第二十一章 第四話 乗り移られたリピートバード
宿屋の前に来ると、父さんに伝達を頼んでいたリピートバードが戻ってきた。
鳥は戻ってくるなり俺の頭の上に着地をする。
当然のように頭に乗ってくるリピートバードに若干の苛立ちを覚えるが、今はそんな細かいところを気にしている場合ではない。
「父さんから何か言われているか?」
『メッセージが一件ある。聞くか?』
このリピートバードは俺が送り出したのとは違う鳥なのだろうか?
口調が違う。
でも頭の上に乗っているところを見ると、同一にしか見えない。
違和感を覚えるも、メッセージを聞くことにした。
「頼む」
お願いをすると、リピートバードは父さんからのメッセージを読み上げる。
『ガリア国の様子は理解した。むりに攻めることなく、慎重に事を進める。引き続き何かがあれば、教えてくれ…………以上だ』
「わかったありがとう。悪いのだが、また父さんに早急に伝えなければならないことが起きた。今から言うことを父さんに伝えて来てくれ」
もう一回仕事を頼むと、リピートバードは嘴で俺の頭を突く。
「痛い、痛い。いきなりどうした」
『まったく、鳥使いが荒いにもほどがある。俺は伝書鳩じゃないんだぞ。いやリピートバードではあるけどよ』
今までメッセージを伝えるとき以外は、声を出していなかったリピートバードが、いきなり不満を口にしだした。
やっぱりこの口調はどこかで聞いたことがあるような?
『どうして俺が下等生物であるお前らの連絡係をしなければならない。生き残るためとはいえ、リピートバードなんかに憑依するんじゃなかったぜ。ウエポンカーニバルが使えたら、今からでもデーヴィットを殺してやるって言うのに』
「お前、もしかしてレックスなのか!」
鳥の言葉遣いがどこかで聞いたことがあると思っていたが、ウエポンカーニバルという言葉が出た瞬間確信した。
この鳥は魔王レックスが乗り移っている。
「レックス、本当にレックスなのか?」
『よお、レイラ。数日振りだな。こんな格好だが許してくれ』
レイラがリピートバードに尋ねると、鳥は自分がレックスだとアピールするかのように翼を広げたようで、頭の上でバサッと音がした。
「それにしても、何であのレックスがリピートバードに成り下がっているのかい?」
『どうして俺が下等生物なんかに言わなければならない』
「余も気になるな。話してはくれぬか?」
『レイラがどうしても聞きたいというのであれば教えよう』
ライリーが尋ねても話そうとはしなかったレックスだが、レイラのお願いごとには無視をするわけにはいかないようだ。
レックスは、俺との戦いのあとに起きたできごとについて語り始める。
『俺は、クソゴミのデーヴィットに敗れ、地面に倒れている自分の姿を見て、自身が既に死んでいることを理解した。俺は死んでも死にきれない思いに駆られ、デーヴィットに報復をするために霊魂としてずっとついて行っていた。だけど俺がこの現世で留まっているタイムリミットが訪れたようで、俺の霊魂は天界へと引きずられていく。このままでは成仏してしまう。俺はあがいた。そんなとき、偶然にもデーヴィットが飛ばしたこのリピートバードが俺と接触し、鳥の肉体に俺の魂が宿ったと言うわけだ』
レックスの話を聞き、どうして彼がリピートバードになったのかを知る。
心霊関係は専門外なので、詳しい原理はわからないが、目の前で起きている以上は信じるしかないだろう。
「でも、そんなに俺を恨んでいるのなら、戻って来ても良かったんじゃないのか?どうして敵に塩を送るようなことをした?」
『ふん、俺だってできるのならそうしたかったさ。だけどリピートバードの性なもので、デーヴィットを相手にするよりも、今はメッセージを届けなければならない思いに駆られちまった』
「そうか。性ならしょうがないな。それじゃあ、今から父さんに伝えてくれ。ガリア国の第二、第三騎士団が独断で準備ができ次第、オルレアンの野営地を急襲することになった。俺たちも城下町での侵入捜査は止めて合流する」
『おい、止めろ!俺にメッセージを言うな!ああー!身体が本能の赴くままに動いちまう』
父さんに送るメッセージをレックスに伝えると、リピートバードとなった彼は翼を羽ばたかせて上空に舞い上がり、野営地のある方角へと飛び去っていく。
これでうるさい邪魔者はいなくなった。
カレンたちが戻り次第事情を話し、この城下町から出るとしよう。
宿屋のロビーに入り、俺は階段を上って自分の部屋に戻る。
しばらくすると食事を終えたランスロットが戻ってきた。
「ランスロット、話しがある」
「何だ?」
「ガウェインが仲間を引き連れて、オルレアン軍の野営地を急襲することになった。お前はガリア国の第一騎士団の団長だったらしい。彼は第一騎士団を動かすにはお前の力が必要だと言っていたがどうする?」
「貴様はバカか。どうして俺がレイラ様に刃を向けるようなことをしなければならない。そもそも、俺はあの男が言っているランスロットではない。手を貸す道理はない」
わかりきっていたこととは言え、ガウェインとの約束もある。
リピートバードではないが、言伝はしっかり伝えなければ。
「まぁ、予想どおりとは言え、安心したよ。万が一にもガウェイン側に協力すると言い出したらどうしようかと思っていた」
「俺がレイラ様に刃を向けたとするならば、そうしなければならなくなったと判断したときだけだ」
ランスロットの返事に安堵すると、俺は今すぐにでもこの城下町から出ることを告げる。
「わかった。では準備をしよう」
彼が部屋を出る準備を始めると、俺は忘れ物がないかを再確認して、ランスロットと一緒に部屋を出る。
ライリーとレイラが説明をしてくれたようで、ロビーには皆が集まっていた。
「すまない。待たせた」
「余たちも今来たばかりである」
俺は受付に向かい、チェックアウトの手続きを行う。
受付嬢は早すぎるチェックアウトに戸惑っている様子だった。
何か不満があったのではないかと聞かれたが、急用ができて一泊することができなくなったことを伝える。
すると、彼女は安堵の表情を見せて適切に処理をしてくれた。
チェックアウトを済ませ、俺たちは馬車を止めている場所に向かう。
馬車を停めていた料金を管理人に支払うと、管理人が俺たちのところまで馬車を連れてきてくれた。
「クッションを買ってやれなくて悪い。帰りは飛ばすから、気をつけてくれ。ランスロットも馬車の中に」
クッションの件に関して皆に謝ると、荷台の中に入るように促す。
「急を要するから仕方がないわね。あたしのお尻大丈夫かしら」
「自分のお尻の心配をするなんて、案外余裕があるのですね」
エミが自分の尻の心配をすると、落ち着いているように見えたようで、タマモが羨ましそうにつぶやく。
「帰りも私は助手席に乗ろう」
「あ、ずるいぞ。余も助手席に座りたかった」
「無駄口叩いてないでさっさと乗りな!時間があまり残されていないのだからね」
助手席にカレンが乗り込むと、レイラが文句を言う。
それを見たライリーが、事態が切迫していることを告げ、皆が早く乗り込むように誘導してくれた。
「皆乗ったな。出発するぞ」
御者席に乗った俺は、背後の小窓を開けて荷台をみる。
狭い空間に敷き詰められた状態となり、狭苦しそうであった。
「少しの間だけ我慢してくれ」
荷台の中にいる皆に声をかけると、俺は手綱を上下に振って馬を走らせる。
城下町を出て検問所である門を抜ける。
検査は入国するときだけのようで、出国するときは特に確認をされることはなかった。
馬の出せる最高速度で走ったからか、帰りのほうが辿り着くのが早い。
視界の先にオルレアン軍の野営地の明かりが見えた。
野営地に入り、馬車を止めると荷台から皆が一斉に降りだす。
「いったーい!何度もお尻をぶつけちゃったわよ」
「わたしは気分が悪いのです。これが乗り物酔いと呼ばれるものなのです?」
「アリスさんは医療用のテントに向かったほうがいいかもしれませんね。ワタクシが一緒に行きましょう」
「レイラ様、大丈夫でしたか」
「うむ。少しお尻が痛いが、問題ない」
「油断していた。まさかあたいまで尻を痛めるとは思っていなかった」
皆がそれぞれ一言口にする。
不満はあるが、状況を理解しているので我慢しているみたいだ。
「カレン、俺は父さんのところに行ってくる。あとのことは頼めるか?」
「わかったわ」
義妹に皆を任せ、俺は一人で父さんの場所に向って走る。
オルレアン兵士の間を抜け、一番大きなテントを目指す。
一分もかからないうちに目的地に到着すると、俺はテントの中に入った。
「父さん……イテッ」
内部に入った瞬間、鳥が俺の前に来ると頭を突いてきた。
『よくも、俺様に伝言を頼みやがったな』
俺の頭部を攻撃してきたのは、リピートバードの中に霊魂が入ってしまったレックスだ。
「痛い。痛い。でも急いで伝えないといけないことだったから、仕方がないじゃないか」
『仕方がないで済まされれば憲兵はいらない!謝れ、俺様に謝れ』
「はいはい、わかったよ。すみませんでした。これでいいかよ」
謝罪しろと言い続ける鳥に俺は嫌気がさし、不本意ながらも謝ることにした。
だけど素直に謝るのはしゃくだったので、感情を込めることなく淡々と謝罪の言葉を言う。
『それが俺に謝る態度か!もっと心を込めろ!』
「あんまり調子に乗っていると、今度は鳥の丸焼きにして今度こそ成仏させるぞ!」
俺は声を荒げると、レックスは大人しくなる。
さすがに今の状況では力の差が歴然であることを理解しているようだ。
今は鳥なんかに成り下がっているが、マネットライム改二を作り出したときの頭の良さは健在のようだ。
レックスが騒がなくなると、俺は玉座に座っている父さんに視線を向ける。
「ガリア国内の調査はご苦労だった。ガリア国が動き出したとの情報も助かる。お陰で不意打ちを食らわされるのを回避できる」
「いや、正確には完全には動いていない。第二、第三騎士団が独断で動いたにすぎないのだから」
「独断であろうと国の兵士が動いたことには変わらない。おそらくこれは前哨戦となるだろう。敵の人数はわかるか」
父さんに問われ、俺は首を横に振る。
「さすがに人数までは言ってはいなかった。だけど、第二、第三騎士団の団長は手練れだ。特に第三騎士団の団長であるモードレッドは、民に恐れられるほどの実力を持っている。それに中々の観察眼だった。危うく俺の正体がバレそうになった」
「モードレッド、噂は聞いたことがある。美しい顔の女性らしいが、戦場では鬼神となるらしいな」
「まぁ、血塗られた堕天使という通り名がつくほどだ。一人で複数の敵と渡り合えるだろう。たぶんモードレッドの相手はライリーがすることになると思う」
「軍の指揮は基本的にワタシがするが、お前の仲間はお前に任せる。初めての戦争で普段通りの戦いができないかもしれないが、デーヴィットには期待している」
『まぐれで俺に勝ったぐらいで図に乗るなよ!貴様がガリア国の兵士に追いかけられて逃げ惑う姿を空からみさせてもらう』
偉そうにレックスが言うと、俺の頭の上に着地した。
「どうして毎回俺の頭の上に乗る」
『そんなの決まっているであろう。上等生物である俺が下等生物を見下すためだ』
俺はレックスが逃げないように足首を掴むと、頭から引きずり出す。
『おい、何をしやがる。離せ、無礼が過ぎるぞ!』
翼を羽ばたかせて必死に逃げようとするレックスを見ながら、俺は口角を上げる。
「ガリア国の第二騎士団、団長であるガウェインに伝えろ。ランスロットの件だが、本人が乗り気ではなかったので戦力として当てにしないほうがいい」
レックスに言伝を言うと、俺は握っていた手を離す。
彼はリピートバードの本能に逆らうことができずに、翼を羽ばたかせるとテントの出口に向かっていく。
「畜生!覚えていろよ!」
うるさい鳥がいなくなったことで、これでようやくまともに話を進めることができる。
「見苦しいものを見せた。それじゃあ、もう少し詳しいことを話そうか」
この場からレックスがいなくなると、俺は父さんと作戦のことについて話し合った。
今日も最後まで読んでいただきありがとうございます。
誤字脱字や文章的に可笑しな箇所などがありましたら、教えていただけると助かります。
ついに合計ユニーク数が七千を超えました!
これだけ多くのかたに一度は目を通してもらえるとは、投稿したばかりの頃は想像もしていませんでした。
次は合計ユニーク数が八千を超えるように頑張っていきます。
明日も投稿予定なので、楽しみにしていただけたら幸いです。




