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第二章 第四話 精霊の消滅と自身のペナルティー

 今回のワード解説


 セオリー……、物事の因果関係や法則性を体系的かつ合理的に説明するための知識・思考・見解、という意味で用いられる言葉。


電荷……粒子や物体が帯びている電気の量であり、また電磁場から受ける作用の大きさを規定する物理量である。


電解質……溶媒中に溶解した際に、陽イオンと陰イオンに電離する物質のこと。


 隠れていた人物の姿が見えた。


 見た目三十代の男だ。


 この男には見覚えがある。


 確か酒場のカウンター席で、一人で飲んでいたあの男だ。


「さて、どうして俺のあとをつけていた」


 男に向けて理由を尋ねたが、カウンター席で飲んでいた男の姿を思い出す限り、思い当たるのはひとつしかない。


「くそう。見つかってしまったか。陰からこっそりと奪うはずだったが、姿を見られたのなら生かす訳にはいかない。恨むのであれば、感のいい己の頭のよさを恨むのだな」


 彼の発言を聞く限り、やはり男の狙いは俺の持つリュックのようだ。


 あれだけ椀飯振舞をしていたら、金のないやつから目をつけられて当たり前。


きっとまだリュックの中に金が隠されていると思ったのだろう。


 彼の予想は正解だ。


 まだ貯金の一部しか使っていない。


 だけどこれを奪われる訳にはいかないのだ。


 これがなければ路頭に迷ったも当然となる。


(のろ)いを用いて我が契約せしサラマンダーに命じる。その力の全てを使い果たすまで絞り出し、言霊により我の発するものを実現せよファイヤーアロー」


 男が精霊の力を使い、五本の炎の矢を出現させる。


 この男、(のろ)いで契約していやがる。


 このまま何もしないでいたら炎の矢で身体を貫かれ、全身が骨になるまで焼却されてしまう。


(まじな)いを用いて我が契約せしジャック・オー・ランタンに命じる。その力の一部を我に貸し、言霊により我の発するものを実現せよ。ファイヤーアロー」


 同じく炎の矢を五つ生成し、敵が放つタイミングでこちらも同じ行動に出る。


 計十本の矢はお互いに接触するが、相殺することなく俺のほうが力負けしてしまう。


 襲ってくる炎の矢は放物線を描き、そのまま落下してくる。


 後方に何度も跳躍し、五本の矢を全て回避すると、敵の炎は地面に接触した瞬間に消え去った。


「同じ炎使いか。だが、契約が(のろ)いと(まじな)いでは出力ではこちらが上だ!」


 獲物が苦戦をしている姿を見て気分をよくしたのだろう。


 男は高らかに声を上げる。


 確かに(のろ)いは精霊の意思を無視して、強制的に力の放出をさせ続けることが可能だ。


 効率がよく、高い威力を出せる反面、燃費が悪い。


 そのため、(のろ)いの術者は短期決戦を仕かける傾向にある。


 なら、(まじな)い側は長期戦にもち込むのがセオリーだ。


 だが、俺は相手の土俵に乗り、短期決戦を挑む。


 このまま何も考えないで力の行使を続けていたら、彼の契約している精霊は消滅してしまう。


「炎には水だ。(まじな)いを用いて我が契約せしウンディーネに命じる。その力の一部を我に貸し、言霊により我の発するものを実現せよ。ウォーターウイップ」


 ウンディーネに指示を出すと空気中の水分が集まり、伸縮自在の鞭を象る。


「行け!」


 勢いよく水の鞭を男に向けて放つと、彼は一瞬だけ驚いたような表情をみせた。


二重契約者(デュアル)かよ!いや、さっきの光も合わせれば三重契約者(トリプル)か!マジか。俺の炎じゃ対処できないぞ…………なんてなぁ。俺はどうやら運が良いようだ。(のろ)いを用いて我が契約せしヴォルトに命じる。その力の全てを使い果たすまで絞り出し、言霊により我の発するものを実現せよサンダースネーク」


 夜空に広がる雷雲から雷が発生した。


 そして蛇の形体を象り、ウォーターウイップに接触する。


 その瞬間雷を帯びた水の鞭は弾け、その水分は俺の衣服に付着した。


「さぁ、雷を受けて心肺停止になりやがれ!」


 周囲に水溜まりができる中、すぐに二回目の雷が落とされ、二度目の雷蛇が迫ってくる。


 こうなったらノームの力で防ぐしかない。


 そう思ったが、敵の攻撃は俺には向かわず地面にある水溜まりに向けられていた。


 いったいどうしてだ?


 予想外の進路に困惑しながらも敵の目的を探る。


 周囲を観察すると、地面に溜まっている水は俺の位置までつながっており、水溜まりを踏んでいたことに気づく。


 敵の狙いはこれだったのか!


 電気は水をよく通す。


 水を伝った電気を浴びせ、痺れさせようという魂胆だったのだ。


 やつの狙いが分かっても対処をする暇がなかった。


 もう、起きた現実を受け止めるしかない。


 雷蛇が水溜まりに接触すると電気が拡散される。


「ギャハハハ大成功。電気を浴びた以上、生きている可能性は低い。じゃあな、おまえの金は有難くいただいていく」


 男が近づく。


 しかし数歩歩いたところで、彼は歩行を止めた。


 そして信じられないものをみるかのような表情でこちらを見ている。


「どうして立っている! 雷撃を受けて、しかも水に濡れた状態だったんだぞ!」


 やつの妄想の中では電撃を受けた影響により、倒れていることになっていたのだろう。


 しかし、男の予想とは違い、俺は平気な顔で立っている。


「確かに水は電気をよく通す。だけど俺の生み出した水は純水だ」


「純水だと!それが何だって言うんだ! 水であることには変わらないだろう」


「お前みたいに、電気は水をよく通すと思っている人は多い。だが、純水のような水分子だけしかない状態だと、ほんの少ししか電気を通さない。電気を通すといった現象は電荷をもっている物質が移動することになる。なので、電荷を通す物体がない場合は電気を通すことはない」


 俺の説明に男は何を言っているのか理解していない様子だが、そんなことはお構いなしに語ることにする。


「水に溶けることによって電気を通すことになる物質は塩化ナトリウム、塩化銅、硫化銅、塩化水素などがあり、これらの物質が含まれた水溶液は電解質と呼ばれる。飲み水ではない生活用水には様々な物質が含まれているので、純水ではない水に電気が流れたことによる感電のイメージから、水は電気をよく通すと誤認されるようになった」


 電気を通す原理と、なぜ誤解が生まれたのかを話していると、体に痛みを覚える。


 流石に絶縁とまではいかないので、静電気に触れたような痛みは感じてしまうようだ。


「悪いな。確かに精霊の相性というものはどうしても存在する。だけど工夫次第ではその相性すら覆すことが可能になる場合もあるんだ。そしてまだ俺の攻撃は終わっていない」


 俺はリュックの中から瓶の中に入っている食塩を取り出し、足元にある水溜まりに流し込む。


 これにより塩素と水素が反応を起こし、塩化水素となると合図を出す。


 すると水溜まりは再び鞭の形を象り、男に向けて一直線に襲いかかかった。


「く、来るな! サンダースネーク」


 男は迫り来る水に対して必死で雷を落とし、相殺にもち込もうとする。


 しかし、水の鞭は弾かれることなく、逆に電流を吸収して威力を上げる。


 何度も呪文名を口にする男。


 だが、彼との距離が二メートル付近になったところで落雷はなくなり、現象は起きなくなった。


「サンダースネーク、サンダースネーク、サンダースネーク。クソッどうして何も起きない!」


 言霊どおりの魔法が発動しない。


 それはあの男と契約した精霊が生命力を使い果たし、消滅したことを差している。


 クソッ、間に合わなかった。


 電気を纏った水の鞭は、男の身体に触れて電流を流す。


 電撃を受けた彼は、その場で崩れ落ちてそのまま動かなくなった。


 地面に倒れた男に近づき、生死を確認する。


 脈を図ると男の心臓は動いており、脈拍がはっきりと感じられる。


「どうにか殺さずには済んだようだな」


 人の身体に電流が流れると死亡率が高い。


 人は身体に0・1(アンペア)の電気が流れる程度であっても、命を落とす可能性が非常に高いのだ。


 いくら正当防衛であっても、殺人を行えば過剰防衛となってしまう。


 そこで己が契約しているヴォルトの力を借り、電流を制御。


 身体の側面に電気が流れるように調整し、体内にある脳や心臓といった重要な臓器にショックを与えないようにして、そのまま地面に逃がした。


「デーヴィッド!」


 俺の名を呼ぶ声が聞こえ、そちらに顔を向ける。


 金髪ミディアムヘアーで低身長の女の子と、前髪を作らない長い黒髪の女性が血相を変えてこちらにやって来た。


「カレンにライリーどうした。何かあったのか」


「それはこっちのセリフよ。デーヴィッドが中々帰って来ないから、探しに街中を走り回っていたのよ。そしたら突然落雷が見えて、それで急いでここに来て」


「そうだったのか、すまない。心配をかけた」


「あの男は何だい? 周囲の状況を見る限り、何があったのかはある程度は予想ができるが」


「ただの物取りだ。悪いけど警備兵に突き出しといてくれないか」


 ライリーにあと処理を頼み、俺は宿屋に戻ろうと一歩足を踏み出す。


 その刹那、心臓が鷲掴みされたような痛みが走った。


「クッ」


 その場で膝をついて蹲る。


 そんな姿を晒してしまい、カレンが声をかけてきた。


「ちょっと、大丈夫! どこかケガでもしたの?」


「大丈夫、時々起きる発作だ。もう症状は治まった」


 やっぱり、あの精霊は消滅してしまったのか。


 俺は不思議な体質をもっている。


 それは精霊が消滅した際に心臓が痛むというものだ。


 その症状は特に時間帯は決まっておらず、消滅直後に起きる場合や、先ほどのようにある程度時間が経ってから発症するときもある。


 この体質のせいで俺は自信の身を守るためにも、誰よりも精霊を大切にしている。


 そして相手の精霊でも救おうとするようになってしまった。


 痛みは引いたが、心臓の鼓動は早鐘を打つ。


 そのまま立ち上がり、一刻も早く休みたかった俺はラビットに向かった。


 最後まで読んでいただきありがとうございます!


 誤字脱字や変な部分などがありましたら、是非教えていただければ助かります。


 また明日も投稿予定なので、楽しみにしてください。


 最新作

『Sランク昇進をきっかけにパーティーから追放された俺は、実は無能を演じて陰でチームをサポートしていた。~弱体化したチームリーダーの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る~』が連載開始!


この作品は、今回の反省を活かして執筆しております。


なので、面白くなっていることが間違いなしです。


追記

この作品はジャンル別ランキング、ハイファンタジー部門でランキング入りしました!


興味を持たれたかたは、画面の一番下にある、作者マイページを押してもらうと、私の投稿作品が表示されておりますので、そこから読んでいただければと思っております。



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