面倒な招待状
ルーファスの広い書斎は作業場と一体になっていて、図書室の中に沢山のハーブが混ざった様な独特な匂いが立ち込めていた。
「物語はこの辺だ。ん~、ティーディア嬢が読んだ事のない物があればいいが・・・」
好きに手に取ってと言うと、ルーファスは部屋から出ていった。
本が読めるのは嬉しいが、ルーファスが出ていってしまった事が寂しく、ティーディアはしょんぼりとした。
(やっぱり、お邪魔だったのかしら・・・)
本棚を見つめながら悶々と考えていると、トレーを持ったルーファスが戻って来た。
サンドイッチの載ったお皿に、カップが二つとポット。それから、お菓子の載ったお皿。
ティーディアはルーファスのそばへ移動する。
「ここへ、どうぞ」
ルーファスの座ったソファーの隣を手で示され、ティーディアはそこへちょこんと座った。
「お昼がまだで、おなかが空いていたんだ。食べるかい?」
サンドイッチを差し出してくるが、それを断りお茶をもらう。
「お出かけだったのですか?」
「うん?ああ、昨日の苦情を王様にね」
ルーファスは、昨夜の舞踏会のエアリオの王太子としてあるまじき行為を、朝一で王に報告に行った。
話を聞いていく内に、王は頭を抱えだした。そして、レリアに手を上げようとしたと告げると、王妃が王の部屋へ乱入してきた。朝一でルーファスがやってきたのを見つけ、何事かと部屋の外で盗み聞きしていたらしい。幸いラウズが庇い、ルーファスが止めたのでレリアは叩かれなかったが『令嬢に手を上げようとした』という事実が王妃の逆鱗に触れたらしく、ルーファスに確認を取ると、物凄い殺気を放ちながら部屋から出て行った。
「あれは相当王妃様からお叱りを受けると思うよ」
ルーファスはクックッと笑いお茶を飲む。
「ああ、そうだ。額の傷は治ったかい?ちょっと失礼」
言うが早いか、ルーファスがティーディアの前髪をかきあげる。
「ああ、よかった。綺麗になったね」
「ま、毎日、頂いた薬を塗ってましたから。ありがとうございました」
ルーファスが自分に触れているのが恥ずかしくて、ティーディアは顔を真っ赤にした。
「そう。役に立ってよかった。ん?・・・顔が赤いな?熱でも?」
そう言うとルーファスはティーディアの額に自分の額を付ける。
「‼‼‼」
「おい、ルーファス。誰・・・か・・・き・・・」
突然部屋のドアが開き、ラウズが部屋に入ろうとして固まる。
「えっ・・・あ・・・・・は・・破廉恥!!」
バンッと大きな音を立ててドアを閉め、ラウズは顔を両手で覆ってその場にしゃがみ込んだ。
ラウズはカーバシア家に、普段から頻繁に遊びに来ていた。いつもエントランスで執事に挨拶をすると、案内は付けず一人でルーファスの部屋まで来ていた。ついでに、毎回驚かしたいという理由から部屋のノックをすることなくドアを開けるのもラウズのいつもの行動だった。大概は机に向かって実験していたり、調べものをしているルーファスの姿があるのだが。
「まさか、親友のラブシーンに出くわすとは・・・」
ラウズが見たものは、熱を測る為に額を付けたルーファスとティーディアだったのだが、ラウズの目には、今にもキスをしようとしていたルーファスとティーディアに映ったのだった。
一方、部屋の中ではルーファスとティーディアが額を付けたままだった。
「・・・ラウズが見えた気がしたが・・・気のせいか?」
「・・・私も見た気がします・・・」
お互いに見つめ合って「プッ」と吹き出す。
ルーファスは立ち上がり、ドアを開ける。すると、目の前に、うずくまったラウズが現れた。
「何してるんだ?破廉恥ってなんだ?」
「うわっ・・・・・いや、違う。邪魔するつもりは・・・」
モゴモゴと赤い顔で呟くラウズの腕を取り、立ち上がらせ部屋に引きずり込む。
「こんにちは、ラウズ様。あの、誤解です。熱を測っていただけです」
ティーディアはラウズに説明しながら、自分でもあんな場面を見たら誤解するだろうなと思った。
「ああ・・・そう。うん、そう・・・だよね・・・」
目線を彷徨わせながら、自分に言い聞かすように呟くラウズ。
「で、何しにきたんだ?」
ルーファスは動揺しているラウズを無視して、要件はなんだと迫る。
そこでようやくラウズが正気に戻った。「殿下から」と短く告げ、ルーファスに封筒を渡すと、ティーディアの向かいに座って脱力した。
受け取ったルーファスは眉間にしわを寄せると、ティーディアの隣に座り手紙を読んだ。読み終わると、その手紙をティーディアに渡してきた。驚くティーディアに「構わないから、読んで」と促した。
エアリオからの手紙の内容は、ティーディアとレリアに謝罪がしたいというものだった。ただ、王太子である自分が出歩く事が出来ないので、ルーファスが、二人を連れて城へ来てくれないか、と書かれていた。
「何を考えているんだ、あのバカは」
「いや。ちゃんと反省しているようだったよ・・・・・だいぶ王妃様に絞られたみたいで」
ルーファスの話を聞いた王妃は、直ぐにエアリオの下へ向かった。王妃の怒りは凄まじかったらしく、エアリオは長々と説教された。
その後にエアリオはラウズに謝罪をしてきた。そして、ティーディアとレリアに「直接謝罪したいのだが、どうしたらいいか」と助言まで求めてきたという。
「あの傲慢で、無駄に訳の分からないプライドの高い、エアリオがか?・・・・・信じられん」
今までもルーファスを始め側近達が、散々注意しても効果がなく、俺様王太子になってしまっていただけに、この話にルーファスは目を見張って驚いた。
エアリオからの手紙を手に、ルーファス達三人はティレリアのお茶会の場へ移動した。
「あら、ラウズ。いらっしゃい」
礼儀正しい礼をして部屋へ入ってきたラウズに、ティレリアが嬉しそうに笑った。
ルーファスがティーディアの耳元で「ラウズは母のお気に入りなんだ。見た目だけはいいからね」と呟いた。
その言い方が拗ねているようで、思わずティレリアは「フフッ」と笑ってしまった。
そのまま、ラウズもお茶会に同席させて話をしようとするティレリアをルーファスが制止し、エアリオからの手紙の内容を伝える。
「あら。珍しい事もあるのね」
日頃のエアリオの傍若無人な態度を知っているティレリアが、フフッと可笑しそうに笑う。
マリーとサーラは曖昧な表情を浮かべ、レリアは面倒くさそうな顔をした。
「とても反省されていて・・・その、面倒だとは思いますが、王太子を立てると思って」
ラウズがレリアの表情に断られては大変と説得にかかる。
「フッ・・・レリア嬢。ここは手紙を運んだラウズの顔を立てて、一緒に登城してくれませんか?」
ルーファスはラウズの様子に吹き出すと、あたふたしている友人を援護した。
「あ、そうか。断ったらラウズ様にも迷惑がかかるのですね・・・・・」
むぅ、とレリアは唸り、最終的にはルーファスも一緒だという事で頷いた。
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