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第二章 第二話 ロードレスの街

 翌日、ロードレスに向けて歩くこと一時間。


 ようやく目的地に辿り着いた。


「早速宿を取りに行こうよ。私温かいお風呂に入りたい」


「そうだな。まずは拠点となる場所を決めておかないと」


 泊まれる場所を探しつつ、街中を歩く。


 すると、ある店の前に人だかりができているのが見えた。


「何かあったのかな?」


「さぁな。気になるし俺たちも見てみようか」


 興味本意で人が集まっている店を覗こうとする。


 しかし、多くの人が押し寄せているせいで、何を見に集まってきているのかが分からない。


「すみません。皆さんはここで何をしているのですか?」


「ああ、この店に五点限りでアイテムボックスが輸入されたらしくてさ。まぁ、俺達庶民には手が出せない価格だから、見るだけに留めているのだがな」


「アイテムボックス!」


 親切な男性が、どうして人が集まっているのかを教えてくれた。


 男性がアイテムボックスというワードを言った瞬間、カレンが目を輝かせる。


 彼女の態度を見て、昨日のことを思い出す。


 ライリーの特大リュックから探し物を見つける際に、彼女は上から順番に取り出していた。


 そして目的のものを見つけると、外に出したものをリュックの中に戻す。


 その時に『アイテムボックスがあればこんなことをしなくて済むのに』と愚痴を言っていたのだ。


 アイテムボックスは容器拡張型、インベントリ型、時間停止型、そして空想の産物である空間魔法型と呼ばれる種類がある。


 裕福な家庭では容器拡張型が使われているが、ほとんどの庶民は入手することができない。


 その理由としては、アイテムボックスを作成する際にコストと人件費がかかるからだ。


 容器拡張型のアイテムボックスの作り方としては、まずアイテムボックスの元となる器を用意する。


 その後に付与魔術、空間魔法を使える人物に、空間拡張の魔法を容器に付与するのだ。


 そして空間魔法以外のアイテムボックスに共通することは、容器よりも大きいものは収納できないという制限がある。


 そのため容器の大きさに比例して金額にも差が出てくるのだ。


 価格については輸入した店によって異なる場合もある。


 知り合いに付与魔術や空間魔法を使える人物がおれば、低額で提供することもできるだろう。


 その他にも店主の人間性などにも関わってくる。


 強欲な人物であれば、金を得るために高額で売ろうとしてくるだろう。


 優しい人物であれば人々の明るい未来のために、赤字覚悟で破格の値段で売ってくれる場合もあるかもしれない。


 カレンも欲しがっていたし、アイテムボックスはあったほうが、これからの旅には役に立つはずだ。


 取敢えず販売されている容器の大きさと、金額を見ておくだけでもしていたほうがいいだろう。


 金額を確認して諦めたと思われる人が、溜息を吐きながら道を開けてこの場から立ち去って行く。


 数分後に俺たちの番となり、アイテムボックスを観覧させてもらう。


 バスケット、バッグ、リュック、の三種類だ。


 バッグとリュックはデザインが違うのがもう一つずつ展示されていた。


「いらっしゃい。見るだけならタダだけど、買う気がないのならすぐに出て行ってくれ」


 男性店員が愛想のない対応で出迎えてくれた。


 物珍しさに見に来た客ばかりで、迷惑を被られているからなのかもしれない。


「一番安くても十万ギルって高くない! しかも一括払い限り販売って」


 金額を見ていたカレンが、高額の値段に驚いたのだろう。


 いつもより高い声音で思ったことを口にしたようだ。


「お嬢ちゃん、何もわかっていないな。これでもこちらの利益を減らしたうえで、提供しているんだぞ。不満があるなら帰りな」


「確かに先ほどの言葉は店員さんに失礼だったよ。例えばこのバスケットなんて、大きさに比べて十万ギルは安い。俺の目利きだと二十、いや三十万ギル以上はするはずだ」


「お、こっちの(あん)ちゃんは、話しが分かるようだな。実は、このバスケットは俺の手作りなんだよ。しかも初めて作った試作品だ。だから破格の値段にさせてもらっている」


「マジか。どうりで、味わい深く赴きがあると思ったよ。丁寧に作られているし、店員さんの気持ちが込められているのが伝わってくる」


 俺の言葉に店員さんは気分をよくしたようだ。


 彼は笑みを向けながら何度も頷く。


「そうか、そうか、そこまで分かるか」


「だけど残念だな。本当は買ってあげてこのお店に貢献したいのだけど、むりしても八万ギルしか出すことができない。残念だけど一括払い限りなら、今回は諦めるしかないな。カレン、ライリー、店員さんにも悪いし早くお店を出よう」


 二人に伝えると踵を返し、お店の出口に向かう。


「ま、待ってくれ。俺の作品を褒めてくれたのは兄ちゃんが初めてだ。八万でいい。だから貰ってくれないか」


 お店を出ようとしたところで、後方から男が呼び止める声が聞こえた。


 その声を聞き、俺はニヤリと口角を上げる。


 本当は十万ギルなら、貯め込んでいた貯金を使えば買うことは可能だった。


 しかし、今後のことを考えれば少しぐらいは節約したい。


 そこで俺は賭けに出たのだ。


 商品を褒め、購入したい気持ちはあるが金が足りないと言えば、もしかしたら値引きしてもらえるかもしれないと考えた。


 男の店員に気づかれないように、バッグの中から紙幣の入っている瓶を探す。


 そして蓋を開けて中から一万ギルを八枚取り出してカウンターの上に置く。


「八万ギルだ。確認してくれ」


「ひい、ふう、みい…………確かに八万ギルあるな。確かに受け取った。それじゃあ持っていってくれ」


 店員からバスケット型のアイテムボックスを受け取ると、それをカレンに渡した。


「俺よりカレンが握っていたほうが絵になるから持っていてくれ」


「あ、ありがとう」


 アイテムボックスを買ってやったからか、それとも絵になると言ったからなのか分からない。


 義妹はお礼を言うと頬を朱色に染める。


「これで動きやすくなるな。筋トレができないのは残念だが、身軽になるほうが断然いい」


 ライリーがバスケットの蓋を開ける。


 そして彼女が持っている特大リュックを床に下ろすと、の中身を次々と入れ出した。


「ちょっ、そんなに一気に入れないでよ。詰まってしまったら壊れるかもしれないのに」


「ふう、本当に入り口にさえ入れば底なしだな。お陰で手ぶらで歩けるよ」


「もう、でもあれだけの量を入れたのに、重さはバスケットの重量しか感じないわね」


「だけど、これはあくまで拡張型でしかないからな。保存の効かない食べ物を入れているときは気をつけてくれよ」


 アイテムボックスを購入し、意気揚々と店を出ようとする。


 そこで、俺は宿屋を探していたことを思い出す。


「なぁ、店員さん。俺たち宿屋を探しているのだけどいい物件知らない?できれば安いお店があればうれしいのだけど」


「それなら、店を出て右側にある坂を上った先に、ラビットっていう名の宿屋がある。あそこなら低額で泊めてもらえるだろうよ」


「ありがとう。もし金持ちになったらまた寄らせてもらうよ」


 男の店員にお礼を言い、俺たちは教えてもらった宿屋に向かうことにする。


 店を出て右を見ると、確かに視界に坂が映った。


 しかし、急な傾斜になっており、上るのが大変そうだ。


 太陽の光に照らされる中、坂道を歩くこと十分。


 ようやく紹介された宿屋と思われる建物に辿り着く。


 顔を上げて看板を確認すると『宿屋ラビット』と書かれており、ここで間違いなさそうだ。


 扉を開けて中に入る。


 扉には客人が訪れたことを知らせるベルが取りつけられていたようで、鈴の音が周囲に響く。


 受付には誰の姿も見えてはいなかったが、ベルの奏でる音に気づいたのだろう。


 店員と思われる女性が階段から降りてくると、俺たちの前に来た。


「お客様ですね。一泊二食付きで一人三千五百ギルになりますがどういたしましょうか?」


 一人三千五百となると、三人で一泊一万五百ギルの出費となる。


 この町には魔王の情報を得るために立ち寄った。


 なので、情報が入り次第出て行くつもりだが、すぐに得られるとは限らない。


 最初のほうは貯金で賄えるだろう。


 けれど長期に渡って情報収集をすることになったら、稼ぎ先を探すことも考えなければならない。


「分かりました。取敢えず三泊お世話になります。部屋は二部屋お願いすることができますか?」


 俺の質問に、女性店員は申し訳なさそうな表情をした。


「すみません。他のお部屋は埋まっていて、一部屋しかご用意ができないのです」


 店員さんの返答を聞き、俺は考える。


 流石に仲がいいとはいえ、男女が同じ部屋で寝泊まりするのは何かと問題がある。


 着替えのときはどうする?何かで仕切りを作って見えないようにするか、誰かが着替えるときは廊下に出ておくなどの対策を取らないといけない。


 だけど流石にそれは面倒だ。


 それにライリーやカレンが、同じ部屋で過ごすことを反対する可能性だってある。


 出費することになるが、分かれて別の宿屋で寝泊まりしたほうがいいのかもしれない。


「俺は他の宿屋で寝泊まりするから、ライリーとカレンはここのお世話になってくれ」


「待って」


 二人にここで泊まるように伝え、お金を渡してそのまま立ち去ろうとした。


 するとカレンが呼び止める。


「デーヴィッドが私たちに気を使ってくれるのはうれしいけど、それだと違う宿屋の分だけ出費が多くなるわよ。ある程度のことなら我慢するから、三人で泊まりましょう」


 金髪のミディアムヘアーの髪を弄りながら、カレンは視線をアイテムボックスに向ける。


 彼女は俺の貯金額を知らない。


 アイテムボックスを買ってもらったことに対して、引け目を感じているのだろうか。


 ここで強引に自分の意志を貫いた場合、彼女との間に溝ができる可能性だってある。


「あたいも気にしないさ。何かアクシデントが起きたときはそのときさ」


「分かった。では店員さん。三人で三泊お願いします」


 女性店員に三日分の宿泊料金を払い、俺たちは部屋に案内してもらった。


 三人が泊まれる部屋だからだろう。


 部屋の中は思っていたよりも広く、中央には円形のテーブルとイスが三脚あり、箪笥や棚が壁際に置かれている。


 しかしベッドはふたつしかなく、ひとつは通常サイズ、もうひとつはキングサイズだった。


 キングサイズに二つ、通常サイズに一つの枕が置かれている。


 これはキングサイズにカレンとライリー、通常サイズに俺が寝るのが自然の流れだ。


 テーブルの上にリュックを置き、椅子に腰をかける。


 さて、これで三日間は、この場を拠点として情報を集めよう。


 一度に多くの物事を知るには、人が多く行き交う場所が適している。


 候補に挙げるとすれば、酒場や武器、防具などが扱われている店に多く集まりそうだ。


 少し休憩をしてから動こう。


 夜に活動をするなら、今日訪れる場所は酒場一択だ。


 情報を集めることができるし、上手い酒にもありつける。


「あー疲れた。私お風呂に入ってこようかな。ライリーはどう?一緒に入る?」


「せっかくのお誘いだ。断る訳にはいかない。裸のつき合いといこうじゃないか」


 今後のことについて考えていると、カレンとライリーの声が耳に入った。


「そういえば、村を出てから風呂に入っていなかったな」


「何だい?デーヴィッド、あんたも一緒に入りたいのかい?だったらあたいが背中を流してやろうか」


 独り言のように、周囲に聞き取られないぐらいの声量で呟いたはずだった。


 だが、ライリーには聞こえたようだ。


「な、何を言っているんだ!」


 突然の言葉に思わず焦り、動揺してしまう。


 つい、お決まりである反発の言葉が口から出てしまった。


 ライリーは俺の反応を見て笑っていたが、カレンは彼女の言葉を本気にしたようだ。


 俺以上に焦っている態度をみせる。


「まったく、俺をからかうぐらいならさっさと行ってこいよ。後で俺も使わせてもらう」


 風呂場に向かう二人を見送り、俺は部屋を出て店員さんを探す。


 この町についてほとんど知らない以上、酒場がどのあたりにあるのか明確にしておきたい。


 宿内をうろつき、受付をしてくれた女性店員さんを見つけると、彼女に酒場の場所を訪ねる。


「酒場でしたら、この町の中央に向かう道沿いにあります」


「そうですか。ありがとうございます」


 お礼を言い、その場から立ち去って外に向かう。


 扉を開けて宿屋から出ると、街の散策ついでに酒場の場所の確認をすることにした。


 街中をぶらついたあとに宿屋に戻れば、二人は風呂から上がっているはず。


 町のマップを頭の中で完成させるために歩き回り、最後に教えてもらった酒場に向かう。


 まだ営業時間外の酒場は照明が消え、もの寂しさを感じさせた。


 だけどこの場も、あともう少しで賑わいを見せるはず。


 場所の確認を終え、宿に戻るころには夕日も傾きつつある時間帯になっていた。


 宿屋に帰り、部屋の扉を開ける。


 するとカレンとライリーが、下着姿でそれぞれのベッドで横になっていた。


「あ、お帰り、デーヴィッド」


 帰宅に気づいたカレンが声をかける。


 その声は弱々しく、きつそうな心象を受けた。


「どうした?何かあったのか」


 この状況が呑み込めない俺はベッドに背を向ける。


「ライリーと話していたら、いつの間にか長風呂になっていて、のぼせてしまったのよ。ねぇ、デーヴィッド。風をちょうだい、そよ風ぐらいの気持ちいいやつ」


 何で俺がそのようなことをしないといけない。


 のぼせたのは自業自得じゃないか。


 心の中で呟くも、苦しんでいるカレンたちを見ておきながら放置するのは、引け目を感じる。


 こんなことで魔法を使うのは、契約している精霊たちから反感を買われそうだ。


 そんなことを考えつつ、契約している精霊の力を借りて言霊に乗せて現象を生み出す。


(まじな)いを用いて我が契約せしケツァルコアトルに命じる。その力の一部を我に貸し、言霊により我の発するものを実現せよ。ブリーズ」


 カレン達が寝ている場所の空気の密度が軽くなり、それ以外の場所の空気の密度が重くなる。


 これにより気圧に差が生まれ、カレン達に向けて微風が吹く。


 これで少しでも楽になるだろう。


「言っとくけど、一時間ぐらいしか保たないからな。延長したい場合は自分が契約している精霊に頼んでくれよ」


「うん、ありがとう」


 カレンに効力の時間を告げ、俺は扉を開けて風呂に入る。


 身体を綺麗に洗い、身体を清潔にすると浴槽に浸かった。


 三十分ほどして浴槽から上がると着替え、鏡の前で身だしなみをチェックする。


 目的が情報収集である以上、異性とも話すことになる。


 女性は清潔感のある男を好む。


 年代によって好みは変わってくるだろうが、清潔感が求められるのは、どの年代にも共通しているはず。


 それに汚い人から話しかけられると、嫌悪感を覚えてしまうものだ。


 清潔感を出していれば、ある程度は警戒が薄れて話しを聞いてくれる可能性がある。


 可笑しなところがないかの確認を終える。


「これでよし。カレン、少し出かけてくる」


 まだベッドで横になっているカレンに出かけてくることを告げ、俺は酒場に向かった。


 最後まで読んでいただきありがとうございます。


 誤字脱字がありましたら是非教えてください!


 また明日投稿予定です!


最新作

『Sランク昇進をきっかけにパーティーから追放された俺は、実は無能を演じて陰でチームをサポートしていた。~弱体化したチームリーダーの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る~』が連載開始!


この作品は、今回の反省を活かして執筆しております。


なので、面白くなっていることが間違いなしです。


追記

この作品はジャンル別ランキング、ハイファンタジー部門でランキング入りしました!


興味を持たれたかたは、画面の一番下にある、作者マイページを押してもらうと、私の投稿作品が表示されておりますので、そこから読んでいただければと思っております。


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