変人次期公爵
馬車に乗り込むと、ルーファスが口を開いた。
「置き去りにしてしまった御者には迎えを出した。それから、ブッファ伯爵に使いを出した。改めて謝罪にも伺う。帰りは私が送るので心配しないでほしい。それと、母が暴走したようで、申し訳ない。それでだ、その、今の姿だとティーディア嬢の願いとは逆でとても注目されると思う。なので、僭越ながら私がエスコートをさせていただく・・・・・その・・・重ね重ね、すまない」
「エ、エスコート。いえ、そんな、そこまで・・・・・あの、私には義姉がいて。二人。その義姉が守ってくれるので大丈夫です」
「ああ、癒しのサーラと麗しのレリアだね。しかし、彼女達も人気があるから自分達を守るので忙しいのではないかな?」
(癒しの?・・麗しの?・・・お義姉様達そんな風に呼ばれているの・・・)
タイプは違えど、あれだけの美人である。それもそうかと納得し、自分と一緒では邪魔かと思った。
「けれど、ルーファス様にご迷惑がかかってしまいます。婚約者の方とか、不快な思いをさせてしまうのでは?」
ティーディアの問いにルーファスは可笑しそうに笑った。
「婚約者?私に?ハハハ。ティーディア嬢は面白い事を言う。『変人公爵子息』というのを聞いた事がないかな?」
『変人公爵子息』次期公爵なのに夜会にも滅多に出席せず、身なりも気にせず、何かの研究に夢中になって引きこもり生活をしているとの噂で、付いたあだ名が『変人公爵子息』。
「あ、あれはルーファス様の事ですか?」
「そうだ。『変人公爵子息』には婚約者も妻もいない。もちろん恋人も。だから、そういう心配はない。それに、まあ、ここ最近は公に顔を出す事もなかったが、私の顔を知っている連中はまず近づいてこない。私を知らない輩が近づいてきても、さっさと追っ払ってあげるよ・・・・・それとも『変人公爵子息』と一緒は逆に迷惑だったか・・・」
そこまでは考えてなかったなと、ルーファスはブツブツと呟く。
「迷惑なんて、そんな事ありません。その、心強いです・・・」
ティーディアの返事にルーファスはフッと笑い、ティーディアの耳に口を近づけ告げる。
「では、ティーディア嬢をエスコートする栄誉をいただく。誰一人近づけませんよ」
慣れない事をされてティーディアは顔を真っ赤にして固まった。
その後も城に着くまで、何かを話していた。『何か』なのはティーディアがルーファスの先程の行動のせいで頭が真っ白になってしまい、まったく話を聞いていなかったからだ。
「ティーディア嬢。この『変人公爵子息』は結構役に立つんだよ。だから安心して」
ルーファスはニヤリと笑うと、ティーディアの腰に手を回し、そのまま門番の所へ進んで行く。
「やあ、どうも。ここの責任者か、騎士団団長のザーファか、王太子を呼んでくれるかい?」
「あ、あの・・・」
突然のルーファスのとんでもない発言に門番達が固まる。ティーディアも呆気に取られてルーファスを見上げる。
「私はカーバシア公爵子息のルーファスだ。あいにく私は招待状をもらってなくてね。更に此方のブッファ伯令嬢のカードを失くしてしまったんだ。だから、身元を証明できないんだ」
なんだったら王でもいいよ、と笑顔で更にとんでもない事を提案しだす。
「勘弁してくださいよ。彼らは真面目に仕事をしているんだから」
門番の後ろから騎士が一人苦笑しながら出てきた。
「ソフラート副隊長!!」
明らかに助かったという顔で門番達が名前を呼ぶ。
「ラウズか。なんだ、仕事なのか」
「そうです。仕事中です。で、そちらのご令嬢の名前をお願いしますよ」
「ティーディア・ブッファ伯爵令嬢だ」
ルーファスが告げると、ラウズは「伯爵家、伯爵家、あった。ぶ、ぶ、ぶ、ブッファと・・・あった」呟きながら門番の持っていた書類をパラパラとめくる。
「はい。どうぞ。お通り下さい。ようこそティーディア嬢」
爽やかなイケメンに、にっこりと微笑まれてティーディアはぎこちない笑顔を返す。
「あ、ありがとうございます」
「もしかして、この変人に脅されたりしてますか?それならスグにこの不届き者を捕まえますが?痛っ」
ティーディアの顔を覗き込むように見ていたラウズが、襟首をルーファスに引っ張られ、ティーディアから引き離された。
「アホな事言ってないで仕事に戻れ」
「はいはい。ティーディア嬢、この変人に何かされそうになったら遠慮なく、この私、ラウズ・ソフラートを呼んで下さいね」
「ありがとうございます。でも、ルーファス様はお優しい方なのでご心配には及びません」
ルーファスとラウズのじゃれ合いを微笑ましく見ていたティーディアは、緊張も不安も解け自然な笑顔を返した。
すると、ラウズも門番達も「ハッ」と息を飲んだ。
その様子にティーディアは何だろうと思ったが、ラウズが何か言う前にルーファスに促され、その場を後にした。
「・・・・・おいおい。とんでもなく可愛い子じゃん。あの変人に春が来たのかよ」
ラウズはルーファスとティーディアの後ろ姿を苦笑しながら見送った。
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