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プロローグ

 プロローグは三人称ですが、第一話のほうからは一人称で書いています。

「あなたバカですか!」


 背中から純白の翼の生えた女性は、持っている紙を机の上に叩きつける。


 突然の罵声(ばせい)を浴びせられ、男は困惑の表情を浮かべていた。


「あなた何を考えているのですか! 何度言ったら分かってくれるのです? 私何度もこんな書類では受理できないって言っていますよね。あと何回言ったら理解してくれるのですか!」


 翼の生えた女性は更に早口で言いながら、男に向けて怒りと呆れが入り混じった感情をぶつけてきた。


「ですが、これが俺の求める人生計画なんです。これ以外は考えられないのですよ」


 このまま言われっぱなしでは終われないと思った男は、反撃とばかりに自分の想いを女性に伝えた。


「だからと言って、異世界に転生してチートな能力で世界を救い、女の子からモテモテの人生を歩むって、普通の人ならまず考えないですよ!」


 女性は用紙を力強く台の上に置く。


「今すぐ書き直して、もっとまともな人生計画を書いてください…………って言っても、あなたのことですからまた似たようなことを書いて持って来るのでしょうけど」


「分かっているのなら受理してくださいよ。このままではお互い、時間をむだにするだけじゃないですか」


「あなたが普通の人生計画を書けばいいだけじゃないですか! 私もあなたの相手をしているほど、暇な天使ではないのですよ」


 翼の生えた女性は、男がもち込んだ人生計画書を彼につき返す。


 男は文豪と呼ばれた作家であったが、寿命を終え、今は天国で転生をするための書類を作成中であった。


 死んで天国に行ったは魂は、一定の期間を霊界で過ごしたのち、次なる魂の修行のために、またこの世に生まれてくる。


 新たな時代、新たな環境でまた違った経験を積むことで、人は永遠の向上を目指しているのだ。


「守護霊さん。あなたこの人の守護霊なのに暴走を止めないのですか?」


 男の背後で様子を見ていた守護霊の女性に、翼の生えた女性は問いかける。


「あたいは何度も言ったさ。だけどこいつは一度言い出したら聞きやしない。それはあんたも十分に知っているはずだろう」


「それはそうですけど」


 守護霊の女性に論破され、翼の生えた女性は口を噤む。


「どうしたの?」


 背後から声をかけられ、翼の生えた女性は振り返る。


 彼女の背後には一人の女性が立っていた。


 ウェーブのかかった金髪のロングヘア―、瞳が碧眼になっている目は少したれ目で、ムッチリした身体からは大人の色気を漂わせている。


「め、女神様! どうしてこんなところに!」


「役場の天使たちに伝えることがあったので、立ち寄らせてもらいました。それで、何かもめごとでも起きたのですか?」


 女神と呼ばれた女性が、翼の生えた女性に尋ねる。


 すると、彼女は自分の状況を共感してもらおうと、先ほどまでのやり取りを手短に伝える。


「分かりました。すみませんがその書類をもう一度拝見させてもらっても構いませんでしょうか?」


 女神が男に尋ねると、彼は手に持っていた書類を差し出す。


 突き返されたときに強く握りしめたのだろう。


 書類は皺が寄っており、一度伸ばす必要がありそうだった。


 女神が台の上に書類を置き、一度伸ばしてから書かれた内容を確認した。


「転生先は魔物がいる異世界風の星。人生設計の流れは、様々な魔物と戦いながら最後は魔王を倒し、世界を救う。女の子にモテモテの人生は彼の努力次第になりそうね」


 書類を見ながらぶつぶつとひとりごとを言う女神に、翼の生えた女性は少し困惑気味であった。


 普通であれば異世界なんて単語が書かれていただけで突き返すものであるが、彼女は真剣な表情で書類に目を通していたのだ。


「いくつか訂正する箇所はあるけど、別に問題はないわね」


「な、何を言っているのですか女神様! 何か悪いものでも食べたのですか? 普通に考えて魔物のいる星何てありませんよ!」


 予想外の言葉に、翼の生えた女性は目を丸くし、思わず声を張り上げる。


「別に頭が変になるようなものは食べてはいないわよ。あとで伝えるつもりだったのだけど、私が担当する星がひとつ増えたのよ。その星がこの書類に書かれているような異世界風の星なの。だから訂正箇所を修正すれば受理して構わないわ」


 そう伝えると女神は男に書類を返す。


「ありがとうございます」


「訂正箇所はあなたが求めているチート能力ね。いくら私が神でも、万能の力を与えることはできないわ。あなた自信がもっている能力を引き出すぐらいはしてあげるから、よく考えてね」


 女神の言葉を聞き、男は右手の親指を顎の下に置いて思案顔を作る。


「ひとついいですか? その能力を引き出すのではなく、能力をもち込むことはできますか?」


 男の問いに、女神は困惑の表情を浮かべる。


 むりもない、彼の言動は理解しにくい発言なのだ。


「すみません。言い方が悪かったですね。俺が伝えたかったのは、能力を物体などの形に変えた状態で異世界にもち込むことが可能ですか?」


「そういうことですか。ええ、全然問題ないですよ」


「分かりました。ありがとうございます」


 自分の要望が通ったことに喜びを覚えたのだろう。


 男はニタニタと笑みを浮かべながら、書類を書き直し始める。


「あとの訂正箇所は!」


「あとはわざわざ書類を書き直す必要がありません。口頭で伝えますね。ひとつはどの星でも共通することですが、転生前、つまり天界で過ごした記憶や前世の記憶は失われます」


 人差し指だけを伸ばし、女神はひとつめの注意事項を告げる。


「ふたつ目は、多少なりとも誤差はでますが、人生計画書に書かれたとおりのことが実際にあなたの身に起きます。この書類は運命そのものだと思ってください。みっつ目は人生計画書に書かれたことを全うする前に死んだ場合、つまり、老衰以外で死んでしまった場合ですが、ペナルティとして地獄に落ちてもらいます」


 彼女が注意事項を告げる度に曲げていた中指、薬指を伸ばしていく。


「それを踏まえたうえで、この人生を最後までやり抜くことをあなたは私に誓いますか」


「はい、誓います」


 何の迷いもなく、男は女神に対して誓いの言葉を言う。


「分かりました。ではこの書類を受理いたしましょう」


 男から人生計画書を受け取ると、女神は羽の生えた女性へと書類を渡した。


「では、五番ゲートにお進みください。すぐに転生の準備に取りかかりますので」


「分かりました」


 笑みを浮かべながら、男は指示されたゲートに向かって行った。


「それじゃあ、あたいはいつものとおりにあいつの守護霊としてついて行こうかな?」


「お待ちなさい」


 何食わぬ顔で守護霊の女性がその場から離れようとしたところで、女神が彼女に制止の言葉をかける。


「何だい? 早く向かわないと間に合わなくなるじゃないか。話があるのなら手短に頼むよ」


「あなたはいつまで守護霊なんてやっているのです? いいかげんに転生して、もう一度魂の修行を行うべきです」


「嫌なこった。あたいは空中から見守って、必要なときに助けるぐらいの仕事が一番いい。あんな面倒臭いことなんかしたくないね」


 女神の提案を拒否すると、守護霊の女性は再び歩みを進める。


 彼女の態度が女神の怒りに触れてしまったのだろう。


 顔は笑顔であるが、額には青筋を浮かべていた。


「分かりました。あなたがそのつもりなら私にも考えがあります。警備兵の天使、あの女守護霊を捕まえて強制転生をさせなさい」


 ポケットからリモコンのような物体を取り出すと、女神は青色のボタンを押した。


『転生装置が作動しました。職員の天使はすぐに危険域から離れてください。繰り返します。――』


 建物のスピーカーから転生装置が作動したことを伝えられると、女神は小さく舌を出し、軽く自身の頭を叩く。


「間違えて転生装置作動のボタンを押してしまったみたい。私のおバカさん」


「ちょっ、何をしてくれるんだい! 今ごろあいつは転生装置に入っているはずだ。守護霊もなしに異世界だなんてムリゲーじゃないか」


 ボタンを押し間違えた女神に、守護霊の女性は怒りと呆れが入り混じった声音で言葉を吐きながら一気に詰め寄る。


「大丈夫よ。彼には書類に書かれたとおりに私の恩恵(ギフト)を授かっているはずだから」


「あのう、いいづらいのですが、女神様はまだあの人に恩恵を与えてはいませんよ」


 おそるおそる言う翼の生えた女性の言葉に、女神は顔色を悪くする。


 そして再び小さく舌を出し、軽く頭を叩いた。


「てへ、やっちゃった」


「てへ、やっちゃったじゃない! それってかなり危ないじゃないか!」


「待ってください。まだ間に合う方法があります」


「間に合う方法だと! すぐに教えろ、今すぐ教えろ!」


 緊急事態で冷静になっていない様子の守護霊の女性は、女神の胸倉を掴み、何度も彼女の身体を揺する。


「教えますから今すぐその手を放してください。でないと話すこともできません」


 女神の言葉に、守護霊の女性は咄嗟に手を放して彼女を解放した。


 呼吸を整えようとしたのだろう。


 女神は何度か深呼吸をすると両の瞼を閉じ、右手を(かざ)す。


 すると彼女の右手に光が集まり、それが本へと模って行く。


「これは彼が望んだ恩恵、知識の本(ノウレッジブックス)。彼が生前に得た知識が記されている本です。これを持って、あなたが同じ異世界風の星で転生すれば大丈夫である……はずです」


 あまり自信がないのか、歯切れの悪い言葉を女神が洩らす。


 守護霊の女性は知識の本を受け取り、ページを開く。


「ここに書かれているのは日本語じゃないか。星が違うのだから、こんなの持って行っても読めないだろう」


「その対策もしております。あくまでも間に合った場合の話ですが、彼から預かった人生計画書、これを書き直します。日本語が読めるということを追加で書けば、問題なく読むことが可能です。彼の魂が辿り着く前に作業を終えることができるか、時間との勝負です。あなたは今すぐに五番ゲートへと向かってください」


「まんまと誘導されている気がするが、あいつを見殺しにするよりかはマシか。分かったよ。これをあいつに届けてやるよ」


 守護霊の女性は急いで五番ゲートへと向かって行った。


「女神様、あの方はまだ人生計画書を書かれていないのですが」


「ええ、分かっているわ。私が最速で用意して彼女の代わりに代筆しておきます。あの人は彼を見守ることに誇りのようなものをもっています。それをベースにすれば文句は言われないでしょう。あなたはあの人の魂が、彼よりも早く辿り着くようにしておいてください」


「分かりました」


「はぁー、どうして私はやることなすことが裏目に出るのでしょうか?」


 女神は溜息を吐きながら、書類の執筆に取りかかった。


「これをお願いします」


 女神から書類を受け取り、翼の生えた女性は紙に目を通す。


 守護霊の女性が転生後、確実に知識の本を男に届けられるよう、天界での記憶や、生まれる年代など、転生後の世界で有利になれるように、様々なことが書かれていた。


「頼みましたよ」


 女神が真剣な表情で見てくる。


 本当はこんなことはしてはいけない。


 だけど、緊急事態である以上は、しかたがないだろう。


「分かりました。すぐに手配します」


 翼の生えた女性は書類に承認の印鑑を押し、それを持ってこの場から離れて行く。


 最後まで読んでいただきありがとうございます。


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