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第十九章 第八話 レイラと余ちゃん、それぞれの想い

 今回の話はレイラが中心となっています。


 そのため、三人称で書かせてもらっています。


 今回のワード解説


 推力……プロペラなどの推進器によってうしろ向きに加速された流体 (空気または水) によって生じる力,あるいはロケットエンジンなどで噴流の反作用として生じる力。 噴流としては通常の推進剤の燃焼ガスのほかにイオン,プラズマなども用いられる。

「余の偽者よ。邪魔をするのではない」


「そういう訳にはいかないのだよね。私の目的はあなただもの。しつこいと言われても、つきまとうわ。あなたを殺すためにね。ファイヤーボール」


 レイラに向けて火球が放たれる。


「ミニチュアファイヤーボール」


 飛んでくる火の球と同等の大きさの炎をレイラは生み出し、応戦する。


 二つの火球は相殺し、この場から消え去った。


 どうにかして目の前の余ちゃんを倒し、捉えられている三人を救出しなければならない。


「本当に救出に向かってもいいの?もしかしたらマネットライムが化けているかもしれないわよ」


 心を惑わし、隙をつくろうとしたのだろう。


 余ちゃんは可能性のひとつを提示してきた。


 その可能性はゼロではない。


 しかし、それはないとレイラは確信している。


 なにせ、彼女には精霊の姿が見える。


 アリスは精霊と契約していないために偽者の可能性は否定できないが、カレンとエミにはそれぞれの契約している精霊が傍にいるのだ。


 そしてあの精霊たちもマネットライムが化けている可能性はゼロ。


 もしレイラを惑わすために変身していたとしても、マネットライムは透明になることができない。


 そのため精霊が見えないライリーやデーヴィットからしたら不自然すぎる。


 あの二人が気づくはずだ。


 なので、少なくとも三人の内二人は本者だと断言できる。


「その程度の言葉で余が動揺するとでも思っているのか。少なくとも、あの中の二人は本人だと確信しておる」


「そうなんだ。なら、救出される前にあなたを殺さないといけないね」


 余ちゃんの声が弾む。


 まるでこの戦いを楽しんでいるかのようだ。


 レイラはチラリと周囲を見た。


 ライリーとデーヴィットが奮闘してくれているが、数の暴力により苦戦を強いられている。


 デスフェニックスの形を象ったファイヤーアローであれば、広範囲の敵を一掃できるかもしれない。


 だが、最悪の場合は戦っている二人や捉えられている三人に危害が及ぶことにもなりかねない。


 考えごとをしていると、目の前に火球が飛んできたことに気づく。


 触れる寸前のところでレイラは跳躍し、空中で一回転をして地面に着地する。


 アクロバティックな動きをしたせいで、後ろに流していた髪が前にきており、彼女は両手で払って長い赤髪を背中に持っていく。


「あーもう!あともう少しだったのに」


 寸前で躱されたことが悔しかったのか、余ちゃんは頬を膨らませながらレイラを睨む。


「チマチマした攻撃をしても当たらないか。なら、思い切って範囲魔法を使っちゃおうかな!デスフェニックス」


 余ちゃんが笑顔で右手を上げる。


 その瞬間空中に炎が生まれ、鳥の形を象った。


「いっけえ!」


 声を上げながら、余ちゃんは上げた右手を前に出す。


 彼女の手の動きに連動し、鳥の形をした炎はレイラに向って翼を羽ばたかせながら迫ってきた。


 放たれた彼女の魔法は、味方であるはずのマネットライムを巻き込む。


 炎に身を焼かれたスライムは、一度原形を留めることができずにドロドロとなり、核が剥き出しの状態となっていた。


 スライム系の魔物は、核を破壊しなければ完全に倒すことができない。


 そのことを知っているからこその大胆な攻撃をしたのだろう。


 火の鳥がレイラに迫り来る。


 彼女は炎が触れる寸前で身を屈めて回避すると、通り過ぎた炎は石畳の壁にぶつかり周辺を燃やす。


「外しちゃったかぁ…………あれ?」


 余ちゃんが周囲を見ながら首を傾げる。


 立ち上がると、レイラも彼女の見ている方向に視線を向ける。


 ガラスが割れたときのような音が聞こえたかと思うと、剥き出しになっていたスライムの核が割れて再生できなくなっていた。


 どうやら余ちゃんが生み出したデスフェニックスの熱量に、スライムの核が耐えきれずに砕けたようだ。


「敵を倒さずに味方を倒すとは笑わせてくれる」


「こんなはずじゃなかったのに!どうして皆避けないのよ!」


 再び余ちゃんが頬を膨らませると一度地面を踏みつける。


「レイラ!ファイヤーアローを放ってくれ。俺たちは必ず避ける。この状況を切り抜けるには君の力が必要だ」


 今の光景をデーヴィットは見ていたのだろう。


 彼は火の形を象った炎を放つようにレイラに要求した。


 愛する人からの頼みごと。


 ここで願いを叶えなければ女が廃る。


「わかった。余はデーヴィットを信じる。ファイヤーアロー」


 レイラが魔法を発動すると空中に炎が出現し、鳥の形を象る。


「いけ!」


 合図を送ると鳥の形をした炎は、仲間の姿をしたマネットライムたちを焼き払う。


 余っちゃんのときと同様に、炎に焼かれたマネットライムの核は、熱量に耐えることができずに割れていった。


「よくも仲間を!デスボール」


 自分の姿をした余っちゃんが右手を上げると、空中に直径六メートルほどの火球が出現。


 レイラに向って行くが、彼女はデスボール並のファイヤーボールを生み出して対抗する。


 巨大な火球がお互いを相殺する中、発生した衝撃波が熱風となって周囲に飛び散る。


 身体中から熱を感じ、額から汗が流れた。


「お互い攻撃を相殺し合うのも飽きてきた頃ではないのか」


「そうね。そろそろ動きが欲しいわよ」


「では、そろそろ決着をつけるとしよう」


 この勝負は戦う前から勝敗が決していた。


 いくら魔王の姿をしていても、元々の魔力量に差がありすぎる。


 最初から備わっている潜在能力に違いがある段階で、どんなに頑張ろうと彼女には勝てない。


 レイラが本気を出せば、余ちゃんは一瞬で殺されていただろう。


 しかし本気を出せるような環境ではなかったために、力を抑えていた。


「わたしは勝つ!あなたを殺し、私が本者になる!ファイヤーアロー」


 余ちゃんは十本の炎で作られた矢を空中に出現させる。


 質で勝負しても相殺される。


 ならば、数で攻めて逃げ場をなくすようにすれば、攻撃を当てることができると判断したのだろう。


「行け!」


 十本の炎の矢を余ちゃんは同時に放つ。


 それぞれの矢は弧を描いてレイラに降り注ぐが、彼女は後方に跳躍して回避。


「避けられることは想定済みよ!」


 攻撃が躱された瞬間、余ちゃんは炎の矢を操作し、地面に接触する前に上空にもっていくと、レイラに追撃をしかけようとする。


「この瞬間を待っておった。ファイヤージェット」


 レイラが両手を後方に持っていくと、手の平から炎を出した。


 すると、外部から取り入れた空気を圧縮させ、熱エネルギーを生み出す。


 その熱エネルギーを利用して爆発的に膨張した高速の空気を後方に向けて噴射し、その反作用によって得た推力を使い、一気に余ちゃんとの距離を詰める。


 彼女の移動速度に追い付けない余ちゃんは目を大きく見開いた。


 次にレイラの姿を視認したときには既に目の前におり、回避行動に移るには手遅れの状態であった。


「これで終わりだ。余の偽者よ。歯を食い縛るがよい!」


 レイラは右腕を引き、拳を作ると彼女の顔面に叩き込む。


 推力を利用した攻撃は、加速速度による衝撃力が増し、余ちゃんの身体は吹き飛ばされて壁に激突した。


 彼女が衝突した際、壁に蜘蛛の巣状のヒビが入り、余ちゃんが倒れると同時に壁が崩れた。


 余ちゃんの身体は下半身を岩に押し潰され、身動きが取れない状態だ。


「勝負あったな」


 決着がついたと判断したレイラが彼女に近づく。


「くそう。岩が挟まっているせいで脱出ができない」


 岩で下半身が押し潰されたというのに、余ちゃんはまだまだ元気そうだ。


 いくらレイラの姿をしていても、元はマネットライム。


 肉体がジェル状であるために、衝撃が吸収されてダメージが半減してしまったのだろう。


「トドメを差す前に、ひとつ聞いておきたいことがある。どうして余に執着しておるのだ。戦闘中にも言っておったが、余になり替わりたいと言っておったな」


「そうよ。私があなたを殺せば、この世界にレイラはいなくなる。そして私が本者となり、レックス様と婚約するのよ」


 自分を殺そうとした理由が、レックスと婚約するため。


 あまりにもくだらない理由に、レイラは飽きれた。


 余ちゃんは青い瞳の目でレイラを睨みつつも、続きを語る。


「あの人はレイラに振られ、そのショックから私を生み出した。けれど、いくらレックス様から教えられた情報を元にレイラの真似をしても、あの方は否定ばかり。本物のレイラはそのようなことはしない。そんな言動はしないと、いつも言われ続けられた」


 彼女の言葉を聞き、レイラは拳を握り締める。


 あの男は己の寂しさを紛らわせるために、レイラの姿ができるマネットライムを生み出した。


 けれど自分の思い通りにならず、苛立ちを彼女にぶつけていたのだ。


 身勝手にもほどがある。


「どうしてそこまでしてやつの言いなりになる。生みの親であるからか?」


 レイラの問いに余ちゃんは首を横に振る。


「あの人は魔王だけど、心はとても弱い人なの。誰かが側にいて彼を支えてあげなければならない。そう思った私は、この感情の正体に気づいた。ああ、私は彼のことが好きなんだ。だからキツイことを言われても、耐えて彼の理想となる人物を目指すことができる」


 彼女の言葉がレイラの心に突き刺さる。


 余ちゃんの気持ちはとても分かる。


 なにせ自分もデーヴィットに恋をし、彼の支えになれるような女になりたいとも思っているのだから。


「そして運がいいことに、今日私の前に本者が現れた。本人からの記憶を読み取り、得た情報をもとに行動したらあなたそっくりに行動することができた。デーヴィットには気づかれてしまったけれど、カレンには私がレイラだと誤認させることに成功した。少なくとも、私はレイラになることができた。あとは本者を殺すだけだったのに……」


 負けたことが悔しかったのだろう。


 彼女の目からは涙のような液体が流れている。


「いくら記憶を読み取っても、元々から備わっている魔力量が違う。努力次第で魔力量を上げることはできるが、魔王とスライムでは階級に違いがありすぎる。こんな言い方をするのは嫌なのだが、勝負は戦う前から既に決まっていたのだ」


「そうね。私はレックス様の努力により生み出されたマネットライム改二。見た目も声も本人になることができる能力に(おご)ってしまっていた。まさか基本的なことを忘れるなんて」


「最後に言い残すことはあるか」


「レックス様は心が弱く、とても寂しがりやなの。そのことを分かってあげて。殺さないでとは言わない。けれど、彼の気持ちも分かってほしいの」


 余ちゃんは祈るように両手を組む。


「ならばその役割は余ではない。デーヴィットが最もふさわしいであろう」


「え!」


「彼の言葉には重くのしかかるものがる。本気の言葉だからこそ、心に震えるのだ。きっとデーヴィットがあの男の目を覚まさせてくれるであろう。だから安心して眠るがよい。再び人として転生し、想いを馳せる人物と結ばれることを祈っておる。ミニチュアファイヤーランス」


 レイラが右手を上げ、槍の形をした炎を空中に一本出現させる。


 そして右手を振り下ろすと同時に、炎の槍は余ちゃんの心臓にめがけて落下。


 背中を射抜かれて心臓部にある核が破壊されたようだ。


 その証拠として、彼女はレイラの原形を留めることができずにジェル状の身体に戻り、動かなくなる。


「残りの余の仕事は、数を減らしつつあるマネットライムの殲滅である。ファイヤーアロー」


 余ちゃんを倒したレイラは、鳥の形をした炎を生み出し、残りのマネットライムを倒していく。


 今日も最後まで読んでいただきありがとうございます。


 誤字脱字や文章的に可笑しな箇所などがありましたら、教えていただけると助かります。


 評価をしてくださったかた、ありがとうございます!


 久しぶりの高評価だったので、嬉しさと驚き、そして不安が入り混じった心境ですが、評価してくださったかたに本当に感謝をしております。


 高い評価をしてもらったからには、その評価に見合うような文章や表現力を身につけれるように、今後も努力をしていきます。


 そして、毎日読んでくださっているあなたにも、心からありがとうと言わせてください。


 あなたが毎日読んでくださっているお陰で、私のモチベーションを維持することができ、一日一話を書ききるという課題を毎日こなすことができています。


 これもあなたのおかげです。本当にありがとうございます。


 明日も投稿予定なので、楽しみにしていただけたら幸いです。

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