第十八章 第四話 手配書
バザー会場の出入り口を目指していると、数人のグループが視界に入る。
距離があったので、カレンたちである確証はなかったが、そのグループの中にフードを被った背が小さい人物が混ざっていたので、可能性は高かった。
更に近づくとグループの中に、金髪のミディアムヘアーの女の子や、前髪を作らない黒い長髪の女性、薄い水色の髪が肩まであるセミロングの女の子、それに長い金髪に先の尖った耳を持つエルフの女性がいることがわかり、間違いなくカレンたちであることを認識した。
「あ、デーヴィットやっと来た。もうみんな集まっているわよ」
「時間厳守ですよ。時間を指定した人が遅れてどうするのですか」
カレンとタマモが遅れた俺たちを注意する。
遅れたと言ってもニ、三分程度だ。
それぐらいは許容範囲であってもいいと思うのだが。
「すまない。待ち合わせ場所から離れた場所にいたから、戻ってくるまで少し時間がかかった」
シビアすぎると思ったが、遅れてしまったことには変わらない。
俺は腑に落ちないが彼女たちに謝る。
「皆見よ!デーヴィットにプレゼントしてもらったのだ。いいであろう」
買ってあげたネックレスを見せびらかそうとして、レイラは胸を張る。
「レイラお姉ちゃん綺麗なのです」
「へぇー小さいけど一応宝石も使われているんだ」
アリスはレイラを褒め、カレンが興味深そうにネックレスを見る。
そんな中、エミが俺に向けて手を差し伸ばしてきた。
「その手は何だ?」
「まだあたしには何も買ってもらっていないじゃない。当然何か買ってきているのでしょう」
「いや、エミには何も買っていないよ。何が欲しいとか具体的には言っていなかったし」
エミには何も用意していないことを告げると、彼女は頬を膨らませる。
「まぁ、今回は貸しにしておくわよ。何か欲しいものがあったときにはお願いするから」
「わかった。そのときは遠慮しないで言ってくれ。買ってあげられる範囲でなら、少しぐらいなら高価なものでもいいから」
欲しいものが見つかったときは買ってあげると彼女に口約束をすると、エミは急に溜息を吐く。
「優しいのはいいことだけど、そろそろ特定の誰かを決めないと、その内皆愛想を尽かしてしまうかもしれないわよ」
彼女の言葉の意味があまり分からず、俺は首を傾げる。
皆頑張っているのだから、それなりの対価を支払うべきだと思っている。
だから皆に欲しい物があるときは、買ってあげるようにしているのだ。
皆平等に扱わなければ不公平さが目立って、逆に女性陣が不満を募らせると思うのだが。
「不公平が目立ってしまったら、皆の士気をなくすことになるじゃないか」
「あたしはそっちの意味で言ったわけじゃないわよ。本当にその辺に関してはバカよね」
エミが口にしたバカという言葉が、俺の胸に突き刺さる。
確かに俺はバカだ。
バカだから少しでもマシになれるように、日頃から知識の本を読んで勉強をしている。
しかし、彼女の言葉は悪意のようなものは感じなくとも、心にくるものがあった。
「とりあえず昼飯にしないかい?あたしは腹が減っちまったよ」
ライリーがお腹を抑えながら、昼食にするように提案をしてきた。
その瞬間、タイミングよく彼女のお腹が空腹を知らせる音色を奏でる。
「アハハ。ほら、あたいの腹も早く食べさせろと言っている」
豪快に笑い、ライリーは恥かし気もなく平然とする。
夢を見すぎなのかもしれないが、女性なら少しぐらいは恥かしそうにしてほしい。
バザー会場を出て、昼食をどこで取ろうか話していると、黒い甲冑を来た男性がビラのような紙を通行人に配っているのが見えた。
気になった俺は男性のほうに向かい、彼から配布物を受け取る。
「どうぞ、この顔にピンときたらガリア国までご連絡ください」
もらった紙に視線を向けると、女性陣たちが俺の所に集まり、覗き込む。
受け取ったビラは手配書だった。
紙には伯爵邸を燃やした犯人三人組と書かれてあり、名前には俺とエミとカレンの名前が記入されてあった。
しかし、手配書を見た瞬間笑いが込み上げ、つい吹き出してしまう。
「ちょ、ちょっとこれ……ぷぷっ。いったい何?エミの人相が男になっているじゃない」
「そ、そういうカレンも……ご、ごっついオッサンになっているわよ。いったい……誰のイメージなのよ」
カレンとエミが手配書を見るなり、俺と一緒に笑い出した。
「デーヴィットよ。お主、いつからこんな可愛らしい女になったのだ」
「し、知るかよ。くくっ。伯爵の差し金だろうけど……これは変化球すぎるだろう」
俺たちは手配書を配っていた男が近くにいることを忘れ、腹筋が痛くなるまで笑い声を上げる。
あのとき、伯爵が逃げる前にエミが認識阻害の魔法をかけた。
その効果により、正確な情報を脳が引き出すことができずに、手配書を作成する際にデタラメになってしまったようだ。
あのあと、伯爵がどれだけの労力を使ったのかはわからないが、無意味に終わったことになる。
手配書をしまい、俺たちは適当な店に入って昼食を取ることにした。
注文した昼食を食べながら、聞き込みで得た情報を共有する。
「エトナ火山は、危険レベルは一番低いとのことだ。だから今日中にでもこの町を出ようと思っている」
「私は温泉について聞き込みをしたのだけど、明確な場所はわからなかったわ。魔物がたくさんいるっていう、どうでもいい情報なら腐るほど聞かされたけど」
「あたしもカレンと同じ感じだったわ。温泉の情報はほぼゼロね」
「ワタクシも温泉をメインで聞きましたが、有力な情報はなかったです。ただ、温泉があるのは確実だと言っていました」
カレン、エミ、タマモが聞いてきたのは温泉のことばかりだった。
それほど彼女たちは温泉を求めているのだろう。
まぁ、エルフの里を発ってからは、お湯に浸かる機会はなかったからな。
「あたいも温泉のことを聞いたら、妙な爺さんが温泉に入ったことがあるっていっていた」
「え!それは本当なのライリー!」
ライリーが温泉に入ったことのあるご老人の話をすると、カレンが食いつき、声音を強める。
「あ、ああ。だけどあの爺さん妙なことを言っていてさぁ、温泉に行きたければサルに認められろと」
「サルって動物のサルですよね?」
「だと思うのだけどねぇ」
彼女たちは温泉の話で賑わいをみせる。
「なぁ、皆?当初の目的を忘れていないよな?」
「忘れていないわよ。温泉のついでにセプテム大陸の魔王を倒すのでしょう」
カレンが答えるが、メインが温泉にすり替わっている。
皆は温泉を求めている。
この大陸を支配する魔王を倒す前に、温泉を見つけ出す必要があるだろう。
士気が上がらないうちに魔王戦に挑んでも、勝ち目は薄い。
俺は顎に手を置き、先ほどライリーが言った言葉を考える。
サルに認められること、それは本当に動物を差しているのだろうか。
昼食を食べ終わると、俺たちはエトナ火山に向かうことにする。
町を出る前にロザリーの家により、彼女とおばあさんに別れを告げた。
「いやだー!行かないでよアリスちゃん。ずっとこの町にいて!」
ロザリーは泣き出し、アリスにこの町にいるように無茶振りを言い出す。
「こらこら、わがままを言うのではないよロザリー。泣いて別れたらアリスちゃんが困るでしょう」
「でも、でも。せっかくできた友達なのに、もうお別れしないといけないなんて」
おばあさんがロザリーを説得しようとするが、彼女は泣き止もうとはしない。
「ごめんなさいなのです。わたしも寂しいけど、行かないといけないのです。でも、必ずこの町に遊びに来るのです。そのときはまた一緒に遊びましょうなのです」
「本当?」
「はいなのです」
アリスはこの町に遊びに来ることをロザリーと約束する。
再開することをロザリーに言うと、彼女はようやく泣き止んでくれた。
「わかった。でも、約束だよ。また遊ぼうね」
何とか納得してくれた様子の彼女を見て、俺はおばあさんに視線を向ける。
「お世話になりました」
「それはこちらのセリフです。ロザリーに洋服を買ってもらっただけではなく。食材まで買ってもらって。今度この町に来たときがぜひ立ち寄ってくだされ」
「アリスが約束をしているのでまた来ます。それではお元気で」
二人に別れの挨拶をすると、俺は踵を返してエトナ火山側の出入口に向けて歩き出す。
俺の隣を元気にアリスが歩くが、町を出た瞬間に歩幅が小さくなり、そしてその場に立ち止まった。
「アリスどうした?」
足を止めた彼女に気づき、振り返ると俺は言葉を失う。
アリスは泣いていた。
声に出すことはなくとも涙を流している。
彼女も辛かったのだ。
今までは年上である俺たちとばかり行動をしていた。
同年代の友達との少ない時間は、彼女にとってもかけがいのないものになっていたのだろう。
「アリス。君さえ良ければ引き返してもいいんだよ。これから向かう場所は本当に危険なんだ」
「だ、大丈夫なのです。ちゃんと別れを済ませたのに戻ったら、格好悪いのです」
アリスは目から流れる涙を両手で拭い、むりに笑顔を作る。
「よし、ならさっさと魔王を倒してフロレンティアの町に戻ってこよう。そしてロザリーと一緒に皆で遊ぼう」
「わっ」
俺はアリスの身体を持ちあげると肩に乗せ、肩車をする。
そしてバランスを崩さない程度の速度で走った。
少しでもアリスが元気になれるように。
今日も最後まで読んでいただきありがとうございます。
誤字脱字や文章的に可笑しな箇所などがありましたら、教えていただけると助かります。
今日で四ヶ月連続投稿の実績を解除しました!
これも毎日読んでくださっているあなたのお陰です!
次は百五十日連続投稿を目指していきます。
明日も投稿予定なので、楽しみにしていただけたら幸いです。




