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第十六章 第二話 タマモの妄想ワールド

 伯爵の住む町から離れ、エルフの里に帰る。


 タマモや彼女に仕えるエルフの人が話をつけてくれたのだろう。


 里に帰っても、ここに住むエルフたちから嫌な視線を感じることはなかった。


 最初に案内されたタマモの住宅に向けて歩いていると、扉の前で右往左往する二人組が視界に入った。


 アリスとタマモだ。


 彼女たちは俺たちに気づくと小走りで駆け寄って来る。


「お帰りなさいなのです」


「お帰りなさいませ。どうでしたでしょうか?攫われたエルフたちの居場所は、特定することができましたでしょうか?」


 伯爵邸から何か有力な情報が入っていないかと尋ねられ、俺は周囲を見渡す。


 エルフたちは耳がいい。


 例え小声で話したとしても、聞かれてしまうだろう。


「ああ、捕らえられたエルフの居場所は特定できた。できれば他のエルフには聞かれない場所で話しがしたい」


「わかりました。では、場所を変えましょう」


「あ、ちょっと待ってくれ」


 立聞きをされない場所に、タマモは案内してくれようとしたが、俺は彼女に止まるようにお願いした。


「どうかしましたか?」


「悪いのだけどアリスは席を外してくれないか」


 当然のようにアリスはタマモについて行こうとしていたので、俺は彼女に他の場所にいてもらうように言う。


 今回の話はアリスにはまだ早すぎる。


 まだ幼いので、話を聞いただけで理解できるほど、性に関しての知識は持ち合わせていないだろう。


 だけど万が一にでも、タマモが取り乱した場合がある。


 そんな彼女を見せるわけにはいかなかった。


「それじゃあ私が見ておくわ。行きましょう、アリス」


「で、でも」


 カレンが気を使い、率先してアリスの手を握る。


 しかし、アリスは気がかりなようで、タマモとカレンを交互に見た。


「アリスさん、ワタクシは大丈夫です。申し訳ないのですが、少しの間だけカレンさんと一緒にいてもらえないでしょうか?」


「わかったのです。今はカレンお姉ちゃんと一緒にいるのです」


 アリスは笑顔を向けるとカレンの手を引っ張ってこの場から離れていく。


 先ほど彼女がした笑みは、むりに作ったものだということに俺は気づいた。


 本当は気になってしょうがない気持ちをむりに押し止めているはず。


 だけど、みんなに迷惑をかける訳にはいかないという気持ちのほうが強く出て、あのようなむりに笑った顔をしたのだろう。


 彼女は本当にいい子だ。


 しかし周囲の空気を壊さないために、自分の言いたいことを我慢しているところがある。


 今回はどうしても大人の会話になってしまう。


  変な悪影響が出ないようにしなければという、親心に近い気持ちがどうしても働いてしまうのだ。


「ごめんな。アリス」


 俺は小声でアリスに謝る。


「では、そろそろワタクシたちも」


 そう言うと、タマモは先を歩き出す。


 彼女の後ろを歩き、案内されたのはタマモの家の裏庭だった。


 ここで話そうというのだろうか。


 しかし、四方を壁で塞がれていない場所では、他のエルフたちに聞こえてしまうおそれがあるのだが。


 そんなことを考えていると、タマモは庭にある一メートルほどの大きな岩に手を置く。


 そしてそれを軽々と押したのだ。


 どう考えても、あの大きさからして相当の重さがある。


 大人の男が数人がかりでやって動かせそうな大岩なのに、涼しい顔でタマモはそれをやり遂げた。


 彼女は見かけによらず怪力の持ち主なのだろうか。


「あ、これ大岩に見せかけたただのハリボテです。この下が避難場所になっておりますので、そこでお話をしましょう」


 タマモが岩の説明をし、俺は大岩に手を置いて少し力を入れる。


 彼女の言ったことは本当のようで、簡単に動かすことができた。


 ハリボテの下に隠された階段を降りて地下に向っていくが、次第に太陽光が届かなくなって先が薄暗くなってきた。


「明かりを用意したほうがいいか?」


「そうですね。少々お待ちください」


 タマモがポケットに手を突っ込み、何かを探している。


「あ、よく考えれば、話が急だったので松明を灯すための種火を持って来ていませんでした。すぐに戻って来ますので少々お待ちください」


「いや、その必要はない(まじな)いを用いて我が契約せしジャック・オー・ランタンに命じる。その力の一部を我に貸し、言霊により我の発するものを実現せよ。ファイヤーボール」


『はいはい、明かりね。三十センチぐらいでいいか?』


 この声はジャック・オー・ランタンのものなのだろうか?


 それらしき者が、松明代わりの大きさを聞いてきた。


「ああ、それぐらいで頼む」


『あらよっと』


 了承すると目の前に直径三十センチぐらいの大きさの火球が出現し、周囲を明るく照らす。


『いつもこんな使い方をすればいいのに、契約主はほとんど戦闘ばっかり使ってよ。俺たち精霊は戦うために力を貸しているのではないんだぜ』


 ジャック・オー・ランタンの言葉に、俺は苦笑いを浮かべる。


 そもそも、ジャック・オー・ランタンは火の玉の姿をしているはずなのに、喋れるんだな。


 明かりを頼りに足場を確認しつつ、階段を歩いていると広い空間に出た。


「では、伯爵邸で得た情報を提供してもらいましょうか?まずはエルフたちの居場所はどこだったのでしょうか?」


「エミ、頼む」


 まだエルフたちの居場所を聞いていなかった俺は、彼女に説明してもらうようにお願いする。


「まだ確実とは言えないのだけど、伯爵は書斎の中で、エルフの様子を見に行くと言ったのよ。そしたら床に階段が現れて地下に向ったわ」


「なるほど、同胞たちはそこに監禁されているのですね」


「そして、伯爵が女性エルフを攫う理由だが」


 俺はポケットから一枚の紙を取り出し、タマモに渡す。


 これを見て、彼女がどのような行動に出るのかは未知数だ。


 取り乱し、何も考えずに飛び出す可能性も十分に考えられる。


 何が起きても冷静に対処ができるように、俺も覚悟をしておかなければ。


「こ、これは!」


 受け取った紙を見て、タマモは顔を赤くした。


 きっと怒りの感情が沸き上がっているのだろう。


 彼女の気持ちを少しはわかるつもりだ。


「捕らえられたエルフたちは今、伯爵により、このような恥辱を受けているというのですか」


 顔色とは違い、タマモはいつもと変わらない冷静な口調で語りかける。


 どうやらあの書類を見て、奇行に走る心配はなさそうだ。


「この目で見たわけではないから詳しいことはわからない。だけど、それに書かれていることが事実ならば、おそらく」


「ああ、何ということでしょう。捕まった同胞たちは今ごろ、伯爵の魔の手に落ち、すんなりと殿方を受け入れる身体に調教されているのですね。そして伯爵の言うことには逆らえず、イチモツに触れたり体内に入れられたり……」


 これは流石に予想のできなかった展開だ。


 タマモは想像力に優れているようでエグイことを口にする。


 言葉がド直球ではなかったことが救いだが、この場にアリスがいなくて本当に良かったと思った。


 どうしたものか。


 俺はエミに視線を向けると、彼女は頬を赤くしながら俯いている。


 誰かが止めなければ、彼女のダダ洩れの妄想は終わることがなさそうだ。


「おーい、タマモ!正気に戻ってこい!」


 声をかけるも、彼女の妄想は終わることがなかった。


 俺は仕方なく彼女の肩に両手を起き、タマモの身体を前後に振る。


「いいかげんにしろ!妄想と現実の区別がつかなくなるぞ」


「あれ?ワタクシはいったい何を!ここは……地下の避難場所……ってどうしてワタクシに触れているのですか!」


 揺さぶったお陰で、どうやら今度こそ正気を取り戻したようだ。


 彼女は周囲を見て、俺が肩に触れていることに気づくと、タマモは力一杯に突き飛ばす。


 勢いがあり、バランスを崩してしまった俺はその場で転倒、尻を強く打ってしまう。


「あいたたたたた」


「デーヴィット大丈夫?」


「す、すみません。いきなりあなたがワタクシの目の前におられたので、びっくりしてしまい、反射的に突き飛ばしてしまいました」


「いや、こうなることはわかっていたはずなのに、受け身を取れなかった俺にも問題がある」


「そ、それよりも話は分かりました。情報の提供ありがとうございます。それではワタクシは戻りますので」


 タマモは書類を俺に返すと、そそくさと地上に上がって行った。


「ねぇ、タマモってもしかして」


「ムッツリスケベなのか?」


 エミが俺に声をかけ、言いたいことがわかった俺はそれに応える。


「アリスちゃんの側に居させて大丈夫かしら?」


「いくらタマモでも、それなりに長い人生を送っているのだから、節度はわきまえているだろう」


 変な不安に駆られながらも、俺たちは地上に戻った。


 今日も最後まで読んでいただきありがとうございます。


 誤字脱字や文章的に可笑しな箇所などがありましたら、教えていただけると助かります。


 また明日も投稿予定なので、楽しみしていただけたら幸いです

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