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第二十章 第五話 ランスロットを知る者

 今回のワード解説


海馬……大脳辺縁系の一部である、海馬体の一部。特徴的な層構造を持ち、脳の記憶や空間学習能力に関わる脳の器官。



 ガリア国内に到着した頃には、ちょうどお昼時になった。


 馬車を預け、俺たちは城下町を歩く。


 町の様子は得に変わった様子はなく、町民は日常生活を送っているように見える。


 まるで数日の内に戦争が起きようとしていることを、知らされていないかのように。


「本当にのどかね。逆に不気味だわ」


 カレンが町の様子を見て感想を言うが、まさにその通りだ。


 日常風景過ぎて違和感しかない。


「とりあえずは昼食を食べながら考えようか」


 道沿いを歩き、オシャレなカフェを見つけたので、そこで昼食を食べることにする。


 店内は清潔感を表すためか、基本的に白色で統一されており、壁には世界中の風景が描かれた絵が飾られてあった。


「いらっしゃいませ。あら、旅の方でしょうか?」


「そうですが、よく分かりましたね」


 女性店員の人が声をかけ、俺たちがこの国の人間ではないことを見抜く。


「見ればわかりますよ。エルフのお嬢さんもいるし、一人は全身鎧で武装していますし、赤い髪の方はドレスを着ておられますから、誰だってこの国の人間ではないことがわかります。それに頭の上で鳥を飼っている人はこの国にはいませんので」


「あはは」


 俺は苦笑いを浮かべる。


 リピートバードは俺の頭が気に入ったのか、あれから離れようとはしなかったのだ。


 俺は自分の服装を見る。


 みんなバラバラで統一感はない。


 さすがに国民の振りをするのはむりがありそうだ。


「どこかの貴族のかたでしょうか?」


「まぁ、そんなところです」


 女性店員はレイラを見て言葉を口にした。


 おそらく彼女からしたら、レイラが貴族のお嬢様で、俺たちはその付き人のように映ったのだろう。


「お口に合うように一生懸命にお作りしますね。何にいたしましょうか?」


「そうですね。このお店のおすすめを人数分ください」


「かしこまりました。すぐにお作りいたします」


 オーダーを伝えると、女性店員は厨房だと思われる場所に向っていく。


 席は店内と外にあり、俺たちは外の席に座ることにする。


 店内よりも外のほうが得られる情報が多いと思ったからだ。


 外の席に座り、俺は町の様子を見る。


 通行人が俺たちをチラチラと見てきた。


 さすがに目立ちすぎるだろうか。


 店員さんに言われたみたいに、少しは目立たないようにしなければ。


「リピートバード、ちょっと俺の頭から降りてくれないか」


 頭の上で止まっている鳥に声をかけると、一度頭から降りて俺の肩に移動をしてくれた。


 しかし、居心地が悪かったのか、すぐに俺の頭の上に戻る。


「相当気に入られてしまったようですね」


「俺の頭は鳥の巣じゃないぞ」


「「「「「「アハハハハ」」」」」」


 俺が愚痴を零すと、女性陣は一斉に笑い出した。


 何か変な想像でもしたのだろうか。


「ランスロット、今から食事をするのだ。そろそろ兜ぐらい取るがよい」


「御意」


 レイラが兜を取るように促すと、ランスロットは彼女の指示に従う。


 パープル色のオールバックの髪形をしている美形男性が素顔を見せた。


「ランスロットって意外にイケメンだったじゃない。どうして普段から兜を外さないのよ」


 エミが驚きながらも、興味がありそうな表情でランスロットに尋ねる。


 彼女はランスロットのような見た目の男性が好みなのだろうか?


「どうして貴様に言わなければならない」


「え、だってレイラの配下でしょう。レイラはあたしと同等の関係だから、あなたはあたしよりも下というわけよ。だから教える義務がある」


「レイラ様、この女を殴ってもよろしいでしょうか?」


「止めておけ、店に迷惑がかかる」


 立ち上がったランスロットを、レイラが(たしな)める。


 彼女も丸くなったものだ。


 最初に出会ったころは、俺に会いたいという理由だけで、村を攻めていたというのに。


「お待たせしました。当店おすすめの季節の食材を使ったサンドウィッチです。飲み物は紅茶とコーヒーを用意しました」


 女性店員が俺たちの前に料理を置く、このお店のおすすめはサンドウィッチのようで、パンの間には野菜やハム、卵などが挟まっている。


 コーヒーと紅茶はポットに入っており、自分たちで好きな量を注ぐみたいだ。


「ではごゆっくりどうぞ」


 女性店員が軽く会釈をしてお店の中に入っていく。


「まずは飲み物の分配だな。紅茶は誰が飲む?」


「私は紅茶」


「あたしも紅茶にしようかな」


「余も紅茶を飲もう」


「ワタクシも紅茶をいただきます」


 カレン、エミ、レイラ、タマモが紅茶を選ぶ。


 そうなると残りがコーヒーなのだが。


「アリス、本当にコーヒーを飲むのか?」


「はいなのです。わたしもそろそろ大人の仲間入りをしたいのです」


 元気よくアリスがコーヒーを飲むことを宣言するが、正直まだ早いと思う。


「本当にいいのか?」


「はいなのです。女に二言はないのです」


 アリスが明るい笑顔を見せる。


 本当に飲めるか心配なのだが、一応砂糖とミルクも用意がされてある。


 それを多めに入れてあげればいいだろう。


「それでは、ワタクシが入れますね」


 率先してタマモがポットを取り、カップに紅茶とコーヒーを入れていく。


 順番に入れ、アリスのカップにコーヒーが注がれた。


「いただきますなのです」


「あ、待ってください。まだ砂糖もミルクも……」


 まだ子どもが飲める状態ではないブラックコーヒーの入っているカップを、アリスは握ると口持っていき、一口飲む。


 その瞬間、彼女は大きく目を見開いて目尻から涙を流す。


「不味いのです。苦いのです」


 カップをテーブルの上に置き、アリスは泣き始める。


「もう、まだ砂糖もミルクも入れていないのですから、苦いに決まっていますよ、アリスさん」


「だって、だって、デーヴィットお兄ちゃんたちは何も入れないで飲んでいるのですよ」


「俺たちは何度も飲んでいるから、苦みに慣れているんだよ。初めて飲むときは砂糖とミルクを入れて飲まないと」


 タマモが砂糖を少なめ、ミルク多めにして甘くしたコーヒーをアリスに渡す。


「今度は甘くしたので飲んでみてください」


 泣きながらカップを受け取り、アリスは甘くなったコーヒーを一口飲む。


「美味しいのです、甘いのです!」


 アリスは泣きやみ、笑顔を見せる。


 これなら楽しい食事を続けられるだろう。


 俺たちはいただきますと言い、サンドウィッチを手に取ると食べ始める。


 パンの感触はふわふわで、口に入れるともちもちとした食感だった。


 中の野菜はシャキシャキとしており、みずみずしさを感じる。


 ゆで卵は半熟で、口の中でトロリと広がっていった。


 食材はいたって変わったものは使われてはいないが、季節限定で取れる野菜や卵を使っているという意味だったのだろう。


 俺はパンを一口分の大きさにちぎると、リピートバードに食べさせる。


「リピートバードってパンを食べるんだ」


「リピートバードは雑食だから、好みが合えば何でも食べるよ。野生の場合は昆虫やネズミなんかも食べるし」


 カレンに説明をしていると、パンを食べ終わった鳥が嘴で俺の頭を突っつく。


 もっと食べさせろと言っているのだろう。


 もう一度パンをちぎり、リピートバードに食べさせようとすると、鳥はちぎったパンではなく、サンドウィッチのハムを嘴で挟んでサッと抜く。


「俺のハム!」


 驚いていると、あっと言う間にリピートバードは俺から取ったハムを食べてしまう。


 俺のサンドウィッチは野菜と卵だけが残された。


 ハム一枚でお腹が一杯になったのか、それ以降はリピートバードからの催促はない。


 溜息を吐きつつ、ハムのないサンドウィッチを食べていると、一人の男性がこちらに向っているのが視界に入った。


 茶髪の癖毛の男で、騎士の恰好をしていることから、ガリア国の兵士であることがわかる。


 ここのテーブルは、通路に置かれ、通行人が横切る。


 兵士がこちらに歩いて来ても何も不思議ではない。


 俺は特に気にも留めないでサンドウィッチを食べていたが、彼は俺たちの前で止まり、こちらを見る。


 俺たちは城下町の人間ではない。


 統一性を感じられない俺たちを見て、不審に思ったのだろうか。


「あなたはランスロット!いつこの町に戻られたのですか!」


 茶髪の癖毛の男がランスロットを見て声を上げる。


「ランスロット卿、知り合いか?」


「いえ、全然記憶にないのですが」


 レイラが知り合いなのかを尋ねる。


 しかしランスロットは首を横に振り、否定した。


「何を言っているのですか、私ですよ。あなたと同じ騎士団所属のガウェインです!」


 ガウェインと名乗った男が自身の胸を叩く。


 彼の言葉の意味が理解していないのか、ランスロットは首を傾げていた。


 ガウェインの顔を見ると、どこかで見たことのあるような気がした俺は、脳の中にある記憶を司る海馬から記憶を引っ張り出す。


 すると、目の前の男のことを思い出し、冷や汗を掻く。


 目の前にいる彼は、酒吞童子を倒したあとに白馬に乗って現れたガリア国の兵士だ。


 ランスロットに気が向いているからか、俺たちが一緒にいても仲間を呼ぶ素振りを見せない。


 もしかして、顔を覚えられていない?


 レイラのほうを見ると、彼女も男の正体に気づいたのか、顔色を悪くしている。


 ここで戦うようなことにはしたくない。


 俺は上手いところ、この修羅場を回避する方法を考える。


 思考を巡らせていると閃く。


 成功するかは賭けになるが、ランスロットがガウェインのことを知らない状況を利用することができる。


「話の最中に割って入ってすまない」


「あなたは?」


「俺の名はデーヴィット、ランスロットのことだけど、彼は記憶喪失なんだ。名前以外のことを覚えていないんだよ」


「何ですと!」


 俺が閃いた策、それは記憶喪失作戦だ。


 ランスロットが覚えていない、それは記憶がないということだ。


 それなら、記憶喪失だと嘘を吐いても信憑性がでてくる。


「ランスロット、今の話は本当なのですか」


「何度言われようと、俺は貴殿の顔に見覚えがない」


「そんな!」


 ガウェインはよほどショックだったのか、その場に崩れ落ちる。


「とにかく来てください」


 ショックを受けていた彼が立ち上がると、ランスロットの腕を掴んだ。


 ガウェインは、俺の吐いた嘘を信じたようで取り乱している。


「俺をどこに連れて行く気だ」


「ギネヴィアのところです!あの人に会えば、きっと思いだすはず」


「ギネヴィアとは誰だ?」


「あなたの婚約者です!」


「「「「「「婚約者!」」」」」」


 レイラを除き、ランスロットに婚約者がいること聞かされ、俺たちは驚きの声を上げた。


 今日も最後まで読んでいただきありがとうございます。


 誤字脱字や文章的に可笑しな箇所などがありましたら、教えていただけると助かります。


 評価をしてくださった方、本当にありがとうございます。


 高評価をつけてもらえたので、とても嬉しいです。


 今後も日々精進し、高い評価に相応しい文章力と表現力を身につけられるように頑張っていきます。


 明日も投稿予定なので、楽しみにしていただけたら幸いです。

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