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第二十二章 第四話 参戦するギネヴィア

 今回は、モードレッド中心の話になっています。


 そのため、三人称で書かせてもらっています。


 今回のワード解説


トランスジェンダー……生まれた時に割り当てられた性別が自身の性同一性またはジェンダー表現と異なる人々を示す包括的な用語である。

性的少数者のひとつとして挙げられる。性同一性は、性自認、ジェンダー・アイデンティティとも呼ばれ、自身のジェンダーをどのように認識しているのかを指す。

すなわちトランスジェンダー女性は、女性の性同一性をもち出生時に男性と割り当てられた人で、トランスジェンダー男性は、男性の性同一性をもち出生時に女性と割り当てられた人を指す。

性同一性が女性でも男性でもない場合もある。


クラシカルストレート……女性の髪形の一種。王道のモテ髪型の定番のストレートロング。

ふわっとパーマを当てたほうが垢ぬけるような気もするが、あえてストレートを押し通すことで新鮮で清楚な感じがとっても好印象の髪型である。



 モードレッドはデーヴィットと握手を交わし、内心ホッとする。


 上手くいった。


 予想していたこととはいえ、実際に過去の境遇を他者に話すのは、恥ずかしさを覚えた。


 だけどこの羞恥も、目的を達成するための犠牲だ。


 彼らが協力してくれることになった以上は、障がいとなりえる存在は少ない。


 もうすぐだ。


 もうすぐあの男を母上に合わせることができる。


 そう思うと、モードレッドは思わず口角を上げた。


「どうした?急に不敵な笑みを浮かべて?」


 心の中の感情を、制御できずに身体に現れてしまったようだ。


 デーヴィットは自分の顔を見ながら首を傾げる。


「何だよ、これでも上手く行ったことに対して喜んでいるんだ。不敵な笑いとか言うなよ。殺されたいのか」


 脅しのつもりで、モードレッドは剣のグリップに手を置く。


「ま、待ってくれ。俺が悪かった」


 脅しが聞いたのか、茶髪のマッシュヘアーの男は咄嗟に謝罪の言葉を言ってくる。


「まぁ、冗談だ。さすがに協力関係を結んだばかりの相手を、手にかけるようなことはしない」


「いやー、それにしてもまさかモードレッドが男の振りをしているとは思わなかった。俺はてっきり、トランスジェンダーかと思っていたからさ」


 デーヴィットが右手を頭の後ろに持っていくと、本気で心が男だと思っていたことを言いだす。


 彼の言葉を聞いた瞬間、モードレッドはツボに嵌ってしまい、笑い声を上げた。


「アハハハハ、俺がトランスジェンダーか。まぁ、その辺に理解のあるやつからしたら、そう捉えられるかもな」


 普通は見た目で人を判断する。


 だけど、初めて彼とあったときには、デーヴィットは最初から男として接してくれた。


 彼には何か特別なものを感じてはいたが、トランスジェンダーだと思い込んでいたための行動だったのだ。


 彼の優しさと思いやりに、モードレッドは安心する。


「モードレッドがこちら側の仲間になったのだ。俺も正体を明かすべきだと思うのだが、いかがでしょうか、レイラ様?」


 全身を白銀の鎧で覆った男が、クラシカルストレートの赤い髪の女性に声をかける。


 全身を白銀の鎧で覆った男、この男がガウェインの言っていたやつか。


 第二騎士団団長と同等か、それ以上の実力を持つと言われている。


 敵であれば脅威の存在だが、仲間であれば心強い。


「よかろう。許可をする」


「ありがとうございます」


 白銀の鎧の男が兜を外す。


 その瞬間、モードレッドは驚愕し、目を大きく見開く。


 心臓の鼓動が激しくなり、本当に現実に起きていることなのかを疑ってしまう。


 パープル色の髪をオールバックにしたイケメンが、白銀の鎧の男の正体だったことに。


「ラ、ランスロット」


 あまりにも衝撃過ぎて、モードレッドは言葉がでずに固まってしまう。


「ど、どうして……ランスロットが……オルレアン軍……なんかに」


 数秒ほど時間が経ってしまったが、どうにか声を振り絞って尋ねる。


「勘違いされても困るので、先に言っておこう。俺はランスロットだが、お前の知るランスロットではない」


「それはどういうことだ?」


「それは余が話すとしよう」


 ランスロットの代わりに、レイラと呼ばれたクラシカルストレートの女性が説明を始める。


 彼女の説明を聞き、更に驚愕してしまう。


 本当のランスロットは魔王レイラに殺されており、幼馴染の姿をした男は、精霊の残留思念で作られた偽者。


 そのことを聞き、モードレッドはガウェインの話を思い出す。


 そりゃぁ、記憶喪失の設定でごまかすしかない。


 本人ではないので、当然記憶はないのだから。


 ギネヴィアのことは知らないはずだ。


「ランスロットの最後はどうだった」


「勇敢な男であったぞ。力の差が歴然であることを知っておきながら、命尽きるまで希望の光を見続けた」


 レイラの言葉を聞き、ランスロットらしいとモードレッドは思う。


 本物のランスロットは、王の命令でオルレアン大陸にある古城、キャメロットの調査を頼まれていた。


 彼は婚約寸前であったので、任務を達成して帰還した際には挙式を上げると、ギネヴィアと約束をしていたのだ。


「貴様からしたら、大切な友人を殺した仇である。怒りに身を任せて殴りにかかって来てもよいぞ。一発ぐらいなら受けてやろう。当時の余は、本気で人間を憎んでいたのだからな」


 レイラが殴られる覚悟であることを告げる。


 確かに、大切な友人を殺した女に対して、怒りや憎悪を向けるのが普通なのだろう。


 しかし、モードレッドは不思議とそのような感情は湧き上がってこなかった。


 別に魔王レイラを目の前にして、臆した訳ではない。


 相手が魔物の王であっても、立ち向かっていただろう。


 けれど、自分でもわからないほど、負の感情が出てこないのだ。


 まるで他人事であるかのように、客観的にしか見られない。


「いや、いい。殺されたのはあいつが弱かったからだ。弱者が死ぬのは戦場での決まりごとだ。邪魔して悪かったな。俺は帰らせてもらうよ」


 椅子から立ち上がると、モードレッドはローブのフードを被り、テントから出て行く。


 オルレアン軍の野営地を抜けて荒野を歩くと、枯れた木につないでいた馬のところに向かう。


「待たせたなクラレント。帰りも頼むぜ」


 相棒の馬の頭を撫でると、モードレッドはクラレントに跨り、手綱を握る。


「ガリア国までの特急だ」


 モードレッドは足で馬を締め付けるようにして圧力をかけると、クラレントはガリアに向けて走り出す。


 馬を走らせること約一時間、彼女はガリアの城下に辿り着いた。


 クラレントから降りると、デーヴィットから受け取ったローブを脱ぎ、手綱を引いてモードレッドは自分の家に帰ろうとして夜道を歩く。


 住民の家には明かりが灯り、談笑しているのか、笑い声が耳に入ってきた。


 王の指示で、民たちには戦のことは伏せてある。


 明日は大規模な遠征ということで、自分たち第三騎士団以外のほとんどの兵士が城壁の外に出る。


 つまり、城からの増援はないということだ。


 モードレッドはニヤリと不敵な笑みを浮かべる。


「ついに明日だな」


 明日ですべてが終わる。


 男への拘りも、王に向けていた感情も。


 胸を躍らせていると、視界に癖毛の茶髪男が映り、モードレッドは彼に駆け寄る。


「よお、ガウェインじゃないか。こんな時間にこんなところで何をしているんだ?」


「モードレッドではないですか。私は今からギネヴィアのところに行くところです。何でも話したいことがあるとのことで。モードレッドはクラレントと一緒のところを見ると、夜の散歩ですか?」


「まぁ、そんなところだ。少し風を浴びたい気持ちになってよ」


「そうですか。ですが、明日は大きな戦いがあるのです。疲れは残さないようにしてくださいよ」


「そんなこと言われなくとも分かっている」


 歩きながらモードレッドは考えた。


 ギネヴィアは、ガウェインを呼んでどうするつもりなのだろうか。


 ランスロットのことでも聞くつもりなのだろうか。


「そういえば、デーヴィットさんやランスロットをこの町で見かけないのですよ。どこに行かれたのでしょうね。記憶を失っているとは言え、こちらの陣営にいるだけでも軍の士気が上がると言うのに」


 敵陣地にいるぞ!しかもランスロットは今朝お前が相手にしている!


 さすがに声に出すわけにはいかなかったので、モードレッドは心の中で叫ぶに止める。


 真実を知ってしまったとはいえ、本物のランスロットは既にこの世にいないと言えるわけがない。


「なぁ、俺もギネヴィアのところに行っていいか?」


「別に構いませんがクラレントをつなげるような場所はありましたっけ?」


「確かなかったな。よし、急いでクラレントを馬小屋に連れて行く。少し遅れるから、ガウェインは鈍足で歩いていてくれ」


 一旦家に戻ることを告げると、モードレッドは手綱を引っ張り、急いでこの場から離れる。


 家に着き、馬小屋にクラレントを入れると、彼女は急いでギネヴィアの家に向かう。


 モードレッドが急いだからか、それともガウェインが言われたようにゆっくりと歩いていたからなのかはわからないが、ギネヴィアの家の前で二人は合流することができた。


「早かったですね。そんなに遅れて来るのが嫌だったのですか?」


「べ……別に……どうだって……いいだろう。それよりも……早く……鳴らせよ」


 息を切らせながら、モードレッドは呼び鈴を鳴らすようにガウェインに言う。


「わかりました。では」


 彼が扉の横にあるベルを鳴らし、来客が来たことを知らせる音色を響かせると、扉が開かれて家主が顔を出す。


「ガウェインさん、よく来てくれました。あら?モードレッドも来てくれたのですね!久しぶり」


 モテの王道とも呼ばれるロングストレートの緑色の髪の女性が、モードレッドに気づくと、長い睫毛のある目で彼女を見る。


「ああ、久しぶりだな。最近は顔を見せられなくてすまない」


「うーうん、いいのよ。気にしないで。忙しいのは知っているから。そんなことよりも早く中に入って。こんなところで立ち話もよくないから」


 ギネヴィアに招き入れられ、モードレッドとガウェインは彼女の家に入る。


「椅子に座っていてちょうだい。今、紅茶を入れるから」


 ギネヴィアがキッチンに向かうと、モードレッドはテーブルの椅子に座り、辺りを見る。


 久しぶりに彼女の家に入ったが、前に入ったときと何も変わっていない。


 前に家に招かれたのは、ランスロットとギネヴィアの婚約発表の日だ。


 その翌日にランスロットは王の命令でオルレアン大陸に向かった。


 それ以来、彼が戻ってくることはなかった。


 今のギネヴィアは、ランスロットが行方不明になったまま時が止まっているのだと、この部屋が物語っている。


「お待たせ」


 部屋を見渡していると、ギネヴィアがキッチンから戻ってきた。


 手には紅茶の入ったカップを乗せているお盆を持っており、モードレッドたちのところに来ると、テーブルの上にカップを置く。


「それで、話しというのは?」


 カップを持ち、紅茶を一口飲んだガウェインが話を切り出す。


「話というのはランスロットのことよ。彼は今もあの女狐と一緒にいるのでしょう?」


「多分そうだと思います。仕事の合間に城下を探していたのですが、見つけることができていません」


「そう……なの」


 悲しそうな顔で、ギネヴィアは紅茶の入ったカップを見つめる。


「なぁ、その女狐というのはなんだ?」


 話の内容の一部を理解することができずに、モードレッドは彼女に尋ねる。


「レイラとか言う女よ。記憶を失ったランスロットのご主人様になって、彼を縛りつけているの。絶対に許せないわ」


 何も聞かされていなかったので初耳なのだが、どうやらデーヴィットたちは、ギネヴィアと面識があるようだ。


 彼女の態度を見る限り、ランスロットとレイラの関係は秘密にしていたほうがいいだろう。


 既にランスロットは死んでおり、彼女の前に現れたのは幻影のようなものだと知れば、絶対に取り乱すはずだ。


「ねぇ、モードレッドはどこかで見なかった。赤髪のクラシカルストレートの女よ。生意気にも自分のことを余と呼んでいたわ」


 ギネヴィアに尋ねられ、モードレッドは首を横に振った。


 もちろん知っている。


 先ほどあったばかりだ。


 だけど教える訳にはいかない。


 もし、居場所を教えようものなら、ギネヴィアは間違いなく飛び出すだろう。


 そしてそんなギネヴィアをガウェインは追いかける。


 万が一にも野営地にいるデーヴィットたちと遭遇するなんてことになれば、自分が裏切ったことを知られることにもなりかねない。


「そう。何でもいいから、何かわかったら教えてね」


「おう、幼馴染のお願いだ。何か情報が入り次第教えに来るから」


 モードレッドは笑みを浮かべると堂々と嘘を吐く。


「話というのはランスロットの件だけでしょうか?」


 ガウェインが尋ねると、ギネヴィアは首を左右に振る。


 他にも話したいことがあるようだ。


「あのね、私知っているの。明日城壁の外では戦争があるのよね」


「どうしてそれを!」


 ギネヴィアの言葉に、ガウェインが大声を上げる。


 隣で聞いていたモードレッドも、どうして情報が漏洩しているのかが分からなかった。


 戦争のことは国民には秘密にしてある。


 誰にも教えてはならない。


 もし、そのことがバレてしまえば命はないものに等しい。


「あのね。城下に来ていた占い師さんが教えてくれたの。『明日、城の外で大きな戦いが起きる。多くの人々が血を流し、命を落とす。ですが、その戦場に身を置けば、あなたは探しているものが見つかる』って言っていたんだ」


 占いなんてものはモードレッドは信じていない。


 けれど、その占いは事前に明日のことを告げている。


 つまり、その占い師は城の関係者ということだ。


「その占い師はどんなやつだった」


 モードレッドはギネヴィアに詰め寄ると、彼女は右手の人差し指を口元に持っていく。


「えーと、確か黒いローブを着ていて顔はフードでよく見えなかったけど、男の人だったよ」


 ローブを着ていた男、だけどそれだけでは特定するには情報が少なすぎる。


「そんなことより、二人にお願いがあるの」


 ギネヴィアに情報を流した人物に関して考えていると、彼女は両手を合わせて聞いてもらいたいことがあると言う。


「お願い……ですか?」


「そう。占いの話は聞いたでしょう!私も連れて行ってほしいのよ」


 自分をメンバーに加えてほしいと言い出す彼女に、ガウェインとモードレッドは顔を見合わせる。


「ギネヴィアが戦力に加わってくれるのであれば、こちらとしても助かるのですが」


 ガウェインがチラリとモードレッドを見る。


 モードレッドは考えた。


 ギネヴィアは弱そうな見た目だが、魔法に関してはガリアで一番と言っても過言ではない。


 彼女は四重契約者(クワトロ)だ。


 四体の精霊と契約している天才精霊使い。


 自分が敵となった以上は、脅威の存在だ。


 彼女は戦争に参加させないほうがいい。


「ギネヴィア…………いいんじゃないのか。お前がいれば士気が上がるし、第一騎士団の兵士も、素直に言うことを聞いてくれると思う」


 参加させないほうがいいと言うはずだったが、脳裏にデーヴィットの顔が思い浮かぶと、思惑とは逆のことを言っていた。


 彼と一度だけ戦ったが、精霊使いとして彼の実力はギネヴィア並だ。


 デーヴィットがいれば、大きな障がいとなることもないだろう。


「モードレッドがいいと言うのであれば、私も断りはしません。明日の朝にでも、王には私から言っておきましょう」


「ありがとう。持つべきものは幼馴染ね」


 ギネヴィアが嬉しそうに笑みを浮かべる。


 予想外の展開になってしまったが、どうにかなるだろう。


 イレギュラーが発生しないかぎりは。


 今日も最後まで読んでいただきありがとうございます。


 誤字脱字や文章的に可笑しな箇所などがありましたら、教えていただけると助かります。


 ブックマーク登録、評価してくださったかたありがとうございます。


 お陰で目標ポイントの百五十を超えました!


 次は二百ポイントを目標に頑張っていきます。


 最近は高評価をしてくださるかたが多いような気がしますが、これで調子に乗ることなく、日々の努力を積み重ねていこうと思います。


 明日も投稿予定なので、楽しみにしていただけたら幸いです。

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