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第十八章 第一話 ロザリーの家

「宿が取れなかったのです?」


「アリスちゃん仕方がないわよ。満室なのだから」


「今日も野宿かぁ。久しぶりにお風呂に入れると思ったのに」


 カレンは肩を落とし、がっかりとしている。


「それじゃあ、野営地を探しに一旦町の外に出ようじゃないか。暗くなる前にテントを張る必要があるからね」


「ロザリー、アリスと遊んでくれるのなら、明日の朝に宿屋の前にいてくれ。俺たちも行くから。それじゃあね。おばあさんによろしく」


 ロザリーに別れを告げ、町の外に向かう。


「待って!」


 背後から声をかけられ、振り返る。


「どうした?」


「あ、あのう。お、お礼!泊まるところがないのなら、助けてくれたお礼に私の家に泊まってよ!」


「やった!ありがとうなのです!」


 ロザリーの言葉に、純水なアリスはすぐにお礼を言うが、現実問題はそう簡単にはいかない。


「気持ちは嬉しいが、おばあさんの許可がないとダメだ。たぶんむりだと言うんじゃないのかな?」


 いくら助けたと言っても、俺たちは赤の他人だ。


 知らない人をそうやすやすと家に泊めるのは、難しいのではないだろうか。


「大丈夫、おばあちゃんは凄く優しいから。私が説得してみせるよ」


 ロザリーの言葉に、俺は女性陣たちと顔を見合わせる。


「ここは彼女に任せてみましょうよ。むりなら、そのときは野宿をすればいいことだし」


 カレンの意見に反対する者はいないようで、誰も異を唱える人はいなかった。


「わかった。それじゃあ頼めるかな?ロザリー」


「任せてください」


 彼女の行為に甘え、頼んでもらうだけお願いをした。


 ロザリーが歩く方向は、町の中でも端に位置する場所で、一軒家がぽつぽつある程度だ。


 どの家もボロボロで、隙間風が入って来そうな印象をもつ。


 彼女はその中でも大きい家に向かう。


 あの家は二階建てほどの大きさがあり、他の家と比べるとマシな印象だった。


 ロザリーが扉を開け中に入る。


 玄関から中の様子を窺うと、玄関とリビング兼台所が一緒になっているようで、広めの空間だった。


 中央には円形のテーブルと椅子が二脚置かれており、壁沿いには棚がひとつ置かれている。


 窯の前にはロザリーの祖母と思われる女性が立っており、鍋を掻き混ぜていた。


「おばあちゃんただいま!」


 ロザリーは背後から祖母に抱き着くと、帰宅したことを彼女に告げる。


「おや、ロザリー帰ってきたのね。もうすぐ夕飯だからね」


「あのね、おばあちゃんにお願いがあるの」


「お願い?」


 ロザリーが俺たちに指を向けると、おばあさんはこちらを見る。


「ロザリーのお客さんかい?」


「うん。あのね。私が困っているところを助けてくれたの。でね、宿屋さんがいっぱいで泊まれないから、泊めてあげたいのだけど」


「そうだったのかい」


 ロザリーを見たのち、おばあさんはもう一度俺たちのほうを見る。


「これは孫がお世話になりました。こんな汚いところで良ければぜひ泊まってくだされ」


「ありがとうございます」


 おばあさんにお礼を言い、俺たちは家の中に入る。


「人数分の椅子を用意しますので少々お待ちください。いたた」


 窯の火を消して、ロザリーのおばあさんが椅子を取りに向おうと足を踏み出した瞬間、彼女は腰を抑える。


「おばあちゃんは椅子に座っていて。私が持ってくるから」


「でも重いよ」


「おばあちゃんは腰を痛めたのだから安静にすること」


 有無を言わせない強い表情でロザリーが見つめると、おばあさんは小さく息を吐く。


「はぁー、こういう頑固なところは息子にそっくりだね。ありがとう。それじぁあお言葉に甘えようかね」


 腰を痛めたおばあさんを椅子に座らせると、ロザリーは家の奥に向っていく。


 一脚ずつ椅子を運んでいるが、小さな体ではまともに運ぶのも難しい。


 彼女はよろよろとしながら椅子を持ってくる。


「アリスも手伝うのです」


 一生懸命に頑張るロザリーを見て、アリスが彼女をサポートしようと反対側を持ち、一緒になって椅子を運ぶ。


「俺も手伝うよ」


 せっかく泊めてもらえるのだ。


 最低限の手伝いぐらいはするべき。


 俺は来客用の椅子が置かれてある場所を教えてもらい、二人と協力して人数分の椅子を持ってくる。


 途中から仲間の誰かが手伝ってくれるのではないかと思ったが、そのようなことはなかった。


 力仕事は男の役目といったところなのだろう。


 全員の椅子を用意して俺たちは座る。


「それでは、夕飯をよそおいましょうか」


「あ、待ってください」


「ここはワタクシたちに任せてはくれないでしょうか?」


 カレンとタマモが立ち上がる。


「いえいえ、お客様にそんなことをされるわけにはいきませんので」


「お身体に触ります。ここはワタクシたちにお任せを!」


 先ほどのロザリーのように、タマモは身体を大事にすることを強く主張した。


 彼女の言葉を聞き、おばあさんは俯くと小さく息を吐く。


「わかりました。ご迷惑をおかけします」


 俺たちの世話になるのが申し訳ないと思ったのだろう。


 けれど最終的には納得してもらえた。


 おばあさんから食器の場所を教えてもらい、二人が鍋の中に入っていたものを器によそうと、俺たちの前に置く。


 木で作られた器には、具の少ないスープが入っていた。


 そして、このスープの量はアンバランスである。


 家主とその孫であるロザリーには具が多めに入っており、成長期であるアリスがその次に具が入っている。


 俺の分は具が少ないが、スープは多めであり、残りの女性たちはスープの量は少なめだ。


 これはおそらく、タマモの采配によるものなのだろう。


 彼女はフォックスさんから良妻賢母になるように育てられた。


 その教育から、どうするのがいいのかが分かっている。


 もちろん俺はこの分配に文句はない。


 寧ろちゃんと考えて分けてくれたことに感謝した。


「私は少なくて構いません。こっちのほうはお客様がたが食べてください」


 遠慮をしているのか、おばあさんは具の多い器を俺のほうに置く。


 さすがに泊めてもらっているのに、具の多いほうを食べるのはあまりにも図々しい。


「これはおばあさんが食べてください。しっかり栄養を取らないと、明日も元気で生活ができませんよ」


 俺は具の入っている器をロザリーのおばあさんに返す。


「なあに、老い先短い命です。いまさら栄養を取っても」


「おばあちゃん!」


 祖母の言葉を聞き、ロザリーは声を上げた。


「そんなことを言わないでください。ロザリーはまだ小さいです。これからもあなたのことを頼りにしないといけないのですから」


 俺は少し悲しげな口調でおばあさんに言う。


「おばあちゃん、私が大人になってお嫁さんになるまで生きていてよ」


 ロザリーが目を潤ませながらおばあさんを見る。


「わかりました。確かにこの子の親代わりは私しかおりません。お客様を気遣うつもりが、逆に気遣われてしまうとは」


 全員が椅子に座り、夕食が始まった。


 スープは、野菜の味が染みついていたが、どちらかというと薄い。


 もしかしたら調味料が使われていないのかもしれない。


「あのう、大変失礼だということは十分承知ですが、調味料のほうは使われてはいないのですよね」


「貧乏人の料理で申し訳ありません。年金暮らしなので、毎月入るお金は少ないのです。どうにか野菜を買うことはできますが、調味料などを買う余裕がないもので。この周辺の家を見ましたでしょう。私の家は、ロザリーの父親が仕送りをしてくれているので、なんとかやってこられていますが、他の家の人はその日を生きるのでやっとの状態です」


「でも、この町の中央は賑やかだったじゃない。バザーも開かれているし、ここに来るまでは、こんな暮らしをしている人がいるなんて、思いもしなかったわよ」


 おばあさんの話を静かに聞いていたカレンが、途中から話に割り込んできた。


「町の中央に住んでいる人たちは、しっかり働き、それなりに税を納めている人たちです。働くことができずに、年金のみで生活をする人は、この日当たりの悪い、安い土地で生活をしているのですよ」


 おばあさんが口を閉じると、この場に静寂が訪れる。


 しんみりとした空気が場を支配し、言葉をかけ辛くなる。


「しんみりさせて申し訳ない。お客様には関係のない話でしたな」


「いえ、大変勉強になりました。この地域の情勢が、何となくでも分かったような気がしたので」


 静まり返った空気を変えようとしてくれたのだろう。


 おばあさんが再び口を開いてくれた。


「ごちそう様。アリスちゃん、私の部屋で遊びましょう」


「はいなのです」


 野菜スープを飲み終えた二人が階段を上り、二階に上がっていく。


「今日はロザリーがお世話になりました。あの娘の母親は、ロザリーを生んだ日に亡くなられましてな。父親はガリア国の兵士になると言ってこの家を飛び出して行ったのです。幸い毎月仕送りが来ることから、生きておることがわかっていますが、本当のところは、いくら給料がよくとも、命をかけるような仕事はしてほしくはないのです」


 おばあさんがお礼を言うと、ロザリーの身の上話を始める。


 愚痴のように聞こえるが、本当はロザリーの父親のことを心配しているのが伝わってくる。


「お客様たちは旅のかたですかな?」


「はい、俺たちはエトナ火山に向かう途中で、このフロレンティアの町に立ち寄らせてもらいました」


「そうだったのですか。あそこは強い魔物がたくさんおると聞きます。どのような目的で向かうのかは聞きませんが、くれぐれもお気をつけください」


「ありがとうございます」


「そうです。エトナ火山にある森の平地には、温泉が湧き出ているところがあるそうです。美容にいい成分が入っているそうですが、機会があったらぜひ入ってきなされ」


「温泉!」


 温泉という言葉を聞き、カレンが立ち上がる。


「おばあさま、その場所は知っているのでしょか?」


 タマモが温泉の場所を尋ねると、おばあさんはゆっくり首を横に振る。


「申し訳ありません。詳細な場所は知らないのです。ただそんな話を聞いたことがあるだけですので」


 おばあさんの言葉を聞き、女性陣はがっかりとした態度を見せた。


「まぁ、運がよかったら見つかるって」


 何の根拠もなしに言うと、なぜか女性陣から睨まれた。


 今日も最後まで読んでいただきありがとうございます


 誤字脱字や文章的に可笑しな箇所などがありましたら、教えていただけると助かります。


 明日も投稿予定なので、楽しみにしていただけたら幸いです。

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