番外編 レリアの誤算 その2
レリアはティーディアを巻き込んだ事を悔やんだが、やってしまったものはしょうがない。エアリオは一年は短いと言ったが、レリアにとっては長過ぎる。
まずは、ティーディアとエアリオを会わせないように、全力を注ごうと決意した。
だが、レリアの決意も空しく、この数日後にティーディアとエアリオは会ってしまった。
ティーディアが招かれた、ディーン・リザールの誕生日を祝う、ガーデンパーティで。
パーティーに出席したティーディアは、ルーファスを連れて帰宅し、そのまま父ブッファ伯爵と会い、二人は婚約した。
何がどうしてそうなったのか分からないが、ティーディアは嬉しそうだし、めでたい事だ。
姉妹三人でキャーキャー言いながら、パーティーでの出来事や、その後のカーバシア家での出来事を聞いていた。
一通り話し終えたティーディアが「そういえば・・・」と呟いてレリアを見つめた。
「レリア義姉様。今日のパーティーでエアリオ様に会いました」
ティーディアの衝撃の一言にレリアは固まった。
「なん・・なんで・・・何かされたの?」
「いいえ」
ティーディアがフルフルと首を左右に振り「エアリオに助けられた」と話し出した。
複数の子息に話しかけられ困っていたティーディアを、エアリオが助けたという。
その話を聞きながら、レリアは「ティーディアがエアリオに因縁を付けられなくて良かった」と安堵し、「エアリオ様もいいところがあるじゃない」と見直した。
だが、ティーディアの次の言葉にレリアは再び固まった。
「エアリオ様に、私の笑顔が世界一可愛いっておっしゃったのでしょう。それを聞いて私、とても恥ずかしかったわ」
もう、と頬を膨らませるティーディア。そんな顔も可愛いのだが、今のレリアの目には映らない。
「それでね。私の笑った顔をエアリオ様は見たのだけど、その事をレリア義姉様に伝えろっておっしゃったの。何の事だかレリア義姉様は分かる?・・・・・レリア義姉様?聞いてる?」
レリアはティーディアの話を聞いていたが、聞いていなかった。
(何故。何故。何故。数日前よ。それに、あんな怖い思いをしたのに、何故ティーディアは平気だったの・・・何故あの世界一可愛い笑顔を見せたの?)
ガーデンパーティーからの数日後、お茶会の招待状がレリアに届いた。いつもは王妃の名義だが、今回はエアリオ名義だった。
レリアが登城すると、満面の笑みを浮かべたエアリオが出迎えた。
(何よ!!その勝ち誇ったような顔は!!)
「レリア嬢。数日前に妹君に会ったのだが、話は聞いた?」
席に着くなり、エアリオは切り出してきた。
「ええ・・・妹を助けて頂いた様で。ありがとうございました」
「いや、それは当然だろう。レリア嬢の大事な妹君なのだから・・・そこで、その、レリア嬢の言っていた『世界一可愛い笑顔』を見たよ。それで、あの」
興奮気味に話すエアリオを、レリアは片手を挙げて制した。
「ええ。それも聞きました。それで、どうでした?世界一可愛い笑顔だったでしょう?」
「ん?・・・うん、確かに。レリア嬢が自慢した気持ちが分かるよ」
「そうですか・・・」
笑顔のエアリオが口を開く前に、レリアは言いたい事を言ってしまおうと、背筋を伸ばした。
「エアリオ様。お聞きしたい事があります。答えていただけますか?」
「は、はい。なんでしょう?」
レリアの圧力にエアリオは少しだけ怯んだ。
「私、結婚しても姉や妹に会いたいです。姉や妹に会えなくなる婚姻は無理です」
「う、うん。それは、会ったらいいのではないか・・・」
「私、ストレス発散に掃除をするのですが、禁止されると辛いです。ストレス溜まります」
「そ、掃除?!・・・えっと・・・自分の部屋ならいいのではないか・・・その様に侍女達に伝えておく」
「たまには私の方が甘えてもいいですか?」
姉御肌気質で気の強いレリアだが、結構甘えん坊だった。
「!!・・・・・はい、勿論。ま、毎日でも・・・いい」
真っ赤になったエアリオ。
「愛の言葉は惜しみなく毎日、言って下さい。態度だけじゃなく、言葉にして下さい」
「あ、い・・・・・・わ、分かった。毎日・・伝える」
増々赤くなるエアリオを見て、レリアは可愛いと思った。
(うじうじしていても始まらない。女は度胸だわ・・・よしっ)
レリアは立ち上がるとエアリオの横に移動し、ドレスを掴み膝を軽く折り、頭を下げた。
「エアリオ様、約束です。私、レリア・ブッファは、謹んでエアリオ様の申し出をお受けいたします」
エアリオは泣くのを堪えるような笑顔をしていた。
「ありがとう。レリア嬢・・・・・嬉しくて・・・私は幸せ者だな」
「エアリオ様・・・」
エアリオはレリアの出した事を全て守った。
お陰で夫婦仲はよく、四人の子宝に恵まれ、エアリオは生涯レリア以外の妃を持つことはなかった。
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