表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/27

ルーファスの暴走

その笑顔にエアリオが驚いた。

エアリオは、ティーディアが自分の事を怖がっていると思っていた。だから、笑顔を見せたティーディアに驚いていた。

「・・・私にも・・・・・笑顔を見せてくれるのだな」

「?」

「いや・・・レリア嬢が・・・・ティーディア嬢の笑顔は世界一可愛いと言っていたから。でも私にそれを向ける事は無いだろうと思っていたから・・・」

「あの・・・殿下?」

次の瞬間、エアリオは満面の笑みを浮かべてティーディアの手を、力強く握った。

「ありがとう!!ありがとう!!ティーディア嬢。この事は、しっかりとレリア嬢に伝えてくれ」

「え?え?きゃっ」


エアリオのご機嫌な様子にティーディアが戸惑っていると、今度は横から腰をグイっと引かれた。

「何をしてる。エアリオ」

ティーディアの腰を引いたのは、戻ってきたルーファスだった。


ルーファスはディーンに連れられて行った後も、ティーディアを気にしていた。

侯爵の前に着いた時に、振り返ってみたらエアリオと一緒にいるのが見えた為、慌ててティーディアの下へ戻ってきたのだ。


目を細め、低い声をエアリオに向けるが、エアリオは先程と変わらず満面の笑みを浮かべている。


「何って、ルーファスの代わりをしてたんだよ。お陰でいい事があった。それじゃあ、ルーファスも戻ったし、私は行くよ」

ニコニコと手を振って、エアリオは離れて行った。


「ティーディア嬢。大丈夫か?エアリオに、また何かされた?」

心配そうにティーディアの顔を覗き込むルーファスに、ティーディアはフルフルと首を横に振る。

「いえ、エアリオ殿下は、助けて下さいました」


ティーディアが説明するとルーファスは首を捻った。

「助けてくれたのはいいとして。去り際のソレは何だろう?よっぽど、ティーディア嬢の笑顔が見たかったのか?」

「レリア義姉様が、また変に自慢したのかもしれません・・・」

自慢の妹よ、と言ってくれるのは嬉しいが、外に向かって言われると恥ずかしいので止めていただきたいと、常々ティーディアは義姉二人に言うのだが、全く止めようとしてくれない。


「ああ、なるほど・・・」

ルーファスも何となく、その様子が目に浮かび苦笑する。


「だが・・・」

「ルーファス殿!!」

ルーファスが何か言う前に、その声はかき消された。

途端にうんざりしたルーファスと、何事かと驚いたティーディアが、振り返ると親子と見られる小太りの中年男性と派手なドレスを纏った令嬢がいた。


「・・・イサール侯爵」

ルーファスのうんざりした様子に気が付く事なく、イサール侯爵は嬉々として話し始めた。

「急にいなくなるから、探しましたぞ。ルーファス殿。是非、娘を紹介させていただきたい」

イサール侯爵はグイっと自分の娘を、ルーファスの前へ押し出す。


「この通り、我が娘は器量も良く。どうですかな。ルーファス殿」

娘自慢と、イサール侯爵家と縁続きになった時のメリットをベラベラと話し出す、イサール侯爵。


ルーファスは、ティーディアに回していた手に力を入れた。それによってバランスを崩したティーディアは、ルーファスの胸に、まるで縋りつくように手をついた。


「ええ。素敵なお嬢さんですね。ですが私には、この最愛の女性がおりますので」

「!!」

ルーファスの言葉に、ティーディアと侯爵、その娘が目を剝く。


「そ、それは・・・つまり・・・」

イサール侯爵は脂汗を浮かべている。


「ええ。彼女は、私の母ティレリアの一押しの女性で。私も彼女に夢中なんです」

ルーファスは、蕩けるような甘い笑みをティーディアに向ける。

対して、そんな事に慣れてないティーディアは、顔が引きつるのを必死で抑える。


ルーファスがその後も、イサール侯爵に何か言っていたが、ティーディアの耳にはさっぱり届いていなかった。

気が付いた時には、侯爵もその娘もいなかった。


「ティーディア嬢。ティーディア嬢」

「あ、ルーファス様?」

ぼぉっとしていたティーディアは、ルーファスと目が合い、途端に真っ赤になる。


「もう、帰ろう。話したい事がある」

だがルーファスは、そんなティーディアに気づかず歩き出す。


馬車で向かったのはブッファ家ではなく、カーバシア家だった。

ルーファスの書斎に向かう。


ティーディアをソファーに座らせると、ルーファスは座らず、ティーディアの前に片膝を突いた。


「まずは、謝罪を。イサール侯爵がしつこいので、勝手にティーディア嬢を利用してしまった。申し訳ない」

ルーファスが頭を下げるので、ティーディアは慌てて止める。

「や、止めて下さい。役に立ったのなら・・・よかったです」


ルーファスは態度をそれっぽくしただけで、ティーディアを婚約者だとか、はっきりと言ったわけではない。

相手が勝手に勘違いしただけだ。


ティーディアがそう言うと、ルーファスは顔を上げ、フッと笑う。

「そう、向こうが勝手に勘違いしただけだ・・・だけど、私は今、その勘違いを本物にしたい」


ギュッとルーファスが、ティーディアの両手を握り微笑む。

「ティーディア嬢。どうか、私と結婚して欲しい。私に、ずっとティーディア嬢と一緒にいられる許可を下さい」


突然のルーファスの告白に、ティーディアの頭は真っ白になった。


(え?何?いったい、何が?け、結婚?私が?)


ジッと答えを待っているルーファスに見つめられて、緊張しながらもグルグルと思考を巡らせていたティーディアの、最後に出てきた感情は嬉しいだった。

だから、纏まらない頭でなんとか言葉にしようと、ティーディアが口を開こうとした時だった。

笑顔のルーファスのこめかみに突然、青筋が浮かんだ。

その表情のまま小声で「ちょっと、待ってて」と囁き、音を立てずにドアに向かって歩き出す。

そして、勢いよくドアを開ける。


「あ・・・あら・・」

ドアの向こうにティレリアと、カーバシア家で最初に会った執事が立っていた。

どうやら、聞き耳を立てていたらしい。


「・・・何をしているんです」

笑顔のまま、怒っているルーファスにティレリアが、慌てて言い訳を始めた。


「ち、違うのよ。ティーディアちゃんが来たって聞いたものだから。挨拶にって」


ルーファスがティーディアを連れて帰宅したが、何やら真剣な面持ちで、そのまま書斎に行ってしまった。出迎えた執事と侍女がそれを見て「ただ事ではない」とティレリアに伝えた。ルーファスが帰宅してから、ティレリアに伝わるまで一分とかからなかった。「これは、まさか」と浮足立ったティレリアがじっとしていられるわけもなく、様子を探るために盗み聞きしていたのである。


そんなティレリアの後ろで援護するかのように執事も、うんうんと、必死に頷いている。

頷いていた執事だったが我慢できないと、ティーディアに向かって勢い込んで話しだした。

「失礼ながら、お嬢様。坊ちゃまは、大変優秀であり、将来も有望です。『変人』を差し引いても、お釣りがくるかと」

「おい。坊ちゃんはやめろ」

「そうよ、ティーディアちゃん。だから、安心して我が家にお嫁に来てちょうだい。それにね、ルーファスはこう見えて」

「・・・・・母上」

ルーファスの底冷えするような声にティレリアが、震え上がり「これ以上はマズい」と判断した執事に連れられて行った。


パタンっとドアを閉めるとルーファスは、ため息を吐いた。

確実に、今の二人によって台無しにされたと思ったからだ。

だが、ティーディアは「ふふふ」と笑っていた。


「ティーディア嬢?」

「ふふ・・・あ、ごめんなさい。ティレリア様も執事さんも、ルーファス様の事が大好きなのですね」


ティレリアも執事もルーファスの事を大切に思っているが、今はそんな事よりも、今まで、女性に興味を示さなかったルーファスが結婚まで考えるようになったという方が大事だった。

だから、なんとしてでもティーディアを逃すまいと、余計な事をしたのである。


「私と一緒になると、漏れ無くあんなのが付いてくることになるが・・・」

「楽しそうです・・・・・あの、ルーファス様。とても嬉しいのですが、私は、我が家は、伯爵家ですが大丈夫ですか?」

「何の問題もない・・・・・では、この話を進めてもいいのかな?」

「は、はい・・・よろしくお願いします」


「やった!!やったわ~!!」

ティーディアが答えた瞬間に、ドアの向こうからティレリアの歓声が響き渡った。


ルーファスは、再びこめかみに青筋を浮かべて、ドアを開けに行った。















































読んでいただき、ありがとうございます。


ブックマークありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ