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第十七章第六話 カレンが与えた選択肢

 慌ただしい時間を送ったが、エミたちと合流できた俺は、今度はカレンたちを探すことにした。


「エミとアリスはカレンたちの居場所を知らないか?」


「カレンは靴を見てくるって言っていたわ。ほら、あの変態おさげのせいでヒールが使い物にならなくなったでしょう」


 カレンがいそうな場所をエミが教えてくれた。


 彼女が余計なことを言ってくれたせいで、あのときのことを思い出してしまう。


 ガルムが性癖を暴露した際に、カレンとエミを女性扱いしなかったのだ。


 そのせいで彼女たちの逆鱗に触れてしまい、最終的には制裁を下された。


 そのときに、カレンはピンヒールを履いてあいつの尻を蹴ったのだが、運悪く彼の尻の穴に突き刺さってしまった。


 それにより、ヒールにガルムの血液が付着してしまい、衛生的に使用できなくなったのだ。


 あのときのカレンの顔を思い出すと、思わず身体が震えてしまう。


 彼女には新しい靴を買ってやると言った。


 ここでその約束を果たしてもいいだろう。


 俺たちは靴が展示されてあるブースを一小間ずつ見て行った。


 再び日の光が当たるので、アリスは猫耳カチューシャをしたままフードを被っている。


 そしてタマモは先ほどのこともあり、今はキツネ耳のカチューシャを外していた。


 みっつ目の場所で、金髪のミディアムヘアーの髪形をしている低身長の女の子を発見。


 彼女は両手に二種類のヒールを持ち、両方を見比べていた。


「何か気に入ったのはあった?」


「あ、デーヴィット。ちょうど良かった。この二種類どっちが私に似合うと思う?」


 吟味している最中の彼女に声をかけると、カレンはどっちが似合うと思うか、俺に問うてきた。


 合流してそうそう難題をつきつけられた。


 どっちがいいのかを問われた場合の女心としては、相手の意見が欲しい、相手の好きなほうを選びたい、相手の好みを知りたい、相手のリアクションを楽しんでいるといったものがある。


 そしてもちろんこの問題には正解、不正解があり、不正解な解答をすると機嫌を損ねてしまう。


 最悪の場合、魔法で吹き飛ばされてしまうだろう。


 一応不正解、正解の回答は知っている。


 不正解の回答としては、『どっちも似合う』や『好きなほうにすれば』などだ。


 解答を面倒臭がって適当なことを言うと間違いなく不機嫌になってしまう。


 正解とされるのは、状況にもよって変わるが、大きくわけて二種類ある。


 ひとつは、質問者がまだ決まっていない場合『どっちも可愛いね』や『どっちもセンスがある』や、『どっちもステキだから迷うな』といい、相手のセンスを褒めたうえで自分の意見をいうパターン。


 そしてもう一つが既に決まっていたが、念のために聞いてきたときのパターンだ。


 こっちの対処としては、質問者に選ばせる。


 『君はどっちがいいと思う?』と質問者に問い、『私はこっちがいいと思っているけど』と答えたら『そうだね、自分もそう思うよ』と同意をするパターン。


 だが困ったことに、場の雰囲気の判断ミスをしてしまうと、正解を答えたとしても機嫌を損ねてしまうケースもあるのだ。


 それだけ女心は複雑ということ。


 魔法で吹き飛ばされることにならないように、俺は思考を巡らせる。


 彼女が持っているのはヒールの部分が長く、黒い水玉模様の柄になっているピンヒールと、黒の厚底ハイヒールだ。


 機能性を考えるのなら、黒の厚底ハイヒールだろう。


 ピンヒールは歩きにくいだろうし、排水溝の穴に嵌れば、ヒールの部分が壊れてしまう可能性がある。


 逆に、黒の厚底ハイヒールはヒールの部分の面積が大きいし、普通の靴と同じで履き慣れれば、使い勝手もいいだろう。


 俺は黒の厚底ハイヒールをカレンに勧めることにする。


 だが、俺の意見が決まったとしても、場の雰囲気を間違えればすべて台無しだ。


 まずはカレン自身が既に決まっているのかを見極める。


「カレンはどっちがいいと思っているの?」


「決めきれないから聞いているんじゃない!」


 俺の質問に、カレンは語気を強めて答える。


 声の口調からして、不機嫌になってしまったようだ。


 だけど少しだけ不機嫌メーターが上がっただけで、怒りのゲージがマックスになったわけではない。


 まだ挽回する余地がある。


 今のカレンの態度で、俺がこれからすることは決まった。


 カレンのセンスを褒めたうえで、俺の意見を言うこと。


「どっちも似合いそうだし、迷うなぁ。カレンは本当にセンスがいいな」


「ありがとう。さすがデーヴィット、私のことわかっているじゃない。それでどっちがいいと思う?」


 今の言葉で、少しは機嫌を直してくれただろう。


 これから俺の意見を言うことになる。


 だけど、変にプレゼンをすれば、一気にカレンの機嫌を損なう。


 俺が伝えたいことは靴に対する機能性だ。


 今後の旅のことを考えれば、厚底ハイヒールのほうがいい。


 しかし、彼女が本当に求めているのは靴に対する機能面ではない。


 感情に訴えた言いかたでなければダメなのだ。


 これは男と女で脳の作りに違いがあることからおきるのだが、男性の脳は論理性、女性の脳は感情に重きを置く。


 これは人類がまだ魔法が使えていない時代の先祖が、自身の肉体で狩猟をしていたときの遺伝子情報の影響と言われている。


 狩猟の際、男性は会話をしていては獲物に逃げられてしまうから、必要最低限の会話しかしなかった。


 その影響で『目的志向』の脳が発達した。


 一方、狩猟に行かない女性は、いつ大型動物から襲われるかわからないから、常に周囲と会話をしてお互いの存在を確認し合うのが重要となる。


 そのため目的がなくとも会話をする必要があり、声を出して共感しあう『共感脳』が発達した。


 理論と感情という、相反するものが行動の根底にある以上は、わかり合えない瞬間も当然ある。


 俺はなるべく感情を意識して、俺の意見をカレンに伝えることにした。


「俺はこっちの厚底ハイヒールがいいと思う」


「何で?」


「カレンは普段でも履く用で靴を探しているのだよな?」


「そうよ」


「なら、こっちのほうがいい。俺たちはこれからも旅を続ける。そのことを考えれば、ヒールの面積が広い厚底のほうがケガをしにくい。俺はカレンが大事だから、オシャレのためだけにケガをしてほしくはないんだ。カレンは着飾らなくても、素の状態でも十分可愛いから」


 なるべく感情を意識して言葉を選ぶと、俺の話術が功を成したのか、カレンは若干頬を朱色に染める。


「わかった。デーヴィットがそこまで言うのならこっちにするわ。すみませんこの靴ください」


 カレンは笑顔になると、靴を男性店員に渡す。


 俺はリュックの中にある瓶から、数枚の紙幣と硬貨を店員に渡して支払いを済ませる。


 機嫌良さそうにするカレンを見て、俺はホッとした。


 世の中の恋人の男性は、こんな修羅場を何度も体験しているのだろうか。


 もし、毎回上手く切り抜けているのであれば、俺はその人に称賛の言葉を送りたい。


「ねぇ、デーヴィット。この靴今履き替えてもいい?」


「いいと思うぞ」


 別に俺に聞く必要はなかったが、尋ねられたので一応許可を出す。


 今履いている靴から黒の厚底ハイヒールに履き替えると、カレンは今までの靴をアイテムボックスの中に仕舞う。


「皆はデーヴィットに買ってもらっているのに、あたしはまだ何も買ってもらってはいないわよ」


 今まで空気を読んで静観していたエミが、不満そうに俺に言ってくる。


「何かほしいものがあったら買ってやるから、言ってくれ」


「それじゃあ、デーヴィット」


「いや、売っていないから」


 珍しくエミがボケるので、俺はそれにつき合ってツッコミを入れる。 


「ボケなくていいから、本当に欲しいものがあったときは言ってくれよ」


 俺はエミにそう伝えると、彼女はぶつぶつと何かを言いだす。


 けれど、あまりにも小さかったので、俺には聞き取ることができなかった。


「これで残りはライリーとレイラだけか。カレンは二人の居場所を知らないか?」


「そうねぇ、レイラの居場所は予想がつかないけれど、ライリーなら武器とかお酒類の場所にいそうよね」


「ああ、確かにその辺にいそうだな。取敢えずは目星のつきそうな場所を覗くとするか」


 カレンの買い物を済ませ、俺たちはライリーとレイラを探しに再度歩き回ることになった。


 今日も最後まで読んでいただきありがとうございます。


 誤字脱字や文章的に可笑しな箇所などがありましたら、教えていただけると助かります。


 明日も投稿予定なので、楽しみにしていただけたら幸いです。

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