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午前中の訪問 その1

次の日の朝。少し遅めにティーディアは目覚めた。いつも決まった時間ピッタリに起きるのに寝坊をしてしまった。フラフラと食堂へ降りていくと義母マリーが座っていた。

「おはようございます、お義母様」

「おはよう、ティーディア。よく眠れた?」

マリーはにっこりと美しい笑顔を向けてくれる。


「はい。寝坊しました」

いつもなら、朝の掃除をしている時間だ。

「フフッ。昨夜は楽しんだようだし、疲れてしまったのね」

マリーはティーディアを待っていてくれたようだ。ティーディアが朝食を食べている間、マリーもお茶を飲み食事に付き合ってくれた。


ティーディアが朝食を食べ終えると、マリーは美しい笑顔で言った。

「今日はいつもより少しオシャレしましょうね」

「え?」

「さあ、時間がないわよ」

状況が呑み込めないティーディアをマリーは部屋へ引っ張って行く。部屋の中ではサーラとレリア、侍女が待機していた。


(静かだと思ったら、お義姉様達、私の部屋にいたの)


いつもティーディアの周りで何かと世話を焼くサーラとレリアは、なぜかティーディアの部屋にいた。


時間が無いと侍女達に促されティーディアは風呂に入れられる。昨夜は疲労の余り風呂を使う事なく寝てしまったのだ。さいわい化粧だけは、昨夜の内に侍女達の手によって落とされていた。


風呂から上がると、上品な淡いクリーム色のワンピース(サーラとレリア作)を着せられ、同時進行で髪のセットとメイクをされる。

その間にマリーが、昨夜カーバシア公爵家から手紙が届き、使いの者から近い内に訪問したい旨が伝えられたと言った。なので当事者であるティーディアもその場にいるようにとのことだ。

「謝罪と昨夜の詳しい説明をして下さるそうよ」



ティーディアは帰ってきてすぐに眠ってしまった為何も話をしていなかったと、今頃思った。

するとマリーはそんな、ティーディアの考えを見抜いたようで「サーラとレリアが昨夜話してくれたわ」と言った。

「二人共、興奮しちゃって大変だったわ。でもティーディアが楽しかったのなら、よかったわ」

そう言って微笑むマリーは嬉しそうだ。



「お義母様?ルーファス様は近い内に訪問されるのですよね?」

先程からの慌ただしさはまるで、もうすぐルーファスが訪ねて来るような雰囲気だ。

ティーディアが首を傾げると、マリーもサーラとレリアも少し困った笑顔を見せた。

「もういらしているのよ。今は、お父様がお話をしているわ」

「!!」

聞けば、マリーも父の伯爵と一緒に会い昨夜のお詫びと説明を受けたとのこと。サーラとレリアも同席して所々補足していたらしい。


「な、なぜ起こして下さらなかったのですか!!」

ルーファスにだらしない令嬢だと思われたのではないかと、顔が赤くなった。

「妹は昨夜の疲れでまだ寝ていますと言ったら『昨夜の事故のショックもあるかもしれない』と、起こさないでいいっておっしゃったのよ」

レリアがニコニコと言う。ティーディアに気を遣ったルーファスに好意的なのが見て取れる。


サーラとレリアに見送られ、マリーに連れられ応接室に向かう。

部屋に入ると、予想に反して父ブッファ伯とルーファスの会話が弾んでいた。先程、マリーから『旦那様が昨日から緊張していたわ』と聞いていたものだから、てっきり、ぎこちない感じになっているのかと思ったのだ。

ティーディアを見ると、ルーファスが立ち上がった。そして父ブッファ伯も立ち上がり、ルーファスに挨拶をするとマリーと一緒に出て行ってしまった。お陰でこの部屋にルーファスと二人きりになってしまった。


「おはよう、ティーディア嬢。改めて昨夜のお詫びに来たんだ」

ルーファスが大きな花束を渡してくる。

「あ、ありがとうございます。あの、でも、お詫びは昨夜ちゃんといただきました」

「うん。でも、花を渡したかったんだ。それで、背中の痛みはどうかな?」

ティーディアは花束を受け取り、一瞬きょとんとした。


(背中?・・・・・あ、昨日の)


「もう、大丈夫です」

「そう?よかった。顔の傷は・・・」

ルーファスは、ティーディアの顎に手を添えてクイっと少し上に向け、左右の頬を交互に見比べる。

突然のルーファスの行動に、ティーディアは真っ赤になり固まった。


「うん??傷は治ったのか?綺麗だな」

「・・・ほ・・頬ではなくて・・・額、です」

ルーファスの顔が近いので緊張してぎこちない話し方になってしまう。

「ああ、額だったのか。どれどれ・・・・・うん、まだ少し赤いな。失礼」

ルーファスは、上着の内ポケットから陶器の軟膏入れ容器を取り出し、軟膏を指先に付けると、ティーディアの額にちょん、ちょんっと優しく塗っていく。

「あの、ルーファス様?」

「これは私が調合したものだが、効き目がいいんだ。ご令嬢の顔に傷が残ったりしたら大変だからね」

塗り終わったルーファスが「あと数回は塗って」と、軟膏入れ容器をティーディアの手に握らせる。

「ありがとうございます。あの、お薬、ご自身で作られるのですか?」

「うん。興味があってね。材料があれば自分で作る事もあるよ。『変人』だからね。ああ、そうだ。今日はどんなドレスを着るのかな?」

「え?ドレスですか?・・・ええと、いつも義姉達が選んでくれるので・・・」

「そうか。では、後で聞いてみよう。その、せっかく一緒に行くのだから私の服を合わせてみては、と母が言うものだからね。ああ、それから」

話し続けるルーファスを見つめながら、ティーディアは首を傾げた。なんだか落ち着きがない。いや、表情は昨日と同じく穏やかなのだが。せっかちに話し続ける。これが本来のルーファスなのか。


「・・・・・ティーディア嬢。そんなに見つめないでくれ。私は・・・そういうの慣れていない・・・」

「ルーファス様?」

何に慣れてないのか分からないが、困っている事だけはティーディアにも分かった。


「ティーディア嬢。この『変人』は、ご令嬢への接し方がよく分からないのですよ。気の利いた話の一つもできないしね。それに、そんな可愛い顔で見つめられると困る。まあ、女性と余り接してこなかった自分が悪いのだが」

最後の方は言い訳のようにゴニョゴニョと言い「ああ、参った」と額に手をやっている。


女性への接し方が分からない、などと言っているが、では昨日の馬車の中でのアレはなんだったのかとティーディアは思った。


読んでいただき、ありがとうございます。



【ピルケースだと錠剤/丸薬限定なので違和感があります】とのご指摘を頂いたので【軟膏入れ容器】に変更しました

教えて下さった方ありがとうございました。

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