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第二十章 第一話 メフィストフェレスとの再会

 今回のワード解説


 読む必要がない人は飛ばして本文のほうを呼んでください。


 本文を読んで、これって何だったかな?と思ったときにでも確認していただければと思っています。


アクトミオシン……精製した筋肉タンパク質のミオシンとアクチンの溶液を混合してできる複合体で,そのままではミオシンとアクチンが結合した状態にある.強い流動複屈折を示し,溶液の粘度は高く,電子顕微鏡像は枝分れした網状鏡像を示す。


SDK……膜たんぱく質の一つ。


海馬……大脳辺縁系の一部である、海馬体の一部。特徴的な層構造を持ち、脳の記憶や空間学習能力に関わる脳の器官。


可溶性……物質が液体中にとけこむことのできる性質。


幹細胞……分裂して自分と同じ細胞を作る能力(自己複製能)と、別の種類の細胞に分化する能力を持ち、際限なく増殖できる細胞と定義されている。


凝固蛋白……タンパク質が固まったもの?


凝血塊……血液の塊のことである。


クラスター……数えられる程度の複数の原子・分子が集まってできる集合体。個数一〇~一〇〇のものはマイクロクラスターと呼ばれ,特殊な原子のふるまいが見られる。


血漿……血液 に含まれる液体成分の一つで、血液55%をしめる。血液を試験管にとって遠心沈殿すると、下の方に赤い塊りができ、上澄は淡黄色の液体になる。


血小板……血液に含まれる細胞成分の一種である。血栓の形成に中心的な役割を果たし、血管壁が損傷した時に集合してその傷口をふさぎ(血小板凝集) 、止血する作用を持つ。


血管壁……単層の内皮細胞からなっている。この血管壁の細胞間隙を通して、血液中と組織で、酸素と二酸化炭素の受け渡しや、栄養素の供給と老廃物の回収など物質交換を行っている。


骨髄……骨皮質の内側で骨梁と骨梁に囲まれた部位にある組織で,成人では約1600~3700 gの生体内最大の臓器であり,血球成分に富み赤く見える赤色髄と脂肪組織が大部分を占める黄色髄とに分けられる。


コラーゲン……皮膚や腱・軟骨などを構成する繊維状のたんぱく質で、人体のたんぱく質全体の約30%を占める。ゼラチンの原料としても知られる。人の皮膚・血管・じん帯・腱・軟骨などの組織を構成する繊維状のたんぱく質です。人間の場合、体内に存在するすべてのたんぱく質の約30%を占めており、そのうちの40%は皮膚に、20%は骨や軟骨に存在し、血管や内臓など全身の組織にも広く分布しています。コラーゲンを構成するアミノ酸の生成にはビタミンCが必要なため、ビタミンCが不足するとコラーゲンの合成が出来なくなり、壊血病を引き起こします。またビタミンAもコラーゲンの再構築に関わっています。


上皮細胞……上皮細胞とは、体表面を覆う「表皮」、管腔臓器の粘膜を構成する「上皮(狭義)」、外分泌腺を構成する「腺房細胞」や内分泌腺を構成する「腺細胞」などを総称した細胞。これら以外にも肝細胞や尿細管上皮など分泌や吸収機能を担う実質臓器の細胞も上皮に含められる。


セロトニン……生理活性アミンの一。生体内でトリプトファンから合成され,脳・脾臓・胃腸・血清中に多く含まれる。脳の神経伝達などに作用するとともに,精神を安定させる作用もある。


線維芽細胞……結合組織を構成する細胞の1つ。コラーゲン・エラスチン・ヒアルロン酸といった真皮の成分を作り出す。細胞小器官が豊富であり、核小体が明瞭な楕円形の核を有し、細胞質は塩基好性を示す。


相転移……ある系の相が別の相へ変わることを指す。しばしば 相変態とも呼ばれる。熱力学または 統計力学において、相はある特徴を持った系の安定な状態の集合として定義される。


単核球……白血球の一種で、最も大きなタイプの白血球である。マクロファージや、樹状細胞に分化することができる。


トロンビン……血液の凝固に関わる酵素セリンプロテアーゼの一種。


トロンボプラスチン……血液凝固に関与する因子の一つで,リポタンパク質。カルシウム-イオンの存在下でプロトロンビンをトロンビンに変える。


貪食作用……体内の細胞が不必要なものを取り込み、消化し、分解する作用である。


ヒッグス粒子……「神の子」とも呼ばれ、宇宙が誕生して間もない頃、他の素粒子に質量を与えたとされる粒子。


フィブリン……血液凝固に関連するタンパク質のフィブリノゲンが分解され活性化したものである。


フィブリノゲン……血液凝固の最終段階で網状の不溶性物質フィブリンとなり、血球や血小板が集まってできた塊(血栓)のすき間を埋めて、血液成分がそこから漏れ出ないようにしている。 このため、フィブリノゲンが低下すると血液が固まりにくくなり、止血されにくくなる(出血傾向)。


不溶性……液体に溶解しない性質。


プロトビン……血漿中に含まれるタンパク質の一種。体組織が破壊された際などに「トロンビン」へ変化し、血液凝固を起こす機能を持つ。


マクロファージ……白血球の1種。生体内をアメーバ様運動する遊走性 の食細胞で、死んだ細胞やその破片、体内に生じた変性物質や侵入した細菌などの異物を捕食して消化し、清掃屋の役割を果たす。


迷走神経……12対ある脳神経の一つであり、第X脳神経とも呼ばれる。副交感神経の代表的な神経 。複雑な走行を示し、 頸部と胸部内臓 、さらには腹部内臓にまで分布する。脳神経中最大の分布領域を持ち、主として副交感神経繊維からなるが、 交感神経とも拮抗し、 声帯 、心臓 、胃腸 、消化腺の運動、分泌 を支配する。多数に枝分れしてきわめて複雑な経路を示すのでこの名がある 。延髄 における迷走神経の起始部。迷走神経背側核、 疑核 、 孤束核を含む。迷走神経は脳神経の中で唯一 腹部にまで到達する神経である。



 メフィストフェレスのことを知らないというレックスに、俺は動揺が走る。


「俺の配下に……メフィストフェレスという……魔物はいない」


 身体のいたるところから血を流しながら、レックスは途切れ途切れに言葉を言う。


「顔に星の模様が描かれ、派手な衣装を着ている白い肌の道化の男だ」


「知らないな。少なくとも……俺の配下では……ない」


 俺は額に手を置き、脳の海馬からメフィストフェレスと出会ったときの記憶を引っ張り出す。


 確かにあいつは、一言もレックスの名前を出していなかった。


 つまりレイラ、レックスに続く第三の魔王がいることになる。


「その……メフィストフェレス……とかいう……やつに……踊らされたな」


 レックスの言葉が耳に入った瞬間、俺は動悸が激しくなる。


 まずい、まずい、まずい。


 このままでは戦争が始まってしまう。


 多くの人が血を流すことになる。


「ざまみろ。レイラの……心を……奪った……報いだ。何が……起きているのか……は……わからないが……貴様の……苦しむ……姿を……あの世で……見させて……もらう」


 その言葉を最後に、レックスは顔を俯かせると動かなくなる。


 俺は我に返ると踵を返した。


 こんなことをしている場合ではない。


 一刻も早くこのことを父さんに伝え、戦争を回避する方法を考えなければ。


 右足を前に出した瞬間、視界が歪むと地面に立っていることができずに転倒してしまう。


 流石に血を流しすぎたようだ。


 身体中の臓器も損傷しているだろう。


「デーヴィット。今直ぐ回復させてやるからな」


 意識が朦朧とする中、ライリーの声が耳に入る。


(まじな)いを用いて我が契約せし知られざる生命の精霊に命じる。その力の一部を我に貸し、言霊により我の発するものを実現せよ。ブラッドプリュース」


 失った血液を補うために、ライリーが血液生産魔法をかけてくれた。


 破れた血管を修復しようと、血小板が塊になって血管壁に付着。


 次に凝集した血小板からセロトニンが放出され、血管の収縮を助けて血流が低下すると同時に、血小板や破れた組織からトロンボプラスチンが放出され、血漿(けっしょう)の中にある凝固蛋白(ぎょうこたんぱく)やカルシウムと作用して、血漿中のプロトロビンをトロンビンに変換。


 さらにトロンビンが可溶性のフィブリノゲンを、不溶性のフィブリンに変換され、フィブリンは細長い線維状の分子で集まって網目構成をつくる。


 そこに赤血球が絡まるようにして凝血塊が生まれ、血管の傷を塞ぐ。


 そして血管から抜け出した単核球が貪食作用でマクロファージになると、さらに色々な化学物質を放出し、それが刺激になると線維芽細胞が呼び出されコラーゲンを作る。


 その後、線維芽細胞、毛細血管がコラーゲンを足場とし、この三者が欠損部を埋め、創面をくっつけて真皮に近い丈夫な組織を作り出した。


 そして骨髄から作り出された幹細胞が赤血球、血小板に分化し、最終的に成熟したものが血液中に放出され、失った血液を補う。


 外側の傷が治り、血が身体中を巡ったことで俺は意識が戻る。


 けれど、内部の臓器が酷く損傷しており、身体を動かそうとすると、酷い吐き気と倦怠感を覚える。


「やっぱりこの魔法だけでは完全回復とはいかないか。(まじな)いを用いて我が契約せし知られざる生命の精霊に命じる。その力の一部を我に貸し、言霊により我の発するものを実現せよ。ネイチャーヒーリング」


 ライリーがもう一つの回復呪文を唱える。


 すると、俺の身体を保つ細胞の一つである上皮細胞が、隣り合う細胞の細胞接着面にアクトミオシンが集積し、その細胞接着面が短縮。


 アクトミオシンは新しい細胞接着面を作る際の接合点で再利用されると、この接合点から新たな細胞接着面が、元の接着面とは垂直方向に伸張。


 そしてSDKと呼ばれる膜たんぱく質が、細胞接着面のつなぎ替え後に形成される細胞接合点に早く集積し、アクトミオシンを繋ぎ止め、まるでジッパーのように細胞接合点をスムーズに移動することで、新しい細胞接着面の伸長を誘導。


 細胞接着面がつなぎ替わった後に、新しい細胞接着面の伸長が連続して起こることによって、上皮細胞がスムーズに集団移動を始め、シート状の上皮組織を折りたたみ、伸長、陥入、移動などの変形を行い、複雑な器官の修復を行う。


 内部の損傷が回復したことで、さっきまで感じていた吐き気や倦怠感がなくなり、俺は立ち上がることができた。


「ありがとう。助かった」


「礼はいい。だけど大変なことになってしまったねぇ」


「ああ、一日でも早く、リピートバードを飛ばして父さんにこのことを知らせなければ」


 時間はもう残されていない。


 早くこの地下から脱出しなければ。


 そう思い、通路に視線を向ける。


 すると奥に人影が見えた。


「おやおや?これは面白い展開になっていますね。まさか魔王レックスが倒され、デーヴィット王子が生きているとは思っていませんでした」


 白い肌の顔に星の模様が描かれ、派手な衣装を着ているの道化の男がこちらにやってくる。


「お前はメッフィー!」


 俺はこちらに向って歩いてくる男の名を叫ぶ。


「おおー!まさか愛称のほうで呼んでくださるとは!メフィストフェレス感動いたします」


 愛称で呼んだのがそんなに嬉しかったのか、メフィストフェレスは天を仰ぐように両手を上げ、顔を天井に向ける。


「これもお前の作戦か!曖昧な表現で俺たちを思い込ませて、レックスと戦わせたのか!」


「ええ、そうです。さすがはデーヴィット王子、状況を呑み込む速さに感服いたします。あなたがたがご協力してくださったお陰で、邪魔な存在のレックスを排除することができました。そして、あの方の策略通り、ガリア国と王都オルレアンの戦争が目前となっております。戦争を回避するのはおそらく不可能です」


「何だと!」


 メフィストフェレスの言葉に、俺は打ちのめされる。


 どうにかして戦争を回避したい。


 そう思ってここまで頑張ってきたのに、すべてが水の泡となる。


「あなたがたをほっておいても、大した脅威とはなり得ないでしょうが、念のためにここで潰しておきましょう。さぁ全員でかかってきなさい。まとめてレックスのあとを追わせてあげます」


 メフィストフェレスがゆっくりと手招きをして挑発してくる。


 やつは戦争を回避することができないと言ったが、最後まで諦めきれない。


 この目で確かめるまでは、まだ希望に縋らせてもらう。


 俺は冷静になって周囲を観察する。


 地上に上がるための通路はメフィストフェレスの背後にある。


 時間がない以上はムダな戦いで消費したくはない。


「メッフィーの相手は俺がする。隙を作るから、その間に皆は先に地上に上がってくれ。ライリーはカレンを背負ってくれ。タマモとエミはアリスを頼む」


 仲間に指示を出すが、誰からも返事はなかった。


 気になり、皆がいた場所を見ると俺は目を大きく見開く。


 仲間の姿はなく、代わりにメフィストフェレスが立っている。


 目の前で対峙しているのを除き六人。


 剣を構えているのが一人、地面に寝そべって余裕をかましているのが一人、残りの四人は俺のほうを見ていた。


「メッフィーが……増えた」


 これは噂に聞く分身というやつなのだろうか。


 高速に動くことによって、あたかも分身したかのように相手の脳に錯覚させる技。


 突然消えた仲間に、分身したメフィストフェレス。


 予想していなかった展開に、俺は鼓動が激しくなる。


 どう対処をするべきかを考えていると、剣を持ったメフィストフェレスが得物を上段に構え、一気に距離を詰めてくる。


(まじな)いを用いて我が契約せしウンディーネとフラウに命じる。その力の一部を我に貸し、言霊により我の発するものを実現せよ。アイスソード」


 空気中の酸素と水素が結合し、水分子のクラスターによって水が出現すると、剣の形を形成。


 その後、水の気温が下がり、熱エネルギーが極端に低くなったことで氷へと変化すると、氷のロングソードが完成した。


 魔法で作り出した氷の剣を横に構え、敵の一撃を防ぐ。


 金属音のような音が響き、闘技場内で音が反響した。


 彼の一撃は道化師とは思えないほど、重くのしかかり、俺は歯を食い縛る。


 まるで一流の剣士と対峙しているようだ。


 まずい、このままでは押し切られる。


 力比べでは相手に分がある。


 このままでは押し負けるだろう。


 そう判断した俺は、一度後ろに跳躍して距離を取ろうとすると、地を蹴って後方に下がる。


 地に足がつこうとした瞬間、爆発をしたかのように足下の地面が吹き飛び、石礫(いしつぶて)を浴びながら吹き飛ばされる。


 地面に転がり、身体中に痛みが走る中、俺はすぐに起き上がる。


 今のは、音を使った爆発!


 足元の地面が破壊された際に、硝煙の臭いはまったくしなかった。


 そうなると考えられるのは、音の力を利用した爆発だ。


 遠距離攻撃をされるのはまずい。


 あいつを先に倒さなければ。


 観客席にいる音の魔法を使ったメフィストフェレスを睨み、俺は魔法を唱える。


(まじな)いを用いて我が契約せしウンディーネに命じる。その力の一部を我に貸し、言霊により我の発するものを実現せよ。ウォーターカッター」


 空気中の水分が集まり、知覚できる量にまで拡大する。


 そして今度は水の塊が加圧により、直径一ミリほどの厚さに形状を変えた。


 このまま音の魔法を使ったメフィストフェレスに風穴を開ける。


 敵の心臓に狙いを定めようとしていたとき、急に心臓が痛み、気を失いそうになる。


 気を失いそうになるほどのこの痛みは、迷走神経が活性化させられているのか。


 人は耐えきれないほどの激痛を感じると、迷走神経を活性化することがある。


 これが活性化すると血管が広がり、心臓に戻る血流量が減少して心拍数が低下する。


 これが原因で失神を起こしてしまうのだ。


 直接肉体に作用する魔法を使ってくるメフィストフェレスもいる。


 近距離、遠距離、無敵貫通、様々な攻撃をしてくる敵を一人ずつ相手にしていても、俺の精神力が消耗されるだけ。


 ならば、一気に範囲攻撃をして敵を倒す。


(まじな)いを用いて我が契約せしノームとウィル・オー・ウィスプに命じる。その力の一部を我に貸し、言霊により我の発するものを実現せよ。ウエポンカーニバル!」


 武器作成に必要な物質を集め、質量を持たせることのできるヒッグス粒子を纏わせることで、武器を生み出し、空中に展開させる。


「放て!ウエポンアロー!」


 七体のメフィストフェレスに向けて剣、槍、斧といった様々な武器を飛ばす。


「本当にそんなことをしていいのですか?仲間を殺すのであればお好きにどうぞ」


 通路側にいるメフィストフェレスが迫り来る武器を見て俺に言葉をかけてくる。


 こんなときに命乞いか。


 土壇場で危なくなり、やつは俺の攻撃の手を緩めるために、適当なことを言いふらかしている。


 そう思ったが、本当にそうなのだろうかと考えてしまった。


 敵の攻撃の特徴は一人ずつ違う。


 剣による接近戦、音を使った攻撃、直接体内を攻撃する無敵貫通、そして最初に現れた敵の立ち位置、それらを考えるとあいつの発言が嘘だと言いきれない。


「チッ」


 すべての武器がターゲットに当たる寸前で上空に移動させる。


「はぁ、はぁ、はぁ」


 俺は全速疾走をしたあとのように、荒い呼吸をする。


 ウエポンアローは、放つ武器ひとつひとつに神経を研ぎ澄ませ、集中をしなければコントロールを失う。


 なので、消費される精神力も多い。


 最悪の状況を考え、俺はメフィストフェレスを攻撃できなかった。


「ついつい我が身可愛さに言ってしまいましたが、自分の精神力を削ってまで攻撃をキャンセルしてくださりありがとうございます。お陰でケガをせずにすみました」


「お前に……お礼を言われたくない」


「これは失敬、申し訳ありません。話は変わるのですが、私は何てバカだったのでしょう。堂々とこの場に居なければ、攻撃を食らうことがありませんでした。というわけで、第二ラウンドといきましょう。邪魔者は退散いたします」


 通路側にいたメフィストフェレスが指を鳴らす。


 その瞬間、自然の法則を無視して瞬く間に霧が辺りを埋め尽くす。


「では、ごきげんよう。いったい誰が生き残るのでしょうね」


 この場から離れて行っているのか、次第にメフィストフェレスの声が遠ざかっていく。


「待て!」


 メフィストフェレスを呼び止めようと声を上げるも、当然ながら彼が引き返してくることはない。


「メフィストフェレス、さっきはよくもやってくれたねぇ、倍返しさ」


 背後からライリーの声が聞こえ、俺は振り向く。


 彼女は剣を上段に構え、今にも振り下ろしそうだ。


 俺は後方に跳躍して一撃を躱す。


 ライリーの剣は地面に振れ、接触した箇所の地面が砕けた。


 今のライリーは俺を敵と誤認している。


 そもそもメフィストフェレスは相手の認識を操作する認識阻害の魔法が使える。


 やつの魔法の効果で敵味方の区別がつかなくなっているのだ。


「ミニチュアファイヤーボール」


 レイラが魔法を放つ声が聞こえた。


 霧の中でも火球は明かりのように照らし、どの位置にあるのかが判断できる。


 火球は俺たちとは反対側に飛んでいく。


 あっちのほうでも、レイラが仲間の誰かを敵だと認識して攻撃しているようだ。


 早く対策を練らなければ。


 そう思い、ライリーの動きに注視しながらも思考を巡らせる。


 一瞬だけ瞬きをすると、目の前にいたはずの黒髪の女性は道化師の恰好をした男に変わった。


 この霧が原因なのだろうか。


 再び仲間がメフィストフェレスに見えてしまう。


 だけどライリーに関しては見分けがつく。


 彼女は剣を所持している。


 剣を握っているメフィストフェレスはライリーだ。


 自分の中で結論づけると、俺は背後に気配を感じ、前方に気をつけつつ振り向く。


 そこには、剣を握っているメフィストフェレスがいた。


「何!」


 俺の考えをあざ笑うかのように、剣を握っているメフィストフェレスがいた。


 そんなバカな。


 剣を握っているのがライリーではないのか。


 どっちがライリーだ。


 それともどっちも彼女ではないのか。


 予想できなかった展開に、俺は動揺を隠し切れない。


 驚いたことにより、視界から得た情報を脳が処理しきれなかったようだ。


 背後に現れたメフィストフェレスが俺の腹に拳を叩き込む。


 強烈な一撃により、俺の身体が悲鳴を上げる。


 激痛を感じると、迷走神経が活性化したようで、俺はその場で意識を失った。


 今日も最後まで読んでいただきありがとうございます。


 誤字脱字や文章的に可笑しな箇所などがありましたら、教えていただけると助かります。


 明日も投稿予定なので、楽しみにしていただけたら幸いです。

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