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舞踏会への招待状

そんな怒涛の一週間が終わり、ティーディアがやっと本の続きが読めると思った矢先である。城から使者が来た。


『王主催の舞踏会を三日間、開催いたします。こちらはご令嬢が三人いらっしゃるとのこと。是非皆さまご参加くださいますよう。お待ちしております』と一人に一通ずつ王の紋章入りの封筒を手渡して帰っていった。


使者の言葉を訳すと―――王子と舞踏会でお見合いしまーす。十六歳以上の独身の令嬢は強制参加ですよ――

という事だ。令嬢は強制参加だが、貴族の子息も『(訳)あ、来たければどうぞ』らしい。


「面倒だわ。あら、見てこれ」

使者が帰った後でレリアが封筒を開け中身を広げた。一つは便せんで、使者が言った事と変わらない内容が書かれていた。残りはカード三枚で名前がフルネームでデカデカと書かれていた。名前の下に『参加の際はこのカードを門番に提出して下さい』と書かれている。


「つまり、これで出欠を確認するのね」

サーラが溜息をついた。


「お義姉様達は嬉しくないの?」


いつもパーティーやお茶会など喜んで参加するサーラとレリアの顔が、曇っている。


ティーディアは社交界に詳しくない。当然王太子も知らない。普通『王子』と聞くと喜ぶ――本の中ではその様に描かれているから――ものだと思っていたが、サーラとレリアの反応は違った。


「そうね、嬉しくはないわね。万が一、参加している殿方の目に留まって、嫁に来い、なんて事になったらティーディアと離れなくちゃいけないじゃない」


それに王太子は我が儘な俺様王子だという。とんでもないわね、とサーラとレリアが首を振る。


「お義姉様達は結婚しないおつもりなの?」

ティーディアが、ずっと不思議に思っていた事だった。二人ともタイプは違えど美人である。お年頃なのに、結婚話も婚約の話もなかった。

「まあ。そんな事はないわ。ティーディアに素敵な殿方が見つかったら私達も考えるわ」

今度は『うんうん』と笑顔でサーラとレリアは頷き合う。

「・・・・・私のせい?」

義姉達は(たまに義母も)ティーディアの事ばかりを優先しすぎて、自分達の事を蔑ろにしているのではないかと、いつも思っていた事を思い切って聞いてみた。


「まあ、違うわ。私達が好きでやっている事よ。ティーディアのせいなんて。そんな事はないわ」

「そうよ。ああ、そんな顔しないで頂戴。私達はただティーディアが可愛くてしょうがないだけなの」

サーラとレリアが交互に悲鳴の様な声を出し、オロオロと左右からティーディアを抱きしめる。


「・・・・・ティーディアは私達がお嫁に行っても寂しくないの?」

悲し気な声で上の義姉サーラが顔を覗き込んでくる。

サーラの問いに下の義姉レリアもジッとティーディアの顔を見つめる。


「・・・・・お義姉様達が結婚したら、家からは出て行ってしまうけど、今度は訪問する楽しみができるかなって」

ティーディアが九歳の時に家族が増えて、それから毎日楽しかった。だから、家族が増えるのは楽しい事だと

思っているとティーディアは言った。


ハッとサーラとレリアが息を飲み、気まずそうに顔を見合わせる。


「お義姉様達がステキな旦那様と幸せに暮らしていたら嬉しいし、赤ちゃんが生まれたら、きっととっても可愛いだろうなとか。よく想像したりして・・・」

そんな事を考えているのかと、呆れられたら恥ずかしいので段々と声が小さくなる。


「・・・・・私達、自分達がお嫁に行きたくないのを、ティーディアのせいにしていたのね」

「そうね、真面目に考えなかったわね・・・お嫁に行ったからってティーディアやサーラ姉様と会ってはいけないわけでもないし」

ほうっとサーラとレリアは顎に手をやり、ため息を吐いた。


それから、サーラとレリアは舞踏会の準備に少し前向きになった。少しなのは、王子がメインだから他の殿方は少ないだろうとの予測をしたからだ。

今まで『お見合い?結婚?あ~結構です』と話も聞いていなかったので、とりあえず出席してどんな人がいるのか見てみる事にしたらしい。

サーラとレリアが自分達自身の事を考えてくれる様になってティーディアも嬉しかった。


ティーディアも、王家からの脅しの様な招待状を貰ってしまったので渋々舞踏会への準備をする。


「ティーディア。どのドレスにする?この前作ったドレスが気に入らなければ新しく作るわよ」

自分達の事を少しは考える様になったとはいえ、サーラとレリアは相変わらずティーディアを気に掛ける。


サーラとレリアの問いかけにティーディアはフルフルと頭を左右に振る。

最近作ってくれた五着のドレスもその前に作ってくれたドレスも着ないと、義姉達に告げる。

それを聞いてサーラとレリアは悲しそうな顔をする。

その顔を見て慌ててティーディアは説明をする。


「お義姉様達が作ってくれたドレスはどれもステキだから。だから私は着ません」

きっぱりとティーディアが言うと二人は不思議そうに首を傾げた。


義姉達が作ったドレスはどれもステキだ。あの中のどれか一着でも着ればティーディアでもだいぶ化けるだろう(それぐらいステキだから)が、ティーディアは今回の舞踏会で目立ちたくない。記憶にも残らない空気の様な存在で参加したい、と義姉二人に訴えた。


「ティーディアは可愛いのに、どうしてなの?空気って・・・」

サーラが困惑してレリアに助けを求めるように視線を向ける。

二人とも『こんな機会はまたとない』とティーディアを着飾る気満々だったのだ。


「今回の舞踏会で殿方の目に留まりたくないからです」

殿方どころか、令嬢やスタッフの目にも留まりたくない。


自称普通のティーディアがそんな事になるはずはないが、何事にも念には念を入れて、目立たない装いで参加したいと熱弁する。サーラとレリアには言わないが、いちいち義姉達と比べてくる子息や(その一部はティーディアの気を引きたいから)義姉達を紹介して欲しいと言ってくる子息達にウンザリしているのだ。目立たなければ、絡まれる事もない。


「本当は舞踏会なんて行きたくないです。でもそれだと家に、お父様に迷惑がかかるでしょう?」


サーラとレリアはティーディアの目立ちたくない本当の理由を知らない。きっと自分達のせいでティーディアが迷惑していると知ったら、相手の子息達をとっちめに行く事だろう。


「・・・・・ティーディア。わかったわ。目立たないようにね。私達に任せて」

ティーディアは可愛い。だから目立たない様には至難の業だが、可愛い妹の頼みなら何が何でも叶えてやろうとサーラとレリアは気合を入れた。

評価、ブックマークして下さった方、ありがとうございます。嬉しいです。



読んでいただき、ありがとうございます。

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