第二章 第三話 酒場とエロ女と情報収集
今回のワード解説
ⅮT……童貞のこと。
目的地に着くと、予想どおりに賑わっているようだ。
店の外にいても笑い声などが聞こえてくる。
「いらっしゃいませ」
扉を開けて中に入ると、店員が挨拶をしてきた。
一人であることを告げるとカウンター席に案内され、注文を聞かれる。
「取敢えずビールと枝豆を一つ」
注文を伝た俺は、内装を見る振りをしながら酒場を訪れた客たちに視線を向ける。
バラバラの年代層の男女が、いくつかのグループに分かれていた。
そしてカウンターの端には、男が空になったジョッキを見つめながら、もの欲しそうな顔をしている。
「はいお待ちどう様」
カウンターの上に置かれたビールを片手に持ち、枝豆を食べながら聞き耳を立てる。
すると、あるグループで魔物の話しが聞こえてきた。
その内容は俺の住んでいた村が、魔物の襲撃にあったというものだった。
その会話が聞こえて一瞬焦ったが、どうやら俺が撃退した日のことを話しており、安堵する。
すると今度は、若い年代と中年ぐらいの年代層のグループの話声が聞こえてきた。
アルコールの力でハイになっているのだろう。
声音が高く、いやでも耳に入ってくる。
「ねぇ、ねぇ、聞いた! 最近聞いた噂何だけど、霊長山には強い魔物がいるらしいよ。どうやらたくさんの魔物をしたがえているんだってさ。やばくない!」
「霊長山には消滅した精霊が行き着く場所らしいからな」
興味を惹かれる内容だったので、俺は動くことにした。
ビールの入っているジョッキと、枝豆の入っている皿を持ち、コンタクトを取ることにする。
「すみません。興味深い話が聞こえたもので、少しお話を聞かせてもらってもいいですか」
突然グループ内に入ってきた俺にビックリしたのだろう。
何だこいつと言いたそうな表情で見てきた。
「突然押しかけて申し訳ありません。俺の名はデーヴィッドと申します。皆さんは何を飲まれていますか? よろしければ奢りますので俺も混ぜてくれませんか?」
彼等は警戒心を抱いていそうな雰囲気だったが、奢るという言葉を聞いた直後に顔色を変えた。
現金なものだ。
中年の男性が横にずれ、できた隙間に入れてもらう。
「それで皆さんは何を飲まれますか?」
「そうだな、ここの葡萄酒は絶品だと聞いているが、それだけいい値段をしてな。一度ぐらいは飲みたいな」
「そんなに美味しいのですか?」
「私も飲んだことないけど美味しいらしいよ。飲んだことないからよく分からないけどね」
魔物の話をしていた女性が告げると、俺は店員を呼ぶ。
「すみません。このお店の美味しい葡萄酒を樽でください」
注文を取りに来た女性店員に注文内容を告げる。
すると、俺の発言に店員だけではなく、この場にいる客全員が注目して視線を集める。
「あのう、冗談はやめてください。いくらするかわかっていますか」
「いくらですか」
女性店員が耳打ちで金額を告げる。
俺はリュックから金額分の一万ギル札を複数枚店員に渡し、先に支払いを済ませた。
「大変失礼いたしました。すぐにご用意させていただきます」
代金を受け取った女性店員が店の奥に引っ込む。
しばらくして男性店員二人がかりで樽が運び込まれた。
「さぁ、飲みましょう」
樽の中にある葡萄酒をグラスに入れ、全員に渡すと飲み会が再開された。
思っていたより痛い出費だが、これはビジネスだ。
情報はいつでも入手できる訳ではない。
自分が得たいものならなおさらだ。
高額な出費をする代わりに、自分が望んでいる情報が得られる。
それなら割に合った等価交換だ。
高級なお酒を奢ったからだろう。
男性には気を許され、女性から興味を持たれるかたちになった。
「あのう、デーヴィッドはどんな職業のお仕事をしているのですか?」
魔物の話しをしていた女性が突然職業について聞いてきた。
彼女は金髪で、見た目ギャルだと思わせるメイクをしている。
「魔学者だよ」
「魔学者だなんて凄いですね。だって魔法の研究をされているのですよね」
「まぁ、そうだね。基本は新な魔法の開発とかかな」
「やっぱり頭よさそうですものね」
ギャルの女性がグイグイと食いついてくる。
彼女の反応も仕方がないだろう。
魔学者は競争率が高く、成れる人間が少ない。
専門の知識が必要であり、時には自身を危険に晒すような状況下に陥ることもある。
そのため収入は高く、安定している。
なので、魔学者は憧れの職業になっているのだ。
「でも、正確には元魔学者になるかな。ちょっと色々あって辞めさせられたから」
「そうなんですか。でも、それだけの職歴があるなら、次もいい就職先に勤められそうですね」
「何が魔学者だ。男は金じゃない。心だ」
距離を縮めようとするギャルの態度が気に食わなかったのだろう。
彼女の隣にいた男性が空になったグラスをテーブルの上に置くと、自身の胸に親指を指す。
「いや、心だけじゃあこの時代生きていけないって。経済力があるのが一番だよ。男は稼いでなんぼだから」
ギャルがきっぱりと自分の意志を告げると、隣にいた男はなぜか悔しそうにこちらを見る。
何かしただろうか。
彼に睨まれることをした覚えがないのだが。
なぜ彼がそのような態度を取るのか考えていると、あることを察した。
きっとあの人は隣のギャルのことが好きなのだろう。
だから自分の職業に嫉妬し、男は金ではないことをアピールしていたのだ。
ギャルの女性は可愛いが興味がない。
正直、ああいう感じの娘は苦手意識がある。
これ以上逆恨みされないためにも、彼が有利になるような方向に話をもっていかなければ。
「経済力を除いたらどんな人に魅力を感じる?」
二番目に異性に対して感じる魅力について聞いてみる。
もし、これで隣の男性に当て嵌まるのであれば、少しは機嫌を直してくれるだろう。
「二番目はやっぱり清潔感かな?ちゃんと髪を整えていて、髭も剃っていて、服もシワやシミがない人かな」
彼女の言葉に男性は撃沈される。
彼の髪は整っておらず、髭も無精髭、服にはシミがついているのだ。
「クソー!」
男性はそのまま立ち上がると店の外に飛び出して行った。
失恋の辛さを知る俺は、彼の気持ちが痛いほど分かる。
「三番目は優しく誠実な人かな」
聞いてはいないが、ギャルが三番目について語ってくれる。
もしかしたら三番目は彼に当て嵌まる部分があるかもしれない。
しかし時既に遅い、彼はもうこの場にはいないのだ。
その後他の人とも会話し、次の目的地の目星がつくほどの情報を得ることができた。
しかし、ギャルに限っては話す内容が恋愛がらみで、好きなタイプなどを聞いてくる。
正直、相手にするのが少々疲れてきた。
なので一度トイレに向かい、溜まっていた水分を放出させて席に戻る。
代わり番こで、俺の隣にいた男性がトイレに向かう。
金髪のギャルの姿が見えない。
入れ違いでトイレに行ったのかもしれないな。
反対側にいた女性もいない。
誰と話そうかと考えていると、一人の女性が隣に座って来た。
長い黒髪にナチュラルメイクの可愛らしい女性だ。
花柄のワンピースが、清楚さを引き立てている。
「お酒ありがとうございます。とても美味しかったです」
わざわざお礼を言うために隣に来たのだろうか。
そういえば彼女とはまだ話してはいない。
丁度話し相手を考えていたし、このまま彼女と話すことにしよう。
女性はあまりお酒が好きなほうではないようで、葡萄酒を少しずつ飲んでいた。
「お酒はあまり飲まないのですか?」
「そうですね。普段はあまり飲まないです」
あまり飲まないのなら、勧めるようなことはしないほうがいいだろう。
そう思い、彼女のペースに合わせてお酒を飲むようにする。
会話を楽しんではいたが、ある時点で俺は困惑するようになった。
「デーヴィッドさんの手って綺麗ですね。触ってもいいですか?」
そう言いつつ、彼女は俺が許可を出す前に手に触れ、ボディータッチをしていた。
アルコールの効果で思考が鈍っているとはいえ、今日初めて会った異性に普通は触れようとはしない。
どうして彼女は気軽にボディータッチをしてくる?
隣の女性が何を考えているのかが分からないでいると、知識の本に書かれてある、恋愛の項目の内容を思い出す。
平気でボディータッチをしてくる女性はエロイ可能性がある。
その他の特徴も思い出してみると、彼女に当て嵌まる箇所を見つけてしまう。
清楚さを感じさせるワンピース、それにゆっくりとお酒を飲むスタイル。
これらはエロイ女性の特徴に当て嵌まってしまうのだ。
だけどたまたま共通点があるだけでは確信をもてない。
最後のあの言葉を放たれるまでは確定をしてはいけないだろう。
「デーヴィッドさんはどこに住んでいるのですか?」
「ラビットっていう宿屋だよ」
「一人で泊まられているのですか?」
「いや、仲間と三人で泊まっている」
「そうですか」
俺の返答を聞くと、清楚系の女性はしばらく無言になった。
何か変なことを言っただろうか。
いや、ただ住んでいる場所と人数を答えただけだ。
何ひとつ変なことは言っていない。
そんなことを考えていると、彼女がそっと小声で耳打ちをしてきた。
「もう少しデーヴィッドさんとお話がしたいです。よければ今から脱け出して、私の家に来てくれませんか」
彼女の口から放たれた言葉を聞き、俺の疑問は確信に変わってしまう。
この娘、エロイ娘だ!
エロイ娘は自分に自信があり、平気で色々な人に誘いをかける。
もう全ての可能性に当て嵌まった彼女は、身体を目的とした誘いをしているのだ。
このまま言うとおりについて行けばDTともおさらばできる。
しかし、何か裏があるような気がしてならない。
彼女にはそれなりに裕福な男だと認識されている。
なら、初体験を済ませたあとに高額な金額を請求されてしまうのではないか?
リスクを冒しての卒業か、このままDTを貫くのか、脳内で作られた空想の天秤が、裁定を下すために様々な状況を考える。
「ごめん、気持ちはうれしいけどその誘いには頷けない」
そう告げると俺は立ち上がり、店員にビールと枝豆の代金を支払うと酒場を出て行く。
もし、清楚系の女性が高額な請求をせず、誰でもいいから己を満たしてくれる相手を求めていただけだとしよう。
だが、現状では避妊するためのアイテムをもっていない。
あの娘の中に入り、ひとつにつながれば性病にかかる可能性だってある。
それに万が一、子供ができるようなことに発展すれば、自由を失う。
そうなればこの町から離れることができなくなる。
魔王を倒し、村を襲ったことを後悔させることができない。
一時の気の迷いで、人生を棒に振るようなことはしたくはなかった。
宿屋までの帰り道、俺は何者かにつけ狙われているような気がしていた。
後方から俺のではない足音が聞こえ、足を止めると遅れて尾行者らしき人物の足音も止まる。
いったい誰が追跡している?
考えると何人かの候補が頭に浮かび上がる。
あの酒場で派手に振る舞い、数人の人を傷つけてしまった。
さあ、答え合わせをしよう。
できれば酒を奢ったグループ以外の人物であってほしいものだが。
振り返り、追跡者が隠れていそうな場所を探す。
しかし薄暗い夜道では、ある程度潜んでいそうなところの目星をつけることができても、その人物を発見することにはいたらない。
「隠れていないで出て来い!」
誰の姿も見えない夜道に向けて言葉を放つ。
しかし出て来いと呼ばれて姿を現す人種ではないようで、姿を見せるようなことはなかった。
隠れてチャンスを窺うのも戦術の一つ。
相手の行動に文句は言えない。
ならば焙り出すまでだ。
「呪いを用いて我が契約せしウィル・オー・ウィスプに命じる。その力の一部を我に貸し、言霊により我の発するものを実現せよ。ダズリンライト」
この通路一帯に眩しく感じる光を発生させる。
突然の光に目が眩み、横転してしまったようだ。
隠れていた樽を蹴飛ばしたようで、横に転がっていくと、隠れていた人物の姿が見えた。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
誤字脱字がありましたら是非教えてください。
明日はバトルメインになるかと思います。
楽しみにしていただけたら嬉しいです。
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この作品は、今回の反省を活かして執筆しております。
なので、面白くなっていることが間違いなしです。
追記
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