お茶会
次の日。また、ティーディアは寝坊した。決まった時間に起きられない自分に腹が立った。ふくれっ面で食堂に向かうと、マリーがお茶を飲んでいた。
「おはようございます。お義母様。また、寝坊しました」
「フフッ。おはよう。そんな顔しないで。真面目なんだから、ティーディアは」
マリーはティーディアを待っていてくれたようだ。ティーディアが朝食を食べている間、マリーもお茶を飲み食事に付き合ってくれた。
朝食を食べ終えると、マリーは美しい笑顔でティーディアに言った。
「今日はいつもより少しオシャレしましょうね」
「え?」
「さあ、時間がないわよ」
状況を呑み込めないティーディアをマリーは部屋へ引っ張って行く。部屋の中ではサーラとレリア、侍女が待機していた。
(んん?なんだか前にもこんな事が・・・・・)
サーラとレリアの指示の下、侍女達がテキパキと作業する。それを少し離れてマリーが見守っている。
そんなマリーにティーディアは助けを求める。
「お、お義母様・・・何事ですか?」
「フフッ。今日はお茶会にお呼ばれしているの。その準備よ」
その言葉にティーディアの気持ちはどんよりとした。このところ慌ただしかったから、今日はゆっくりと本を読みたかったのだ。それに、お茶会もあまり好きではなかった。
ティーディアは楽しそうなマリー達を尻目に馬車に乗り込むと、何故か侍女頭とティーディアのお付きの侍女が一緒だった。二人はティーディアと目が合うと恥ずかしそうに「本日は私達もご一緒します」とモジモジした。
着いた先のお屋敷を見れば「なんだか、見た事がある・・・」と思ったティーディアだったが、屋敷に入ってすぐに「いらっしゃ~い」と満面の笑みのティレリアが現れ驚いた。
(カーバシア家だったのね・・・)
「さあさあ、こっちよ」とウキウキしているティレリアにせかされ、席に着く。
「本日はお招きありがとうございます」
マリーが代表して挨拶をする。
「もう、マリーったら堅苦しいわ。皆さん楽にしてね。今日のお茶会を楽しみにしてたの」
母を『マリー』と呼ぶティレリアに三姉妹は驚き、マリーは苦笑していた。
「奥様・・・」
舞踏会の初日に支度をしてくれたカーバシア家の侍女頭が、ウズウズした様子で割って入った。
「あら、いけない。そちらのお二人がブッファ家の侍女さん達ね。今日はよろしくね。我が家の侍女達もとても楽しみに」
「奥様!!」
長々と話し出そうとするティレリアを遮って、侍女頭はブッファ伯爵夫人に向き直る。
「ブッファ伯爵夫人。この度はこのような機会を頂きありがとうございます。早速ですが、お二人をお借りします」
「ええ。二人をよろしくお願いしますね」
マリーが頷くや否や、カーバシア家の侍女頭は興奮気味にブッファ家の侍女二人を連れて部屋から出て行った。
ブッファ家の侍女二人が付き添ってきた理由を知らなかったのは、ティーディアだけだった。そんなティーディアの不思議そうな顔を見てティレリアが説明してくれた。ブッファ家流の掃除を教わるのだという。
「もう、皆興奮しちゃって。朝からお祭り騒ぎだったのよ」
ティレリアが可笑しそうに言う。
それから話はティレリアがブッファ家の四人に質問攻撃をする展開になった。
嬉しそうにあれや、これや、聞いてくる。
「まあ。ティーディア嬢は本が好きなの。ルーファスもね、本が大好きで、とてもたくさん所蔵しているのよ」
「そういえば、今日はルーファス様はご不在ですか?」
レリアがティーディアを横目に見ながら尋ねる。
「ええ。もうすぐ帰ってくると思うのだけれど」
ティレリアが言い終わったその時、トントンとドアがノックされた。
「どうぞ」
部屋に入ってきたのは、たった今噂をしていたルーファスだった。
「ブッファ家の皆さん。ようこそ我が家へ。母が皆さんを困らせていなければいいのですが・・・」
「まあ。母に向かってなんです。だいたい貴方は・・・・・ルルーのチョコ!!」
小言を言いだしたティレリアの目の前に、ルーファスがティレリアお気に入りの店のチョコレートの箱を差し出すと、途端にティレリアは機嫌を良くした。そんな母親を尻目にティーディア達に「ごゆっくり」と会釈をし、ルーファスは部屋を出て行こうとした。
「あの、ルーファス様」
レリアがルーファスを呼び止める。
「はい。なんでしょう?」
「ルーファス様はたくさん本をお持ちだとか」
「ええ、まあ。さまざまなジャンルの本を、持ってますよ」
「ティーディアは本が大好きなんです。よかったら、ルーファス様のお持ちの本を、ティーディアに見せていただけないでしょうか?」
ティーディアは「何を言い出すのか」とレリアに驚くが、話を聞いて本を見てみたいという誘惑もあった。
「ああ。そういえば、初日の馬車の中でもそんな話をしていたね。ティーディア嬢、見に来るかい?」
ティーディアは「はい、是非」とコクコクと頷く。
「お邪魔ではありませんか?」
ティーディアが立ち上がろうとしたその時、マリーがルーファスに尋ねた。
ルーファスは「いいえ。全然」と笑顔で返し、レリアが「大人達の話なんてティーディアにはつまらないわよね」
と後押しした。さらに、ティレリアが「面白い本が無かったら、スグに戻ってらっしゃいな」と笑顔で送り出してくれた。
二人が出て行くとティレリアが、ニヤリと笑ってレリアを見た。
「レリアちゃん。今の貴方の言動を見ていると、私と同じ考えなのかしら?」
「同じ?・・・・・・はっ。まさか、カーバシア公爵夫人」
途端にティレリアはプッと頬を膨らませて、レリアの言葉を遮る。
「嫌だわ。公爵夫人だなんて。ティレリアと呼んでちょうだい」
「はい、ティレリア様。それで、ティレリア様はティーディアとルーファス様を・・・」
最後まで言わず言い淀むレリアにティレリアは「ええ」と笑顔で頷く。ティレリアは仲間が出来て嬉しかった。しかし「でもね・・・」と先日のマリーとのやり取りを話した。
話を聞き終わると信じられないと、レリアがマリーに抗議した。
「まあ、お母様。甘いわ。ティーディアは自分の事にとても鈍いのよ。こっちが指摘してあげないと一生気が付かないわよ。ねえ、お姉様」
ティーディアをからかってくる子息や、義姉の情報を聞き出すフリをして近づいてくる子息達は、ティーディアに好意を寄せているのだが、それに対して本人は全く気が付いていない状態だ。
「ええ。それに、あの日ルーファス様がいらした日にそんなやり取りがあったなんて」
あの日とは舞踏会二日目の朝の事。
ルーファス様がティーディアにした事を他の女性にもしていると思い、嫉妬した日の事。サーラとレリアは初耳だった。
「お姉様達から見て、妹さんのお相手にうちの子はどうかしら?」
問われて、サーラとレリアは顔を見合わせて笑い、ティレリアに顔を向ける。
「最高だと思います」
レリアが答え、サーラが頷く。
「どう?マリー。ティーディア嬢が嫌って言ったらスグ引くから。もうちょっとお節介してもいいでしょ?」
ティレリアが両手を組み少女のような顔でマリーに懇願する。
その様子にマリーは苦笑しながら「強引なのはダメですよ」と念を押した。
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