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第二十二章 第三話 裏切りの血塗られた堕天使

今回のワード解説


クラシカルストレート……女性の髪形の一種。王道のモテ髪型の定番のストレートロング。

ふわっとパーマを当てたほうが垢ぬけるような気もするが、あえてストレートを押し通すことで新鮮で清楚な感じがとっても好印象の髪型である。



 モードレッドを引き連れて、俺は野営地内を歩く。


 彼に渡したローブは、オルレアンの兵士が寒さを防ぐための配給品であるため、他の兵士と擦れ違っても変な視線は送られていない。


 どうやら無事に彼をテントまで案内できそうだ。


「ここだ。入ってくれ」


 作戦を考えるのに使用しているテントに連れて行き、俺たちは中に入る。


「おいおい、これはどういうことだ。話が違うじゃないか」


 中に入った途端、モードレッドは俺を睨んでくる。


 作戦会議室の中には、金髪のミディアムヘアーの女の子、前髪を作らない長い黒髪の女性、クラシカルストレートの赤い髪の女性、薄い水色のセミロングの女の子、白い髪に透き通りそうな肌を持つ女児、金髪ロングのエルフ、全身鎧に身を包んだ男にローブを着た男、それにリピートバードが椅子に座っており、俺たちが入ってくるなり全員が視線を向けてきた。


 そう、この会議室には俺の仲間たち全員が集まっていたのだ。


 ジルとランスロットがレイラに伝え、彼女がカレンたちにこのことを話した。


 心配した彼女たちが話し合いに立ち会いたいと言い出し、今のような状態になっている。


「俺は二人で話しがしたいと伝えておいたはずだが」


「あのなぁ、あんだけバカでかい声を出していたら人払いの意味がないって。皆の耳に入ってしまっている」


 俺は、連絡係をしてくれたリピートバードが、モードレッドと同じ声音の高さで言葉を口にしていたことを教える。


「おい!声の高さぐらい自分で考えて調整できないのか!」


『俺に言うな!連絡してきたのは別の鳥だ!』


 モードレッドがレックスに不満をぶつけると、鳥は逆切れして声を荒げる。


「チッ、まぁいい。今日伝えたかったのは戦争のことだ。デーヴィットの仲間にもあとで伝えてもらうつもりでいたから、手間が省けたということにしておこう」


 舌打ちをすると、モードレッドは話し合いに来た目的を言う。


『なんだ。つまんないの、二人きりで会いたいって言っていたから、てっきり逢引(あいびき)をするのが目的だと思っていた』


 ドライアドの声が脳に響き、俺は苦笑いを浮かべる。


 そもそも彼の見た目は女性だが、中身は男だ。


 BLではないのだから、ドライアドが考えているような展開にはけしてならない。


 俺とモードレッドは空いている椅子に座ると変な緊張感に包まれ、沈黙がこの場を支配した。


 互いに口を開くタイミングを窺っている。


「ふあーぁ」


 そんな沈黙を破ったのは、アリスの欠伸だった。


 彼女は大きく開けた口を右手で隠しながら、大きい声を出す。


「ガキは寝る時間じゃないのか?」


「アリスさん。眠たいのであれば、ワタクシが連れて行きますが?」


「大丈夫なのです。わたしもデーヴィットお兄ちゃんの仲間としてお話を聞かなければ」


 リラックスをしているかのような優しい声音で、アリスはここにいることを言うが、彼女の目はまどろみかけている。


 タマモとエミがアリスの隣にいるし、もし彼女が眠ってしまっても、きっとタマモが気を利かせてアリスを外に連れ出してくれるだろう。


「とりあえず、アリスの気持ちは尊重するけど、我慢しなくていいからね。眠くなったら先に眠っていいから」


「はいなのです」


 優しい口調でアリスに言うと、彼女はゆっくり右手を上げて返事をした。


「それで、オルレアンとガリアの戦争の件で話しがあると言ったな」


「ああ、とうとう王が重い腰を上げてな、明日にでもすべての兵をあげてお前たちと交戦するそうだ」


「どうしてそのことをわざわざ俺たちに教える」


 わざわざ敵に塩を送るようなことを言いだし、気になった俺は彼に尋ねる。


「今更教えたところでそんなに変わらないだろう。どうせ俺たちの奇襲で最大限の警戒をしているだろうし」


「まぁ、そうだな」


 確かに言われてみればそうだ。


 今更教えてもらったところで、ほとんど変わらない。


 明日本格的な戦争になるという覚悟を決めることができるぐらいだ。


「俺の軍は後方待機になっている。そこでだ。お前たちがガリア国と戦っている間に、俺が背後から同胞の軍を攻撃して挟撃にでる」


 モードレッドの言葉に、俺は大きく目を見開く。


 鼓動が激しくなり、彼が何を言いたいのかがわからなくなった。


「それはどういう意味だ?」


 俺は思わず聞き返してしまった。


「そのままの意味だ。俺はお前たちオルレアンに(くだ)る。協力してガリア国と戦おう」


 モードレッドは手を差し伸べる。


 けれど、俺はすぐにその手を握ることができないでいる。


「話が見えない。どうしてガリアを裏切る」


 彼の考えが読めずに、俺はモードレッドに問う。


「まぁ、お前たちからすれば警戒するよな。もしかしたら罠の可能性だってあるのだから」


 俺が手を握ろうとしないでいると、モードレッドは差し出した手を引っ込め、自身の頭を掻き毟る。


「あーもう。これだけは言いたくはなかったのだが、やっぱり言わないとダメかよ」


 彼の態度を見る限り、俺たちを罠に嵌めるために協定を結ぼうとしているのではなさそうだ。


 俺たちと協力して戦いたい理由があるが、それを言うのは(はばか)れるのだろう。


 だけど、その理由を聞かない限りは、俺も答え出すわけにはいかない。


「モードレッドの気持ちは尊重したいが、仲間を危険な橋に渡らせるようなことはしたくない。理由を教えてくれなければ、この話はなしだ」


 突き放すような言い方をしながら、俺はモードレッドを見る。


 彼は何度か俺をチラリと見ると、恥ずかしいのか、頬を朱に染めていた。


 まるで恥じらう乙女のようだ。


 何であのような態度を取るのかが分からないが、できることなら変に疑われそうな態度は見せないでほしい。


 あやうく勘違いしそうだ。


『うーん。いくら一人称が俺でも、見た目が女じゃ全然興奮しないじゃない。これじゃあ、普通の恋愛ものになってしまう』


 モードレッドの態度を見て、ドライアドが頭の中で妄想を膨らませているようだ。


 聞きたくもないのに、彼女の声が頭に響く。


『でしたら、頭の中で容姿を美形男子に変えてみてはいかがでしょうか?私は二人のカップリングはアリだと思います』


『さすがウンディーネ!……ハァ、ハァ、いい!こ、興奮してきた!頭の中で性転換したモードレッドがデーヴィットに顎クイを!』


 止めてくれ!それ以上は言うな!


 女として腐っている精霊たちの声が頭の中に響き、俺は心の中で叫び声を上げる。


 今は真面目な話の最中なんだぞ!空気を読め!


 二体の精霊のせいで発狂しそうになると、どうやらモードレッドはどうするのかを決めたようで、口を開く。


「わかった。だが、これは俺から語りたくはない内容だ。それを聞きだすというのであれば、責任を取ってもらうからな」


 責任を取ってもらうという言葉を聞き、俺は唾を飲み込む。


 いったい、何を要求しようというのだ。


「デーヴィットよ。責任を取らなければならないというのであれば、こやつの話を聞く必要はない。交渉は決裂であるぞ」


「あたしたちが一緒にいてよかったわ。危うくデーヴィットをガリア国に取られるところだった」


 責任という言葉に、どのような想像を膨らませたのかはわからないが、レイラとエミが話を聞く必要はないと言い出す。


『何を言う。これは男の甲斐性というものだ。デーヴィット、あやつの話を聞き、責任を取れ、レイラのことは俺に任せろ』


 話を聞くべきではないと二人が主張すると、それに対抗するべくレックスが賛成側に回る。


「レックス、貴様は黙っておるのだ」


『いや、黙らぬ。俺は何としても、デーヴィットに話を聞かせ、責任を取らせる。そうすれば少しは俺の怨みも晴れるからな』


 どうやら俺に対する恨みからの発言のようだ。


 彼なりに何かの考えがあっての言葉だと思っていたが、買い被り過ぎていた。


「あたいはデーヴィットがどっちに転ぼうと関係ないからねぇ、ここは中立とさせてもらうよ」


「俺もライリーと同じだ。本来であればレイラ様の味方をするところであるが、ただ単に主に流されるばかりではいけないと思うのでな。ここは俺の意思を言わせてもらう」


 意外であったが、ライリーとランスロットは中立を選んだ。


 ライリーはともかく、ランスロットはレイラの味方をすると思っていた。


「デーヴィット殿、軍師の観点から言わせてもらいますと、私はモードレッドの話を聞き、味方になってもらうのが一番だと思っております。彼女の実力を分かっているうえでの、発言であります」


 ジルはレックスと同じで責任を取る覚悟で味方になるほうがいいと主張した。


 確かに、戦は味方が強ければ心強く、士気も上がる。


 軍略的に考えれば、モードレッドの提案に乗るべきだろう。


「デーヴィットさん。アリスさんが完全に眠られたので、ベッドに寝かせに行ってもよろしいでしょうか?」


 まどろんでいたアリスがとうとう睡魔に負けてしまったようだ。


 彼女のほうに視線を向けると、アリスは天使のような寝顔を晒していた。


 さすがに椅子に座ったまま寝かせると、あとで身体を痛めることにもなるだろう。


「わかった。悪いけど、アリスを寝かせてきてくれ」


「わかりました。すぐに戻りますので」


 タマモはアリスを背負うと、作戦会議室から出て行く。


 二人がいなくなったことにより、どう決断するのかは、カレンに委ねられることになった。


「カレン、君はどう思う?」


 義妹に尋ねると、彼女は顔を少し俯かせ、腕を組みだした。


「そうねぇ。皆、それぞれの思惑があって言っているようだけど、結局のところはデーヴィットがどうしたいのかよ。あなたの人生なのだもの。最終的にはデーヴィットが決めるべきだわ」


 カレンの言葉が胸に刺さり、それが決定打になった。


 俺はモードレッドの責任を取り、仲間になってもらう道を選ぶ。


「わかった。責任を取ることにするよ。だから話してくれ」


「デーヴィット!」


「あなた何を言っているのよ」


「止めな!男が一大決心をしたんだ。女が口を挟むんじゃないよ」


 反対していたレイラとエミが声を上げると、ライリーが二人を止める。


「お前の覚悟は受け取った。なら、俺も腹を括ろう。その前に責任についてだが」


 モードレッドが責任について語ろうとし、俺は再び唾を飲み込む。


「何があっても、最後まで諦めないで、ガリア国に勝つことだ。それを果たすことで責任を取ってもらったことにする」


 モードレッドが責任の内容を口にすると物音が聞こえ、俺は音のしたほうに顔を向ける。


 椅子から滑り落ちたのか、反対していたレイラとエミが床に尻餅をついていた。


『責任ってそれなの!もっと他にもあるでしょう!』


 ちょうどタマモが帰ってきたようで、ドライアドの声が頭に響く。


 まぁ、無茶なお願いをされなくてよかった。


「わかった。その約束を守ることを前提に聞かせてくれ」


 俺は了承すると、モードレッドを見る。


「はぁー、本当は言いたくないのだけど仕方がない」


 彼は小さく溜息を吐くと、共に戦いたい理由を語る。


 モードレッドの話を聞き、俺は驚愕する。


 彼はガリア国の王と娼婦である母親との間に生まれたこと、父親が自分の子どもだと認めないこと、母親のために女を捨て、男として生きてきたこと、認めてもらえるように、これまで努力をしてきたことを語ってくれた。


「今までさんざんやってきたのに認めてもらえない。俺は一生むりだと考えた。俺はいい、さんざん頑張ってきた結果がこれなのだから。だけど、母上にしてきたことは許せねぇ、だから父上を倒して、母上の墓の前で土下座をさせてやりたいんだ」


 モードレッドの話を聞き、俺は彼……いや、彼女に手を差し伸べる。


「理由を教えてくれてありがとう。お陰で心から信頼できる。明日はたのんだ」


「おう、任せとけ」


 俺たちは互いの手を握り、協力関係を築く。



 今日も最後まで読んでいただきありがとうございます。


 誤字脱字や文章的に可笑しな箇所などがありましたら、教えていただけると助かります。


 明日も投稿予定なので、楽しみにしていただけたら幸いです

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