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第二十一章 第五話 前哨戦

 今回のワード解説


 読む必要がない人は飛ばして本文のほうを呼んでください。


 本文を読んで、これって何だったかな?と思ったときにでも確認していただければと思っています。


アドレナリン……動物の交感神経および副腎髄質から分泌されるホルモン。分子式 C9H13NO3 交感神経を刺激して心臓や血管の収縮力を高める作用をする。


運動麻痺……脳の運動中枢から筋線維に至るどこかに障害があって、随意的な運動ができない状態をいう。


延髄下部……延髄の下半部のこと。


下位運動ニューロン……下位運動ニューロンとはその細胞体と樹状突起が中枢神経系内に存在し、軸索は末梢神経となって伸び、錐外筋線維とシナプスするニューロン 。


クラシカルストレート……女性の髪形の一種。王道のモテ髪型の定番のストレートロング。

ふわっとパーマを当てたほうが垢ぬけるような気もするが、あえてストレートを押し通すことで新鮮で清楚な感じがとっても好印象の髪型である。


交叉……1 2本以上の線状のものが、ある一点で交わること。また、互い違いになること。


シナプスチャージ……ニューロンとニューロンとの接続部。また,その接続関係。伝達される興奮の増幅や抑制を行うことができるのがシナプスだ。それにチャージされること。


塵旋風……つむじ風のこと。


錐体交叉……皮質脊髄路の途中で延髄腹側の錐体において神経線維が交叉するが、これを錐体交叉(または運動交叉) と言う 錐体交叉では全ての神経が交叉するわけではないが、交叉しなかった線維も脊髄の白交連で最終的には交叉する。なので、皮質脊髄路線維は全て対側の運動ニューロンを支配することになる。


脊髄……脊椎動物の脊椎の内側にある脊椎管の中に持つ、髄膜の内側に存在するニューロンと神経線維の集合体である。


セロトニン……生理活性アミンの一。生体内でトリプトファンから合成され,脳・脾臓・胃腸・血清中に多く含まれる。脳の神経伝達などに作用するとともに,精神を安定させる作用もある。


前角細胞……前角にある筋を支配する運動ニューロンの神経細胞体のこと。


テストステロン……雄性ホルモンのうち,最も強い作用をもつ物質。主として精巣で合成され,第二次性徴の発現,タンパク質同化などの作用をもつ。また,筋肉の増加作用がある。


電荷……粒子や物体が帯びている電気の量であり、また電磁場から受ける作用の大きさを規定する物理量である。


末梢神経……動物の神経系のうち,中枢神経と末端の効果器ないし受容器とを結ぶ神経。脳脊髄神経系と自律神経系からなり,前者はさらに脳神経と脊髄神経に分けられる。



 翌朝、俺は目が覚めると身体を起こしてテントから出る。


 まだ早朝であるからか、うっすらと霧が発生していた。


 遠くのほうが若干分かり難い程度の濃さなので、周囲の警戒に敏感になる必要はなさそうだ。


 野営地内を歩いていると、全身白銀の鎧に身を包んだ人物が視界に入る。


「ランスロット、また兜を被っているのか?」


「デーヴィットか。レイラ様の指示でしばらく兜を外してはいたが、やはり全身を鎧で覆っていなければ落ち着かない」


「せっかくのイケメン顔なのに、もったいない」


「顔の良し悪しなど、魔物には関係ない。大切なものは、生みの親である魔王様にどれだけ忠誠を誓い、貢献できるかだ」


 俺が羨ましそうに言うと、顔は関係ないとランスロットは言う。


 確かに魔物にとっては、もはや見た目は意味をなさない。


 例外を除き、魔王の指示に従って人間に復讐の牙を突き立てるだけだ。


 だけど人間はそうはいかない。


 いくら見た目よりも中身が大事だときれいごとを言っても、外見はステータスだ。


 見た目がよければ、それだけで他の人よりも優位になる。


 整形でもしない限り、俺のようなフツメンの男はイケメンには勝てない。


 生まれ持った遺伝子には逆らえない以上は、フツメンにできることは努力をして自分を磨き、マシに見えるようにすることしかできない。


 考えごとをしていると、何度も頭に尖った物を突き刺すような痛みを感じ、俺は我に返る。


「痛い」


『よくも、俺に仕事をおしつけやがったな!お陰でくたくたじゃねぇか!ブラック労働反対!』


 さんざんこき使われて不満が爆発したようだ。


 帰ってきたレックスが俺の頭を嘴で何度もつつく。


「鳥の分際で偉そうにしているからだろう。これに懲りたらもう少し大人しくしてくれ。鳥類になって知能まで衰えたなんて言わないよな」


『くそう。元の身体に戻る方法を見つけたら真っ先に殺してやるからな…………そうそう、思い出した。ガウェインからメッセージを預かっているぜ!了解しました。ランスロットの件は残念ですが、明日の早朝にオルレアン軍を襲撃しますと言っていた』


「そうか、明日の早朝か…………うん?」


 ガウェインからのメッセージを聞いた俺は、今の言葉を聞いて疑問に思った。


「おい、ガウェインからメッセージを受け取ったときは何時ぐらいだった!」


 俺は急いでレックスに尋ねる。


 もし、俺の予想どおりなら早く手を打たなければならない。


「何時だと?確かデーヴィットからメッセージを受け取って全速力で向かったから、夜の十一時ぐらいだったと思うが」


「バカ!それを早く言え!」


 まだ日付が変わっていないときにこのメッセージを受け取ったと言うことは、襲撃するのは今日のこの時間帯ということになる。


「伝令!ガリア国の兵士を確認!その数およそ六百人!まだ眠っているやつは叩き起こせ!」


 見張りをしていた兵士が、ガウェインたちが来たことを知らせる。


 夜間の見張りをしていたオルレアンの兵は数十人。


 それ以外の兵士はまだ眠っている。


 これはまずい状態になった。


 目が覚めて脳が通常の活動を行うまで、早くとも二時間はかかる。


 完全に覚醒するまでは判断力が鈍っている状態での戦闘だ。


 相手はこのことを知っているのか?敵軍が襲撃する前に起きた時間はどれぐらい前だ?


 考えるも、今はこんなことを考えている場合ではないことに気づく。


 俺も目が覚めてそんなに時間が経っていないせいで、冷静な判断ができていないようだ。


「デーヴィット!」


 レイラの声が聞こえ、俺は声のしたほうに顔を向ける。


 クラシカルストレートの長い赤髪に、漆黒のドレスを着た女性がこちらに近づく。


 彼女の後ろにはカレンとエミ、それにライリーとジルがいた。


「ガウェインたちの奇襲が始まった。今は見張り番をしていた兵士が応戦しているが、すぐに増援に向わないとここに雪崩れ込まれてしまう」


「ふあーぁ。わかった。でも、目が覚めたばかりの状態ではまともに戦えないわよ」


 手で口を隠したエミが、欠伸をしながらすぐには戦えないことを告げる。


「わかっている。だから魔法で、頭をスッキリさせる必要がある。ライリー頼めるか?」


「了解した。具体的にはどうすればいい」


「ああ、まずは――」


 俺は脳の覚醒について軽く説明をすると、ライリーは俺たちから少し距離を空ける。


 そして一度深呼吸をすると、彼女は呪文の詠唱を始めた。


(まじな)いを用いて我が契約せし知られざる生命の精霊に命じる。その力の一部を我に貸し、言霊により我の発するものを実現せよ。アクティブブレイン」


 ライリーが契約している精霊に指示を出すと、俺の頭の中がクリアになったような気がした。


 この魔法はすぐには効果を発揮することができない。


 起床後に起きる身体の変化を早く促すための魔法だ。


 人間は起床して二時間が経過するとテストステロンと言われる男性ホルモンが高くなるために決断力や自分で選択する力が強くなる。


 そして起床三時間後に記憶力が充実し、起床の四時間後には知的で創造的な作業を行うことができる。


 更に起床の七時間後にはホルモンの一種であるアドレナリンの分泌が最高になり、起床の九時間後には、心身の安定を図るセロトニンの分泌が高まり、気分が穏やかになる。


 この魔法は、脳の活動を早めるための魔法だ。


 最初はスッキリ目覚めた感覚だけだが、数分の内に最初の段階であるテストステロンの分泌が早くなるはず。


 眠気が吹っ飛んだ俺は、周囲を見る。


 薄い霧が立ち込めて詳しい状況が分からない。


「まずはこの霧をどうにかしよう。カレン、俺と一緒にこの霧を吹き飛ばそう」


「わかったわ」


(まじな)いを用いて我が契約せしナズナに命じる。その力の一部を我に貸し、言霊により我の発するものを実現せよウィンド」


(まじな)いを用いて我が契約せしケツァルコアトルに命じる。その力の一部を我に貸し、言霊により我の発するものを実現せよウィンド」


 二人で魔法を発動させると、周囲の気圧に変化が起こった。


 俺たちの周辺の空気の密度が重くなり、離れた位置の空気の密度が軽くなる。


 すると、気圧に差が生まれ、気圧の高いほうから低いほうへ空気が押し出されて動いたことにより、風が吹き出す。


 これにより、霧を形成している水分子が気圧の変化に流されて散っていく。


 霧が周囲からなくなると俺は歯を食い縛る。


 敵の第一陣が見張り役の兵士を押しのけてこちらに近づいてきていた。


「俺が前線の敵を相手にして時間を稼ぐ、カレンたちは俺が食い止められなかった敵の相手をしてくれ。その場合、カレンは音魔法で地面を破壊、敵の足が止まったところでエミは睡眠魔法か失神魔法で敵を行動不能にしてくれ。ライリーとランスロットは峰内を頼む」


「「「了解」」」


「レイラ様以外に命令されるのは気に食わないが、お手並み拝見と行こうではないか」


 カレンたちが俺の指示に従ってくれる意思を示す。


 ライリーの魔法のお陰でテストステロンが分泌されたことで、細かい作戦を考えることができる。


「余は何も指示をされていないが」


「私もです」


「レイラの魔法は普通の兵士相手には使えない。ジルの魔法は攻撃系しかなかっただろう?」


「いえいえ、ただお見せする機会がなかっただけです。敵を拘束して無力化させる術を得とくしております」


 ジルが首を横に振り、自分も使えることをアピールした。


「そうなのか?なら、その時は任せた」


「仰せのままに」


 俺は素早く敵の動きを封じる魔法を選ぶ。


 あの魔法なら一度に多くの敵の動きを封じることができる。


 だけど条件を整えるには今の環境は適していない。


 まずは種を蒔くところから始めなければ。


 それには多くの精霊の力を使うことになる。


 俺の身体にも負担がかかり、精神力をごっそりもっていかれるだろうが、やるしかない。


(まじな)いを用いて我が契約せしウンディーネとフラウに命じる。その力の一部を我に貸し、言霊により我の発するものを実現せよアイスクエストーズ」


 二体の精霊の力により、空中にある雲の気温を低くさせる。


 雲の中の水分子が運動するための熱エネルギーが極端に低くなると、水分子は動きを止めてお互いに結合して氷晶へと変化した。


「第一段階完了、続いて第二段階。(まじな)いを用いて我が契約せしジャック・オー・ランタンに命じる。その力の一部を我に貸し、言霊により我の発するものを実現せよファイヤーボール」


 空中に火の球を出現する。


 しかし今回のファイヤーボールは通常よりも多くの酸素を結合させ、みるみる大きさを増していく。


 上空に掲げると、火球はプチ太陽の如く巨大に成長した。


 これで第二段階は終了だ。


(まじな)いを用いて我が契約せしケツァルコアトルに命じる。その力の一部を我に貸し、言霊により我の発するものを実現せよ。ダストデビル」


 プチ太陽となったファイヤーボールによる直射日光により、温められた地表面から上昇気流が発生し、周囲から強風が吹きこむ。


 すると渦巻き状に回転が強まった塵旋風が誕生した。


 塵旋風により強い上昇気流が発生したことにより、雲の中で氷晶が落下と上昇を繰り返す。


 これにより氷晶は雹や霰に成長すると、落下速度の違いにより衝突を繰り返し、こすれ合うことで静電気が発生した。


 上空の雲に静電気が発生したことにより、雷雲に変わる。


 これで準備は完了、最後の仕上げだ。


(まじな)いを用いて我が契約せしヴォルトに命じる。その力の一部を我に貸し、言霊により我の発するものを実現せよ。サンダーボルト」


 雲の中で溜まった電荷を放出させ、落雷を発生させるとガリア国の兵士に浴びせる。


「ぎゃああああぁぁぁぁ」


 落雷を浴びた敵軍はその場で倒れる。


「電撃魔法って大丈夫なの?小鬼のときには一発で死んでしまったわよ」


「大丈夫、殺しはしていない。落雷を浴びても感電させるだけに留めた」


 人の身体に電流が流れると死亡率が高い。


 人は身体に0・1(アンペア)の電気が流れる程度であっても、命を落とす可能性が非常に高いのだ。


 だけど、身体の側面に電気が流れるように調整し、体内にある脳や心臓といった重要な臓器にショックを与えないようにして、そのまま地面に逃がした。


 しかし、電気の影響が皆無だったとはいかず、電気を浴びたことにより、延髄下部に存在する錐体交叉にて左右の線維が交叉(こうさ)し、脊髄にて下位運動ニューロンにシナプスチャージさせ、前角細胞を興奮させる。


 そして下位運動ニューロンは末梢神経として感覚線維と併走して神経筋接合部にいたり、筋繊維を興奮させたことで運動麻痺を引き起こした。


 身体の自由を失った兵士が何人も立ち上がろうと歯を食い縛っているが、落雷を浴びた兵士は誰一人とて立ち上がれない。


『フン、中々やるではないか。だが、爪が甘いな』


 俺の隣でレックスが偉そうにしているが、確かにその通りだ。


 落雷は第一陣の兵士すべてに当たることはなく、打ち洩らした敵が威勢よく接近してくる。


 よく訓練がされている。


 俺は魔法を連続で発動させたことで、疲労が溜まっているのを感じた。


 俺は少しの間だけ動けないだろう。


 だけど、こうなることも想定して作戦は立てていた。


 事前に説明していた通りにカレンが音の魔法で地面を破壊し、その一瞬をついてエミとライリー、それにランスロットとジルが無力化させていく。


「私の魔法を食らいなさい」


 ジルが言葉を放つと、彼の背後から無数の触手が飛び出し、ガリア国の兵士を拘束していく。


 彼の魔法を見て、元魔学者の血が騒いだ。


 あの魔法はいったいどんな原理で発動している?俺の契約している精霊でも実現可能なのか?


 もし、あの魔法を解明し、実現可能までのレベルにまで持って行けるとすれば、俺の戦いかたにも幅が広くなる。


 そんなことを考えていると、どこからか笑い声が聞こえてきた。


「アハハハハ、やるじゃないか。奇襲のはずが、俺たちの軍のほうが押されるなんてな」


 今日も最後まで読んでいただきありがとうございます。


 誤字脱字や文章的に可笑しな箇所などがありましたら、教えていただけると助かります。


 明日も投稿予定なので楽しみにしていただけたら幸いです。

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