忘れもの
舞踏会当日。ティーディアは鏡を見ていた。
(地味なドレスに、控えめな化粧。どこにでもある髪型。うん、完璧)
ティーディアは鏡から視線を外し、後ろを振り返る。
「ありがとうございます。これで堂々と参加できます」
ティーディアがにっこりと笑ってそう言うと、支度を手伝っていたサーラとレリア、そして侍女達が「は~っ」と脱力した。
本人の自覚のないせいで、今回の支度はとんでもない苦労だった。
可愛いを隠し地味に目立たないように、サーラとレリアだけでなく義母、そして屋敷の侍女達総出で、頭をひねったのである。
ティーディア本人からOKが出て皆、安堵した。
「大丈夫よ、ティーディア。何かあったら私達が盾になるわ」
サーラとレリアが力強く言う。
今日の二人は一段と華やかに着飾っている。
自分達が目立つ事でティーディアから視線を逸らさす、という事だ。
迷惑をかけて申し訳ないと、謝るティーディアにサーラとレリアは笑って『役に立てるのなら嬉しいわ』と言ってくれた。
会場に着くと、パラパラと人の姿があった。
「入口はあっちね」
入口の所で人が溜まっている。よく見ると兵士がカードを受け取り、書類らしきものと照らし合わせている。そのせいでスムーズに流れずにいるようだ。
ティーディアもカードを用意しようとバッグに手を突っ込むが、手が空振る。
「お、お義姉様・・・」
「どうしたの?ティーディア?」
「カード、置いてきてしまったみたい・・・」
「ええ?!」
サーラとレリアが立ち止まり、ティーディアのドレスやバッグを隈なく調べる。しかし、いくら探しても出てこない。
「と、取りに帰りましょう。まだ時間はあるから」
「そうね。大丈夫よティーディア。さあ、帰りましょう」
義姉二人は交互にティーディアの頭を撫で落ち着かすと、馬車に向かって歩き始める。
「待って。サーラお義姉様。レリアお義姉様。私一人で帰ります」
(優しい義姉達にこれ以上迷惑をかけてはいけない。時間はあると言われたが、万が一遅くなって、それが原因で王族から叱責されたりしたら、義姉二人も巻き込んでしまう。そんな事は絶対にあってはならない)
「大丈夫よ。一緒に帰りましょう」
サーラとレリアのニ人からにっこりと微笑まれる。
(ん?・・・・・これは、私が帰ったらもうここに来ないと思っているな・・・)
ティーディアも、そうしたいのは山々だが、王族直々の脅しの様な招待状の内容は分かっている。ここでよっぽどの事がない限り、欠席をすれば家に伯爵である父に迷惑がかかる。だからなんとか出席して後は隠れていようと「出席したのだから文句は言わせないわ」と、計画している。
そうサーラとレリアに告げる。
「お義姉様達が待っててくれたら心強いわ。カードを持ってすぐ戻ってくるから」
ティーディアの説明を聞いてサーラとレリアも、どうしようかと迷う。
「先に入って敵情視察しておいて下さい。あ、出来れば入口付近で待ってて下さると嬉しいです・・・すぐに見つけられるから」
心配させているのにお願いまで口にする自分にティーディアは心底ウンザリした。
ウンザリしているティーディアとは反対にサーラとレリアは「フフッ」と笑いだす。
「わかったわ。先に会場に入ってゆっくり今日のプランを練っておくわね」
「慌てなくて大丈夫よ。安全第一でゆっくり行くのよ」
サーラとレリアは馬車までティーディアを送ってくれた。
すぐに戻ってきた三姉妹に御者は驚いたがサーラが説明をしてくれた。
説明を聞くとすぐに馬車を走らせ屋敷に戻ってくれた。
城から遠ざかる馬車を見送りながらサーラが口を開く。
「ティーディアのカードを預かっておけばよかったわ」
「でもそんな事言ったら、子供扱いしてって怒るわよ。まあ、それも可愛いのだけれど」
レリアが苦笑しながら言う。
「さあ、それじゃあ私達は行きましょうか。可愛いお願いされたものね」
「フフッ。入口付近で待っててだって。もちろんだわ」
ティーディアを目に入れても痛くない程可愛がっている二人である。本人は自分の厚かましさにウンザリしていたが、義姉二人はお願いされて喜んでいた。
サーラとレリアは意気揚々と会場に入っていった。
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