは、驚いた表情を見せる魔王が何を言っているのかがわからなかった。


 今日も最後まで読んでいただきありがとうございます。


 誤字脱字や文章的に可笑しな箇所などがありましたら、教えていただけると助かります。


 ブックマーク登録してくださった方ありがとうございます。


 登録者数44人という少しだけ不吉な数字になった途端、全然登録者が増えないという期間がありました。


 これって4という数字が並んだから、呪い的なものが発動しちゃったの!


 なんてことも考えてしまったときもありましたが、新たに登録してくださった人が増えたことに安心しました。


 まぁ、増えないことが当たり前なんですけどね!


 登録してくださった方々、そして私の作品を毎日読んでくださっているあなたには本当に感謝しております。


 これからも頑張っていきますので、今後ともよろしくお願いいたします。

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