エアリオの謝罪
次の日、ルーファスの迎えで午前中に登城した。
案内された部屋に入ると、緊張した顔の王太子エアリオと王妃が待っていた。
ティーディアとレリアが礼をとろうとすると、王妃から必要ないと制された。
「本来なら私から出向かなければならないのだが、このような形ですまない」
エアリオは呼びつけた事を謝罪し、ティーディアに一昨日の行為を謝罪した。舞踏会で騒ぎを起こした人とは思えないほど、しおらしい態度だ。
続いてレリアに謝罪し、レリアが謝罪を受け入れると、バラの花を一輪差し出した。
突然差し出されたバラにレリアが困惑していると、エアリオはティーディアに顔を向けた。
「ティーディア嬢にもと思ったのだが、ルーファスがいるのに花を贈るのはマナー違反かなって・・・」
エアリオはティーディアの横に控えるルーファスにチラチラと視線を向けながら、モゴモゴと言う。
要するに『恋人がいるのに、他の男が花を渡したらまずいでしょ』と言ったのだが、言われた本人達は理解していなかった。
レリアが困っていると、ずっと黙っていた王妃が口を開いた。
「レリア嬢。その花はエアリオが丹精込めて育てたバラなの。貰ってくれたら嬉しいわ」
王妃の言葉を聞いて、レリアはバラを受け取った。エアリオが嬉しそうに顔をほころばす。
その様子をティーディアは呆気に取られたまま眺めていた。
態度の違いもあったが、これはまるで――。
その後ルーファスが退室の言葉を口にすると、エアリオは名残惜しそうにしていた。
昨日のカーバシア邸で翌日の登城を決めた時に、ティレリアから「厄介な事が終わったら一緒にランチをしましょう」と誘われていた為、そのまま三人でカーバシア邸に向かった。
エアリオとの謁見でぐったりと疲れたティーディアとレリアだったが「待ってたわ~」と満面の笑みで出迎えてくれたティレリアに気持ちが軽くなる。
四人でランチを楽しんだ後、ティーディアは本を借りるためルーファスの書斎に向かった。
昨日借りた本がまだ読み終わっていなかったので、今日は借りる気はなかったのだが、やたらとティレリアとレリアに促され、しまいにはルーファスからも「遠慮なくどうぞ」と勧められたので、厚かましくも借りる事にした。
「ルーファス様。この綺麗な表紙の本は何ですか?」
ルーファスの部屋に入ると、机の上に分厚く大きく綺麗な装飾を施された本が置いてあり、ティーディアは興味をひかれた。
「これかい?これは図鑑だよ。昆虫図鑑」
ルーファスがティーディアへ「どうぞ」と図鑑を差し出してきた。
昆虫と聞いて一瞬怯んだティーディアだったが、自分から話を振ったのに嫌とは言えず、重たい図鑑を受け取りパラパラとページをめくってみる。
図鑑は説明と共に丁寧に昆虫が描かれている。昆虫は苦手だったが、絵は綺麗な色使いのものが多かった。
「ルーファス様。これ。こんな綺麗な蝶が本当にいるのですか?」
黒い羽根に瑠璃色の宝石の様にキラキラした模様をもった絵が描かれている蝶のページに、興奮しながらティーディアはソファーに座ったルーファスに尋ねる。
「どれ?・・・ああ、西の森に生息しているよ。今の時期はよく見かける」
「綺麗ですね・・・初めて見ました」
「そうだね。蝶は綺麗なのが多い」
ルーファスはティーディアの腰に手を伸ばし、引き寄せると、ヒョイッと自分の膝の上に座らせ、後ろから抱きしめる様な形でティーディアに腕を回す。
「!!・・・っ・・・・・あ、あの・・・」
ティーディアは突然の事に慌てるが、ルーファスは気にした様子もなく、ティーディアの膝の上に乗っている図鑑をパラパラとめくっている。
「ああ、あった。見てごらん。これが世界一美しいと言われている蝶だよ。残念ながらこの国にはいないのだけれどね。あ、この蝶は」
ティーディアが顔を赤くして固まっている事に気が付きもせず、ルーファスは楽しそうに蝶の説明を続けている。
(なぜ、お膝の上に?ルーファス様はなぜ普通にしてらっしゃるの?・・・・)
「お~い。ルー・・・ファ・・・ス・・・・・」
昨日と同じくラウズがノックもせずドアを開け、部屋の中の二人を見て慌ててドアを思い切り閉めた。
「ん?ラウズか?」
のんきな声を出しながら顔を上げたルーファスに、ティーディアが恥ずかしくて小声で抗議する。
「ルーファス様・・・お、降ろしてください」
ティーディアの訴えに、そこでようやくルーファスは自分の、自分達の状況を把握した。
「・・・っ、す、すまない。弟達にやる癖で。失礼した」
慌ててティーディアを自分の隣に降ろすと、ドアに向かう。
ドアを開けると、昨日と同じくしゃがみ込むラウズがいた。
「・・・おい、ラウズ」
ルーファスがためらいがちに声をかける。昨日と違って気まずい。
ルーファスの呼びかけにラウズがノロノロと立ち上がる。
「・・・・・何してるんだよ。破廉恥野郎」
ラウズは顔を赤くして、小声でルーファスに悪態を吐く。
ルーファスは言い返せず「ゴホン」と咳払いをすると「で?何しに来た?」と話題を変える。
「ブッファ邸に使いを頼まれたんだ。でも、その前にルーファスのところへ寄り道・・・・・」
ラウズは赤い顔をしたまま、ティーディアから顔を逸らしながら、部屋の中へ入り向かいのソファーへ座る。
とんでもない場面を見られて、恥ずかしかったティーディアだったが「ブッファ邸に使い」と聞いて、何事かとラウズの方へ身を乗り出す。
「ラウズ様。使いとは、何ですか?我が家に何かあるのでしょうか?」
「え・・・いや、私も手紙を託されただけだから・・・」
内容は知らない、とラウズは頭を振る。
「ブッファ家じゃなくて・・・レリア嬢宛てだよ」
あまりにも心配そうな顔のティーディアを見て、ラウズがボソボソと答える。
「誰からだ?」
レリアの名前を聞いてルーファスが眉間に皺を寄せる。
「・・・・・王妃様」
なぜ王妃がレリアに、と不思議に思いルーファスとティーディアは顔を見合わせる。
「レリア嬢なら今、母上とお茶をしている。部屋に行こう」とルーファスがティーディアも連れてティレリアの部屋へ向かった。
ラウズが訪問した理由を述べ、レリアに手紙を渡すと、ティレリアが「何?なんて書いてあるの?」と興味津々で急かす。そんなティレリアをルーファスが「母上。お止め下さい」と窘める。
「ええっと・・・お茶会のお誘いです・・・」
手紙には、レリアと二人で是非お茶を楽しみたいと書かれていた。
めんどくさそうな顔をしたレリアだが、王妃の誘いを簡単に断れず、渋々承知した。
良い返事がもらえて、ラウズも安堵した。
読んでいただき、ありがとうございます。
誤字報告ありがとうございます。
ブックマーク・評価、ありがとうございます。




