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第十九章 第九話 マネットライム改二の能力解説

 今回のワード解説


 読む必要がない人は飛ばして本文のほうを呼んでください。


 本文を読んで、これって何だったかな?と思ったときにでも確認していただければと思っています。


オーバーワーク……能力、体力以上に働くこと。過重な労働。


海馬……大脳辺縁系の一部である、海馬体の一部。特徴的な層構造を持ち、脳の記憶や空間学習能力に関わる脳の器官。


感覚麻痺……感覚麻痺と呼ぶときの感覚とは、主に体性感覚のことを指します。体性感覚は、皮膚で触れた感じ(表在感覚)や関節などの身体が動いた感じ(深部感覚)などがあります。


メラニン色素……肌や髪の毛、瞳などの色を構成している色素です。黒や褐色のユーメラニン(真メラニン)と黄赤色のフェオメラニンの2種類がありますが、一般的にはメラニン色素というとユーメラニンを指します。人の肌や髪などの色はメラニン色素の量によって変わり、量が多いほど肌は褐色寄りになり、毛髪は黒くなる性質を持ちます。

 レイラが大半のマネットライムを倒してくれたお陰で、この場に現れたマネットライムはすべて倒した。


 俺はレックスを除き、残存している敵がいないかを確認する。


 周囲を窺っても敵が隠れているようには見えない。


「まさかあれだけのマネットライム改二を殲滅させるとは思ってもいなかったぞ」


 レックスが玉座から立ち上がり、拍手を送ってきた。


「マネットライム改二……だと」


「そうだ。あれらは俺が最初に生み出したスライムとは違い、本者に近づけるように改良に改良を重ねた」


 確かに本来のマネットライムは、相手の姿を真似して敵からの攻撃を受けた際に、脳や心臓の代わりをしている核が瞬時に判断し、相手の業を自分のものにするのが一般的だ。


 形は真似しても、身体はジェル状のまま。


 本物そっくりの見た目にはならない。


「俺は自分の理想とするマネットライムを作り出すために、日々の研究をしていた。新に生み出したマネットライム改は、相手の姿を真似するだけではなく、自ら細胞を作りだし、メラニン色素でジェル状の身体を人間同様の色に染め上げ、更に声帯を作って声を出すようにした」


 最初に改良を施したことで、マネットライムにどのような変化が起きたのかをレックスは語る。


 確かに彼の言うとおり、自ら人間と同じ細胞を作ることができるようになっていたのであれば、あのマネットライムが俺たちにそっくりだったのも納得がいく。


「しかしそれは失敗に終わった」


 当時のことを思い出したのか、レックスは自分の額に右手を置いて嘆く。


「いくら姿を真似して声が出せるようになったとしても、姿を真似した人物のような振る舞いができなかった。そう、いくら間接的に情報を得て真似ることができても、細かい部分を再現することができなかった。仕草、声のトーン、本人にも気づいていないような癖など。これでは俺の求める究極のマネットライムは作れない」


 過去を思い出し、感情が高ぶっているのか、彼の声音が高くなった。


「俺は更に研究に研究を重ね、とある理論を導き出した。脳にある記憶を司る海馬から直接記憶を引き出し、マネットライムの核に情報をインプットさせれば、記憶を元にして本人に近い動きができるのではないかと」


 彼の説明を聞き、俺は顎の下に親指を置いて考える。


 俺たちの前に現れたマネットライムは、簡単には見分けがつかないほど精巧に姿を変えていた。


 結果が出ている以上は、彼の考えた理論通りにことが運んだということになる。


 だけど、その手段がわからない。


 いったいどのようにすれば、マネットライムが海馬から記憶を共有させることができる。


 方法を考えていると、レックスは己が経験した苦労を他者に伝えたいのか、勝手に語ってくれた。


「俺はこれができるようにマネットライムの身体を弄った。身体の一部を蚊の針と同じ構造に変化できるようにした。これにより、八十ミクロンサイズの針で肉体を刺して神経に侵入。そして脳に移動すると、記憶を司る海馬から、記憶を己の核にインプットさせるようにしたのだ」


 彼の話を聞き、原理はわかった。


 けれどひとつだけ腑に落ちないことがある。


 おそらく、あのとき作動させてしまった睡眠ガスを吸って眠ったところを襲い、先ほどの理論で俺たちの記憶をコピーさせられたのだと思う。


 けれど、神経に侵入するということは、その行為自体が刺激となって、目覚める可能性のほうが高い。


 しかし、俺たちはそれに気づくことなく眠り続けた。


 このことについては予想がつく。


 記憶を共有させてもらう方法として、蚊の針の構造を再現したと言っていた。


 蚊の針は一本に見えて、本当は六本の針が筒の中に収められている。


 ストロー状の針と二本のノコギリ状の針を使い、皮膚を切り裂いて血管に侵入させ、吸引時に血が漏れないようにするために、二本の針で蓋をして、残りの一本からかゆみ成分を含む、血を固まらせないようにするための液体を放出させている。


 これらを使い、蚊は生き物から気づかれないようにして血を吸う。


 おそらくマネットライムも三本の針を使い神経に侵入。


 そして海馬から記憶を引き出す前に目を覚まさせないように、一時的に神経を麻痺させる液体を注ぎ、意図的に障がいを発生させて感覚麻痺を引き起こした。


 その間に海馬から記憶のコピーを行い、その情報を核に送っていたのだろう。


 だけど俺の懸念はこれではない。


 あれだけのマネットライムが俺たちの姿になっていた。


 相当の数に記憶を共有されたことになる。


 しかし、複数のマネットライムが一度に記憶を読み込もうとすれば、脳がオーバーワークを起こし、最悪の場合は死んでいても可笑しくはない。


 けれど俺たちは生きている。


 この結果から考えるに、おそらく一人につき一体しか記憶を共有することができないと判断できる。


 この矛盾はいったいどうやって説明ができるのだろうか。


 いくら考えても答えが導き出せない俺は、思い切ってレックスに聞いてみることにする。


「今の説明であらかたの原理や、どうやってマネットライムが俺たちの記憶を手に入れたのは理解できた。一人につき一体のマネットライムしか記憶を共有できない。それなのに、どうしてあれだけの数が俺たちの姿を真似することができる」


「ほう、さすが神々の恩恵(ギフト)を手にしている男だけあって、理解できるとは称賛に値する」


「神々の恩恵?」


「デーヴィット!あの男の話を真に受けるんじゃないよ」


 彼の言葉の意味がよく分かっていないでいると、ライリーがレックスの話を無視するように言ってきた。


「何だ。知識の本(ノウレッジブックス)を所有しているから、てっきりこちら側の人間だと思っていたのだが、違うのか?」


知識の本(ノウレッジブックス)のことを知っているのか!」


 彼の言葉に驚き、俺は目を見開く。


「何だ?何も知らないのに、その本を持っていたのか?」


 意外そうな口ぶりをすると、レックスはポケットから長方形の物体を取り出す。


「それってスマホじゃない!」


 突然エミの声が聞こえ、観客席のほうをみる。


 壁の形をしたスライムの中央に埋め込まれていたエミが、目を覚ましたようだ。


 正直忘れていたが、まだ彼女たちを救出してはいなかった。


「エミ、あの物体を知っているのか」


「あれは遠くにいる人と話すことができる端末よ。その他にも写真を撮ったり、動画を撮影したりできるわ」


「動画?」


 聞きなれない言葉を聞き、俺は首を傾げる。


「このようにな」


 スマホと呼ばれた物体をレックスが操作すると、小さい画面に俺とエミが映し出され、動いて声を出していた。


 周りの風景はドンレミの街だ。


 そしてエミに見せながら知識の本(ノウレッジブックス)の話を俺がしている。


「これが動画と言うものだ。レンズを通して周囲の光景を映像として保存することによって、いつでも閲覧できるようになる。これはリピートバードに撮影させたときのものだ」


 とても不思議なものだ。


 きっと魔道具と呼ばれるものなのだろう。


「この映像を見て俺は思った。異世界の知識が記された本を持ち、それが読める。貴様も俺と同じく神々からこちらの世界に送られた人間なのだと」


「えー!どういうことなの!あの男も私の世界から送られた転移者なの!」


 彼の言葉を聞き、エミが驚きの声を上げる。


「いかにも。俺は元々この世界とは違う世界で生を受け、流星群の日に裏山にある展望台で願いごとをした。すると意識を失い、気がつくと神と出会いっていた。そして俺はこの世界に転移させられた」


「あたしと同じじゃない!もしかして五十年前に起きた都市伝説って、あいつのことなの!」


「そうか。あっちの世界ではまだ五十年しか経っていないのだな。こちらの世界とでは時間の進みが違うようだ」


 レックスは感慨深い表情をしていた。


 話の話題が次々と変わって行っているが、今までの話を纏めると、目の前にいるレックスは元々エミのいた世界と同じ世界からやってきた。


 しかし魔王になっているということは、こちらの世界で一度死に、そして精霊となったが、精霊として二度目の死を迎え、魔物として三回目の生を得たということになる。


 そして彼はスマホというものを使い、俺たちを撮影していた。


 そのときに移った知識の本(ノウレッジブックス)を見て、レックスは俺が同じ境遇の人間だと判断したようだ。


 しかしエミのときにも話したが、俺はこの世界で生まれ、そして育ってきた。


 だが、この世界での生まれである俺が異世界の本を読めるのは、普通に考えれば可笑しいことだ。


 もしかしたらこの謎を解く鍵を、あの男は握っているかもしれない。


「悪いが、俺はこの世界で生まれた。だけど知識の本(ノウレッジブックス)に書かれてある内容を俺はなぜか読める。あの本はいったい何だ!俺はどうして読むことができる!」


「ほう、それは興味深いことだな。おそらく知識の本(ノウレッジブックス)と呼ばれるものは、これと同じものであろう」


 レックスが手を翳すと一本の杖が現れる。


「それ、あたしの選定の杖!」


 赤い石が嵌められている杖を目撃した瞬間、エミが声を上げる。


 彼の持っている杖は、エミが盗賊から奪われ、イアソンが献上したもの。


「これは選定の杖と呼ばれるらしい。使用者の魔力を増幅させ、魔法の威力を高める。しかしこのようなチートなアイテムはこの世界には存在しない」


「魔道具なのではないのか」


 レックスはこの世界には存在しないといった。


 詳しく解明されておらず、構造が不明なものは、魔道具と呼ばれている。


 だが、俺の言葉を否定するように黒髪の男は首を横に振る。


「魔道具とは、異世界からの転移者が転移したさいに持っていた所持品のことを差す。この世界では作れないテクノロジーを屈指して作られた道具こそが、魔道具と呼ばれておる」


 魔道具は、エミやレックスのような異世界からの来た人物が持っていたもの。


 それが何らかの理由で手放し、世界各地に散っていった。


 魔道具の真実を聞かされ、俺は唾を飲み込む。


「それにこの選定の杖は、俺のいた世界には存在していない。よって二つの世界に存在していない以上は、神の恩恵(ギフト)としか考えられない」


「そんなことはどうでもいいわよ。それより早くあたしの選定の杖を返してよ!」


「うるさい女だ。そんなに欲しいのであればくれてやろう」


 レックスが再び手を翳すと、別の杖がこの場に現れる。


 鉄製の棒の先端にはハサミが取りつけてある。


 彼は変わった形の杖を握ると、エミの近くに放り投げた。


 投げられた杖は彼女の目の前に落ち、金属が落ちたときの音が響く。


「くれてやったぞ。これで満足であろう」


「ありがとう。これで満足……するわけないでしょう!ふざけているの!あたしが欲しいのは選定の杖よ」


「だから剪定の杖をくれてやったのではないか」


「あたしが欲しいのは剪定(せんてい)の杖じゃなくて選定(せんてい)の杖よ!あなたが今握っているほうの!」


「くれてやったのに文句ばかり言うとは。しばらくは向こうでも見ていろ!」


 レックスが指を鳴らす。


 その瞬間エミを埋め込んでいたスライムが反転し、彼女の下半身が俺たちに向けられる。


 どうやらあのスライムの壁は薄かったようだ。


「フハハハハ、エロ同人のようで滑稽ではないか」


「あなただけは絶対に殺す!」


「それ以上喚くというのであれば、もっと酷いことをするぞ。スライムで処女を失いたくなければ黙っておくのだな」


 彼の言葉が効いたのか、エミは一言も喋らなくなった。


 アリスが気を失っていてくれてよかった。


 そしてタマモがここにいないことにホッとする。


 もし彼女がこの場にいたのなら、契約している精霊であるドライアドが、何を言ってくるのか分かったものではない。


「話を戻すとするか。貴様の持つ知識の本(ノウレッジブックス)に書かれてある文章は日本語であるが、本に使われてある素材が違う。日本で使われてある紙では年月が経つにつれ劣化していくが、その本は新品同様の綺麗さを保っている。つまり、魔道具ではない。とするならば、あの本も神により得た恩恵(ギフト)としか考えられぬ」


 確かに、あの本を手に入れて数年の時が経っている。


 けれど、いくら年月が経とうとも本が傷むようなことはなかった。


 不思議な本だとは思っていたが、人の手に余るような代物だとは思わなかった。


 どのような経緯でライリーはあの本を手に入れたのだろうか。


 前にも聞いたことがあったが、そのときははぐらかされた。


 ライリーに視線を向ける。


 彼女と目が合ったが、すぐに逸らされた。


 おそらく問い詰めたところで答えてはくれないだろう。


 気になってしまうが、彼女のほうから話してくれる時が訪れるのを待つしかない。


 思いもよらない情報を得た。


 まさかこんなところで知識の本(ノウレッジブックス)の正体を知ることができるとは思わなかった。


「さて、雑談はこの辺にしておこうか。どうして俺がわざわざ時間を割いてまでこんな話をしたと思うかわかるか?」


「ただの親切心なわけがないよな」


「当たり前であろう。これはここまでたどり着いた貴様への、褒美という名の冥土の土産をくれてやるために語ったのだからな。ウエポンカーニバル!」


 レックスが両手を広げて叫んだ瞬間、空中に複数の武器が出現した。


 今日も最後まで読んでいただきありがとうございます。


 誤字脱字や文章的に可笑しな箇所などがありましたら、教えていただけると助かります。


 ブックマーク登録をしてくださったかたありがとうございます!


 お陰で百二十ポイントまで、あと一人となりました!


 少しでも多くの人に気に入ってもらえるように、今後も頑張っていきます!


 明日も投稿予定なので、楽しみにしていただけたら幸いです。

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