第十七章 第七話 アリスとロザリーとロリコン男
今回のワード解説
クラシカルストレート……女性の髪形の一種。王道のモテ髪型の定番のストレートロング。
ふわっとパーマを当てたほうが垢ぬけるような気もするが、あえてストレートを押し通すことで新鮮で清楚な感じがとっても好印象の髪型である。
ペドフィリア……幼児・小児(通常13歳以下 )を対象とした性愛・性的嗜好のこと。略して俗にペドと呼ばれる。
「スリーカード!」
「残念、余の勝ちであるフルハウス」
「スゲー、あのお嬢ちゃんこれで五人抜きだぞ」
残りの二人を探していると、賑わいをみせている場所があった。
聞き覚えのある声が聞こえたような気がしたので、俺たちはそこに向かう。
「すみません。通してください」
人込みを掻き分けて先に進むと、クラシカルストレートの赤い髪に漆黒のドレスを着ている女性が、カードで対戦しているのが見えた。
「くそう、絶対にイカサマしているだろうが」
負けたことが相当悔しかったようだ。
対戦相手の男が、負けた理由を彼女のインチキによるものだと主張している。
「何を言うか!貴様の運がなかっただけだというのに、イカサマ呼ばわりとは!」
男の主張が気に入らなかったようで、女性のほうも言い返す。
俺は仲裁に入ったほうがいいと思い、カード勝負をしている二人に近づいた。
「レイラどうした?何かあったのか?」
「おお、デーヴィットいいところに来た」
「何だよ、お前こいつの連れか?」
男は乱入してきた俺を見るなり、鋭い視線を送ってくる。
彼は頭をモヒカンに借り上げ、片目には傷を負っている。
人を見た目だけで判断するのはよくないが、どう見ても堅気の人間ではないようにしか見えない。
「実はだな――」
「それはあたいから話をしよう」
レイラが説明しようとしてくれたところで、ライリーの声が聞こえた。
声がしたほうに視線を向けると、前髪を作らない長い黒髪の褐色の肌を持つ女性が、何故かバニーガールの姿をしていた。
「えーと、ごめん。二人を見ても、いったい何が起きたのか理解できないのだけど」
状況が呑み込めない俺は困惑する。
いったいどんな過ちが起きればライリーがバニーになる?
「ごめんなさい。わたしのせいなのです」
ライリーの後ろから黒い長髪の女の子が顔を出す。
彼女は顔を少し俯かせながら俺に近づく。
「ごめんなさい。ごめんなさい」
女の子は何度も謝罪の言葉を口にするが、それだけでは状況を理解することができない。
「この女の子がこのブースにおいていた高い酒の瓶を大量に割ってしまってさ。悪気はなかったのだけどあの男がカンカンに怒ってよ。弁償しろと言いやがったんだ」
なるほど、この騒ぎの原因はこの子にあったのか。
だから俺に何度も謝っている。
「私、子どもだからお金なんて持っていないし、家にはおばあちゃんと二人暮らしだから、そんなに裕福ではないの」
俺は少女の服装をみる。
彼女が身に着けている服は何度もを着ているようで、所々空いた穴を別の布で塞いである。
女の子の見た目から、貧しい生活を送っているのだということがわかった。
「私、お金がないって言ったら、ならその身体で払ってもらおうかと言って、乱暴に私の身体を引っ張って連れて行かれそうになった。怖くて泣きそうになったところで、あのお姉ちゃんが間に入ってくれたの」
「あの男はポーカーで勝てば特別に見逃すと言って仲間を呼びやがった。あたいは四人まで勝ったが、あの男には負けた。お嬢ちゃんを助けるためなら、この身体をくれてやってもいい。そう思っていたが、あの男が要求してきたのはバニーガールの恰好をしての接客だった。熟れた果実は食わない主義だと言ってね」
ロリコンかよ!
ライリーの説明を聞き、俺は心の中で叫ぶ。
「そんなときにレイラが来てくれた」
「実は、ライリーがポーカーをしている様子は最初から見ていた。そしてあの男がイカサマをしていることを指摘したのだ。奴はカード一枚一枚にじっくり見なければわからない傷を入れておった。それを余が暴露すると、近くを歩いていた人物に新しいカードを用意させ、勝負をしたのだ。結果は余の五連勝に終わった」
「絶対にイカサマしているに決まっているだろう。でなければ五連勝だなんて確率的には小さい」
「なら、その証拠を提示せよ。貴様も始める前にじっくりと見ておったではないか。あのカードは新品で、細工してはいないことを確認しておるはずだぞ」
「グッ」
ただの妄想でレイラを悪者扱いにしているようだが、正論を言われて言葉が出なくなったようだ。
男はそれ以上イカサマを追求してこなかった。
「まあいい、約束は約束だ。そこの女、帰っていいぞ。だが、そのお嬢ちゃんの分はまだ終わっていない」
「約束が違うじゃないか!」
「誰も、お嬢ちゃんを見逃すとは一言も言ってはいないぜ。ぐへへ」
約束を反故にしていることをライリーが指摘するが、モヒカン頭の男は下卑た笑みを浮かべると、反撃とばかりに正確な約束ではないことを告げる。
確かに固有名詞を出していない以上は、いくらでも言いようがある。
これ以上は埒が明かない。
俺は頭を掻き毟りながら、彼に提案を持ちかけた。
「元々はあの女の子が酒の瓶を割って、弁償できないのが原因なんだよな」
「ああそうさ」
「なら、弁償すればいいよな。第三者が代わりに金を払っても問題はないだろう」
「え、いやあ、そのう」
俺が金を代わりに出そうかと提案を持ちかけると、急にモヒカン頭の男は歯切れが悪くなる。
そして幼女のほうを何度も見る。
「まさか、断るなんて言わないよな。普通に考えれば弁償すればいいだけの話だ。仲間が迷惑をかけたから、迷惑料も上乗せする」
俺は男を睨みつけるようにジーと視線を送り続ける。
「わ、わかった。百万ギルだ。これで手を打とう」
「百万ってあなたふざけているの!いくら迷惑をかけたからと言っても、その金額はぼったぐりすぎよ!」
金額を聞き、カレンが法外料金だということを指摘する。
「いやならいいんだぜ、お前たちには本来関係のないことだ。払えないのなら、あのお嬢ちゃんは俺が連れて行く」
「わかった。払おう」
「だろう。払えないよなギャハハ…………え?払えるの?」
男にとって予想外だったのだろう。
最初は下卑た笑い声を上げていた彼は、ぽかんと口を開けて間抜け面を晒す。
「カレン、アイテムボックスを」
「もしかして、こんなやつにあれを渡してしまうの?」
「関わってしまった以上は仕方がないだろう。それにまだひとつだ」
「わかったわよ」
俺のやり方が彼女にとって好ましくなかったのか、カレンは渋々アイテムボックスを渡す。
バスケットに手を突っ込み、麻袋を取り出す。
そして、中に入っている物をひとつだけ取り出すと、モヒカン頭の男に渡した。
男に渡したものは、父さんたちから貰った金塊のひとつだ。
「これなら百万ギル分の価値があるはずだ」
「ま、まま、マジかよ。本物なのか」
手渡されたものを男が見ると、彼は身体を震えさせる。
「本物だ。疑うのであれば今からでも換金につきやってやろうか」
「わ、わかった。これで手を打とう」
男は金塊を売って金に換えようとしたのか、走ってこの場から去って行く。
トラブルが無事に解決した俺は、小さく溜息を吐いた。
伯爵といい、ガルムといい、モヒカン頭の男といい、どうして最近俺が関わる男は変態しかいないのだ。
「あ、あのう。ありがとうございました。助けてもらって」
少女が顔を俯かせながらお礼を言う。
俺は屈んで女の子と同じ目線にすると、彼女に優しく声をかける。
「これに懲りたら、今度からは気をつけようね」
「はい」
女の子は俺たちに迷惑をかけたと思っているのか、元気がない。
嫌な思い出というものは厄介なもので、忘れたくとも簡単には忘れることができないのだ。
バザーという出し物が、彼女のトラウマになるかもしれない。
「よし、反省したのなら。ご褒美を上げよう。お兄ちゃんが服を買ってあげる」
嫌な思い出のあとに楽しい思い出で上書きすることができれば、彼女の心の負担が軽くなるかもしれない。
そう思った俺は、買い物に少女を誘う。
「でも、知らない人について行ってはダメっておばあちゃんが」
祖母の教育による賜物のようだ。
いくら助けたからと言っても、今日出会ったばかりの大人の男について行くのは抵抗があるのだろう。
「わかった。それならこうしよう。アリス」
俺はアリスに手招きをする。
「はいなのです」
俺の呼びかけに応えて、フードを被ったアリスがこちらに来る。
「この子はアリス。俺が預かっている子だ。今からアリスと友達になってもらう。友達と買い物をするのなら、別に知らない人ではないだろう」
「確かに友達なら、知らない人ではない。でも、友達になってくれるの?私こんなだから友達がいなくて」
彼女はみすぼらしい恰好だ。
そのせいで同じ年代の子どもたちからも、からかわれたりしていたのだろう。
「アリスでよければお友達になりたいです。お名前は何て言うのですか?」
笑顔で友達になりたいとアリスが言うと、女の子は満面の笑みを浮かべた。
「私、ロザリー」
「ロザリーちゃんなのですね。宜しくなのです」
アリスがロザリーの手を握ると、思いっきり上下に振る。
嬉しさを動きで表現しているのだろうが、振り回されているロザリーは慌てている。
「アリス、その辺にしないと、ロザリーがケガをするかもしれないだろう」
「そうでした。ごめんなさいなのです」
申し訳なさそうにアリスがロザリーに謝る。
「いえ、気にしないでください」
「それじゃあ、ロザリーのことをお願いね。アリス、君にお金を上げるから。ロザリーの服を選んでくれないか?残りは好きに使っていいから」
「わかったのです。アリスに任せるのです!」
元気よく返事をするアリスに、俺は一万ギル札を一枚、彼女に渡す。
「行くのですよ。ロザリーちゃん」
紙幣を受け取ると、アリスはロザリーの手を握って奥へと歩いて行く。
「アリスさんにだけ任せてもよかったのでしょうか?」
タマモが俺の横に来ると、アリス一人だけに任せてもよかったのかと尋ねてきた。
「もちろん、心配だから後を追うさ。悪いけど、皆もついて来てくれ」
女性陣にアリスを追跡することを告げると、俺は歩き出す。
「それにしても、本当にロリコンっているのね。遠くから見ていたけど、鳥肌が立ってしまったわよ」
アリスと離れた状態で追跡をする中、エミが先ほどの男のことを口にする。
「あの男は病気だ。死なない限り治りはしないだろうよ」
続いて、ライリーが病気発言をする。
「確かにロリコンは病気だと言われているが、ロリコンの判定は、実はとてもシビアなんだ」
「そうなのですか?デーヴィットさん」
「ああ、それじゃあここでちょっとした問題をだそう。恋愛の対象にした場合、この中でロリコンに当て嵌まるのはどれ?一番、十六歳から十八歳。二番、十五歳から十四歳、三番十三歳以下」
「あたしがいた世界ではどれもアウトだと思うのだけど、この世界では十六歳以上は成人扱いだから一番はないでしょう。となると二番と三番で決まりね」
俺の出した問題にエミが答える。
「他の皆は?」
「その問題は人間で考えるのですよね。エルフで考えると全てアウトだと思うのですが?」
タマモが問題に対しての疑問を聞いてくる。
この問題は人間を対象にした場合で、エルフだとまた違った計算をしなければならない。
「そこまでは考えていなかったよ。対象を人間とした場合で応えてくれ」
「魔族も一緒であるか?」
「魔族もエルフもドワーフも、それぞれの年齢で考えると、いちいち計算しないといけないから人間の場合で考えてくれ」
さっきの話を聞いていなかったのか、レイラがタマモと同じ質問をしてきたので、俺は呆れ混じりの声で答える。
「ワタクシもエミさんの答えと一緒です」
「余も同じである」
「私も」
「あたいもだよ。普通に考えて一番以外だろう」
女性陣は全員が同じ回答だった。
しかし、彼女たちは不正解だ。
「正解は三番の十三歳以下だけだ」
「何でそうなるのよ!納得いかないわよ」
エミが抗議してくる。
最初知ったときは俺も彼女と同じ気持ちだったが、ちゃんとロリコンの線引きがされている以上は、強引にも納得するしかないのだ。
「ロリコンは精神医学ではペドフィリアというが、ペドフィリアにはちゃんとした診断基準というものがある。それが対象年齢十三歳以下と既定されているのだ」
「つまり、成人していなくても十四歳以上の場合、ロリコンにはならないってことなの?」
「そうだ」
「可笑しい。判断基準が可笑しいわ。どう考えても成人していない人に恋愛感情を持ってしまったら、ロリコンになるべきよ」
カレンの質問に肯定すると、彼女は額に右手を起き、頭を抱える。
「このぐらいで嘆いていては、次の問題では卒倒するかもしれないぞ。第二問、十三歳以下の女の子と手を握る、頬にチューしてもらう。これらの行為はロリコンに当て嵌まるだろうか?」
「そんなの当てはまるに決まっているでしょう」
「待ってよカレン、さっきの問題を参考にすると、裏があるかもしれないわ。手を握るぐらいはセーフだと思うの」
「まぁ、手を握ったぐらいでロリコンにされてしまったら、デーヴィットは既にロリコンになってしまうじゃないか。アリスとは何度も手を繋いでいるのだから」
「確かにライリーの言うとおりであるな。余もエミの回答に賛同しよう」
「ワタクシは両方セーフだと思います。幼い頃、お父様の頬にチューをしたことがあります。もし、頬にチューもダメでしたら、受け入れたお父様はロリコンになってしまいますわ」
「確かに、それなら娘を持つ世の中のお父さんは、全員がロリコンになってしまうわね。やっぱり前言撤回、両方セーフに変えるわ」
カレンが意見を変えると、俺は答えを言う。
「正解は両方セーフだ。ペドフィリアの診断基準では、十三歳以下との性行為がダメだと既定されてある。つまり、十三歳以下の子どもと性行為をしなければ、ロリコンとは言えない。中等部の子どもに恋愛感情を抱いても、それは病気ではないんだ」
「でも、社会倫理的にはアウトじゃない」
「社会倫理的にはアウトかもしれないが、精神医学ではセーフで病気としては扱われない。ペドフィリアは一般的なロリコンという曖昧な言い方と区別されるべきなんだけど、現代では同一化されているから、誤解を生みやすい。これらの規定を考えるに、本当にロリコンと言える男は数が限られている」
ロリコン談義をしていると、アリスがロザリーを連れてブースのひとつに入り、棚に置かれている洋服を吟味していた。
そして一着を手に取るとロザリーに見せる。
遠くから見守っているだけなので、細かい部分はわからないが、アリスが選んだのは花柄のワンピースのようだ。
アリスが選んだ服をロザリーが受け取ると。二人は奥のほうに歩いて行く。
どうやら試着室に向かうようだ。
俺たちも気づかれない程度に距離を空けたまま奥に進む。
しばらくまっていると、カーテンが開かれて先ほどの服を着たロザリーが姿を見せる。
遠くからでもわかるほど、彼女は似合っていた。
ロザリーがもう一度カーテンを閉め、再び開けたころには、着替える前の服装に戻っていた。
試着室からロザリーが出ると、二人はレジのほうに向っていく。
あの服が気に入ったようで、購入するようだ。
そのまま無事に支払いを済ませるまで見守っていると、何やらトラブルが起きたのか、険悪のムードになっていた。
「俺、ちょっと見てくるよ」
皆にアリスたちのところに行くことを伝え、急ぎ足で向かう。
「アリスどうかした?」
「あ、デーヴィットお兄ちゃん、ちょうどいいところに来てくれたのです」
「あのう、この子たちが何か?」
「あ、いえ、そのう」
俺の登場に女性店員のおばちゃんが戸惑いを見せる。
「この店員さん酷いのです。アリスたちの服装を見てなのか、わたしが一万ギル札を出したら、誰からか盗んだのではないかと、言ってくるのです」
説明をしてくれない女性店員のおばちゃんに代わり、アリスが事情を説明してくれた。
これは完全に俺のミスだ。
一万ギル札を渡せば、少しぐらい高くても気に入ったものを買ってやれると思っていたのだが、事情を知らない赤の他人からしたら、子どもだけで大金を持っていては不審に思われても不思議ではない。
「すみません。この子の服を買ってあげる約束をしていたのですが、ちょっと用事で一緒にいられなかったので、お金だけを渡して買い物をさせていたのです。勘違いをさせてすみません」
「あら、そうだったの。勘違いをして、こちらこそごめんなさいね。お詫びに二割引きにしてあげる」
嘘の中に真実を織り交ぜたことにより、おばちゃん店員は俺の言葉を信じてくれているようだ。
彼女は謝罪し、おまけに商品を安くしてくれた。
アリスが一万ギル札をおばちゃんに渡して支払いを済ませる。
「デーヴィットお兄ちゃん、ご迷惑をおかけして申し訳ないのです」
「ごめんなさい」
「別にアリスたちが悪いわけじゃないから謝らなくていいよ」
俺たちはカレンたちと合流し、ブースの外に出る。
すると、どこからか鐘の音が鳴った。
「夕方を知らせる鐘、私帰らないと」
「そうなのです?わたし寂しいです」
「また明日も会ってくれる?」
「もちろんなのです。この町の宿屋にいますから、来てくれれば会えるのです」
「あ、そのことなんだけど皆に言わなければならないことがあるんだ。宿、満室で取れなかった」
宿が取れなかったことを正直に告げると、女性陣は表情を曇らせる。
今日も最後まで読んでいただきありがとうございます。
誤字脱字や文章的に可笑しな箇所などがありましたら、教えていただけると助かります。
評価してくださった方ありがとうございます!
お陰でポイントが増えました!
他の方にも評価してもらえれるように、今後も頑張っていきます。
そして今回の話しで第十七章は終わりです。
次は第十七章の内容を纏めたあらすじを書く予定です。
明日も投稿予定なので楽しみにしていただければ幸いです。




