今日もブッファ家は通常運転
「聞いてくれ。明日から仕事で隣国へ行く事になった。帰国は二週間後になる。そこでだが・・・お土産は何がいいかな?」
家族そろっての夕食時に父親のブッファ伯爵が家族を見回しながら言った。
「隣国というと・・・どちらかしら?砂漠の?それとも海の?」
伯爵夫人マリー・ブッファが美しい仕草で首をかしげて尋ねる。
この国は、二つの国に挟まれている。砂漠が大半を占める国と、海に三方を囲まれている国。ちなみにこの国は森が大半を占める国だ。
「砂漠の国だ。何がいいだろうか?あの国は女性が喜ぶ物が多いだろう?」
砂漠の国は、布や宝石・アクセサリー、日常使いの雑貨に至るまで女性好みの素敵なモノが多い。
「私は布がいいわ。エメラルドグリーンの布。それに金糸とビーズで刺繍をしてティーディアのドレスを作るわ」
上の義姉サーラ・ブッファが言った。
義姉二人はティーディアを可愛がるあまりに、ついにはティーディアのドレスまで自らで縫うまでになった。
ティーディアのクローゼットの中は全てサーラとレリアによる愛情たっぷりのドレスで溢れかえっている。
「まあ、じゃあ私は・・・エメラルドグリーンの布ならビーズじゃなくパールなんてどうかしら?あ、パールは海だったわね・・・」
下の義姉レリア・ブッファが言う。
「・・・・・お義姉様達。二人の欲しい物を頼んだら?」
何故か毎回こうなる。自分達の物ではなくティーディアの物を選ぶ義姉達。
「あら、欲しい物を選んでいるわよ。そうね、パールはいいわね。でも、う~ん、ドレスに合わせるアクセサリーはどう?銀細工の素敵なのがあったわよね?」
サーラがティーディアに答えてさらにレリアに話を振る。「まあ、素敵」と、はしゃぐレリア。
「ティーディアは装飾品なんかはいいの?」
マリーが美しい笑顔を向けてくる。
「興味がありません。お義姉様達みたいに似合わないし」
ティーディアは静かに首を振る。
上の義姉サーラは優しさの溢れ出ている癒し系の美女で、下の義姉レリアはハッキリとした顔立ちの正統派美人である。また、義母マリーは知的な美人である。凛とした美しさである。
それに対してティーディアは自分の顔は普通だと思っている。
いや、実際に同年代の男の子達に義母と義姉達は美人なのにお前は不細工と言われた事が度々あった。三人と並ぶと見劣りするがそこまで不細工とは思っていない、いや思いたくないので「自分は普通」と思っている。
あくまで本人がそう思っているだけで、外では美人三姉妹、美人揃いのブッファ家などと呼ばれている。もちろん、この事はティーディアは知らない。
それに、ティーディアは殆ど社交の場に出ない。年々、人見知りが悪化しているからだ。
なので、アクセサリーを貰っても付けて行く所もないので、宝の持ち腐れになるのである。
「お父様・・・私は本がいいです」
「本か。決まった物があるなら題名をメモしておいてくれ。ないならジャンルを」
父親もいつもの事なので、無理に義姉達と同じものを勧めたりはしない。
次の朝、家族からお土産メモをしっかり渡されブッファ伯爵は隣国へ旅立った。
今日もブッファ家は通常運転だった。
父親が仕事で二週間留守だった間ブッファ家は、変わった事もなく穏やかだった。
サーラとレリアは「あーでもない、こーでもない」とドレスのデザインを出し合い、改良していた。義姉二人からノーマークになったティーディアは今度はマリーにマークされた。買い物に連れ出されたり、知り合いのお茶会に連れて行かれたり、少しだけ着せ替え人形のようになったり。悪意はなく、ただただ可愛がっているだけなのを知っているだけに、本当はゆっくりと本を読みたかったが、『親孝行』と思ってティーディアはマリーに付き合った。
「ふふっ。たまには二人きりもいいわよね。今度はサーラとレリアも一緒に来ましょう」
いたずらっぽく微笑む美しい義母に『たまにはいいか』とティーディアは思った。
あっという間の二週間。父親が帰国した。
お土産を渡されたサーラとレリアは、とんでもなく興奮した。
「素敵!!さすがだわ、お義父様」「まあ、これも素敵。ティーディアにピッタリよ。ありがとう、お義父様」
口々にお礼を叫ぶサーラとレリア。
そして、お土産を抱えて自室へダッシュして行く。すぐに、ティーディアのドレスを縫うのだ。もう、夜だというのに。
興奮したサーラとレリアが去り静かになった部屋で、今度はティーディアが父親にお礼を言って本を抱えて部屋に帰った。
ティーディアは二日間、平和に読書が出来た。
その後は、仮縫いだの、本縫いだのとサーラとレリアが作ったドレスを試着する事で、一週間が終わった。出来上がったドレスは何故か五着だった。
父親はお土産にと頼まれたエメラルドグリーンの布を義姉に渡していた。なのに、エメラルドグリーンのドレスの他に、淡いイエローのドレス、大人っぽいブルーのドレス、上品なブラウンゴールドのドレス、華やかなオレンジのドレスを作り上げた。
サーラとレリア曰く『ティーディアのドレスを考えていたら、あんなのも、こんなのもってドレスが浮かんできちゃって、だから作っちゃった』と満面の笑みで言われてしまった。
令嬢なのにとんでもなく裁縫スキルの高い義姉達の作品はどれも一級品である。着る事には若干の抵抗があるが、芸術品として眺めて見るのは好きだった。
なにか苦情でも言うとこちらがビックリするほど落ち込むので、ティーディアは有難く頂戴した。
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