表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短編集

【短編】サモンマスター・ギル

作者: 遠堂 沙弥

『短編』と称しているくせに、ものすごく長くなってしまいましたが、最後まで読んで楽しんでくだされば、この上ない幸いです。


*現在「小説大賞」投稿の為に改稿途中なので、三点リーダやダッシュといったものが修正途中なので読みにくいかもしれませんが、ご了承の程よろしくお願いいたします。*

  その昔……、といってもつい2年程前の話。

 この世界を恐怖のどん底に落とし入れた最強最悪の召喚士がいた―――――――!

 彼が現れる所、大災害に見舞われ、死屍累々たる光景だけが彼の通り道といわれるようになっていた。どんなに強い猛者でさえ、彼に敵う者なし……彼の存在に恐怖し、誰もが畏怖を込めてこう呼んだ。


 『最凶のサモンマスター・ギル』と―――――――!!


 だがしかし―――――――あまりに暴虐な振る舞いをしていたせいか………盟約を交わしたはずの精霊に愛想を尽かされて今年―――――――全ての精霊に見放されたギル・マスターは、魔力も権力も……その全てを失ってしまった。無力化したギル・マスターのことは、未だ世間には知らされていない……。今もなおどこかの国で残虐非道な振る舞いをしている……という噂だけが独り歩きしているのだ。

 中には全くの別人が自らを『サモンマスター・ギル』と名乗って、悪徳を繰り返している……らしい。

 では本物のギル・マスターは、今は一体どこで―――――――何をしているのか……?

 その真実を知る者は―――――――誰もいない……。



 現在―――――――、うっそうと生い茂った森の中……、草花は咲き乱れ森の動物達が穏やかに生きる生命の森……。そこへメイスを杖代わりにフラフラと歩く一人の少年がいた。殆どの体重をメイスで支えながら、黒髪・黒目の三白眼をした少年はどこへともなく歩いて行く。足元はフラつき、顔は少しやせこけて―――――――口はだらしなくあんぐりと開けっ放しになっている。

 ―――――――と、彼の状態を……ある音が明確にさせた。


 ぐぎゅるるるるるる~~~~~~~っ!


「ハ……、ハラ減った……っ!」


 そう、少年はここ3日程何も口にしていない―――――――極度の空腹状態で餓死寸前だった。この森に入って3日……、食料配分も何もせず思うがままに突き進み、食した結果がこれだった。


「お……、おかしいっ! この地図によれば、この森は2日もあれば目的地に出られるはずだ……っ!!」


 そう言ってもう一度地図を腰のバッグから取り出して、じっと眺める。


「えっと、オレ様の人差し指の長さが一日分と計算して……、やっぱり人差し指2本分の大きさじゃねぇかこの森……! さてはこの地図が間違ってんな!?」


 そう確信すると、少年は地図に書いてある森の大きさをあてにしないようにして、もう一度何か他に手がかりがないかじっとガン見した。すると―――――――ちょうど森の真ん中あたりに小さな村がある……。

 村のイラストの少し右上には洞窟みたいなイラストと……、滝のようなイラストが―――――――。


「よし、まずはこの村を目指そう!! ここで食糧調達して、目的地であるこの洞窟へ向かうとするか!!」


 しかし、それ以前に考えなければいけないのが―――――――やはり村へたどり着くまでの食糧だった。お腹と背中がホントにくっつきそうな程の空腹で、とうとう少年は近くの大木にへたり込んだ。


「あ~ダメだ……、マジ死ぬ……っ。」


 バタン……と横倒れになって今までの思い出が走馬灯のように駆け巡ろうとした―――――――まさにその時だった。大木の根元にオレンジ色をした……実に美味しそうなキノコがたくさん生えていたのを見つける。空腹絶頂の少年にとって、まさにこの世で最も豪華な食事のように、そのキノコはキラキラと輝くように見えた。


「ラッキ~~っ、キノコあんじゃねぇか!! いっただきぃ~~っ!!!」


 そう言って少年はよく確かめもせず本能のままに……、そのキノコを生のままたいらげてしまった。


 数分後―――――――、うっそうと生い茂った森の中……、草花は咲き乱れ森の動物達が穏やかに生きる生命の森……。そこへメイスを杖代わりにフラフラと歩く一人の少年がいた……。殆どの体重をメイスで支えながら、黒髪・黒目の三白眼をした少年は村を目指して歩いて行く。足元はフラつき、顔はかなり青ざめて―――――――口は痛みに耐えるかのように歯を食いしばっていた。

 ―――――――と、彼の状態を……ある音が明確にさせる。


 ゴロロロロロロロロロォ〜〜〜〜〜〜〜ッッ!!!!!


「い……いだ……っ、ハラ……っいだい……っ!!」


 完全に毒キノコに当たってしまった少年は、大暴れする腹の痛みを必死でこらえて・・・内股で歩く。

 歩幅は大きく出来ないっ・・・、出る・・・っ!

 早く村に辿り着きたいけど・・・速度は速められないっ・・・、漏れるっ!!

 一瞬、その辺の草むらでしちゃおっかなぁ〜・・・と、何度も何度も誘惑にかられた・・・。

 だがしかし、少年にはひとつのプライドがあった。

 ゆるぎないプライドが・・・っ!!

「こ・・・っ、このオレ様が・・・野〇ソなんてしてたまる・・・かっ!!

 これでも・・・っ、名門・・・っの・・・おおおおぅううっっ!!!!!

 うぅっ・・・、例え誰も見ていなくとも・・・っ、オレ様は・・・っ、誇り高き・・・っ!!

 あああぁっぁぁああああっぁぁああ〜〜〜〜〜っっ!!!!」

 そう言いかけて、少年は涙目になりながら遠くの方から村の入り口らしき門を発見した。

 歓声を上げたかったが、気が緩んだ途端に取り返しのつかないことになるかもしれないという予想だけは

 していたので、少年は有無も言わずに村へ向かって奇妙な内股の小走りでスタタタタタッと早歩きした。


 門は開放されている・・・、つまりこの森は魔物が出なけりゃ盗賊の類も侵入しない安全地帯という

 意味であろう。

 旅人も自由に出入りしてもいいという村ならば、さっさと民家でも宿屋でもどこでもいいから早く貸して

 もらわなければ・・・っと、少年は村に入ってすぐきょろきょろと家でも宿でも村人でも・・・何でも

 いいから何かを探した・・・というか、出来る所さえ見つかれば何でもよかった。

 そんな挙動不審な態度を発見した老人が少年に話しかけてきた。

「どうされたね、旅の方?何やら随分焦ったご様子じゃが・・・、何かを探しておるのかな?」

 面白い位長ったらしい白髪の眉毛をゆさゆさと揺らした間から、老人の目が見え隠れして少年を眇めた。

「トイレ・・・っ、貸してくれ・・・っ!!

 出・・・っ出るぅ・・・っっ!!」

 少年の顔面蒼白な脂汗を目にした老人が事態を把握したように、慌てて少年を誘導した。

「おおこれはいかん!お前さん毒キノコを食べてしまったんじゃな、それはツライじゃろう!

 さぁさ、急いでわしの家で用を足していきなされ!!」

 そう親切に言うと、老人は急いでトイレへ誘導して、中に入って扉を閉めると、少年の無事を祈った・・・。


 ハーレルヤっ!ハーーレルヤっ!!(現在不適切な状況なので、心を癒す聖歌でもお聞きください)


 トイレは最悪にも、ぼっとん便所だった。

 空腹だった少年のお腹はすっかりすっからかんになり、出る物がなくなって多少はスッキリしたが

 まだお腹のキリキリとした痛みは治まっていなかった。

 これ以上座ってても、もう出てくるのは臓器だけだと思った少年は、トイレのフタを閉めて出てきた。

 とりあえずさっきの老人に痛み止めの薬とか解毒薬がないか聞こうと、老人を探して家の中を適当に

 見回したが・・・老人の姿はどこにも見当たらなかった。

「なんだ・・・どこ行きやがったんだ?あのジジイ・・・。」

 そう言って、少年はとりあえず老人の家から出て行った・・・、と。

 少年は老人の家を出た途端、信じられない光景を目にして思わず後ずさりして、たじろいだ。

 少年の目の前に映し出された光景は・・・、どこから集まったのか・・・全員村人なのかどうかは

 わからないが、老人の家の玄関に向かって・・・というかこれはもうこの少年に向かって・・・と言った

 方が正しいのかもしれない。

 村人全員が・・・、少年に向かってまるで神でも崇めるかのように、綺麗に整列して土下座していたのだ!!

「んな・・・っ、なんじゃこらっ!!」

 一瞬、自分の置き土産のかぐわしい芳香が、村人全員を死に至らしめたんじゃないかと・・・本気で疑った。

「ずっとお待ち申し上げておりました・・・勇者様!!」

 列の一番前には、さっきの白髪眉毛の長い老人が、土下座したまま少年に向かってそう叫んだ。

「・・・は?」

 勿論少年は、頭のおかしいジジイが何かボケたことを抜かしてやがる・・・としか思わなかった。

「何言ってんのジジイ?」

 しかし少年の汚い言葉は耳に届いていないのか、最初から聞く気がないのか、無視して言葉を続けた。

「我々はずっと勇者様が来られる日を、今か今かと待ちに待って・・・ようやくその日が訪れました!!」

「いやだから、それさっき聞いた。」

 でもやはり、こっちの話を聞く気はないらしい。

「我らが崇拝する女神はこうおっしゃられた・・・。

 いずれこの地に、勇者が訪れるであろう・・・。その勇者は黒髪・黒目・・・そしてこの地に訪れた

 災いを祓うべく、幸運を持って閃光の如く姿を現すであろう・・・と!!」

「いやいやいやいや?

 黒髪・黒目はこの世界中5万といるし?

 毒キノコ食ってる時点で幸運じゃねぇし?」

 今度はちゃんと聞こえたのか、少年の反論に老人はふっふっふっと不敵な笑みを浮かべて反撃してきた。

「いや、あなたは間違いなく勇者様に相違ない!!

 なぜなら・・・っ!!この村に黒髪・黒目をした者が来たのはお主が初めてだからじゃ!!」

 どーーーーんっ!!とばかりに言い切った老人に、少年は腹の痛みに怒りもため込みながら反論した。

「いやだからそれはたまたまだろうが!!説明にも説得にもなってねぇし!!つーか今の話ちゃんと

 聞いてた?ねぇ、聞いてた?黒髪・黒目はたくさんいるっていったじゃん・・・・・。」

 だがしかし、少年の言葉はまたしても老人には届かず、話は続く・・・一方的に。

「そしてっっ!!

 『腹下しのキノコ』は数万年に一度、生えるか生えないかの貴重な希少種・・・!!

 それを見つけるはまさに幸運中の幸運であろうがっ!!

 しかもなおかつ、それを食し・・・我々の村にこともあろうか『こうウン』をもたらした!!」

「もうそれ予言でも何でもねぇだろ!!毒キノコは殆ど腹下すだろ!!なに『幸運』と『こうウン』を

 ひっかけてんだよ、全然面白くもなんともねぇよ!!うまくもねぇよ!!座布団一枚もやれねぇよ!!」

 怒りながら反論するが、この老人の言葉を村人達はなぜか全員納得して信じ込んでしまっているようだ。

 その証拠に、誰一人として土下座をやめない・・・。

 これ以上は反論しても時間と体力の浪費だと判断した少年は、とりあえず痛む腹を何とかするための

 薬を要求した。

 勇者とかいうんだから、それ位してやるのが当然だ・・・と少年は悪びれることもなくそう納得した。


 恐ろしく長い白髪眉毛の老人は、やはりこの村の長老だった。

 少年はほのかな香り漂う老人の家に連れられて、そこで痛み止めの薬をもらって飲んだ。

 とりあえずは腹の痛みも治まったことだし、まずは問題がひとつ解決した。

 そしてもうひとつの問題、勇者うんぬんは別として・・・何よりもこの空腹を何とかしなければならない。

 出しきった矢先、食べるのはどうかとも思ったが・・・胃の中が空っぽなので気分が悪かった。

 勇者相手に質素な食事を出されてブーブー文句を言いながら、少年は全て綺麗にたいらげる。

 これで当初の問題『空腹』も解決した・・・、あとは現在新しく増えた問題について解決しなければならない。

 つまようじを使って歯の間にはさまったネギを、しーしーと音を立てながら話題を切り出した。

「んで、お前らオレ様が勇者とかなんとか抜かして信じてるとこワリーけどな、オレ様違うし?

 そもそもオレ様は勇者とは全く真逆の出身だし?勇者とか言われても助ける気ないし?」

 トイレを借りて、痛み止めの薬をもらい、食事までタダでもらっておいて少年は悪気もなく豪語した。

「あれは確か・・・、ふた月程前まで遡りますですじゃ・・・。」

 遠くを眺めて話し出した。

「をい、テメー・・・人の話聞く気皆無だろ!」

 額に青筋が立って、血圧が上昇する。この老人を相手にしていると本当にイライラしてくるのがわかった。

「それまで魔物も野党もなく平和に日々を過ごしていた我々の村に、災難が舞い降りてきましたのじゃ・・・。」

 少年は空返事で「ふ〜ん」と鼻で鳴らしながら、足の指にたまった汗と汚れを指でふき取り匂いを嗅ぐ。

「まさかこんな平和な森にある平和な村に・・・、あの者が現れようとは・・・村人全員誰しもが

 予想だにしなかったことなのですじゃ・・・っ!!まさに想定外ですじゃ・・・っ!!」

 何者が現れたのか・・・、心のどこかでほんの少しだけ気になって、少年はたまにチラリと老人の方に

 目をやりながら、それでも見た目は興味がないような素振りをして話を聞いていた。

「まさかこんなことになろうとは・・・っ!この村始まって以来の大惨事ですじゃ・・・!!

 まさかこんな平和な村に・・・っ。」

「だぁぁぁぁあああーーーーーーっっっ!!そこさっき聞いたっつったろーがっ!!

 いいからさっさと誰が来たのか話さんかい、このボケジジイっっ!!」

 待ち切れなくなった少年が、ブチキレて話の続きを要求した。

「あぁ・・・ごほん、失礼しましたのう・・・。なにせ勇者様を目の前にしてこのジジ・・・少々

 緊張気味でして・・・、おかしなことですじゃ・・・この村の長老となって色んな村人の相談役を

 買ってきたこのワシとしたことが・・・。」

「だから・・・、テメーのことはもういいから・・・っ、さっさと続き言えやコラ・・・。」

 怒り狂うのに疲れて、一気に疲労感が増したのか・・・少年はぐったりとして話を大人しく聞く姿勢を取った。

 まさかこれがこの老人の手なのでは?と・・・、例えそうであってもなくても、そう考えたくはなかった。

「この村に災厄をもたらした人物・・・、あなた様も一度や二度となく聞いたことがあると思います。

 そう・・・、かつてこの世界を恐怖のどん底に陥れた最強最悪の召喚術を扱う魔術師・・・!!

 そうです!!あの『最凶のサモンマスター』である、ギル・マスターがこの村に未曽有の危機を

 もたらしにやって来たのです!!」

 堂々と、両手を高々と振りかざしてオーバーリアクションを取りながら老人は「驚いたか」とでも言うように

 長い白髪眉毛からちらりと見える目が、キラキラと見開きながら自分の世界に突入していた。

 ・・・と同時に、少年は『災厄をもたらした者』の名を聞いた瞬間、ずしゃあっと前のめりにずっこけた。


 ・・・それ、オレ様・・・。


 つまりはこうだ。

 このオレ様、ギル・マスターの名を騙ってこの村にやって来た偽物は、ギル・マスターの悪名を利用して

 この村に脅しをかけていた。

 定期的に食糧をよこせとか、金品を毎月納めろとか、村一番の美女を差し出せとか・・・そういうセコイことを。

 だが、だからといってこのオレ様には関係ない話だ。

 この村がどうなろうが、その偽物がオレ様の名を騙ろうが・・・今更別にどうってことはない。

 なぜなら、この世界中ギル・マスターの名を騙って悪事を働くヤツなんざそれこそ何十万人とはびこっている。

 そんなヤツらを一人一人退治していって、このオレ様に何の得があるという?

 全くの時間の無駄だし、何より興味がない。

 むしろそうやって悪名が増えていけば、恐れる者も増えるということ・・・かえって好都合だ。

 偽物達が自分の名でどんどん悪名を上げていけば、結局は自分は何もしなくても勝手に評判が上がって行く。

 これはこれで良くね?・・・と思って、今まで放置してきたのだ。

 それ以前に・・・、今のギルは無力に等しいから何も出来ないことに変わりはないが・・・。


 しかしギルは、結局・・・偽物のギルを倒す為に、洞窟に向かうことになってしまった。

 勿論、夜逃げしてやろうと試みた。

 だが、村人全員で見張っていて逃げるのは容易ではなかった。

「ギルはこのオレ様で、そっちは偽物だから村人全員でかかれば倒せるって!」と一応言ってはみたが、

 無論・・・話を聞く者はおろか、信じる者など誰一人としていなかったのである。

 最後の殺し文句で・・・、ギルは結局自分退治を引き受けざるを得なかった。


「そんなにイヤなら仕方ありませんなぁ。

 それじゃあ、この『幸運』はお返しいたします・・・!!」


 ギルは今度は道に迷うことなくまっすぐと確実に、偽物ギルがいるという洞窟へ向かっていた。

 長老が気を利かせて・・・ではなく、見張り兼見届け人として一人の少女を遣わしたのだ。

 その少女の名は、シリルといって僧侶見習いなのだそうだ。

 髪は茶髪で、少しクセのあるセミロング。真っ直ぐなマリンブルーの瞳をしていて勇者であるギルの

 ことを慕うような眼差し・・・、実は彼女が率先して道案内をすると言い出したらしい。

「勇者様、あと半日もすれば洞窟へたどり着くことができます!!

 気合を入れて行きましょう!!」

 どうやら純粋熱血タイプのようだった・・・、ギルの一番苦手なタイプでまず間違いない。

 思えば炎の精霊イフリートも熱血過ぎて扱いづらかった・・・と、ふと昔を思い出していた。

 あの頃は良かった・・・、何でも自分の思い通りに出来て、欲しい物は何でも力で手に入れたし、

 何一つ不自由なんてしなかった・・・、ただギル退治だとか言って刃向かってきた討伐隊なんかは

 ウザかったが・・・、自分が一番強かったのでそれ程の苦労もなかった。

 ・・・それが今は、食べる物すらままならず、勝手に勇者にされるわ、なぜか自分退治に行かされるわ、

 挙げ句こんなガキのお守りはしなきゃいけないわ・・・、不幸続きだった。

 はぁ〜〜〜っと深いため息をついた横で、シリルがさらりと失礼なことを口走った。

「それにしても勇者様はちっちゃいですねぇ!!

 あたし身長150センチで、同じ年頃の女の子達に比べたら一番小さかったんですけど。

 勇者様はもっとちっさいですね、130センチあります?」

「あるわーーーっ!!130.2センチあるわい無礼者がぁーーーーっっ!!!」

 すいませんと、悪びれた様子もなくさらっと平謝りしたシリルを他所に、ギルはぜぇぜぇと息を切らして

 ズカズカとシリルの前を歩きだした。

(この無礼者がっ!!このオレ様を誰だと思ってやがる!!

 世界の脅威ギル・マスター様だぞ!!精霊どもが裏切らなければ魔力だって世界一だってのに!!

 魔力を失ったせいか、なぜか身長まで縮みやがって・・・っ!! 

 精霊はべらせてた頃なんか、身長170センチあったんだぞ!!・・・くそっ!!)

 ぶちぶちと文句を言っている内に、偽物ギルが根城にしているという洞窟にいつの間にか辿り着いていた。


 洞窟の中には下級モンスターばかりだった。

 召喚術の中で最も初級な、低級霊・低級魔族を召喚する術を偽物ギルは一応使うことができるらしい。

 だがしかし本物のギルは、今や魔力が一切なく、戦う力も無きに等しい。

 ハッキリ言ってちっこいスライム相手ですら、長時間の戦闘を強いられる位弱っていた。

 そんな状態で、この下級モンスターの相手を誰がしているかというと・・・。

「おりゃあああああっっ!!」

 勿論シリル以外いるはずもなかった。

 僧侶見習いと聞いていたのに・・・、戦闘術・・・特に格闘術はもはや戦士並の実力を持っていた。

 僧侶のくせに趣味は筋トレとは・・・、一体どんな僧侶だ・・・。

「しばしお待ちくださいね勇者様!!雑魚はあたしが片づけますから勇者様はラスボスである、憎きギルを

 倒す為の力を温存しておいてくださいねっ!!」

 そう笑顔で言って、再び雄たけびを上げながらどんどん洞窟の奥へと進んでいった・・・勿論モンスターを

 なぎ倒していきながら・・・。

 ギルの通る足元は、下級モンスターの屍で埋め尽くされていた・・・。

 シリルの目がモンスターに向けられている間に、ギルは持っていた地図を見た。

 本来の目的地である『聖なる泉』まで、あと少し・・・。

『聖なる泉』は、この洞窟の最深部にある。

 よくよく考えてみたら、偽物ギルを倒さなければ自分の目的は果たせなくなってしまっていた。

「けっ、結局あのジジィの思惑通りに進んでるっつーことか。気に食わねぇ・・・っ!」

 そう呟いてたら、もう随分と奥の方までモンスターを倒し進んでいたシリルが「来てくださーーい」と

 叫んだので、渋々地図をしまってシリルがいる洞窟の奥の方へと歩を進めた。


 遂に最深部へとやってきたようだった。

 目の前にはギルが目指していた『聖なる泉』が、キラキラと水面を輝かせて波立たせていた。

 それよりも今は邪魔者を先に何とかしなければ・・・、と思いギルは回りを適当に見回す。

 誰もいない。

「おい、誰もいねぇじゃねぇか。」と、文句をたれるギル。

「おかしいですね、今日は日曜日じゃないのに・・。」

「・・・あまり聞き返したくねぇが、日曜日だったら何だってんだよ?」

「何言ってるんですか!日曜といえばミサがある日じゃないですか!!」

 当然とばかりに言い放つシリル、そう言えばコイツが僧侶だってことすっかり忘れてた。

 あの戦いぶりを目の当たりにしていたら、忘れてしまうのも無理はない・・・。

 でもまぁ、いないならいないで別に構わない・・・と、ギルは偽物のことは後回しにして泉の方へと

 進んでいった。

「何なさってるんですか勇者様?」

 怪訝な表情でギルの様子を聞くシリル。

「お前は黙ってろ、とりあえず災厄ヤローがいないことには退治なんてできねぇだろーが。

 その間にオレ様は、オレ様の用事を済ませる。」

 そう言うと、ギルは懐に大事にしまってあった小瓶を取り出すとそれを泉の中にぽちゃんっと一滴垂らした。

 すると泉の底からまばゆいばかりの輝かしい光が、薄暗かった洞窟内を明るく照らし出す。

 それを不思議そうに眺めるシリル、何が起こるかわからない状態だったこともあり、ただみとれるしかなかった。

 構わずギルは用事を進める。


「汝、我が言葉に応えよ。

 汝、我が盟約に応えよ。

 我が名は召喚術の名家・マスター家最後の嫡男、ギル・マスターなり。

 我と血の盟約を交わすは、生命の根源にして、いたわりと友愛の象徴である水の精霊・ウンディーネ。

 我が血を媒介とし、姿を顕現せよ!!」


 しーーーーーーーん。


 静寂が・・・、輝かしい眩しさだけが・・・残される。

「何も出ませんね・・?」

「お前は黙っとれーーーっ!!」

 ギルは怒りに任せて泉に顔を近づけて、怒りで顔を痙攣させながらひくひくと作り笑いを浮かべて囁く。

「うぉいウンディーネ、ここにいるのはわかってんだよテメー!!

 なにシカトぶっこいてんだコラ!?

 テメーのご主人様がわざわざこんな辺境くんだりまで、足を運んで回収しに来てやってんだ!!

 せめてツラ位見せるのが礼儀っつーもんじゃねぇのか、あぁん!?」

 ギルの汚い言葉に、少し勇者としてのイメージがダウンしたのか・・・シリルの顔に不快があらわれる。


 ・・・と、その瞬間だった!

 ひゅんっと何かの音が上の方からして、反応して顔を上げようとしたが遅かった。

「ぐぁっ!!」

 ギルの背中に激しい痛みが走る!!

 そのまま背中の衝撃と痛みで、ギルは身を乗り出していた泉の中に落ちてしまった。

「勇者様っ!!」

 駆けつけてギルに回復魔法をかけようとしたが、後ろから誰かに抑えられて動けなかった。

「あっ!!」

「おっと動くなよお姉ちゃん。

 さっきはよくもオレの大事なモンスターをたくさんやっちゃってくれたね?

 どうお仕置きしてやろうか?」

 そう耳元でいやらしく囁きながら、後ろで押さえてる男がぬちゃ〜っと生ぬるい舌でシリルの頬を下から上へ

 ゆっくりと味わうように舐めてきた。

「・・・ひっ!!」

 あまりの気持ち悪さに全身鳥肌が立った。

「勇者様・・・、勇者様っ!!

 助けて・・・、どうか助けてくださいっ!!」

 そう助けを求めるが、声は空しく洞窟内に反響するばかりで一向にギルは起き上がらない。

 次第に泉がギルの血で赤く染まっていく・・・。

「・・・勇者様・・っ!!」

 その光景を見て、シリルは綺麗なマリンブルーの瞳から大きな涙の粒をこぼした。

「けっ、あのチビが勇者〜!?何の冗談だお姉ちゃん!?」

「いや・・・っ、放して・・・放してーーーーっっ!!!」

 悲痛な叫び声が反響する・・・。

 ・・・と、その悲鳴に反応したのか・・・大量に出血し大怪我を負ったはずのギルがゆっくりと・・・泉の

 真ん中から立ち上がるのが目に映った。

「勇者様っ!!」

 喜び、笑顔を見せるシリルだが・・・、その笑顔はすぐに凍ってしまった。

 今までと様子が違う・・・。

 どくどくと背中から流れる血が、どんどん泉に溶け込んで・・・透明で澄んでいた泉の水が血に染まり

 さっきまで輝かしく放っていた光が・・・血のせいで濁りを増して・・・どこか空気が重くよどんでいく

 のがわかる・・・。

 シリルを抑えていた男がその異常に気づき、無意識にシリルを放していた。

「な・・・、なんだアイツ!?

 確かに急所に当たったはずだ・・・、あの出血でなんで立っていられるんだっ!?」

 その言葉に異様な空気を放つギルが、背中を向けたままこちらに向かって語りかけた。

「お前が偽物ギルってやつか・・・、せっかくの儀式を台無しにしやがって・・・。

 こんなに血で穢しちまったら、清浄を好むウンディーネが顕現出来ねぇじゃねーか・・・。

 どうしてくれんだよ。」

 低く、覇気を放ったような静かな口調が・・・なぜだか最も恐ろしく感じられた・・・。

 シリルのすぐ横にいる、この男よりもずっと・・・。

「ウンディーネ・・・だと!?

 確かにその泉にはウンディーネが宿ってるって聞いて、オレは水の精霊と契約を交わす為にここまで

 来たが・・・、すでに契約済の精霊は自分の主人以外の命令は絶対に従わないはず・・・!!」

 うろたえた男が、自分は本物のギル・マスターではないことを白状したことに気付いていない。

「なのに、さっきの輝き・・・。

 あれは精霊が顕現する時の光明・・・っ!!

 お前・・・っ、お前は一体・・・何者なんだっ!!」

 そう叫ぶ男に、ギルはゆっくりと振り向きながら答えてやる。

「もうわかってんだろ?

 オレ様がこの精霊の主・・・、本物のギル・マスター様だってなぁ!!」


 ごぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!と、轟音を上げてギルの回りからまるで突風が巻き起こったかのように

 すごい勢いで、男とシリルは吹き飛ばされそうになる。

 だがそれも一瞬で、すぐに風は止み二人は地面に伏したままほっとするが・・・ギルは泉の真ん中に立ったまま

 男に不敵な笑いを浮かべながら更に続けた。

「お前はラッキーだよ。

 今のオレ様はな、ウンディーネどころか全ての精霊を失って・・・盟約し直しの旅をしてる最中でよぉ。

 今は全くもって魔力ゼロの状態なワケだ。

 つまりお前が使うようなセコイ下級モンスターの召喚すら出来ない・・・ただの人間ってワケだよ。」

 今の自分の不利な状況をわざわざ相手に知らせるギル。

 男は最初疑った表情をしていたが、ギルの魔力が本当に感じられないことを悟ると勝ち誇ったように

 甲高い笑い声をあげた。

「はーーーっはっはっはっ!!

 お前はとんだマヌケだなぁ、わざわざ敵であるこのオレに自分の弱点をさらすとは!!

 ではお前は、このオレに万に一つも勝つ要素がないってわけじゃないか!!」

 胸を張って豪語する男は、すでに勝った!とでもいうような歓喜に溢れていた。

「ここでギル・マスターを倒せば、このオレが最強だ!!」

 それを聞いたギルは、にやりとした。

「・・・・!!」

「確かに今のオレ様には、テメーをブッ殺せる精霊を一切持っちゃいねぇ・・・、だけどな。

 誰がテメーに勝てないっつった?」

「・・・何をっ!?負け惜しみを言いおって・・・!!

 魔力はゼロ、精霊すら持ち合わせていないお前のようなクズが・・・っ!!

 どうやってこのオレに勝てるっていうのだっっ!!」

 予想だにしなかった、ギルの自信に満ちた言葉を聞いて、不安を覚えたのか・・・男に動揺が走る。

「・・・テメーはなんでこのオレ様が、世界最強のサモンマスターと呼ばれるようになったか・・・。

 知ってるか?」

 話を続けるギルの背中は、出血で服が真っ赤に染まっていた・・・。

 ギルの話を上の空にしか聞くことが出来ないシリル・・・、彼女は一刻も早くギルの傷を癒しに行きたい

 気持ちで一杯だった・・・、話を聞いているどころではなかったのだ。

 そんなシリルの存在などすっかり頭になく、男はギルの言葉にひとつひとつ確実な恐怖を抱き始めていた。

 なぜこのガキは大怪我したあの状態で、意識を保っていられるんだ・・・?

 なぜこのガキは圧倒的不利な立場にいるにも関わらず、ああやって強気な態度でいられるんだ・・・?

 そんな言い知れぬ不安が、恐怖心を更に高めていっていた。

 そしてごくりと生唾を飲んで、ギルの姿に目が逸らせず・・・、一言一句漏らさぬように話を聞く態度になっていた。

「召喚術は、召喚獣を現世に顕現させる為に己の魔力を媒介としてこの世につなぎとめる・・・。

 セコイ召喚術しか使えないテメーでも、それ位は知ってるよな。

 だから召喚術を扱うには、己の魔力が絶対不可欠となるんだよ。

 弱いモンスターならわずかな魔力があれば簡単に召喚できるが、召喚獣の力が強ければ強い程・・・

 消費する魔力もハンパねぇ。

 特に高位精霊ともなれば、普通の人間なら魔力の全てを消費してそれでも足りずに発狂するか、死ぬか・・・だ。

 そんな高位精霊を、オレ様はかつて8体と盟約を交わし所有していた・・・。

 その意味がどういうことか、・・・もうわかるだろ?」

 男の体が震える、どうしようもない絶望感だけが彼を支配するかのように・・・。

 汗が全身を流れおち、顔面は蒼白となり、今にも卒倒しそうな位に男は震えと恐怖が止まらなかった。

「そんな・・・、そんな高位精霊を・・・っ、8体も・・・だとっ!?

 召喚獣と盟約を交わせば、いつでも召喚できるように己の魔力で召喚獣との絆をつなぎとめなければならない!

 昼夜を問わず、盟約が続く限り・・・所有期間である間は魔力を微量にでも消費するという不可がある。

 だから召喚士達が一度に所有できる召喚獣は、大体5〜6体が限界だ・・・っ!!

 それも下級魔物や、下級魔族がその殆ど・・・。

 高位精霊など・・・っ、1体でも所有すれば消費する魔力は下級魔族6体の比ではないぞ・・・。

 それを・・・っ、それを8体所有するなどありえん・・・。

 化け物かっ!!?」

 しかし・・・、男は改めて思い出す。

 今のギルはそんな高位精霊を所有すらしていない・・・、ただの人間に成り下がったと・・・。

 なのにこの余裕・・・。

「貴様がかつて高位精霊を8体所有するだけの、化け物並の魔力を持っていたことを認めたとして・・・。

 だから何だ!?

 今では精霊を持たず、魔力もゼロだと自分でも言ったではないかっ!!

 それでその自信と余裕は一体何なのだっ!!」

 男の問いかけに、ギルの表情が少し固くなり・・・少し苦渋が滲んで見えたのは気のせいだろうか?

 ギルは深く・・・長い溜め息をついた。

 そして遠くを眺めるように、洞窟の天井を見上げて・・・がっかりしたように語り出した。

「テメーがこのオレ様にこんな致命傷を与えなけりゃ・・・、テメーは無事に自分の意識のままでこの洞窟を

 出られたかもしれなかった・・・って思ったらよ・・・、さすがのオレ様も同情せずにはいられねぇんだよ。」

 ギルの言葉の意味がわからない・・・とでも言いたげに、男は首を傾げながら・・・今は震えがおさまり口を挟む。

「一体何が言いてぇんだお前はっ!!?」

「テメーもさっき言ったよな?

 精霊もなく、魔力もゼロのこのオレ様が・・・どうやってテメーに勝つか・・・って。

 本当は使いたくもなかった力なんだけどよ・・・、オレ様がこうして瀕死の重傷を負っちまったからには

 出てこざるを得なくなっちまってんだよ。

 オレの意志とは関係なく、な?」

 そう言葉を放った途端、それがまるで合図だったかのようにギルの回りからドス黒い不気味な霧が包みこみ、

 やがて洞窟内全体を黒い霧が支配していく・・・。

「な・・・っ、なんだこの黒いモヤはっ!!?」

 男が再び動揺する、無理もなかった・・・そのドス黒い霧はまるで生きているかのように回りを縦横無尽に

 漂って、男とシリルの回りをねっとりと舐め回すかのようにまとわりついてきたのだ。

「な・・・っ、何ですかコレ・・・!!気持ち悪い・・・っ!!」

 シリルが両手で黒い霧を振り払おうとするが、実態のない霧にその抵抗は無意味であった。

「お前・・・っ、一体何をしやがったっ!!?」

 出血多量で顔に血の気がなくなって蒼白になったギルは、振り向きざま苦痛の微笑を浮かべてそれに答えた。

「この世で唯一・・・、代々マスター家にのみ宿ると言われる生態不能の召喚獣・・・。

 その正体はマスター家以外誰にも知られることなく、マスター家当主の体に直接寄生する魔物・・・。

 盟約を交わした召喚獣とは異なるため、絆をつなぎとめる為の魔力は一切不要・・・。

 つまり・・・、全ての精霊に見放されたオレ様に唯一残された・・・最後の凶悪な召喚獣ってワケだ。」

 瀕死の状態で話すギルの口調に、もはや覇気も怒気も・・・威勢も気力も残されていなかった。

 失神寸前のギルは、わずかに残された精神力のみでなんとか立ち尽くしていた。

 そんなギルを支えるように、黒い霧はギルの回りで愛おしそうにまとわりついていた。

 そしてどんどん意識が遠のいて行くギルの姿に反応したのか、突然黒い霧は意思を持ち黒い固まりへと変貌して

 男に向かって勢いよく突撃していった!!

「う・・・っ、うわぁぁぁぁあああぁぁぁぁっっっ!!!」

 黒い固まりに全身を包まれて、パニックに陥る男。

 顔の回りにもまとわりついて吸い込むまいと息を止めるが、長くは続かず・・・大きく口を開いた瞬間、

 黒い固まりは再び霧状になって男の口から体内に勢いよく侵入していった・・・!!

 霧を吐きだそうと涙目になりながら四つん這いになって嗚咽おえつするが、すでに霧は体内に吸い込まれて出てこない。

「オレは・・・っ、オレは一体どうなるんだ・・・っ!?

 死ぬのか・・・、死んじまうのかっ!!?助け・・・助けて・・・っ!!

 助けてくれぇーーーーっっ!!!」

 必死でギルに懇願するが、気が付くと洞窟内に充満していた黒い霧はすでに跡形もなく消え去っており、ギルも

 限界に達していたのか・・・、泉の中で倒れていた。

「おい・・・、おいっ!!

 起きてくれっ、助けてくれっ!!なんでもする・・・なんでもするからっ!!お願いします・・・助けて・・・。」

 男の必死の懇願も空しく・・・、男はそのまま力尽きて・・・崩れ落ちてしまった。

 後に残されたシリルは・・・、あまりの恐怖に一瞬呼吸すら忘れる程だったがすぐに意識を取り戻しギルの側へと

 駆け寄って回復魔法をかけようと近付いた。


 その時、ギルの倒れた『聖なる泉』はもはやギルの出血した血のせいで澄んでいた水も血溜まりとなっていた。

 その血溜まりの泉から・・・再び神々しいまでの輝きが戻ってきた。

 血のせいで洞窟内全体を照らす程の威力はなかったが、それでも目を瞠る美しさであることに変わりはなかった。

 そんな不思議な光景にシリルが呆然と立ち尽くしていたら・・・、泉に倒れ伏せていたギルの体が浮かび上がった。

 いや・・・浮かび上がったのではなく、正確には泉の中から細く美しい人間の両腕がギルを支えて抱き起こしていたのだ。

 泉の中から半透明の透き通った美しい女性が、憂いを帯びた悲しい表情でギルを優しく抱き抱えて・・・温かい光が

 女性から発したかと思うと、ギルをも優しく包み込んでいって・・・、みるみるギルの出血は止まっていき・・・

 傷が癒えていっているのが、シリルにはわかった。

 泉に流れ込んだ血も、まるで吸い寄せられるようにギルの中へと吸収されて・・・顔色が少し良くなったように見えた。

 気を失ったままのギルを、泉の側に寝かせて・・・女性はゆっくりとシリルの方へと向き直った。

 あまりの荘厳さに、シリルは声を出すどころか身動きひとつできなかった。

 女性は慈愛に満ちた眼差しでシリルに微笑みかけると、こちらへ来るよう手招きした。

 シリルは言われるがまま素直に従い、女性と・・・横になっているギルの元へと歩み寄った。

 半透明で、まるで澄んだ聖水が人の形を成しているような・・・そんな姿をした女性が言葉を発した。

「我が主・ギルの身をずっと案じてくれていたこと・・・、感謝いたします。」

 女性の言葉に驚くシリル・・・、我が主・・・って、ギルのことなのか?・・・と。

「私は主の心が変わらぬ限り、姿を現さぬつもりでいました。

 傍若無人で、勝手気儘で、自分の利益にしか興味のなかった主が・・・。

 ほんのわずかにでも、例えそれでさえただの気紛れであったにしろ・・・貴女を助けたいと・・・、

 彼が心の奥底でそう願った・・・。

 こんな・・・血にまみれてまで、・・・黒い霧の召喚獣・ジャバウォックを召喚してまで・・・。」

 黒い霧の名前を聞いて、シリルはその黒い霧を体内に取り込んでしまった男のことを思い出した。

 思い出すだけでも恐ろしかった・・・、あのおぞましい黒い霧の生き物が体中に纏う姿を・・・。

 恐怖した表情を察して、女性はなだめるように囁いた。

「案ずることはありません。

 ジャバウォックを体内に取り込んだ輩は、死んではおりません。」

「・・・え?・・・でもっ。」

「本来ジャバウォックの能力は、人間に対して何の害もありません・・・。

 殺傷能力もなければ、危害も、毒性も、・・・生命体に対して実害を与える力など備えていません。」

「でもピンチの時・・・最後の最後で・・・、この方はその召喚獣を召喚して対抗した・・っ!

 現に黒い霧があの人の体の中に入っていって・・・すごく苦しそうだったし・・・。

 黒い霧を召喚するのをイヤがってたように見えたのは・・・、一体どんな理由があって?」

 一息ついてから女性がその理由を話そうとしたら、いつの間にかギルは意識を取り戻して話の後を引き継いだ。

「それはオレ様がっ、このジャバウォックのヤローの能力が大っっっっ嫌いだったからだよ!!」

 そう憎まれ口を叩いて、ゆっくりと体を起こす。

 まだふらつきが残っているギルの体を、シリルが手助けしようと手を差し伸べる・・・が、振り払う。

「オレ様はテメーなんかに心配されるようなヤワな男じゃねぇ!!」

 吐き捨てるように言うが、真っ赤になったその顔は少し照れくさそうにプイッと視線を逸らしていた。

 そんな仕草を見て、肩を竦めながらさっきの話の続きを求めるシリル。

「さっきこのウンディーネが言ったろ!

 コイツには他人をブッ飛ばすような攻撃力を持った、派手な術とか一切持ってねぇって!!

 オレ様はな、イフリートやヴォルトみてぇーな派手な攻撃が出来る召喚獣が大好きなんだ。

 なのにコイツのはすんげぇーーーーー地味だし!!

 何より・・・コイツを吸いこんだヤローはな・・・決まって必ず・・・っ!!」

 わなわなとイヤなものを思い出すかのように、うつむいて・・・続きの言葉を語らないギル・・・。

 怪訝に思ったシリルだが、すぐ後ろで唸り声が聞こえてきた。

 ジャバウォックを体内に取り込んだ男が意識を取り戻したのだ!!

 再びこちらに敵意をむき出して、何か攻撃を仕掛けてくるのではないかと思ったシリルは戦闘態勢に

 入ろうと瞬時に立ちあがった・・・。

 ・・・だが。

 なんだか様子がおかしい。

 男がきょとん・・・としたうつろな瞳で、回りをきょろきょろと見渡している。

 長い眠りから覚めたかのように。

「・・・?

 一体どうしたのかしら、寝ぼけているのかしら?」と、少し力の抜けたシリルに対して・・・。

「違ぇーよ。」と、これからウザイ展開が始まる・・・という風に、ギルは極力視線を逸らしていた。

 目覚めた男がこちらに気が付くと、ぱぁぁぁ〜っと子供のような微笑みを浮かべて笑いかけてきた。

「やぁ〜君たち!!

 さっきはごめんねっ!!僕のせいで大怪我をさせてしまって・・・っ!!」

「・・・は?」

 さっきまでとは明らかに別人のようだった。

「でも君たちのおかげで、ようやく僕は僕を取り戻すことができたような気がしないでもないよ!!」

 男のあっけらかんとした明るい対応にギルは、けっ・・・と眉間にシワを寄せて関わらないようにしていた。

 それでも構わず男は、明るい・・・無垢な表情でなおも意味不明な言葉を発し続ける。

「今まで僕は回りの人達に迷惑をかけるような悪いことばかりしてきて・・・、ものすごく反省しているんだ。

 だからこれからはそれ以上にたくさんの人達を幸せに出来るように、慈善活動をしようと思ってるんだよ!!

 はぁ〜〜〜っ!!なんて清々しいんだ!!生きてるってなんて素晴らしいんだ!!

 僕は初めてこの世に生まれてこれたことを、心から感謝するよ!!

 全ての者達にこの喜びと愛を捧げたい!!

 いや・・・無償の愛をこれからたくさんの人達に捧げるよ!!

 ぢゃ、心の友達よ!!

 僕は手始めに迷惑をかけた村の人達に謝罪をしてくるから、君達も気を付けて帰ってくるんだよ!!

 また会おう!!」

 ・・・そう言いたい放題言って・・・、男は「あはははっ!あはははっ!」と楽しそ〜に笑いながら洞窟を

 出て行ってしまった。

 それを呆然と見送る・・・。

「また会おう・・・って、迷惑をかけた村って・・・あたしの村でしょ?

 だったらまた会うに決まって・・・。」

 そう言いかけたが、頭痛でもするのか・・・頭を押さえてギルが言葉をさえぎる。

「言うな。

 それ考えただけで吐き気がしそうだ・・・。」

 二人の取り残されたような気持ちを他所に、ウンディーネと呼ばれた半透明の美しい女性が説明した。

「ジャバウォックの能力・・・、それは。

 体内に自分の霧を取りこませることによって、その者が抱いている負の感情・・・。

 憎しみや、恨み、ねたみ、そねみ、殺意・・・そう言ったマイナス面の感情を自分の餌とするのです。

 ジャバウォックは暴食漢でして・・・、それも人間のマイナス面の感情を一番の好物としています。

 ジャバウォックを取り込んだ者は、どんな悪漢であろうと、どんな魔族であろうと・・・その負の感情を

 喰い尽されたが最後・・・、皆・・・心の清い無垢で純粋な人格へと変貌してしまうのです。」


 ・・・が〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん。


 それを聞いたシリルは、ちょっとイヤな想像をしてしまい・・・ちょっとだけ気が滅入った。

「・・・確かに、とてもプラス思考で・・・良い能力なんだけど・・・っ。

 とっても人畜無害な能力で、とっても理想的な能力なんだけども・・・っ、・・・なんでだろう?

 なんか・・・嫌。」

「・・・だろ?

 元の人格を知ってた辺り、複雑極まり無い事この上なさ過ぎだろ?

 しかも変貌した人格は大体さっきの奴みたいに、めちゃくちゃウザったらしい性格になっちまうんだよ。

 オレはそれ見るのが面倒くせーし、ウゼーし、かったるいからコイツ使うのがすげーーイヤだったんだよ!!」

 ・・・一応は納得した。

 なんとなくどういうことだったのか、多少は理解できた・・・と、シリルは無理矢理飲み込んだ。

 まだ戸惑いを隠せないシリルを尻目にギルはウンディーネの方に向き直り、怒号を浴びせた。

「つーーかウンディーネっっ!!

 テメー、さっき主たるこのオレ様の呼び掛けに思いきりシカトぶっこきやがったなっ!?」

 ギルの思わぬ記憶力に、ウンディーネは悪びれた様子もなく、プイッとそっぽを向いて冷たくあしらった。

「なぜ私が主人の呼びかけに応えなかったのか・・・、ご自分の胸に手を当ててよ〜〜〜く考えてごらんなさいませ!

 どうせ何も思い出せないのは目に見えておりますけれど。

 それでも、ほんのこれっっっっぽっちでもご自分の非を認めるというならば、戻って差し上げないことも

 ありませんけれど・・・。

 ・・・無理でしょうね、永久に。」

 さっきまでの慈愛と友愛に満ちた女神のような神々しさが、今は欠片も見当たらず・・・ただの拗ねた小娘の

 ように、ねちねちとギルを責め立てていた。

「なんでお前らの所有者たるこのオレ様が、所有物に対して謝罪なんかしなきゃいけねぇんだよ!!

 お前らはオレ様の言うことに黙って従えばいいんだよっっ!!」

「そんなことをまだ本気で言っているようでは、他の全ての精霊も貴方と盟約の交わし直しに賛同するとは

 到底思えませんね!

 皆から見放されれば、少しでもご自分を見つめ直して改心していただけると信じていたのに・・・。

 やはり無駄骨だったようですね!!

 貴方・・・以前と少しも変わっておられませんもの。」


 そんな二人の会話を端から見ていて、シリルは思わず吹き出しそうになっていた。

 あの悪名高き『最凶のサモンマスター・ギル』が、自分の使役する高位精霊であるウンディーネと、

 対等に口喧嘩をしている・・・。

 そんな様子があまりにおかしくて、喧嘩しているようでどこか心を許しあった家族のような親しみを感じて

 いるのは・・・自分だけなのだろうか?

 確かに言葉だけ聞いていたら、ギルの言ってることは自分勝手過ぎて・・・ぶっちゃけ頭がおかしい。

 世界は自分を中心に回っているというのを地でいってるような傍若無人ぶりで・・・、まるで見た目通りの

 ただのワガママなお坊ちゃんのように見えた。

 それを母親のように、言葉はキツイがどこか愛情が感じられるウンディーネの態度・・・。

 しかし・・・、さすがにいい加減このやり取りには飽きてきた。

 というよりも、さっきからこの不毛な会話が小一時間も延々と繰り返されているのだ。

 シリルは心底呆れてしまい、両手をパンッと大きく叩いて二人の注意をこちらに向かせて仲裁した。

「ほらほら!!

 ギル様も、ウンディーネ様もそれ位にしてください!!

 あたし達は当初の目的である偽物ギルを退治することに・・・、まぁ結果的には成功したわけなのですから

 それを長老に報告しなければいけません。

 報告さえ済ませればギル様はお望み通り、自由の身なのですから。

 さっさとこの洞窟を出て行きましょう!!」

 シリルがそう言うと、仕方ない・・・と不満そうな顔になりながらもギルは渋々納得した。

 そしてウンディーネの方に向き直ると、ギルはさっきまでの偉そうな態度から一変、もじもじと話しかけようか

 どうしようかという・・・照れに近い仕草になった。


 ギルは元々、ウンディーネを迎えに行くため・・・遠方からはるばるこの洞窟までやってきたのだ。

 無力化した状態で一人旅をして、それがどれだけ危険な旅か・・・誰が想像できるだろうか?

 戦う力を全て失ったギルは、盗賊に怯え、魔物に怯え、ギルに恨みを抱く復讐者の襲撃に怯え、森に迷い、

 毒キノコで死にかけ、トイレを借りた先で勝手に勇者に祭り上げられ・・・。

 思い出すだけで悪夢のような日々が、頭の中を駆け巡る。

 そんな一人ぼっちの、孤独な旅の先でようやく・・・やっと見つけた自分の精霊・・・。

 その精霊に・・・また見放されたら・・・、自分はこの先どうなってしまうのだろうか・・・?

 今まで気丈に振舞ってきた・・・、強気な態度で・・・、マスター家の誇りとプライドにかけて・・・。

 高位精霊を使役する主人という立場として・・・。


 ウンディーネ達、高位精霊は精神世界面という物質のない世界の住人・・・『マナ』と呼ばれる

 自然界の高位生命体・・・。

 人間や魔物とは生態が異なるため、特殊な能力を有している。

 ・・・ギルが一度『聖なる泉』に倒れこんだ時、ギルの精神力が弱った時・・・ウンディーネにはギルの

 その時の心の内・・・深層心理の世界に触れた・・・。

 そこにあったのは、『孤独』・・・。

『自尊心』・・・、『最後のマスター家当主たる義務』・・・。


 ギルの自分勝手な我が儘は、『孤独』から・・・。

 ギルの偉そうな態度は、『自尊心』から・・・。

 そして、ギルの精霊に対する横暴な振る舞いは、『当主としての義務』から・・・。

 ギル本人はそれを無意識の内に、自分の本心に気付かず・・・自由勝手に振舞ってみせていたのだ。


 それを知った・・・。

 自分の主の心の孤独を・・・、この時初めて触れたのだ。


 すでにウンディーネの心は決まっていた。

 自分達が、ただの使役されるだけの召喚獣として成り下がったせいで、主の心を正すことが出来なかった。

 幼い頃から、ギルの回りには自分と同じ『人間』という友達がいなかった・・・。

 回りにいたのは人間ではなく、精霊だけ・・・。

 主の魔力を絆の媒介として吸収し続けるだけの、盟約で縛られただけの関係・・・。

 それではいけなかったのだ。

 まだ幼かった彼を、真っ直ぐに育て上げることが出来ず・・・世界中に災厄を招く原因を作ったのは

 他の誰でもない・・・。

 彼の側にずっと在り続けてきた自分達にも、その責任があった。

 それを・・・自分達、精霊達は全て主人一人に責任を押しつけて見捨てて行った・・・。


 ウンディーネはギルにひざまずいた。

「我が主よ・・・。

 このマナにかけて盟約の続く限り貴方様の盾となり、貴方様の剣となり、その御身を守り抜くことを

 誓います。」

 ギルは呆気に取られていた。

 自分を見捨てたウンディーネの方からこんなことを言うとは、露とも思っていなかったからだ。

 ギルはあまりの唐突さに、思わず我を忘れて素直に受け答えをしてしまっていた。

「お・・・おう。」

 それを見て、シリルは「案外この最凶のサモンマスターも、可愛らしい奴なのかも」と思った。


 ギル達は洞窟を出て、すぐに村へたどり着いた。

 ウンディーネはというと、元々精神世界面の住人なので主人の命令で召喚されない限り現世に顕現する

 ことはないという。

 村に到着するなり、ギル達はいきなりイヤなものをみせつけられた。

 それは・・・、村の為に誠心誠意、無償で働くさっきの・・・ギルの名を騙った男の姿だった。

 瞳をキラキラさせて、全身から労働による清らかな汗を流し、村人達の頼みを快く引き受けて

 満面に幸せをアピールさせている・・・。

 村の入り口で、入って行くのを躊躇っているギル達を見つけた長老が、笑顔で歩み寄ってきた。

「これはこれは勇者様!!

 ワシは貴方様のお力を侮っておりました!!」

 何のことを言っているのかわからなかった。

「ワシらはてっきりギルの奴めを退治するものと思っておりましたが・・・、まさかあの世界最悪の

 凶悪な召喚士を改心させて村の為に貢献するように説得していたとは・・・。

 無駄な殺生をせぬその慈愛に満ちた行動・・・、感服いたしました!!」

「あ・・・そう。」

 とりあえず、このジジイに何を言っても無駄なことは承知の上だったので、余計なことは言わないようにした。

 言っても血圧が上がって、イライラするだけなのは目に見えていたからだ。

 とにもかくにも、これで一件落着・・・。

 これでギルも『勇者』という役職からようやく解放されたのだ。

 ウンディーネも取り戻したし・・・、もはやこの村に用はなかった。

「んじゃ、村の問題も解決したことだし・・・?

 めでたしめでたし・・・ってことで、オレ様はこれでもう行くわ。

 永遠に会うことはもうないから、達者でな。せいぜいラクな死に方しろよ。じゃあな。」

 右手を軽くヒラリと振って、あっさりと村を出ていこうとするギルに、長老はちょっと待ってくれと引きとめる。

「あーいや、お礼とか・・・祭りとか・・・そういうの、もういいし。

 オレ様マジ先急いでっから、永久にオレ様のこともう今この瞬間から忘れていいから・・・てか忘れてくれ。」

「いやいやそういうわけにもいきますまい!!

 聞けばこのシリル、勇者様の手助けをしたいと申していましてな。

 どうか勇者様さえよければ、僧侶見習いではありますがこのシリルを旅のお供に連れて行ってやっては

 くれないかの?」

『はぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!??????』

 二人の声がハモる。

 シリルまでが初耳といわんばかりに、驚きの表情を見せているところを見ると、またこのジジィの一人よがり

 モードに突入していることがわかった。

「ちょ・・・っ待・・・っ長老!!?

 あたしそんな話全然聞いてませんけど?言ってませんけど?初耳ですけど?ぶっちゃけイヤなんですけど?」

「をい、本人目の前にしてそこまで全否定するこたねぇだろ・・・。」

 ギルは聞き捨てならなかった。

「シリルは心優しく頼もしく、何より強い!!

 きっと勇者様の魔王退治のお役に立てることでしょう!!

 女神様の予言にもこうありました、・・・災厄を取り除いた勇者はそのまま僧侶見習いを供として

 この世界に君臨する魔王を倒す旅に出るであろう・・・と!!」

「テメーそれ今自分で作ったろっ!!!だから待てって!!

 つーか誰が何をしに行くって!!?

 魔王!?いつどこでそんな話題が出てきたよ!?全部テメーの一人よがりな妄想じゃねぇかっ!!」

「何より強いってどういうことですか!?あたしってそんなに筋肉質なんですかっ!?

 あたしこれでも僧侶としての目標掲げているんですけど、長老っ!!?」

 二人の言葉は、やはりわざとなのか・・・長老の耳には全く届かず・・・いつの間にかシリルの旅支度まで

 勝手にされていた・・・。

 まるで・・・(村人達にそんなつもりはないとは思うが)、出て行けと言わんばかりの手際の良さである。

 シリルは涙目になり、ギルの方に向き直り・・・全てを諦めきった表情で言葉をかけた。

「あの・・・、長老はあの通り・・・一度決めたことは決して曲げない石頭の持ち主なんです。

 ご自分の都合の良いことにしか耳を傾けない特技の持ち主でもありまして・・・。

 この展開を覆すことは、もはや不可能なんです。

 お互い虫唾が走る程イヤかもしれませんが、旅のお供として・・・連れてってください。」

 絶望した表情で語るシリルに、どうにも言葉の端端に納得がいかないギル。

「つまりお前は、今完全にオレ様に対して虫唾が走ってる状態だってことはよ〜〜〜〜〜っくわかった。」

 ギルもこれ以上この老人に何を言っても無駄なのはわかっていたので、もう何も言うまいと決めた。

 シリルが旅の供として同行することになるのは、全く予想だにしなかった展開だが、メリットがないわけではない。

 シリルの戦闘能力の高さは、あの洞窟での魔物との戦いでイヤという程目にしたし、ウンディーネを

 取り戻したといっても、まだ旅をする為の戦力が整ったというわけではなかったので、シリルの存在が

 今後の精霊探しの旅の役に立つことは確かだった。

 ギルも諦めた風を装って、シリルを旅の同行人として認めた。


 そうと決まれば、これ以上このウザイもので溢れ返っているこの村とはさっさとオサラバして、次なる

 目的地へ出発することにした。

「次はどこへ向かうんですか?」

 他にどんな精霊が、どんな場所にいるのか全くわからないシリルはギルに質問した。

「ん〜〜、イフリート!!と言いたい所だが、ここから火山地帯まではかなり遠いからな・・・。

 一番手近な場所で・・・、シルフがいる風の谷にするか!!

 あいつ自由奔放過ぎて扱いづらいんだよなぁ〜・・・。」

「風の谷ですか・・・。

 だったらここから西南西に向かって・・・、この村を目指せば最短距離で到着できますね!!」

「・・・ふ〜ん・・・・・・・・。」

 ギルは、やはりシリルを仲間に加えてよかったかも・・・と思った。

 ・・・地図が読めてる。

 これなら精霊を全て取り戻せるのも、そう遠くない!!・・・と、確信した。



 しかしギルの本当の心は・・・、『これからは一人じゃない』

『話し相手ができた』・・・、それを一番喜んでいたことが・・・ウンディーネにはわかっていた。


 

今のところは全く続編とか、連載とかは考えておりません。もし万が一読者様の評判が良かったりなんかしたら、考えてみるのもいいかもしれません。

とりあえず今回はこの短編を最後まで読んでくださってありがとうございました。


*もしこの話を読んでくださった方、投稿用に出す予定なので感想の方をいただけたら嬉しく思います。話の内容も少しずつ編集していくので参考までにご指摘をいただけたら有り難いです。注文ばかり失礼しました。*

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
[一言] 雰囲気がとってもいいです・・・! キャラクターもなんか可愛いし・・・ 自由奔放なシルフさんに会ってみたいです! 続編希望です!!
[一言] 続編が読みたいです、よろしくお願いします。
[一言] 凄く面白かった(^∀^) 続編が読みたいデス (*>ω<*)
2009/06/02 20:21 スパイダーマン
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ