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第二十二章 第二話 もしも仲間の皆が精霊になったら

 今回のワード解説


間諜……ひそかに敵のようすを探って味方に報告する者。間者。スパイ。

 ガウェインたちが撤退したあと、俺は父さんと今後について話し合っていた。


「お前がいて本当に助かった。警戒をしていたとはいえ、霧に紛れて奇襲をしてくるとは、町での穏やかな暮らしは、間諜を惑わすための策略だったのかもしれないな」


 父さんが難しい顔をしながら言葉を漏らす。


「いや、ガウェインたちは独断で攻めてきた。穏やかな城下の暮らしは間諜を惑わすものではないと思う」


 俺は額に右手を置いて考える。


 そもそも、この戦争を引き起こすきっかけを作ったのはメフィストフェレスだ。


 彼がオルレアンとガリアを戦争に導いた。


 けれど、彼がいったい何を考えているのがまったくわからない。


 ただ単に戦争を引き起こし、人間同士の殺し合いをさせたいのであれば、あとはただ見守るだけでいい。


 それなのに、メフィストフェレスはガリア国の王を言いくるめ、出陣させるのを遅らせている。


 戦争の引き金を引いたのに、タイミングを遅らせる理由とは何なのだ?


 やつの考えが読めない。


「とにかくお前は休め、周辺の警戒はワタシの兵がする」


「わかった。お言葉に甘えて俺は自分のテントに戻るよ」


 踵を返して俺はテントを出ると外を歩く。


 父さんにはテントで休むと言っていたが、俺はいつガウェインたちが戻って来てもいいように、警備にあたる。


 空はほとんど雲がなく、青空が広がっている。


 野営地を歩いていると、白銀の鎧に身を包んだ男とローブ姿の男が話しているのが見えた。


「ランスロットにジル。さっきはありがとうな。お陰で助かった」


 俺は二人を見るなり真っ先にお礼の言葉を言う。


 モードレッドとの戦闘に夢中になり、気づかなかったのだが、どうやら野営地の背後からも、ガウェインが率いる部隊が奇襲をしていたらしい。


 それに気づいたランスロットとジル、それにレイラが向かい、敵軍を撃退してくれていた。


「いえいえ、レイラ様の指示に従ったまでです。別にお礼を言われるようなことではありません。デーヴィット殿もご無事でなにより」


 ジルが首を左右に振るとギョロ目で俺を見る。


「そういえば、ガウェインの部隊と戦ったんだよな?彼とは戦ったのか?」


 俺は気になったことをランスロットに問う。


 ガウェインの知るランスロットと彼は別人ではあるが、俺が作ってしまった設定のせいで、記憶喪失扱いになっている。


 戦場で敵として立ち塞がれば、色々なやり取りがありそうな気がした。


「確かに俺はガウェインと剣を交えた。しかし俺が兜をつけていたからか、やつは気づかなかった。おそらくこの兜をつけている限りは、俺がランスロットとして認識されることはないだろう」


 認識されていなかったという言葉を聞き、俺はホッとする。


 ガウェインは彼を本者だと思い込んでいる。


 親友が敵になっていると知れば、どのような行動に出るのか分かったものではない。


 しばらく三人で話していると、一羽の鳥が俺たちに近づいた。


 フクロウに似てはいるが、あれはリピートバードだ。


 しかしレックスではない。


 彼であれば、真っ先に俺の頭に舞い降りるが、俺たちのところに来たリピートバードは地面に降り立った。


『デーヴィットさんに一件のメッセージがあります』


 誰だろうか?レックスを使わないで、俺にメッセージを送る人物に心当たりがない。


「わかった。聞かせてくれ」


 内容が気になった俺は、メッセージを聞くことにした。


『デーヴィット、俺だ。モードレッドだ』


 送り主がモードレッドだと言うことを知り、俺は身構える。


 どうして敵である彼が俺にメッセージを送ってくる?宣戦布告でも言ってくるのだろうか?


  変な緊張感に包まれて鼓動が激しくなるも、リピートバードが言葉の続きを言うのを待つ。


『今から言うのはお前だけに聞かせたい。もし周囲に人がいるのなら、人払いを頼む』


 突然人払いをするように言ってくるが、ここはテントではなく外だ。


 人払いのしようがない。


『人払いをしたか?したよな!しなかったらぶっ殺すからな!』


 リピートバードが声を荒げる。


 内容を聞かせたときに感情が高ぶっていたのだろう。


 声音も当時を再現されていた。


 しかし、これでは仮に人払いをしたとしても筒抜けだ。


 人払いの意味がなくなる。


 けれど俺の周辺にはジルとランスロットしかいない。


 離れた場所にいる他の兵士たちには聞こえないだろう。


『今夜、野営地を訪れる。別に戦いを挑むつもりはない。ただ二人で話がしたいだけだ。すんなり入れるように手配をしてくれ以上』


「これは何かの罠ではないでしょうか?わざわざリピートバードを使ってまで連絡してくるとは」


「確かにジル軍師の言うとおりだな。俺があいつなら、わざわざ連絡をせずに野営地を訪れる。警備にあたっている兵士を倒してでもな」


 二人は罠であることを主張する。


 確かに客観的に考えればそうなる。


 けれど、モードレッドの性格を考えれば、こんな手間をかけると言うことは、それだけ重要な話をしたいからこそだと俺は考えた。


「いや、俺は彼を信用する。どんな話をするのかはわからないが、招き入れて話を聞くべきだと思う」


「そうですか。デーヴィット殿がそうおっしゃるのであれば、私はこれ以上の口だしは致しません。ですが、その話し合いの席に私も同席させてもらいます。万が一のことがあれば、レイラ様が悲しみますので」


 どうやらジルは、まだ疑っているようだ。


 まぁ、聞いてしまった以上は断るわけにはいかない。


 それに彼のことだ。


 レイラにこのことを話すに決まっている。


 ジル以外にも同席を願い出る人がいるかもしれない。


 まぁ、そのときはそのときだ。


 うまい具合に言い訳を考えておこう。


 空が青からオレンジに代わり、そしてミッドナイトブルーへと色を変えると、空にたくさんの星々が輝きを放つ。


 受け取ったメッセージには、今夜という漠然とした言葉だけが使われており、詳細は不明だ。


 いつモードレッドが来るのかはわからない。


 彼の性格を考えると、俺が迎えにいくのが遅くなれば、不機嫌になるだろう。


 最悪剣を抜かれることになる。


 俺は見張り役をするという名目で、野営地の最先端で彼が来るのを待っていた。


 しかし、どれだけモードレッドを待っても彼が来る気配がない。


 周囲に誰もいない中、俺は一人で呆然と立ち尽くす。


 時間の流れが遅く感じる。


 誰かがあと一人でもいれば、会話をして時間を潰すことができるのだが。


「はぁー退屈だ」


『それでしたら私たちが話し相手になりましょうか?』


 ポツリと言葉を漏らすと、ウンディーネの声が頭の中に響く。


 普段はほとんど俺に声をかけない精霊たちだったが、俺が暇だと言ったことで話し相手になってくれるみたいだ。


「それじゃあお願いするよ」


『さて、何から話そうか?契約主?』


 ノームの声が聞こえ、俺は話題を考える。


『でしたら、BLについて語りませんか?』


「絶対に嫌だ!」


『絶対にダメだ!』


 ウンディーネがBLの話題をだしてきたので、俺とノームは反射的に拒否する。


『でしたら、どんな話をしましょうか?』


「精霊について聞きたいことがある」


『俺たちについてか。今更何が聞きたい?』


「人は特定の条件下で死ぬと、魂が天界に行くことなく精霊となるじゃないか?精霊って人間だった頃の記憶は覚えているよな?」


『ええ』


「なら、お前たちが人間だった頃の話を聞かせてくれよ」


 俺が人間だった頃の話を聞かせてほしいと頼んだ瞬間、ウンディーネもノームも急に黙り出した。


『契約主、それはちょっとモラルに反する』


『そうです。精霊には話したくない過去のひとつやふたつあるものなのです』


 急に沈黙が流れ、俺は苦笑いを浮かべていると、ノームは口を開き、続いてウンディーネも言いたくないと主張する。


 少しイジワルをしてしまっただろうか。


 どうして人が精霊になるのか、実は知っている。


 色々と所説はあるが、死後魂だけの存在になると、天秤にかけられると言われている。


 片方に魂が乗り、もう片方は生前の罪の重さが乗る。


 そして魂よりも罪が軽ければ輪廻転生するが、罪のほうが重いと精霊にされ、悔い改めさせられるというのが有力視されているのだ。


 それを確かめるために聞いてみたのだが、彼らの反応を見る限り、天秤説は濃厚のようだ。


『わかりました。では、ノームの人間だった頃の話をしましょう』


『どうしてそうなる!』


『だって、私の過去に比べれば罪の重さは軽いでしょう?』


『確かにそうかもしれないが、嫌なものは嫌だ』


 二体の精霊が言い合いをしている声が頭に響く。


 言いたくないことをむりに話させても、今後の関係が悪くなりそうだ。


「わかった。わかった。それじゃあ話題を変えよう。それじゃあ、もし俺が精霊になってしまったらどんな精霊になりそうだ?」


 俺はウンディーネたちに尋ねる。


 別に精霊になりたいとは思っていない。


 けれど、仮にも自分が精霊になったら、どんな精霊になるのだろうかと、時々考えることがあるのだ。


『そうだなぁ?契約主は強敵と戦う勇気をもっているから、勇気を司るバルキリーとかだろうか?』


『それはないでしょう。バルキリーは女性がなるものです。例えば、ライリーさんが万が一にでも精霊になってしまったのなら、バルキリーになりそうですね。デーヴィットの場合はフェニックスとかではないでしょうか?』


 フェニックスは上位に君臨する精霊だ。


 火と創造、そして復活を司る。


 きっと、俺は自身の持っている知識で多くの魔法を生み出していることから、そう考えたのだろうが、さすがにフェニックスは言い過ぎだ。


 もしも俺が精霊になったらという話から、話題はどんどん進む。


 いつの間にか俺の仲間たちにまで、もしも精霊になったのであれば、何になるのかという話に発展していった。


『タマモさんは間違いなくドライアドになるでしょう』


 ウンディーネの言うことに、俺は同意する。


 タマモは良妻賢母を目指し、理想的な女性として振舞っているが、中身はムッツリスケベだ。


 エロイという意味では、可能性は高いだろう。


『アリスは子どもということで、ブラウニーだろう。これは何の根拠もない。ただ何となくそんな気がするだけだ』


『因みにレイラが精霊だった頃はサラマンダーでした』


 ウンディーネがレイラの精霊時代の話をしだした。


 意外ではあったが、納得は行く。


 サラマンダーになる人間は、情熱的な人だと言われている。


 彼女は恋愛に関しては情熱的な部分があった。


 それに彼女は火を使った魔法が得意だ。


 ただ、魔王であることからすると、どうしても意外に思ってしまう。


 レイラなら、炎と破壊を司るイフリートであっても可笑しくはなさそうなのに。


 そんなことを話していると、奥のほうから明かりが見えた。


 その明かりは次第に近づき、俺のところにやってくる。


 長い金髪をポニーテールに纏め、赤いシャツと短パンというラフな格好をしている女性だ。


「悪い、待たせたな」


「大丈夫だ。待っている間は時間を潰していたから。それにメッセージを送ってくれてありがとう」


 俺はこの場に訪れたモードレッドに礼を言うと、リュックからローブを取り出し、彼に渡す。


「どういうつもりだ?」


 突然渡したローブを見て、彼は怪訝(けげん)な表情をした。


「モードレッドの見た目は目立つ。話合いをする場所に着くまでは、これを着ていてくれ」


 ローブを渡した目的を言うと、モードレッドは無言でローブをはおり、視線を俺のほうに向ける。


「それじゃあ案内してもらおうか」


 俺は無言で頷くと、彼を野営地のとあるテントに案内する。


 今日も最後まで読んでいただきありがとうございます。


 誤字脱字や文章的に可笑しな箇所などがありましたら、教えていただけると助かります。


 二日前に五ヶ月間連続投稿の実績を解除していました!


 これも毎日読んでくださっているあなたがいてこそだと思っております。


 次は六ヶ月間連続投稿を目標に、執筆活動を頑張っていきます。


 明日も投稿予定なので、楽しみにしていただけたら幸いです。

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