ルーファスお供を買って出る
「招待状といえば・・・最近、我が家にもたくさんくるわね」
ティレリアが溜息を吐く。断りの返事を出すのが大変なんだという。
「ティレリア様は人気があるから、大変ですね」
レリアが気遣うように言うと、ティレリアは首を左右に振った。
「私への誘いではないの。ルーファスへよ」
「ええ!!」
ラウズとレリアが同時に叫ぶ。
しかし、当事者のルーファスは興味なさそうな顔でいる。
「前はそんなになかったの。でも舞踏会のあった日から、急に増えたわね・・・・・本人はちっとも興味ないみたいだけど」
早く孫の顔が見たいティレリアはがっかりした顔をルーファスに向けるが、向けられたルーファスは素っ気ない。
「興味ないですよ。研究で忙しいし」
「『変人』と呼ばれてた次期公爵がなかなかのイケメンと分かって群がってきたんだな」
ラウズは「やれやれ」と自分の事のようにうんざりした顔をする。
現在婚約者ナシでイケメンの次期公爵。そんな超優良物件にお年頃の令嬢達が寄ってこないわけがない。
「あら。でも、ブッファ家もすごいのでしょう?ね?」
ティレリアがにっこりと微笑で、ティーディアに話を振る。
話を振られてもなんの事かが分からないティーディアは、レリアに視線で助けを求める。
「・・・ええ。舞踏会の日からティーディア宛てが急に増えて・・・毎日たくさん、きてます」
レリアもうんざりしながら答える。
ティーディアは自分宛てに誘いがきている事を知らなかった。なので、目を見開いてレリアを見つめた。
「私に?お義姉様達ではなくて?」
もちろんサーラとレリアにもお茶会の誘いや婚約者にとの打診の手紙はたくさんきている。だが、それを上回る数の手紙がティーディア宛てに届いていた。この手紙を毎日、マリーとサーラとレリアで捌いていたが、ティーディアには知らされていなかった。
「まあ。ルーファスが全然役に立ってないわね」
あらあら、と苦笑するティレリアとムッとした表情のルーファス。
「いえ、そんな事は。やんわりと、ほのめかしてお断りしてますので。ただ、昨日届けられた、リザール公爵家の招待はお断りできなくて・・・」
ほとほと困っています、とレリアは告げるが、リザール公爵の招待より、ルーファスをほのめかしに使っている事にティーディアは驚いた。
「リザール家・・・ディーンか。そういえば、もうすぐ誕生日だったな」
ぽつりと、ルーファスが呟く。
招待状は、ディーン・リザールの誕生日を祝う、ガーデンパーティだった。
このリザール公爵家は先王の弟の孫で、ディーン・リザールとルーファスは、又従兄弟になる。
年が近いこともあり仲も良かった。
現在ティーディアの一つ上の子息がディーン・リザール。
ディーンは、容姿端麗、頭も良く、人当たりもいい上に次期公爵と、令嬢達に大人気の超優良物件である。
「ティーディア嬢。よければ、私が一緒に行こうか?ディーンとは仲もいいし、ティーディア嬢に不快な思いはさせないよ」
「あら。いいじゃない。ルーファスが一緒なら、ティーディアちゃんもレリアちゃんも安心でしょう?」
「それは・・・」
ティーディアは答えに詰まった。
ティーディアにとっては、有難い申し出だが、ルーファスには迷惑な話だ。
そんな、ティーディアの心情を見透かした様に、ルーファスはティーディアを見つめる。
「迷惑とは思ってないよ。私もディーンの誕生日を祝いたいし、一人で行くのは退屈だしね」
結局、ティレリアの後押しと、レリアが「是非、お願いします」と、承諾してしまった事により、リザール家には、ルーファスと行く事になった。
それまで、やり取りを見ながら首を傾げて黙っていたラウズが、口を開いた。
「ルーファスへの誘いはともかく。ティーディア嬢宛てに送るやつはすごい度胸だな・・・」
「どういう意味ですか、ラウズ様?」
レリアが「こんなに可愛い妹なのだから、当然誘いはいっぱいくるに決まっているでしょう」と顔に書いて尋ねる。
「だってさ、次期公爵の恋人を狙うってすごくない?ティーディア嬢は可愛いけど、ルーファスにバレたら、と思うと・・・ルーファスもカーバシア公爵家も敵に回したくないよ」
ラウズは「そうでしょ?そう思わない?」とレリアに返す。
ラウズの言葉に一同はポカンとする。
ラウズはルーファスとティーディアがワケがあって一緒に舞踏会に出ていた事を知らない。
その上ルーファスの部屋でイチャついている(ラウズにはそう見えた)二人を見ていたので、二人は恋人同士なのだと思っていた。
「・・・ラウズ・・・ティーディア嬢は俺の恋人ではない・・・」
「え?・・・・・ああ、婚約したの?なんだよ、教えてよ!!今まで、女に興味ありませんみたいな顔をしといて」
ブツブツとラウズがルーファスに文句を言う。
「・・・ラウズ・・・・・・・・俺に婚約者はいない」
「ええっ!!・・・」
「ラウズはルーファスとティーディアちゃんがそういう関係だと思ったの?」
ティレリアが、二人のやり取りに笑いを堪えながら、言う。
「いや・・だって・・・あんな、舞踏会でのルーファスを見たら、そう思いますよ・・・・・あ、ということは」
ラウズはティーディアに向き直る。
「ティーディア嬢には婚約者はいないの?」
「ラウズ様。妹に手を出そうとするなら」
すかさず、レリアが立ち上がり抗議する。
「ち、違うよ。私は違う」
ラウズはレリアの気迫に押されてタジタジになる。
そんなラウズを正面から睨みつけながら「おや?」とレリアは思った。ラウズがイケメンだったからだ。
何度か顔を合わせているのに、今やっとその事にレリアは気づいた。
(爽やか系のイケメン。舞踏会の時は王太子相手に、ティーディアを守ってくれた。身体は細身だが、姉サーラを軽々と持ち上げた事から、しっかりと筋肉が付いているのだろう。そういえば騎士団所属と言っていた。確か次男とも。となれば、ブッファ家に婿に入ってくれるだろう。む。という事は格上過ぎるルーファス様よりラウズ様の方がティーディアには良いのではないか・・・)
じっとラウズの顔を見つめながらレリアがそんな事を考えていると、ティレリアがハッとして慌ててレリアに叫んだ。
「だめ!!だめよ!!ティーディアちゃんはカーバシア家にお嫁に貰うんだから!!」
「え?」
その場にいた全員が驚いてティレリアを見た。
「あっ!!・・・えっと、違うのよ。その・・・」
ティレリアが慌てて言い繕うが、言葉にならない。
「ティ、ティレリア様。お茶でも、お茶でも飲んで、お、落ち着いて下さい」
何故かそこにレリアまで参戦し、二人でワーワー言いだした。
「お前・・・婚約者でも、恋人でもない令嬢にあんな事してたのか・・・」
ラウズが、先ほど見た場面と前回の見た場面を思い出し、ボソッと呟き、呆れた顔をルーファスに向ける。
ティーディアはギョッとして、レリアに目を向けるが、ラウズの声が小さかった事と、今もワーワー言っていた為、聞こえていなかった。
読んでいただき、ありがとうございます。
ブックマークありがとうございます。




