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第十八章 第三話 一宿一飯のお礼と情報収集

 今回のワード解説


 読む必要がない人は飛ばして本文のほうを呼んでください。


 本文を読んで、これって何だったかな?と思ったときにでも確認していただければと思っています。


クラシカルストレート……女性の髪形の一種。王道のモテ髪型の定番のストレートロング。

ふわっとパーマを当てたほうが垢ぬけるような気もするが、あえてストレートを押し通すことで新鮮で清楚な感じがとっても好印象の髪型である。


視床下部……間脳に位置し、自立機能の調節を行う総合中枢である。体温調整、摂食行動、睡眠・覚醒、ストレス応答、生殖行動など非情に多岐にわたる行動調節をしている。


ドアインザフェイス……最初に非現実的な大きい要求をして、相手に断られた後に、要求のハードルを下げて承諾させるテクニックを意味します。


満腹中枢……脳の視床下部にあって摂食行動を調整する中枢神経。 満腹中枢は、血液に含まれる血糖値の上昇に刺激されることにより、食欲を抑制する指令を出す。 この指令が大脳に伝わることにより、満腹感が生じ、食べ過ぎを防ぐことができる。

 翌日、目が覚めると俺が使っている部屋には、タマモもレイラもいなかった。


 昨夜のできごとは夢だったのだろうか。


 そう思い、俺は上体を起こすとズキズキとした痛みが顔面に感じられる。


 この痛みは、寝相が悪くて痛めたものではない。


 だとすると、昨日の夜に起きたできごとは現実だ。


 俺は痛みを我慢しながらベッドを降り、扉を開ける。


「おはようございますなのです。デーヴィットお兄ちゃん」


「おはようございます」


 廊下に出ると、白いセミロングの髪に色白の肌を持つ少女と、黒い長髪の花柄ワンピースを着た少女が挨拶をしてくる。


「アリス、ロザリー、おはよう」


「どうしたのですか?頬っぺたを抑えて。もしかして虫歯なのです?」


 頬を抑えていたのが気になったのか、アリスは尋ねてきた。


「いや、何でもない。気にしないでくれ」


 俺はアリスたちと一緒に階段を降りる。


 昨夜変な物音がしたなど、彼女たちが話題に出さないところを見ると気づいてはいないようだ。


 単純に深い眠りについて、目を覚まさなかっただけかもしれないが。


 一階に降りるとタマモがロザリーのおばあさんの手伝いをしているようで、テーブルを拭いている姿が視界に入る。


「タマモ、おはよう」


「おはようございます」


 挨拶を返してくれたが、彼女は俺と目を合わせてくれない。


「なぁ、昨夜のことだけど」


「すみません。今忙しいので話しかけないでもらえますか」


 掃除を理由に、彼女は話しかけるなと言ってくる。


 目線をテーブルに向けたまま、俺のほうを見ようともしない。


 どうやら怒らせてしまったらしい。


 ドライアドの一件のせいで、関係に亀裂が生じつつあるようだ。


『あらあら、嫌われちゃったのかな。あはは』


 脳内にドライアドの声が響く。


 タマモが近くにいるから、俺に声を届けることができるのだろう。


『昨夜は残念だったなぁ。あともう少しで、君のアレを食べることができたのに。本当にレイラったら空気が読めないのだから』


 脳内に響く声を無視し、俺はどうしたものかと考える。


『今夜もチャンスがあったら、あの娘の身体で夜這いに行くからね。だから影でこっそりと抜かないように』


 嫌がらせのつもりなのだろうか。


 ドライアドは周囲には聞こえないことをいいことに、好き放題俺に言葉を浴びせる。


『いい加減にしないか。契約主が困っているだろう』


『そうですよ、ドライアド。なぜあなたがエルフのお嬢さんの身体を自由にできたのかはわからないですが、これ以上彼に迷惑をかけるような行為は止めてください』


 対策を考えていると、脳内ドライアド以外の声が響く。


 この声はノームとウンディーネのものだ。


『チビのおっさんとおばさんは黙ってくれる。これはワタシと彼のお話なのだから』


『お、おばっ!ドライアド、あなたのような小娘には、けして彼が靡くことはないでしょう。時間のむだです。大人しくしていることをおすすめしますよ』


 少し強めの声音でウンディーネが言葉を口にする。


 俺の脳内では、額に青筋が浮き出たウンディーネの容姿が浮かび上がった。


 精霊にも女の戦いのようなものが存在するのだろうか。


『契約主、悪いがここから離れてくれないか?これ以上この場におれば、何を言いだすのか分かったものではない』


 ノームがこの場から離れることを提案し、俺は彼の意見を受け入れて二階に上がる。


『ごめんなさいね。彼が離れるから私もついて行かなければ』


『逃げるな!おばさん!』


 精霊の声が聞こえるようになったのは、ときには助かる。


 だが、さっきのようなことが起きれば精神的に酷く疲れる。


 早くこの問題をどうにかしなければ。


 一旦部屋に戻ろうとすると、女性陣が借りている部屋からレイラが出てきた。


「レイラ、おはよう」


「デーヴィット、おはようなのだ。昨夜はすまなかった。もう少し気づくのが早かったら、やつの暴走を止めることができたというのに」


「過ぎたことだ。気に病むな。でも、例の事件のせいでタマモが俺を避けているみたいでさ。目を合わせてくれない」


「そうか。一応タマモには説明をしたのであるが、さすがにすぐに納得するわけにはいかぬのであろう。余がサポートするゆえ、時間が解決してくれるのを待つしかあるまい」


「この大陸の魔王と戦わないといけないのに、不安材料がまたひとつ増えてしまったな」


 俺は肩を落とし、溜息を吐く。


「それで、今日の予定はどうするのだ?」


「タマモの道案内によるものだから、彼女次第のところもある。だけど、できれば今日にでも、この町を出発したい。宿屋は空いていないだろうし、この家にお世話になる訳にはいかないからな」


「わかった。では余のほうからタマモに話を聞いておくとしよう」


 レイラが俺の横を通り、一階に降りる。


 顔を洗っていなかったことを思い出し、俺はもう一度一階に降りると玄関から外に出る。


 家の横には井戸があり、生活用水の水はこの井戸から汲まれている。


 井戸の前には、薄い水色の毛先の跳ねたセミロングの女の子がおり、汲んだ水を掬って顔を洗っていた。


「あ、デーヴィットおはよう」


 彼女は俺に気づくと朝の挨拶をする。


「おはようエミ」


「待っていてね。すぐに変わるから」


 桶の中にある水を捨て、エミは俺に場所を譲ってくれた。


 井戸の前に立ち、中を見る。


 水路が深い部分にあるのか、覗いても暗闇しか見えない。


「ここの井戸って深いみたいね。水は透き通っているから綺麗なのはわかるけど、少し不気味だわ。ねぇ、デーヴィット。一回井戸の中に入ってみてよ」


 エミが笑顔で無茶振りを言ってくる。


「いや、むりだって。底が深いんだから、命綱なしで降りたら上がって来られなくなる」


「あはは、冗談よ冗談。言ってみただけ。もし、本当に飛び降りたらドン引きだから……でも気にはなるのよね。ゲームだと井戸の中には宝物があるケースもあるから」


 意味が理解できないことを、エミはポツリと漏らす。


 俺は紐で繋がれた桶を井戸の中に落とし、水面に当たった音が聞こえたタイミングで紐を引っ張る。


 ズシリとした重さを感じながら紐を引っ張り、桶を取り出す。


 水面に映る自分の顔を見ると、どこか疲れているように見えた。


 まぁ、昨夜から先ほどまで色々とあったのだ。


 このような表情になってしまうのもむりはない。


 桶の中にある水を両手で掬い、顔を洗う。


 顔面の汚れを取るのと同時に、俺は顔を引き締める。


 とにかく今はドライアドのことは考えないようにしよう。


 昼間であれば変な声かけはあっても、夜のようなことはしないはずだ。


 顔を洗い終わり、家の中に入る。


 朝食の準備ができているようで、テーブルの上には人数分のおむすびが置かれていた。


 テーブルに置かれてあるおむすびは白色ではなく、黄色がかった淡い色をしている。


 このおむすびには、白米ではなくきびが使われているみたいだ。


 椅子に座り、全員が揃っていただきますと言い、俺はきびのおむすびをひとつ手にとって一口食べる。


 きびのおむすびは固く、歯ごたえがあった。


 三十回以上咀嚼し、ようやく飲み込む。


 きびを食べたのは初めてだったが、こんなにも何度も噛む必要があるとは思わなかった。


 おむすびをひとつ食べる終える頃には顎が痛い。


 それだけ普段の食事がよく嚙まないで飲み込んでいた証拠だったのだろう。


 きびのおむすびをひとつだけしか食べていないのに、俺はお腹が満たされていた。


 噛むことにより、脳の視床下部にある満腹中枢が刺激され、食欲が抑えられた結果だ。


 少ない量でお腹が満足するので、余計なカロリーを取ることなくダイエット効果を得られる。


 朝食をごちそうになると、俺は一度借りている部屋に戻り、リュックを持って一階に降りた。


 そしてリュックのジッパーを開けて、中に入っている瓶から一万ギル札を取り出すと、ロザリーのおばあさんの手に握らせる。


「気持ち程度ですが受け取ってください。泊めていただいた宿代です」


 俺が渡した紙幣をおばあさんが見ると、彼女は首を横に振る。


「いただけません。泊めたのはロザリーを助けていただいたお礼です。お金をいただくわけには」


 謝礼を渡すも、おばあさんは頑なに受け取ろうとしない。


 彼女はロザリーを頑固だと言っていたが、おばあさんもそうとう頑固者と言える。


「わかりました。現金がダメでしたら、このお金を使って食料や調味料を送らせてもらいます。それなら構いませんよね」


「そ、それは……うーむ」


 提案内容を変えると、ロザリーのおばあさんは腕を組んで悩む素振りを見せる。


「わかりました。なら、お言葉に甘えてそうさせてもらいましょう。ですが本当に宜しいのですか?」


「ええ、あなたには本当に感謝しております。ぜひお礼をさせてください」


 二つ目の案が通ったことに俺は安堵した。


 おばあさんが現金を受け取らないことは何となく分かっていた。


 だけど何かお礼をしないと俺の気が済まない。


 そこで心理学を使った方法を試した。


 ドア・イン・ザ・フェイス・テクニックというもので、最初にむりだと分かっていることを追求し、そのあとに本来のお願いことをするものだ。


 最初に断ってしまった分、相手は申し訳ない気持ちになり、難易度を下げたことで、それならやってあげてもいいかなと思わせるように働きかける。


 どうにかお礼を受け取ってもらえるように話を持っていくと、俺は皆と外に出かけることにした。


 朝の早い時間帯ではあったが、食料品を扱うお店などは既に開店しており、食材を見て回る。


「これは鮮度のいいトマトですね。スターマークがはっきりしています。カレンさんちょっと持っていてくださいます?」


 タマモは籠に入っているトマトをひとつずつ手に取ると、あらゆる角度から観察し、鮮度のいい食材を選んでカレンに渡していく。


 父親の教育の賜物だろう。


 良妻賢母を目指す者として、力を発揮していた。


 俺に食材を渡さないところを見ると、まだ許してはくれていないようだ。


 タマモが食材を選び、俺以外に持たせる。


 購入する物を選び終える頃には、女性陣だけが食材を持ち、俺は会計役となった。


 このお店は配達もしてくれるとのことだったので、追加料金を払い、お世話になったロザリーの家に届けてもらうようにお願いする。


 お礼の品を選んでいる間に、他のお店も開店する時間帯になっていた。


 この町に立ち寄った目的である、エトナ火山の状態の話をまだ聞いてはいない。


 聞き込みついでに他の店も見て回ることにした。


 今日まではまだバザーが開かれているようで、俺たちはもう一度会場に足を運んだ。


「それじゃあ今日はエトナ火山の情報を集めよう。それぞれ分散して聞き込みをするように。お昼の時間に出入口に集合しよう」


「わかったわ」


「了解したのだ」


「はいなのです」


 今から情報収集に入ることと告げると、全員が蜘蛛の子を散らすようにそれぞれ離れていく。


 俺は適当な店に入り、旅に必要そうな物品を購入するついでにおばちゃん店主に話しかけ、エトナ火山について話を聞いてみる。


「エトナ火山ねぇ、確か危険レベルは一だったはずよ。噴火するような兆しもなかったわ。あ、でもこれはあくまで火山に対してだからね。あそこには強い魔物がたくさん生息しているから、観光気分でいくのなら止めたほうがいいわよ」


「そうですか。ご忠告ありがとうございます」


 情報を提供してくれたおばちゃん店主にお礼をいい、ここのブースを出る。


 今ならエトナ火山に近づくことはできそうだ。


 最初の考えどおり、危険レベルが上がらないうちに今日中にでもこの町から出よう。


 歩いていると、クラシカルストレートの赤い髪の女性が視界に入ったので、俺は彼女について行く。


 彼女は人に話しかけることなく、店内に展示されてある商品を手にとってまじまじと見ていた。


 どんなものを見ているのか気になった俺は近づき、背後から声をかける。


「レイラ、いったい何を見ているんだ?」


「デ、デーヴィット!驚かせるではない。心臓が止まるかと思ったぞ」


 背後から声をかけた瞬間、レイラは身体をビクンとさせてこちらを見る。


「ごめん、ごめん。驚かせるつもりはなかった。それで何を見ていたんだ?」


 彼女が手に持っているものに視線を向ける。


「ネックレス?」


「そうである。昨日歩いていたときも気になっていたのだ」


 レイラが持っているネックレスは銀のチェーンにリングが通されており、その中央にはかなり小さいサファイアが取りつけてある。


 そういえば、レイラには何も買ってあげていない。


「レイラ、ちょっと貸してくれないか」


「別によいが」


 商品を受け取り、俺は値札を確認する。


 ちょっとした贈り物にしては、お手頃価格だった。


「少しだけ待っていてくれ」


 ここにいてもらうようにお願いした俺は、レジに向かうと購入を済ませる。


 そしてレイラのところに戻ると、彼女にネックレスの入った包装紙を渡す。


「はい。俺からのプレゼントだ」


 購入した品を彼女に渡すと、レイラは頬を朱色に染める。


「本当に貰ってもよいのか!」


「レイラには今までの冒険で助けてもらっているし、そのお礼だ」


「今から身に着けてもよいか?」


「それはレイラの自由だ。したいようにするがいいさ」


 好きにするように告げると、レイラは笑顔で包装紙を開け、中に入っているネックレスを取り出して首にかける。


「どうであるか?余の魅力がさらに上がっているであろう?」


 似合っているかと問われ、俺は彼女を見る。


 赤い髪に黒いドレスの中に、サファイアのネックレスが加わったことにより、彼女の外見が彩を見せた。


 肌に触れた銀のチェーンの先にある、サファイアつきのリングは胸元付近にあり、宝石に視線を向けると、つい彼女の胸を凝視しそうになる。


 見方を変えれば、エロスを感じさせる。


「ふふ、言葉に出ないほどの魅力が溢れているのだな。まぁ、むりもない。余に似合わぬアクセサリーなどこの世にはないからな」


 どんな感じで褒めるかを考えていると、無言でいることに対して、彼女はいいように解釈をしだした。


 まぁ、あながち間違ってはいないから否定はしないが。


 彼女が似合わないアクセサリーはないと言ったので、俺は頭の中でスカルリングを身に着けているレイラを想像してみる。


 確かにあっち系の装飾も彼女なら使いこなせそうだ。


 次にどこで聞き込みをしようかと考えていると、お昼を知らせる鐘の音が聞こえた。


「もう時間みたいだな。もしかしたら皆集まっているかもしれないし、一旦待ち合わせの場所に戻ろうか」


「そうであるな。皆にあったらこれを自慢してやるのだ」


 嬉しそうに笑顔を見せるレイラと一緒に歩き、約束の場所に向って行く。


 今日も最後まで読んでいただきありがとうございます。


 誤字脱字や文章的に可笑しな箇所などがありましたら、教えていただけると助かります。


 明日も投稿予定なので、楽しみにしていただけたら幸いです。

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