第三章 第一話カムラン平原の戦い
今回のワード解説
塵旋風……つむじ風のこと。
固有振動数……物体が1秒間に振動する回数のこと。
炭酸飽和……二酸化炭素を水または水溶液に溶かすことをいう。
「行け! 女は殺して構わん。男だけは取り押さえろ」
ランスロットが魔物の軍勢に指示を出すと、魔物共は一斉に走り出す。
俺たちとの距離を縮めてきた。
その際にランスロットは余裕を見せるかのように、背をこちらに見せてゆっくりと後退を始めた。
敵の種類は大雑把に分けて五種類。
しかし細かく分ければそれの倍以上になるだろう。
ほとんどの魔物がノーマルクラスのはず。
だけど中には、ハイクラスやランスロットのように特別な階級もちの魔物もいるはずだ。
一体ずつの特徴を見極め、その都度相手に合わせて対応するべきなのだが、敵の数が多い以上、そんなことをする余裕がない。
まずはあの中にプリーストが隠れていないかを知る必要がある。
「俺が範囲魔法で敵を一掃する。二人はむりをしない程度に生き残った魔物を相手にしてくれ」
「「了解」」
二人に指示を出し、精神を集中させて言霊により生じた現象を解き放つ。
「呪いを用いて我が契約せしケツァルコアトルに命じる。その力の一部を我に貸し、言霊により我の発するものを実現せよ。ダストデビル」
温められた地表から上昇気流が生まれ、それに向かって強風が吹いて交わる。
すると、渦巻き状に回転が強まった塵旋風が発生した。
「敵を薙ぎ払え!」
塵旋風は敵軍に接近。
そして触れた者を飲み込むと、そのまま空中に吹き飛ばす。
一時的に空中浮遊を体験した魔物は、今度は重力に引っ張られてそのまま落下。
頭部から地面に激突した運の悪い敵はそのまま動かなくなり、それ以外の者は衝撃の強さに身体が耐えきれなかったのだろう。
息はしているようだが動く気配を見せず、瀕死の重傷に陥っているみたいだ。
だが、この攻撃を受けても平気な魔物もいる。
風のエレメント階級の敵と、既に骸となっているスカルナイトだ。
スカルナイトは地面に激突した衝撃で、一度は骨が外れてバラバラになる。
しかしそのあとすぐに骨同士が引っつき、元に戻ってしまう。
そして風のエレメント系には、風の属性をもつダストデビルでは効果が薄い。
「スカルナイトのやつ、何度倒してもすぐに復活しやがる。これじゃあイタチごっこじゃないか」
討ち洩らしたスカルナイトの相手をしているのだろう。
後方からライリーの苛立ちが募った口調の声が聞こえる。
スカルナイトはその名のとおり騎士の恰好をした骸だ。
しかし鎧は身に着けてはおらず、剣と盾のみを装備している。
おそらく、筋肉のない骨では重い鎧を支えることができないからだろう。
生命のない無機物が自分の意志で行動ができる訳がない。
どこかにネクロマンサーがいるのだろう。
こいつらを操っている術者を倒さない限り、こいつらは永遠に蘇る。
だが、正直スカルナイトの相手は苦ではない。
常に蘇るので周囲に気を配らないといけないが、やつ等の動きは単純だ。
上段に構えば縦に、横に振りかぶれば横に斬りつけてくる。
単純な斬撃しかできない理由としては数の多さだろう。
ネクロマンサーの職をもっている敵が何体いるのかは不明だ。
けれど術者の数に対して、何倍もの量の骸を操作しないといけない。
一体ずつ丁寧にすることができない以上、命令は簡単なものしかできないはず。
しかし、いくら難易度の低い敵とはいえ、何度も復活する敵は厄介だ。
何か対策を考えなければならない。
一番はスカルナイトを操っている敵を倒すのがいい。
だが、特定ができていない以上は、今は止めといたほうがいいだろう。
「デーヴィッド危ない!」
カレンの声が聞こえ、俺は我に返る。
目の前でスカルナイトが剣を振りかぶっている姿が視界に入った。
しまった! 思考に集中し過ぎて周囲の状況が見えていなかった。
回避をするにも無傷で済むには遅すぎる。
ある程度のダメージは覚悟しなければならない。
思いっきり肉体を切り裂かれるよりかはマシ。
そう思い、後方に跳躍しようとした瞬間だった。
「呪いを用いて我が契約せしハルモニウムに命じる。その力の一部を我に貸し、言霊により我の発するものを実現せよ。ゼイレゾナンス・バイブレーション」
詠唱を唱えたカレンの声が聞こえた瞬間、目前のスカルナイトの身体が砕け、残骸が地面に落下する。
細かく砕け散った骨は復活する気配を見せなかった。
もしかして倒したのか?
言霊により実現させた現象命、ゼイレゾナンス・バイブレーション。
それは共鳴する振動。
物質の固有振動数と同じ周波数の音を浴びせることにより、対象を破壊することが可能だ。
カレンは音を司るハルモニウムと契約している。
精霊の力でスカルナイトの動いた際に生じる振動に合わせ、同じ周波数の音を出して振動を加え続けたことで、やつの骨が疲労破壊を起こしたのだろう。
これなら、術者を探さずにスカルナイトを倒すことができる。
「カレン、今のやつをむりのない程度でやってくれ。俺も攻略法を見つけたから協力する」
「分かった。でもハルモニウムの疲労を考えると長時間はできないわよ」
「大丈夫だ。そんなに負担はかけない。俺の言うタイミングでやってくれ」
カレンのお陰で、スカルナイトの数を減らせられることは分かった。
ネクロマンサーがスカルナイトをどうやって復活させているのか。
それは関節部分をただくっつけているだけだったのだ。
確かに分解したものを再び組み立てるような感じなら、復元するのは難しくはない。
だけど、粉砕された箇所を元に戻すのは不可能のようだ。
なら、復活できないまでに破壊するのみ。
「呪いを用いて我が契約せしウンディーネとケツァルコアトルに命じる。その力の一部を我に貸し、言霊により我の発するものを実現せよ。カーバネットウォーター」
空気中にある複数の水素と酸素が結合し、水素結合を起こすとそれらが集合し、水を形成する。
そして今度はその水に対して二酸化炭素が溶解し、炭酸飽和を起こす。
これにより炭酸水が生まれると、俺の意思のどおりに分裂し、複数体のスカルナイトに付着させる。
「カレン!炭酸水を浴びたスカルナイトに、ゼイレゾナンス・バイブレーションを!」
「分かったわ。呪いを用いて我が契約せしハルモニウムに命じる。その力の一部を我に貸し、言霊により我の発するものを実現せよ。ゼイレゾナンス・バイブレーション」
炭酸水塗れとなったスカルナイトに、同じ周波数の音が襲いかかる。
するとスカルナイトは全身が砕け散り、再起不能となった。
「これが俺とカレンの合成魔法キャビテーションだ!」
炭酸水を浴びたスカルナイトの圧力を下げたことにより、液体に溶け込んでいた気体が泡となって出てくる。
そこに低周波を当てることで炭酸の泡を潰しては新な泡を発生。
一秒間に数万回以上のサイクルで繰り返された泡は成長し、大きくなったものが急激に潰された際に衝撃波を発生させ、骨を破壊したのだ。
これならお互いの精神力の消費を抑えつつ、精霊の負担を減らしたうえで骸を破壊することが可能となる。
「スカルナイトさえ倒せばネクロマンサーは力を発揮できない。先に倒すぞ」
「分かったわ」
「ならあたいはそれ以外の敵を叩き潰してやるよ。スカルナイトは任せたからね」
後方にいたライリーが俺の横を通り過ぎると、ゴブリンやオーガに向けて剣を振り、肉体を切り裂いては行動不能にさせていく。
他の敵はひとまずライリーに任せるしかない。
キャビテーションならこの場にいるスカルナイトを全滅させることは可能だろう。
だけど不安材料はまだある。
敵の数を減らせられるからといって、楽観的に考えることはできない。
ネクロマンサーは骨の関節を操って骸を操作している。
しかも単純な行動しか動かすことができない。
だけどその理由は、数が多すぎて広範囲に意識をもっていくことができないからのはず。
なら、数を減らせばその分だけ特定した場所に意識をするようになる。
そうなれば単純な行動だけではなく、動きが機敏になって攻撃を避けるのが難しくなるリスクもありえる。
死霊使いであるネクロマンサーの本気が出る前に、なんとしても全滅させなければ。
カレンと協力し、半数のスカルナイトが原形を留めることができなくなっているころ、骸の動きが今までと違う行動を起こす。
剣を振る以外はできなかったスカルナイトは、回避行動もするようになったのだ。
今はなんとか炭酸水を当てることができているが、そのうち外れることだってありえる。
音は肌で感じることができても、見ることは不可能。
カレンの音波は確実にスカルナイトに触れることができる。
骸たちを殲滅させられるかは自身の技量にかかっているのだ。
若干のプレッシャーを感じる中、俺は集中力を切らさずに次々とスカルナイトに当て、カレンがトドメをさした。
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