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第十九章 第六話 デーヴィット危機一髪

 今回のワード解説


 読む必要がない人は飛ばして本文のほうを呼んでください。


 本文を読んで、これって何だったかな?と思ったときにでも確認していただければと思っています。


海馬……大脳辺縁系の一部である、海馬体の一部。特徴的な層構造を持ち、脳の記憶や空間学習能力に関わる脳の器官。


可溶性……物質が液体中にとけこむことのできる性質。


幹細胞……分裂して自分と同じ細胞を作る能力(自己複製能)と、別の種類の細胞に分化する能力を持ち、際限なく増殖できる細胞と定義されている。


凝固蛋白……タンパク質が固まったもの?


凝血塊……血液の塊のことである。


血管壁……単層の内皮細胞からなっている。この血管壁の細胞間隙を通して、血液中と組織で、酸素と二酸化炭素の受け渡しや、栄養素の供給と老廃物の回収など物質交換を行っている。


血漿……血液 に含まれる液体成分の一つで、血液55%をしめる。血液を試験管にとって遠心沈殿すると、下の方に赤い塊りができ、上澄は淡黄色の液体になる。


血小板……血液に含まれる細胞成分の一種である。血栓の形成に中心的な役割を果たし、血管壁が損傷した時に集合してその傷口をふさぎ(血小板凝集) 、止血する作用を持つ。


交感神経……交感作用を媒介する神経という意味で、副交感神経とともに自律神経系を構成し,脊髄から出ておもに平滑筋や腺細胞を支配する遠心性神経のこと。


骨髄……骨皮質の内側で骨梁と骨梁に囲まれた部位にある組織で,成人では約1600~3700 gの生体内最大の臓器であり,血球成分に富み赤く見える赤色髄と脂肪組織が大部分を占める黄色髄とに分けられる。


コラーゲン……皮膚や腱・軟骨などを構成する繊維状のたんぱく質で、人体のたんぱく質全体の約30%を占める。ゼラチンの原料としても知られる。人の皮膚・血管・じん帯・腱・軟骨などの組織を構成する繊維状のたんぱく質です。人間の場合、体内に存在するすべてのたんぱく質の約30%を占めており、そのうちの40%は皮膚に、20%は骨や軟骨に存在し、血管や内臓など全身の組織にも広く分布しています。コラーゲンを構成するアミノ酸の生成にはビタミンCが必要なため、ビタミンCが不足するとコラーゲンの合成が出来なくなり、壊血病を引き起こします。またビタミンAもコラーゲンの再構築に関わっています。


線維芽細胞……結合組織を構成する細胞の1つ。コラーゲン・エラスチン・ヒアルロン酸といった真皮の成分を作り出す。細胞小器官が豊富であり、核小体が明瞭な楕円形の核を有し、細胞質は塩基好性を示す。


セロトニン……生理活性アミンの一。生体内でトリプトファンから合成され,脳・脾臓・胃腸・血清中に多く含まれる。脳の神経伝達などに作用するとともに,精神を安定させる作用もある。


単核球……白血球の一種で、最も大きなタイプの白血球である。マクロファージや、樹状細胞に分化することができる。


トロンビン……血液の凝固に関わる酵素セリンプロテアーゼの一種。


トロンボプラスチン……血液凝固に関与する因子の一つで,リポタンパク質。カルシウム-イオンの存在下でプロトロンビンをトロンビンに変える。


貪食作用……体内の細胞が不必要なものを取り込み、消化し、分解する作用である。


フィブリン……血液凝固に関連するタンパク質のフィブリノゲンが分解され活性化したものである。


フィブリノゲン……血液凝固の最終段階で網状の不溶性物質フィブリンとなり、血球や血小板が集まってできた塊(血栓)のすき間を埋めて、血液成分がそこから漏れ出ないようにしている。 このため、フィブリノゲンが低下すると血液が固まりにくくなり、止血されにくくなる(出血傾向)。


不溶性……液体に溶解しない性質。


プロトビン……血漿中に含まれるタンパク質の一種。体組織が破壊された際などに「トロンビン」へ変化し、血液凝固を起こす機能を持つ。


マクロファージ……白血球の1種。生体内をアメーバ様運動する遊走性 の食細胞で、死んだ細胞やその破片、体内に生じた変性物質や侵入した細菌などの異物を捕食して消化し、清掃屋の役割を果たす 。


立毛筋……毛を皮膚の表面に垂直に立てて、いわゆる鳥肌をつくる筋で、交感神経の支配を受ける。

 レイラの偽者である余ちゃんを退けた俺は、本者のレイラと一緒に、逸れた仲間たちを探すために通路を歩いている。


 レイラが目を覚ました場所から、俺が眠っていた場所までのルートを教えてもらいながら、彼女が通った道を避けて歩くことにした。


 通路は入り組んでおり、まるで迷路の中に迷い込んだかのようだ。


 余ちゃんとの一件以来、これから見つかるであろう仲間と合流できたとしても、簡単には信じることができない。


 もしかしたらマネットライムが化けている可能性もある。


 仲間を疑うなんてことはしたくはなかったが、すぐに信用するわけにはいかない。


 二人で狭い通路を歩いていると、視界の先に長い黒髪で褐色の肌の女性が奥に進んでいるのが見えた。


 あの後ろ姿はライリーだ。


 今すぐにでも声をかけたい気持ちを抑え、俺たちはゆっくりと彼女に近づく。


 彼女が曲がり角を曲がり、俺たちも同じルートを進もうとしたときだ。


 角を曲がった瞬間、ライリーと思われる人物が待ち伏せをしていた。


 彼女は鞘から剣を抜くと、刃先を俺の喉元に触れそうなところまで突く。


 喉元に剣を突きつけられたことにより、俺の鼓動は激しく高鳴った。


「何だ。デーヴィットじゃないか。驚かせないでくれ」


 ライリーと同じ姿の女性は、俺を認識すると笑みを浮かべる。


 俺のことを本物だと思ってくれている。


 そう思い、ホッとしたのも束の間だった。


 彼女は視線を鋭くし、厳しい目つきで俺を見た。


「なんて言うと思ったのかよ。さっきから仲間の偽者たちと戦わされてイライラしているんだ。本者である証を見せなければ、このまま喉を突いて風穴を開けてやる」


「止めるのだ。ライリー!この男は本者のデーヴィットだぞ」


 背後にいたレイラが、ライリーの恰好をしている人物に剣を引くように言う。


「レイラか。あいつの偽者にはまだ合ってはいないが、それで信じるほどあたいはバカではないよ。仮に本者だとしても、あんたがこいつに騙されている可能性もある。証明できなければ、このまま剣先で突かせてもらう」


 危機的状況にある中、俺は思考を巡らせる。


 彼女が本物であるかどうかは、今の状態では判別することができない。


 だからと言って、何もしなければ偽者だと判断されて殺される。


 だけど俺が本物だと証明できるものは何なのだろうか。


 証明できそうな物と言えば、知識の本(ノウレッジブックス)ぐらいだが、最近はカレンの持つアイテムボックスの中に入れてある。


 そのため、今は手元にはない。


 他の方法で考えなければ。


「わかった。なら今から質量を抑えたファイヤーボールを生み出す。これで証明しよう」


 魔法で自身が本物だということを証明すると言った瞬間、顎に痛みが走った。


 ライリーと思われる女性は剣先を動かし、俺の顎を掠めた。


 鋭い刃が顎の皮膚と血管を切り、血がポタポタと落ちる。


「そんなつまらないことをするなら、今度は首を刎ねるよ。今までのあんたも同じ手を使ってきた。だけど全員がマネットライムだったさ。生きたければ他の方法を考えな」


「ライリー!こやつは本者のデーヴィットである。殺してしまっては後悔することになる」


「レイラは黙っていな!今はこいつの尋問が先さ。あたいは言葉では信用できない。ここのダンジョンに入って目が覚めて、たくさんの偽者と出会ってあたいは変わっちまった。用心深くなってしまった。次で最後だ。次であたいを信じ込ませなければ、その首を貰いうける」


『どうにかあなたが本物だということを証明してください。彼女は本者です。隣に知られざる生命の精霊がいますので』


 頭の中に、ウンディーネの声が響く。


 目の前にいるライリーは本人だということを、ウンディーネが教えてくれた。


 おそらく、彼女は信じたいからこそ本気で疑っている。


 ならば、ライリーの覚悟に俺も応えなければならない。


 考えろ、俺に残されているものの中で、ライリーを信じさせることができるものとはいったい何なのかを。


 記憶を司る脳の海馬に刻まれている、これまでの経験の中から役に立ちそうな情報を引き出す。


 だが、どの記憶も彼女を信じ込ませるには力不足だろう。


 だけど諦めるわけにはいかない。


 ここで俺が諦めてしまっては、すべてが終わってしまう。


 必死になって考えていると、王都オルレアンの城でカレンたちを招いた際に話した記憶が蘇る。


 これなら、ワンチャンいけるかもしれない。


 だけど失敗すれば、確実にライリーから殺されることになるだろう。


 しかし、これしか方法が思いつかない以上は、これに賭けるしかない。


「わかった。なら今から証明する。だけど剣を衝かれたままだと動くことができない。少しでいい。離れてくれないか」


「わかったよ。だけど剣の間合いには入っていてもらう」


「それだけで十分だ」


 彼女に礼をいい、ライリーが距離を少しだけ開けると、俺は背後を向く。


 俺は鼓動が激しくなるのを感じる。


 何せ、この行動は俺の中で一生の黒歴史になり、海馬に刻まれた記憶は保存され、何かきっかけがある度に思い出すことになる。


 だが、命と引き換えにできるのであれば安いものだ。


 これをネタに、ライリーからは今後からかわれることになるかもしれないが。


 俺は色々なことに対して覚悟を決め、腰に手を置く。


 そして一気にズボンとトランクスを下ろした。


 そして俺はライリーに尻を見せる。


「これが俺だと言える最大の証明だ。俺の尻には線を引けばハート型になるホクロが六つある」


 自分で言いながら恥ずかしさを覚える。


 身体中が熱くなっており、きっと顔は真赤になっているだろう。


 しばらくの間、静寂が訪れる。


 もしかしたら一、二秒ほどしかなかったのかもしれない。


 だけど俺には何十分にも感じられた。


「ぷっアハハ、アハハハハハなんだよそれ。意外過ぎてツボに嵌ってしまったじゃないか。」


「デーヴィットの綺麗な尻を、この目に焼きつけなければ」


 ライリーが笑い出し、レイラが可笑しなこと言ったことで沈黙が破られた。


 俺はすぐにトランクスとズボンを履き直し、ライリーを見る。


「どうだこれで俺が本物だと分かってくれたか」


 顔に熱を感じたままライリーに尋ねる。


「笑いすぎてお腹が痛い。アハハ、ちょっ、ちょとだけ……待ってくれないかい?」


 両手でお腹を抑えながら、ライリーは身を屈めて苦しそうにしている。


 いくら何でも笑いすぎではないのか。


 彼女が落ち着くのを待ち、ライリーの判断に身を任せる。


「あ、あんたは間違いなく本者だよ。その尻のホクロは見間違いようがない。それに隙だらけのあたいを殺そうとしなかった。仲間たる証拠だ」


 一か八かの賭けであったが、どうにかライリーに信じてもらうことができた。


「とりあえず斬ってケガをさせちまった部分を治すとしようじゃないか。(まじな)いを用いて我が契約せし知られざる生命の精霊に命じる。その力の一部を我に貸し、言霊により我の発するものを実現せよ。ブラッドプリュース」


 破れた血管を修復しようと、血小板が塊になって血管壁に付着。


 次に凝集した血小板からセロトニンが放出され、血管の収縮を助けて血流が低下すると同時に、血小板や破れた組織からトロンボプラスチンが放出され、血漿(けっしょう)の中にある凝固蛋白(ぎょうこたんぱく)やカルシウムと作用して、血漿中のプロトロビンをトロンビンに変換。


 さらにトロンビンが可溶性のフィブリノゲンを、不溶性のフィブリンに変換され、フィブリンは細長い線維状の分子で集まって網目構成をつくる。


 そこに赤血球が絡まるようにして凝血塊が生まれ、血管の傷を塞ぐ。


 そして血管から抜け出した単核球が貪食作用でマクロファージになると、さらに色々な化学物質を放出し、それが刺激になると線維芽細胞が呼び出されコラーゲンを作る。


 その後、線維芽細胞、毛細血管がコラーゲンを足場とし、この三者が欠損部を埋め、創面をくっつけて真皮に近い丈夫な組織を作り出した。


 そして骨髄から作り出された幹細胞が赤血球、血小板に分化し、最終的に成熟したものが血液中に放出され、失った血液を補う。


 ブラッドプリュースには、失った血液を補充する魔法であるが、その過程で新たな皮膚を作り出す効果も発揮される。


 そのためライリーは軽傷な治療をブラッドプリュース、臓器の損傷と言った重症ではネイチャーヒーリングと使い分けている。


「ありがとう。助かった」


「なぁに、あたいがつけた傷なんだ。自分の尻ぬぐいぐらい自分でするさ」


 ライリーが尻という単語を口にした瞬間、海馬から記憶を引き出すように脳が指令を出したようで、数秒前のできごとを思い出す。


「なぁ、まさかわざと言っていないか」


「それは勘ぐりというものさ。あたいはただ、自分の後始末ぐらいは自分ですべきだと思って言ったにすぎない」


 本当なのだろうか。


 ライリーの性格を考えると半信半疑になってしまう。


「まぁ、そんな細かいところは気にしないで先に進もうじゃないか。他の皆も心配だ。あたいのように仲間を信じられなくなっているかもしれない」


 彼女の言葉に俺は考える。


 確かにさっきまでのライリーのような状態になっていても可笑しくはない。


 もし、本物のカレンたちと合流できた場合、また本人確認をさせられる可能性も出てくる。


 そのときは魔法以外で証明しなければならない。


 だけど先ほどと同じ手は使えない。


 さっきは冷静さを欠いていたからあのような行動に出てしまった。


 けれど、ライリーだったから笑いで済まされた。


 しかし、同じような手段をカレンやエミに使ってしまった場合、逆上して俺は彼女たちの攻撃を受けることになり得る。


 いくら回復魔法が使えるライリーがいても、自分から進んでやりたくはない。


「もし、同じような展開になったときは頼んだよ。一発かましてやりな」


 俺の肩を叩きながら、ライリーは白い歯を見せてニヤっと笑うと親指を上げた。


「絶対にやらないからな!」


 思わず叫んでしまう。


 通路を歩き続けていると、広いフロアに出る。


 中央には螺旋階段があり、地下二階に通じているようだ。


 フロアの奥にも通路が続いている。


「先に進むか、螺旋階段を降りて更に下の階にいくかであるが、どうするのだ?」


 レイラに問われ、俺は考えながら螺旋階段の下にある階層を覗き込む。


 階段の下にはゾンビに鎧武者、それにソードファントムといった魔物が複数体いた。


 階段を降りれば間違いなく戦闘になる。


 普通に考えれば、最下層に魔王いるはず。


 カレンたちと合流していない以上は、先に進むよりも周辺を調べて捜索するほうがいい。


「いや、取敢えずはこの階層を調べてからにしよう。先に進むのはそれからだ」


 螺旋階段を通り過ぎ、俺は奥の通路を歩く。


 通路の先には光が漏れていた。


 あの奥には、おそらく広い空間のフロアになっている。


 もしかしたら逸れた誰かがいるかもしれない。


 そう思いつつ、ゆっくりと歩いていると、いきなり背筋が凍るような感覚に陥る。


「デーヴィット、先に下の階に降りていたほうがよかったんじゃないのかい?」


 ライリーも同じものを感じ取ったのか、手が震えていた。


『この先からとてつもない魔力を感じます。引き返すのであれば今しかありません』


 ウンディーネがこの先に強敵がいることを告げる。


 緊張と興奮、それにストレスからか、交感神経が乱れたようで、脳が緊張状態となり、反射的に立毛筋が逆立ち、ひとつひとつの毛穴が収縮して周囲の皮膚が盛り上がってしまったようだ。


 俺の腕は鳥肌が立っていた。


「おそらく、皆で協力しないと倒せれないかもしれない。ここは一旦引いてカレンたちと合流すべきだ」


 弱気になりながら、俺は振り返る。


 その瞬間自身の目を疑ってしまった。


 俺たちの背後の通路がなくなり壁になっていたのだ。


「これはどういうことなんだい?」


「わからない。だけど魔王は俺たちを逃がさないようだ」


 目の前の壁を触ってみる。


 とても固く、頑丈そうな壁だ。


 突然出現した壁の原因はわからないが、退路が断たれた以上は先に進むしかない。


「こうなっては仕方がない。俺たちだけで魔王と戦おう」


 緊張で鼓動が激しくなるなか、俺は通路を抜けると明るい空間に出た。


「待っていたぞ、デーヴィット。今日この日をもってお前との決着をつける」


 今日も最後まで読んでいただきありがとうございます。


 誤字脱字や文章的に可笑しな箇所などがありましたら、教えていただけると助かります。


 明日も投稿予定なので、楽しみにしていただけたら幸いです。

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