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第十九章 第十話 オーバーイメージ

 今回のワード解説


 読む必要がない人は飛ばして本文のほうを呼んでください。


 本文を読んで、これって何だったかな?と思ったときにでも確認していただければと思っています。


可視光線……電磁波のうち、ヒトの目で見える波長のもの。いわゆる光のことで、可視光は誤った言い方であるかもしれない。


クラスター……数えられる程度の複数の原子・分子が集まってできる集合体。個数一〇~一〇〇のものはマイクロクラスターと呼ばれ,特殊な原子のふるまいが見られる。


相互作用……Aと Bの間に,一回的もしくは継続的なかたちで直接的あるいは間接的接触が行なわれ,なんらかの影響がもたらされる場合,両者の間には相互作用があるという。一般的には人間対人間の関係で相互作用が成立していると考えられるが,広義には,物質的,文化的対象との間にも成立の可能性を考えることができる。


ヒッグス粒子……「神の子」とも呼ばれ、宇宙が誕生して間もない頃、他の素粒子に質量を与えたとされる粒子。


ホールド……支えること。からだなどを一定の状態に保つこと。


 男が声を発した瞬間、剣、槍、棍棒などの武器が空中に複数展開される。


 どのような原理で空中に浮いているのかは不明だが、今のところは魔術によるものだと考えるしかないだろう。


「これが神から授かった俺の恩恵(ギフト)、オーバーイメージ。俺の想像した武器を具現化させる力だ。ここに展開してある武器は、すべて俺のいた世界に伝説として伝わっている宝剣などである」


 空中にある武器が、すべてレックスの思考から作り出したものであることを告げると、彼はひとつの剣を指差す。


「これはアーサー王の伝説に登場する宝剣、エクスカリバー、そしてこっちは宝槍ロンゴミニアド、ケルト神話に伝わる一撃で心臓を穿つゲイ・ボルク、触れた対象の魔力の流れを、その刹那だけ遮断して無力化させる魔を断つ赤槍、ゲイ・ジャルク、ひとたび穿てばその傷を癒さない呪いの槍、ゲイ・ボウ、邪竜ファフニールを討ち取った聖剣バルムンク」


 語れるだけレックスは武器の説明をするが、どれもとてつもない武器であることが伝わってきた。


「まぁ、同じ武器を二つ展開させることができないのが、残念なところではあるのだがな」


 あれだけの量の武器を空中に配置させる目的としては、考えるまでもない。


 俺たちを攻撃するためだ。


 武器を選ぶために用意したのか、他の用途で出現させたのかは不明だが、剣には剣で対抗するべき。


(まじな)いを用いて我が契約せしウンディーネとフラウに命じる。その力の一部を我に貸し、言霊により我の発するものを実現せよ。アイスソード」


 空気中の酸素と水素が結合し、水分子のクラスターによって水が出現すると、剣の形を形成。


その後、水の気温が下がり、熱エネルギーが極端に低くなったことで氷へと変化すると、氷のロングソードが完成した。


 そして剣と姿勢を真っ直ぐにし、左足を前にして肩幅を開き、膝をリラックスさせる。


 肘を張って裏刃も使えるようにさせた。


「ほう、魔法剣か。どのような効果があるのか見ものであるが。本当の武器の扱いかたを貴様は知っているか」


「それは剣術のことを言っているのか?それなら最低限の知識は持ち合わせているが」


「そうか。なら真の武器の扱いというのを教えてくれる。武器は飛ぶものだ!ウエポンアロー!」


 レックスが叫んだ瞬間、空中に展開された武器の刃先が俺のほうを向き、一斉に襲いかかる。


 まるで弓から放たれた矢のように早い。


 俺は鍛え上げられた動体視力を頼りに、武器の軌道を判断すると後方に跳躍。


 先ほどまで立っていた場所には複数の武器が突き刺さっていた。


「今の一撃を躱すか。面白い。もっと俺を楽しませろ!」


 地面に突き刺さった武器が再び空中に浮遊する。


「デーヴィット!」


「ライリーはこっちに来るな!流れ弾のように飛んできた武器の対処に専念してくれ」


 彼の目的は俺を殺すこと。


 攻撃は俺に集中するはず。


 ならば俺があの男の気を引いていれば、彼女たちが危険に晒されるリスクを減らせる。


「女どもを心配するとはまだ余裕があるではないか」


 ライリーのほうを見ると、視界の端に剣が飛んでくるが見えた。


 攻撃が来たことを察知した俺は、跳躍して躱すと空中で一回転をし、地面に着地する。


 今のところはどうにか攻撃を避けることに成功している。


 敵の放つ武器の軌道さえ把握すれば避けられないことはない。


「誰が空中からのみ展開できると言った!」


 レックスが叫んだ瞬間、足元が光ると地面から生えるように黄色い槍が顔を出す。


 あの色の槍は、ひとたび穿てばその傷を癒さない呪いの槍、ゲイ・ボウ。


 もし、彼の話が本当であれば、食らう訳にはいかない。


 伸びてきた瞬間、俺は一歩後ろに下がると間一髪で避け、アイスソードを左手に持ち直す。


 そして右手で槍の棒を握った。


 握った槍を親指と人差し指でホールドし直し、レックスに向けて投擲する。


「穿て!ゲイ・ボウ!」


 敵に向けて呪いの槍が突き進む。


 しっかりとホールドしたお陰で勢いが衰える様子はなかった。


 狙い通りに男に向っていく。


「ふっ」


 自身の放った槍が利用され、眼前に迫ってきているというのに、レックスは驚くような素振りは見せずに一笑していた。


 俺が全力で投げた槍は、敵の身体を刃で貫くことなく一歩分手前で停止する。


「下等生物如きが!汚らわしい手で俺の宝に触れるなど万死に値する」


 レックスが右手を水平に動かした瞬間、彼の生み出した武器が一斉に襲ってきた。


 彼の能力で生み出した武器を利用したことで、やつの怒りを買ったようだ。


 向かってくる剣の軌道を読み、逃げる位置を瞬時に判断する。


 だが、着弾点を分析している最中に、大剣であるツーハンデッドソードが姿を消す。


 いったいどこに消えた。


 突然消える剣に思考を持っていかれそうになるが、今は回避に移ることが最優先だ。


 俺は前方にある回避ポイントに飛び、雨のように降り注ぐ得物を躱す。


 どこかで攻撃に移らなければ。


 そう思い、逆転の一手を考えていると、俺は目を大きく見開く。


 先ほど消えたツーハンデッドソードが、何の前触れもなく目の前に現れ、表刃で横一文字に動く。


 咄嗟に屈み、刃を躱す。


 ツーハンデッドソードは、斬るというよりも骨を砕くことに特化した大剣。


 勢いよくぶつかると骨折では済まされない。


 立ち上がると再びツーハンデットソードは見えなくなる。


 あの剣はゲイ・ボウのように特別な能力を持っているのだろうか。


 可能性を考えていると、あの大剣が特別という訳ではないことを知る。


 ゲイ・ジャルクと呼ばれた赤槍が、先ほどのツーハンデットソードのときと同じように消えたのだ。


 彼の説明では、魔力を一時的に遮断することができると言っていたが、見えなくなるとは一言も言っていない。


 つまり、あれ自体もレックスの能力。


 生み出した武器を一時的に見えなくさせることができる。


 人間は物体に当たった光の波長のうち、物体に吸収されずに反射した波長を物体の色として認識する。


 光とは電磁波の一種。


 波長によって屈折率が変わるため、光が分散してさまざまな色を認識することができる。


 人間の目で見える波長の範囲を可視光線と呼び、短波長が三百六十から四百ナノメートル、長波長側が七百六十から八百三十ナノメートルとなっている。


 可視光線よりも波長が短くなっても長くなっても人の目で見ることができない。


 つまり、レックスは生み出した武器に対して、一時的に電磁波との間に相互作用が起こらないようにさせ、電磁波の吸収及び散乱を生じなくさせている。


「ならば、見えないだけで物体はそこにある。実在するのであれば、避けられないわけがない」


 消える武器の正体が、光の反射を利用したものだと判断した俺は、対策をたてた。


「逃げろ、逃げろ!下等生物!疲れて動けなくなったところを残虐に殺してくれる」


 再び複数の剣が俺を襲う。


 だが、消える原理が分かればこっちのものだ。


 降り注ぐ武器は放たれた矢のように一直線にしか進めない。


 刀身を竜の顔で表現したダガーが消えかかる。


 惑わそうとしてもムダだ。


 もう、その手で動揺することはない。


 自信に満ちて心に余裕を感じた俺は、横に二度跳躍をしてすべての武器を躱す。


 地面には消えたダガーを除き、攻撃に使用した武器が突き刺さっている。


 今のあいつは丸腰だ。


 今のうちに距離を詰め、アイスソードで斬り倒す。


 地を蹴り、一気に距離を詰めようとしたときだ。


 右肩に痛みが走ったかと思うと、俺の横をダガーが通過した。


 刀身には赤い液体が付着しており、肩が切り裂かれたことを自覚する。


 再び動揺が走った。


 俺は足を止め、左手で右肩に触れる。


 どうしてだ。


 どうして地面に突き刺さっているはずの剣が俺を攻撃することができる。


 引っこ抜いて後方から放ったのだとしても、外れる際に物音がするはず。


 戦いに集中しているのだ。


 気づかないはずがない。


 もしかして前提が違っていたのか。


 見えなくなっていたのではなく、本当に消えていた。


 そう考えれば気づかれないで後方から攻撃できたのも納得がいく。


 レックスは同じ得物を複数出現させることができないと言っていた。


 そのことを考慮して考えても、一度消して再び同じものを構築したのだ。


 これは俺の想像の範囲でしかないが、この世の物体はすべて物質でできている。


 酸素と水素が結合して水になるのを利用したものなのだろう。


 武器に必要な物質を集め、質量を持たせることのできるヒッグス粒子を纏わせることで、本物と同様の武器を生み出す。


 そして物質を分解することで形状を保たなくさせ、あたかも消えたように演出をさせる。


 その後、ばらした物を組み立てるように、もう一度同じ物を作り出し、背後から襲った。


 あくまでもこれは俺の想像にしかすぎない。


 本当にこのようなことが起きているのか定かではないが、ある程度自分の中で理論を建てなければ、気持ち的に苦しくなる。


 相手の手の内は読めている。


 何も怖いことはないと自身に言い聞かせなければ、恐怖で圧し潰されそうだ。


 これで、敵の放つ攻撃の軌道を読んで回避するという方法は使えなくなった。


 エミは俺のことをチートと呼ぶが、レックスのほうがチートすぎる。


 二度も死に、魔物となってロード階級に上り詰めたうえに、神からの恩恵(ギフト)を維持したまま。


 強い存在が更に強い能力を身に着けているのだ。


「本当にチートすぎるだろう。こっちには呪文の詠唱をしないといけないというハンデがあるっていうのに」


 力の差は歴然だ。


 けれど諦めるわけにはいかない。


 元々から備わっている力の差は、工夫で補わなければ。


 この戦いに勝つ方法を考えるんだ。


「いいぞ、俺が見たかったのはその表情だ。だがまだ足りない。もっと恐怖に歪んだ顔を見せろ」


 レックスは今、優越に浸っている。


 己の勝利を確信しているんだ。


 痛みに耐えながらも、俺は考える。


 すると知識の本(ノウレッジブックス)に書かれてあった異世界の歴史が脳裏を過った。


 桶狭間という場所で、今川義元と織田信長という武将が戦った。


 今川軍二万五千に対して織田軍は僅か三千に満たない数であったが、この戦力差を覆して織田軍が勝利を収めた。


 今川義元の敗因は驕りあったという。


 圧倒的な戦力の差にこれまでの実績が義元を油断させた。


 信長は最後まで諦めることなく綿密に計略を練った上で勝てる可能性にかけたのだ。


 結果、奇襲が成功し、織田軍は勝利した。


 今の状況は、形は違うが桶狭間の戦いだ。


 レックスは油断している。


 ならば彼の意表をつくような何かを起こせば、この戦いに勝つことができるはず。


「そろそろ貴様の断末魔を聞かせてもらうとするか」


 口の端を吊り上げ、不気味な笑みを浮かべながらレックスが指を鳴らす。


 すると俺の足下の地面が光り、鎖が現れて俺の身体を拘束した。


「チェックメイトだ。安心しろ、お前を殺したあとにレイラを除いた人間どもをすぐにあの世に送ってくれる」


 黒髪の男が右手を上げて振り下ろす。


 その動きに合わせて彼の生み出した武器が一斉に襲いかかった。


 ここで俺は終わってしまうのか。


(まじな)いを用いて我が契約せしハルモニウムに命じる。その力の一部を我に貸し、言霊により我の発するものを実現せよ。パァプ」


 魔法の詠唱が聞こえた瞬間、俺を拘束していた鎖が壊れ、俺は後方に下がる。


 突然の解放に、素早く回避に移れなかったこともあり、何本かが俺の身体を掠った。


 声が聞こえたほうに顔を向ける。


 そこにはスライムから解放されたカレンたちと、いつの間にか合流していたタマモが立っていた。


 対象物の強度を上回る空気の振動を送り、カレンが鎖を破壊してくれたのだ。


『うふふふ、危なかったわね。あとでタマモにお礼を言いなさいよ。彼女がスライムを倒さなかったら、今ごろ殺されていたのだから』


 頭の中にドライアドの声が響く。


 どうやらレックスが気づかないうちに、タマモがスライムに奇襲をかけてカレンたちの拘束を解いてくれたようだ。


「さっきはよくも恥ずかしい想いをさせたわね!あたしの魔法であなたにも恥ずかしい想いをさせてやるのだから!」


 自由になったエミがレックスを睨む。


 彼女が何をしようと企んでいるのか、ある程度予想ができた俺は苦笑いを浮かべるしかなかった。


 全員揃った。


 勝負はここからだ。


 今日も最後まで読んでいただきありがとうございます!


 誤字脱字や文章的に可笑しな箇所などがありましたら、教えていただけると助かります!


 遂にユニーク数が六千を超えました!


 これも毎日読んでくださっているあなたのおかげです。


 本当にありがとうございます!


 明日も投稿予定なので楽しみにしていただけたら幸いです。

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