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舞踏会での出来事 その2

少しおちゃらけるように言ったラウズだが、ティーディアの背後に視線を移すと、すぐに顔をこわばらせた。

ラウズの顔を見て何事かと、ティーディアは振り返った。そして、ティーディアも顔をこわばらせた。


そこには、獲物を狙う鷹のような目をした王太子エアリオ・テルウトがいた。

「こんばんは。お美しいお嬢さん。私と一曲踊っていただけますか?」

言葉使いこそ丁寧だが、拒否することを許さない態度で、ティーディアに手を差し出してくる。


その手が差し出されると同時に、ティーディアは一歩後ろへ下がった。

この舞踏会は王太子のお相手を見つけるために、開催されたのだ。この手を取ってしまえば、エアリオの相手になりますと宣言するようなものである。


「エアリオ様っ」

咄嗟にラウズがティーディアを庇うように、前に出て背中に隠した。


「・・・・・ソフラート・・・か。邪魔だ、どけ」

エアリオはギロリとラウズを睨みつけ、冷たい声で命令する。


「・・・っ」

ラウズの立場からは命令に背くわけにはいかず、かと言って、親友から任されたのに簡単に譲ることもできず、苦しい顔でただ突っ立った。エアリオに睨まれながらラウズは頭をフル回転させる。


(こんな時間によっぽどの事がない限り、王がルーファスを呼びつける事などない。加えてルーファスを連れて行ったのは第二騎士団。第二騎士団は王太子の直轄。王が呼ぶのなら近衛騎士の騎士団長を使うだろう。

ルーファスもそれがわかっているはず。なら、もうしばらくしたら戻ってくるはず)

ラウズはそう考えてなんとか時間稼ぎをしようと思案する。



「ティーディア!!」

ラウズがなんとか身を挺して時間稼ぎをしていると、サーラとレリアが慌てて駆け寄ってきた。

サーラがティーディアに抱きつき、レリアはラウズよりも前に出てエアリオと対峙した。

「・・・なんだ?・・・邪魔だ、どけ」

エアリオは自分の前に立ったレリアに不機嫌に告げる。


しかし、レリアは立ち去るどころかエアリオをキッと、射抜く。

「申し訳ありませんが、妹にはすでに相手がおりますので」

王太子に臆することなく言い返したレリアに、ラウズがギョッとして凝視する。

一瞬ポカンとしたエアリオだったが、すぐに顔を怒りで赤くする。

「無礼な奴だな。どけ、不細工が!!」

吐き捨てるように言う。


「無礼はそちらでしょう。相手がいると申し上げているのに、潔く引きもしない。挙句に女性に向かって不細工などと。こんな方が王太子とは嘆かわしいですわね」

元々レリアは気が強かった。その上、今は妹を守ろうと必死だったのである。売り言葉に買い言葉になってしまった。


「・・・・・っ。このっ・・」


レリアの言葉に簡単に切れてしまったエアリオが、手を振り上げた。

「っ・・・・・・」

サーラとティーディアが声にならない悲鳴を上げる。

エアリオの行動に動じず、毅然としてエアリオを睨むレリアを、ラウズが前に出て庇う。


エアリオの手が振り下ろされようとしたその時だった。

「何をしている」

ルーファスがエアリオの腕を掴み、冷たい目でエアリオを制した。

ルーファスの登場にラウズはホッとした表情を見せ、サーラとティーディアはまだハラハラと見守っていた。


「ル、ルーファス・・・」

エアリオは茫然として呟いた。


「まさかとは思うが、こちらのレリア嬢を殴ろうとしたのか?王太子ともあろう者が」

ルーファスはゆっくりと言い聞かせるように言う。


「そ、それは・・・わ、私はただ・・そちらの令嬢とダンスをしたかっただけだ」

エアリオはティーディアに向かって、顎をしゃくる。

ルーファスはエアリオの手を乱暴に放すと、今度はティーディアの隣に移動し、ティーディアの肩を抱き寄せた。

「申し訳ないが、彼女は私としか踊りませんよ。それで?そんな事の為に王の名前まで使ったのか?」


エアリオの顔は真っ青になって何も言わない。

そんなエアリオを横目にルーファスが顎を引いて合図を出すと、近衛兵が二人近づいてきてエアリオを促し上座へ連れて行った。


「お、お義姉様!!」

エアリオが離れると、サーラがヘナヘナと座り込んだ。

「あ、あら?おかしいわ・・・立てない」

何度も立ち上がろうとするが、腰が抜けてしまってサーラは立つことができない。

すると、ラウズがしゃがみ込み「失礼します」とサーラを抱きかかえた。

「あっ・・・・・そんな、大丈夫です・・・」

こういったことに慣れていないサーラの顔は真っ赤になった。

「令嬢を、床に座らせておくなんてできませんよ」

気にしないで、とラウズが微笑むとサーラは増々赤くなった。



「なんで、ティーディアと抱き合っていたサーラ姉様が、そんな状態になるのよ」

抱き上げられているサーラにレリアが苦笑しながら抗議する。

「あ、貴方が。無茶をするからでしょう。もう。すごく・・・怖かったわ」

からかったレリアだったがサーラの今にも泣きだしそうな表情に「ごめんなさい、お姉様」と素直に謝った。


そんな二人のやり取りを微笑ましく見つめながらルーファスが口を開く。

「今日はもう帰ろう。ラウズ、すまないが一緒に来てくれ」

「もちろん」


サーラとレリアが乗ってきたブッファ家の馬車に先に帰ってもらい、五人はカーバシア家の馬車に乗り込む。


「怖い思いをさせて申し訳なかった」

ルーファスが三姉妹に頭を下げる。


「そんな、ルーファス様」

ティーディアが止めようとすると、事情を知らないレリアが口を開いた。

「なぜ妹から離れたのですか?」

詰問口調にティーディアが「レリア義姉様」とその腕を掴んで窘める。


すると、ラウズがルーファスを庇った。

「いや、あれはしょうがない。王様の名前で呼び出されたら断れないよ」

「え?王様?」


思わぬ人物の名前に、驚くサーラとレリアに、ルーファスがゆっくりと説明をする。


昨日の舞踏会からエアリオがこちらを窺っていた事。そのためにダンスをしながら逃げ回っていた事。今日も同じだったので、ダンスをしながら逃げ回っていたが近衛兵に挟み撃ちをくらって動けなくなり王の名前で呼び出された事。


「呼び出したのが王太子の第二騎士団だと分かったから、会場を出てすぐに脅しをかけて、事情を聴き戻ったんだ。そしたらエアリオがレリア嬢を殴ろうとしているところだった。レリア嬢は度胸があるんだな」


「いえ、気が強いだけで・・・あ、助けていただいて、ありがとうございます。ええっと・・・貴方は・・・?」

レリアはルーファスにお礼を言い、ラウズにもお礼を言おうとして言い淀む。

「こいつは候爵家のラウズ・ソフラート。第三騎士団の副隊長です」

「とんだ出会いになってしまいましたね。お見知りおき下さい。レリア嬢。サーラ嬢」

「そうでしたの。ありがとうございました。ラウズ様」


少し場が和んだところに、未だ青い顔をしているサーラが口を開く。

「あの、ルーファス様。今回の事でレリアは、レリアは王家からお咎めがあるのでしょうか?」

「安心して、サーラ嬢。そんな事は絶対にない。レリア嬢もティーディア嬢も、もちろんブッファ家にも。非はエアリオにあるからね」

「レリアを庇ったラウズ様は?ルーファス様には?」

「ラウズにも私にもないよ。大丈夫」

力強く頷くルーファスに、やっとサーラは安心して「よかった」と笑顔を見せた。


「エアリオ様にとってルーファスは天敵なんですよ。ルーファスの母君のティレリア様もね」

だから怖くて手なんて出せないと、ラウズが追加とばかりに言い、ルーファスが苦笑する。


ブッファ邸に着くと「念のため」と言って、ラウズがサーラを抱えて部屋まで連れて行った。出迎えに出ていたマリーが驚いたが、ルーファスが説明をすると納得した。全てを聞き終わると、ルーファスと、部屋まで送り届けて戻ってきたラウズにお礼を言い、レリアに「後でお話があります」と、母は怒ってますよ、の笑顔を向けた。


「ルーファス様。三日間ありがとうございました」

ティーディアはこれでお終いと思うと寂しいと思いながら、お礼を口にする。

「こちらこそ。楽しかったよ。おやすみ、ティーディア嬢」

甘い笑顔を見せると、ルーファスはラウズと共に帰っていった。

読んでいただき、ありがとうございます。

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