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第二十一章 第一話 ランスロットはマザコンの疑いあり!そしてBLへ

 ガウェインの家から出ると、空はオレンジ色に染まりつつある。


 今から野営地に戻ったとしても夜になるだろう。


 暗くなると周囲の危険に察知しにくい。


 今日のところは宿でも借りて、明日にでも野営地に帰るとしよう。


 街中を歩き、カリバーンという名の宿屋を見つけ、中に入る。


 城下町の宿屋ということだけあって、豪華な作りになっていた。


 受付のあるフロントは広く、受付を担当しているのは二人の若い女性だ。


「同じ城下町と言っても、オルレアンの宿屋とは違うわね」


 内装を見て、カレンが感想を言う。


 俺はオルレアンに着いてからいきなり城に連行されたので、城下町の宿屋というものはどこもこんな感じなのだろうかと思っていたが、どうやら違うようだ。


 入口の前で呆然としているわけにはいかず、俺たちは受付に向かうとツインテールの受付嬢に声をかけた。


「すみません」


「いらっしゃいませ。何名様でしょうか?」


 声をかけた受付嬢は営業スマイルで俺に何名かを尋ねる。


「八名です。男二人、女六人なのですが、一部屋何人まで泊まれますか?」


「一部屋に最大で三人分のベッドが用意されていますので、三部屋になりますが宜しいでしょうか?」


「はい。一泊分をお願いします」


「かしこまりました。では八名様で一泊八万ギルいただきます」


 受付嬢から金額を聞き、俺は驚かされる。


 一泊だけで一人一万は高すぎる。


「あのう、それは食事込みでの金額ですか?」


「いえ、宿泊料金だけです。お食事をされる場合には部屋にメニュー表がありますので、そちらを見てお申しつけくだされば、料理を運ばせていただきます。もちろん別料金が加算されます」


 食事は別料金だと聞かされ、俺は更に驚いた。


 今までの宿屋はいくら高くても何かしらのサービスはあった。


 朝食がついていたり、温泉が無料で入れたりなど。


 だけど、この宿屋はサービスは何もなく、宿泊だけでこの金額だ。


 ぼったくり感が半端ない。


「すみません、スペシャルディナーセットをひとつお願いします」


 悩んでいると、受付嬢の後ろにある筒から、知らない男の声が聞こえてきた。


「はーい。私は今、接客中だから、あなたが厨房にオーダーを出しに行ってくれる?」


「わかったわ」


 ツインテールの受付嬢が隣の女性に声をかけ、続いて俺を見る。


「いかがいたしましょうか?」


 宿泊料金は高いが、今更他の宿屋を探すのは面倒だ。


 それに色々とありすぎて精神的に疲れている。


 早くリピートバードを使って父さんに報告をしないといけないし。


「わかりました。それでお願いします」


 俺はリュックの中に入っている瓶から一万ギルを八枚出して、カウンターの上に置かれているトレーの上に置く。


「はい。ちょうどいただきます。こちらが皆さんのお部屋の鍵となっております。三階ですので、あちらの階段を使ってお上がりください」


 三つの鍵を受け取り、俺は皆を見る。


「一部屋は俺とランスロットが使うとして、残りの部屋割りはどうする?」


「どうして俺がデーヴィットと同じ部屋でなければならない。俺はレイラ様と同じ部屋がいい」


「え!」


 ランスロットの意外な発言に、俺は自分の耳を疑った。


「ごめん、俺の聞き間違いかな?今、レイラと同じ部屋がいいって言った?」


「いや、聞き間違いではない。俺はレイラ様と同じ部屋を所望する」


 どうやら俺の聞き間違いではなかったようだ。


 彼の気持ちはわからなくもないが、それはちょっとよくない。


 俺はランスロットの肩に手を置くと、彼と目を合わせる。


「ランスロット、お前がどれだけレイラが好きでも、マザコンはよくないぞ。イケメンでも、マザコンは女性から嫌われる」


「何を言っておる!俺はレイラ様の配下だ。何かがあったときにはお守りする義務がある。けしてそのような感情から発言した訳ではない!」


 ランスロットは顔を真っ赤にさせながら反論してきた。


「なら、俺と一緒でも構わないよな」


「いいだろう。レイラ様が心配なのは変わらないが、俺がマザコンではないことを証明するためにも、今夜は貴様と寝ようではないか」


「うーん。あたしは腐女子ではないからなんとも思わないのだけど、今の発言はその手のことが好きな人が聞いたら、変な妄想を膨らませそうね」


 エミがポツリと言葉を漏らし、俺はすぐにタマモを見た。


 彼女はムッツリスケベだ。


 エロイ話になると妄想を広げて言葉が駄々洩れになる。


 アリスに悪影響を齎す。


 俺は心配したが、タマモは妄想ワールドを広げることなくキョトンとしていた。


 どうやらエミと同じで、その手に関しては興味がないようだ。


『この二人だとデーヴィットが受けでランスロットが攻めね。ベッドに押し倒されて、抵抗できないままランスロットに蹂躙される。デーヴィットは、最初は恐怖を感じていたけど、彼の優しいリードに気持ちよさを覚えて――』


 止めてくれ!


 俺は心の中で叫んだ。


 油断していた。


 例えのタマモがBⅬに興味がなくとも、ドライアドも興味がないとは断定できない。


 しかもタチの悪いことに、精霊の声は直接脳に響く。


 いくら強く耳を塞いだところで意味がない。


『ドライアド、その辺にしてもらえないですか』


 聞きたくもないドライアドのBⅬ話を聞かされ、心が疲弊しているとウンディーネが助け舟を出してくれた。


 よかった。


 これで彼女が注意をしてくれたのなら、少しはドライアドも大人しくしてくれるはず。


『何よおばさん。邪魔しないでよ。今いいところなのに』


『あなた何てことを口走っているのですか』


 いいぞ、その調子だ。


『デーヴィットのほうが攻めで、ランスロットが受けです』


 はい?


『一見気の強そうなランスロットが、デーヴィットには逆らえずに彼だけに身体を許すほうが興奮するでしょうが』


『まぁ、価値観は精霊それぞれだから否定はしないけど。あなたも同じ趣味を持っていたのね』


『ええ、偶然ですが、これからはいい関係を気づけそうです』


 ドライアドとウンディーネは、俺とランスロットを使ってBⅬ談議を始めてしまった。


 俺は耐えきれずに一人で三階に上がろうとすると、ランスロットも奇声を上げて頭を押さえながら俺に着いてきた。


 そういえば彼は魔物だ。


 ランスロットにも聞こえていたのだろう。


 階段を駆け上がり、三階にある自分たちの部屋の前まで全量疾走をすると、膝に両手を置きながら呼吸を整える。


『デーヴィット、ちょうど盛り上がっていたところでしたのに、どうして離れて行ってしまうのですか?』


 ウンディーネが不機嫌そうな口調で俺に尋ねる。


 精霊は、契約を結んだ人間からは離れることができない。


 俺が上の階に逃げたことで、ドライアドとウンディーネはBⅬ談議ができなくなった。


「俺とランスロットをBⅬのネタにしたからだよ。しかも話が進むごとにヒートアップしていっていたじゃないか。あれ以上は俺の精神が崩壊しそうだ」


「確かに実在する人物を許可なくBⅬのネタにするのは肖像権の侵害に当たりますね。以後気負つけます」


 どうやら分かってくれたようだ。


 俺はホッとする。


『それでは、BⅬのネタにさせてもらいますので、許可を――』


「「絶対にやらない!」」


 俺とランスロットは、同時に声を張り上げる。


『わかりました。許可をいただけないのでしたら、口に出して言うのは止めます。ですが、代わりに頭の中で妄想を膨らませてもらいますね。妄想の中でなら誰にでも迷惑はかからない。うふふ』


「デーヴィット!お前の契約している精霊は腐っているじゃないか!」


「俺だって今日初めて知ったよ!何?女性タイプの精霊って皆BⅬが好きなの!」


「俺が知っているわけがないだろうが!」


 変なテンションでいるからか、お互いの声音が強くなってしまう。


「とにかく部屋に入らないか?妙に酷く疲れている」


 ランスロットが右手で額を抑えながら、部屋の中に入ることを提案してきた。


 俺も彼と同じ気持ちであり、受け取った鍵を鍵穴の中に入れようと自分の右手を見る。


 手には鍵が三つ握られていた。


 残りの鍵をレイラたちに渡す前に階段を上ったせいで、渡しそびれていたのだ。


「あ、よかった。まだ部屋に入っていなくて」


 鍵を渡していないことに気づくと、三階に上がった女性陣が俺たちを見つけ、離れた位置からエミが声をかけてくる。


『BⅬ……デーヴィット……ランスロット……』


 距離があるからか、ドライアドの声が途切れ途切れであったが、脳内に響く。


「ランスロット。鍵を渡すから、お前が渡しに行ってこいよ。レイラの配下だろう」


「デーヴィットのほうが適任だ。俺よりもお前のほうが仲間たちと仲が良いだろう」


 ドライアドがBⅬ関連のことを口にしているために、お互いに鍵を渡しに行くことを拒む。


『嫌がるデーヴィットをランスロットが力強く抑え、耳元で囁いた……』


 先ほどよりもはっきりと聞こえ、俺はもう一度カレンたちのほうを見る。


 数秒の内に距離を詰めてられていた。


「ストップ!皆とりあえず止まってくれ」


「どうしたのよ?」


 俺が慌てて止まるように言うと、カレンが怪訝(けげん)な顔をして聞いてくる。


「誰か一名代表して俺たちのところに来てくれないか?」


「なるほど、それは名案だ。デーヴィット」


 この距離を保ったまま、一人だけが鍵を取りに来るように頼めば、六分の五の確率でタマモが俺たちのところに来ることはない。


 鍵を渡したあとに、すぐに俺たちの部屋の鍵を開けて中に入れば、ドライアドの声が聞こえてくることはないだろう。


「わかりました。ではワタクシが代表して受け取りに行きます」


 まさかの六分の一の確率を引いてしまった!


 更にドライアドの声が聞き取りやすくなる。


「ちょっと待った!」


「今度はなんです?」


 再び止まるように伝えると、タマモまでもが怪訝な顔で俺を見る。


 タマモが足を止めている間に、俺はこの状況を打破する策を考える。


 しかし、いい案が思いつかず、時間だけがムダに過ぎてしまう。


「もう、いいかげんにしてよ。みんな行きましょう。バカにつき合っていられないわよ」


 カレンが皆に声をかけると、女性陣は再び俺たちに近づく。


 万事休すだ。


 もう、ドライアドのBⅬ話を我慢して聞くしかない。


 すべてを諦めたときだ。


 俺の頭の上に乗っていたリピートバードが羽ばたいて俺から鍵を奪うと、カレンたちに鍵を渡して戻ってくる。


 まさかの展開に呆然としていたが、すぐに我に返ると自分たちの部屋の鍵を開け、逃げるようにして部屋の中に入る。


「まったく、なんて者を仲間に引き入れたのだ」


 ランスロットがタマモのことを言ってくる。


「俺だってドライアドがあんな性格だと知らなかったんだよ」


「とにかく、あの精霊が俺たちをネタにする限り、精神が疲弊していく。これでは戦争どころではなくなる」


「確かにそうだな。とりあえず対策を考えなければ」


『それなら、互いに一緒にいる時間は避けて、別行動をしてみてはいかがでしょうか?』


 解決方法を考えていると、ウンディーネが提案してくる。


「別行動で上手くいくのか?」


『確証はありませんが、きっかけを作ったのはランスロットの言葉です。BⅬを連想したシチュエーションの際に、カップリングとなる対象がいなければ、彼女も妄想を言葉で表すこともないかと思います』


「なるほど、試す価値はあるか」


 特に決定的な解決方法が思い浮かばなかったので、ウンディーネの案を採用し、実行してみることにした。


 今日も最後まで読んでいただきありがとうございます。


 誤字脱字や文章的に可笑しな箇所などがありましたら、教えていただけると助かります。


 ブックマーク登録をしてくださったかたありがとうございます。


 今後も気に入っていただけるような作品作りを目指し、多くのかたの読んでもらえれるように努力をしていきます。


 明日も投稿予定なので、楽しみにしていただけたら幸いです。

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