9: EP1-5 NPC002攻防戦-1
9話へようこそ
※本日2/2話目につき、8話を先にお読みください
話を加速させましょう
いい加減タイトルを回収しないと話が始まらない...
ここから、運命が変わります
西暦3019年12月21日、協定宇宙時1810
海王星近傍、海王星近傍コロニー002
CAU軍司令部
「状況はっ!?」
「艦隊の2割が撃沈、依然損害増加中!」
「出撃急げ! コロニー内のバトルワーカー隊も全てだ!」
─1820
「サイラスっ!」
「シオンハートか! 状況はどうだ?」
「劣勢だ、今動ける全てを迎撃に上がらせてる! 残りも全て出すが、限界もある。 私も外に出て迎撃する。」
「分かった。 カエデはどうしてる?」
「もう旗艦で出てる。 とっくの昔にな。」
「さすがだ。 俺もできる限り援護する。」
「頼むぞ、外に出れば私も手一杯になるからな。」
─1835
「シンシア! まだなのか!?」
「まだかかる! なんでこんな時に限って...あああもう!」
「クソっ...間に合ってくれ...」
『こちら第3分艦隊、被害増加中...艦隊の4割が航行不能...』
『敵バトルワーカー部隊、増援確認! 各隊はこれを優先し...』
『艦隊長! シオンハート特務准将が出られます! おいそっち! ハッチ開け! レールカタパルト荷電準備!』
「...室長? 聞こえますか? ...データを送ります... はい、はい... 了解、上位権限許可を受け取りました、侵入を試みます。 ...後は追って伝えます。 では。」
─1900
「...いててて...何が...あん...?」
クソっ...まさか...
「おいっ! シンシア!」
「...んあ...」
「あぁクソ、とりあえず生きてるか。 状況は...」
落ち着け俺。
CAU軍のデータログにアクセス...
STC1800、NPC002近傍にESF艦隊が強行ジャンプアウト...
初撃により味方艦隊に甚大な被害発生...
わずか10分で20%が喪失...
ESFの攻撃...か。
「シンシア、立てるか?」
「な...なんとか。」
既にNPC002にも敵バトルワーカーが侵入していた。
今は味方が抑えてるが...どうやら運悪く流れ弾がここを直撃した。
出撃に備えて調整してた俺のバトルワーカーもやられた。
それにシンシアも怪我をしたが...幸い程度は軽そうだ。
「まずは逃げるしかないな。 シンシア、肩貸すぞ。」
「あ...ありがと、ローランド。」
たしかセイバー司令部にパニックルームがあったはずだ。
俺自身はどうにでもなるにしても、シンシアはそうもいかない。
今死なれちゃ俺はどうしようもなくなるからな。
CAUにとってそれは想定の遥か彼方のことだった
『ESF艦隊の本拠地襲撃』
荒唐無稽所の騒ぎではないこの想定など、誰もできるわけがない
CAU指導部を無能と誹るのはこの場合適切でない
杞憂、空が落ちてくるなどという荒唐無稽な話は想定する意味すらない
CAUとESFは長く戦争というものに無縁だった
故に、これは仕方がなかったと言うべきだろう
しかし、CAUにとって都合が悪かったのはそれだけでない
奇しくも、今日というこの日はCAU、そしてセイバー合同の全軍大規模演習が行われていた
STC1700まで行われていたこの演習により、各部隊は補給すらほぼ行われていなく、また兵員も疲弊していた
もちろん、ESFがそれを狙ったのは疑う必要すらない
互いに、スパイはいるのだから
ともかく、不幸に不幸が重なり開戦10分で半ば射撃演習の的となっていたCAU、セイバー艦隊の実に20%が喪失するという大打撃を受けた
他惑星宙域の艦隊も同じく演習後であり、増援は期待できない
CAUの命運は尽きかけていた
それは、最早避けられぬ運命であるかのように...
『クソ! 限界だ! 脱出する!』
『総員退艦せよ! 繰り返す、総員退───』
『コロニー内に甚大な被害が出ています! バトルワーカー隊、間に合いません!』
NPC002近傍
エル・シオンハート特務准将
一機...また一機...
あぁもう!
「数が多すぎる! レン! どうなってる!」
『こちらも手一杯だ! エル、何とか耐えてくれ!』
「全く無茶を言う! 全部隊! NPC002を背に防御陣形! これ以上一機も通すな!」
続くのは通信から聞こえる中隊長達の返答。
手持ちの戦力では正直厳しすぎるな...
私1人だけ生き延びるのは簡単だ。
だが、艦隊とコロニーを防衛し続けるのは無理がある。
正規軍も動いてはいるが、これでは突破は時間の問題だ。
それに既に少数の敵が突破している。
「そもそもどうなってる、まだなのか、アイツは!」
この1ヵ月、アイツの...ローランドのことはしっかり鍛えてやった。
手加減していたとはいえ、バトルワーカー戦で私といい勝負をするほどだ。
アイツが今この場にいれば...いや、無いもの強請りはやめておこう。
私は、私にできることをするだけだ。
NPC002、セイバー司令部
施設中枢、パニックルーム
何とかパニックルームまで着いた。
同僚のセイバー兵が出迎えてくれた時は少しばかりほっとした。
「ローランドか! そっちは誰...シンシアか、やはり一緒にいたか!」
「あぁ、何とかここまで連れてこれた。 怪我をしてる、簡単に治療してやってくれないか?」
「分かってるさ。 ほら、シンシア、こっちだ。」
「あ、ありがとう。 ローランドはどうするの?」
「俺は...外に出る。 敵の歩兵が来るかもしれないだろ?」
「分かった。 無事でいて。」
「大丈夫だ。 安心しろ、シンシア。」
俺はパニックルーム内の武器庫からライフルを取り出し、外に向かった。
いや、正確には向かおうとした時だった。
「...っ!?」
身体が...
「ローランド!?」
俺は気づくとその場に崩れ落ちていた。
「ローランド! どうしたの!?」
「わ...分からん...身体が...動かない...」
「まさかどこかショート...でもここじゃ...」
なんだ...これ...
「ローランド! ローランド、しっかりして!」
シンシアの声が遠い。
でも...なんだこれ...誰かが呼んで...
『すいません、ローランド。 こんな雑な手段で。 でも、今はこれしか手段がありません。 私が導きます。 私の所へ来てください。 セイバーを、CAUを救うにはこれしかありません。』
「ええと...こことここ...いや違う、これは大丈夫...」
「あ...あぁ...シンシア...もう、大丈夫だ。」
「あぇ? あ、ローランド? 大丈夫なの?」
「あぁ、何とか、な。 シンシア、一応聞かせてくれ。 このENIは、外部からハッキングできるようなものなのか?」
「い、いや...外部との通信は近距離通信しか...」
「そうか。 いや、分かった、ありがとう。 ...行く所ができた。」
「でも。」
「大丈夫だ。 安心しろ。 俺は、大丈夫だ。」
「...分かったよ、でも、絶対に死なないで。」
「何度も言わせるな、大丈夫だ。」
ざっくり言おう。
何者かが、俺のENIにハッキングを仕掛けてきたんだ。
そして、声が聞こえたんだ。
CAUを救うにはこれしかない、と。
そして今の俺にはそれが見えてる。
地面や壁にご丁寧にも矢印が書かれてるんだ、もちろんさっきまでなかったのがな。
...来いってことなんだろう、何者かが言う通りに。
この状況、疑わしいとは言え、敵のとも思えない。
それに、この声の主の不興を買うべきではない、そう思ったんだ。
「...こっちか? ん?」
行き止まりだ。
ここまで矢印に従ってきたが、急に通路の端で行き詰まった。
「いや...この壁...」
手を壁につける。
「そういうことか...」
読み通り、壁に切込みが入り、スライドして開いた。
隠された通路、どういうことだ?
セイバーが隠していたもの...一体俺に何を見せようとしてるんだ?
西暦3019年12月21日、協定宇宙時2000
海王星近傍、海王星近傍コロニー002
セイバー司令部地下
「ここは...」
もう少し歩くと俺は格納庫らしき場所に着いた。
そして...その奥に...見慣れないバトルワーカーが一機だけある。
矢印は...バトルワーカーを指して終わってる。
「ん...? お、おい! 大丈夫か!」
よく見るとバトルワーカーの傍に鉄骨の下敷きになっている人影が見えた。
この格納庫も戦闘の余波で崩壊しつつあるようだ。
人影に俺は近づく。
CAU軍の作業着の上に白衣を着たそいつが顔を上げて俺を見るが、俺は知らない顔だった。
「あ、あぁ...ローランドか... どうやってここへ...いや...今はいい...」
でも、そいつは俺を知ってた。
「おい無理するな、今どかしてやる。」
「いや...いい。 どうせもう私は助からん... だが、最後にお前に伝えておくことがある。」
「言っておくこと?」
俺は鉄骨をどかしつつ耳を傾ける。
「ローランド...このバトルワーカーは...お前のために造られた。 お前のために...調整してある。」
「俺のために? どういうことだ?」
この白衣の技術者らしき男はもう動く気力もないようだったが、それでも俺に伝えようとしていた。
「言葉の...通りだ...お前のために...我らが造り...ゴホッ...」
「無理に喋るな! 分かった、俺はどうすりゃいい!」
男が血を吐いた。
今にも死にそうだった。
「バトルワーカーに乗れ...! ローランド...世界を...救ってくれ!」
「...このバトルワーカーに...」
「やってくれ...奴らを止めるには.....」
「おい、おい!? ...クソっ...」
男はそこまで言うと、事切れた。
...目の前で命が失われるのは...
「...分かった。 何が何だか一切分からん。 だが、俺はやる。」
そう決意し、バトルワーカーに向き直った、その時だった。
バトルワーカーの傍らにあるコンソールにライトが当てられる。
...バトルワーカーについてる、ライトが。
「...まさか...コイツ今...動かなかったか...?」
そんなことは有り得ない。
バトルワーカーは兵器だ、物だ。
AI技術がそこまで発展しているなんて聞いたこともない。
俺はコンソールに近づく。
「これは... なるほど...」
見てみると、バトルワーカーの固定具の解除フォームが既に開いていた。
俺は手をそれにかざす。
ガコンガコン、と音がしてバトルワーカーの各部をハンガーに固定している固定具が外れていく。
そして、全てが外れたその時だった。
俺の目の前で信じられないことが起きた。
「お前...なんなんだ...?」
バトルワーカーが自ら膝をつき...コックピットハッチを開けた。
親切にもその前に手を差し伸べて。
バトルワーカーは兵器だ。
バトルワーカーは物だ。
なのに、このバトルワーカーは...
「...乗ればいいんだろ? ...ったく、本当に訳が分からないぞ...」
俺はその手に飛び移る。
「なんだこれ...?」
コックピットを覗き見た俺は困惑した。
コックピット内には、シート以外何も無かった。
操縦桿も、計器も、モニターも。
どうやって操縦するんだ?
...まさか、俺のために、って...
「シートベルト...よし。 他は...ってこれどうやって起動するんだ?」
乗り込んでシートに身体を固定した俺はそう呟く。
そもそも周囲の球形らしき壁は外が一切見えない。
「うーん?」
ENIを試すがどうにも意味が無い。
『パイロットの搭乗を確認完了。』
「おわっ!?」
なんだなんだ!?
『プロファイルデータを照合中。』
突然コックピット内に無機質な声が響く。
『照合完了。 続けて接続を試行。』
女の...しかも子供らしき声が。
『...ENIリンクプロトコル異常なし。 JBW-02ライブラ、起動シークエンスを起動。』
「ちょ、ちょっと待て! 誰だお前は!」
『コックピットハッチを閉鎖します。 注意してください。』
「人の話を聞け! おい!?」
コックピットハッチが閉じていく。
そして、閉じ切ると同時に俺の目に光が飛び込んできた。
「なんっ...!? なんだ...これ...?」
周囲の壁だと思っていたもの。
それは、壁じゃなかった。
壁には...いや、モニターには、バトルワーカー周囲の光景が映っていた。
目の前にはこのバトルワーカーのコックピットハッチの前にある右手が。
そして、振り返り背中側を見れば、バトルワーカーの背後すらもが。
『全天周囲モニターシステム正常に起動。 続けて各部最終起動シークエンスへ移行。』
「こりゃあ...大人しく待つしかないな。」
この声の主は俺に応じるつもりは無いらしい。
『出力系...異常なし。 駆動系... 異常なし。 武装システム...安全装置を解除。 DLPS...正常に起動。 』
突然、俺の視界に各種の表示が追加される。
バトルワーカーの計器とかとそっくりのが。
「おいなんだこれ?」
『...全起動シークエンスオンライン。 最終調整を開始。 JBW-02ライブラの操縦系統をパイロットモードへ移行。 JBOS起動、接続開始。 ...JBW-02ライブラ、全システム正常に稼働。』
そこで声が1度途切れ、そして。
『お待たせしました、ローランド・エリソン中佐。 私はJBW-02ライブラの操縦AI、ディケ、と申します。 これからどうぞよろしくお願いします。』
そう挨拶してきた。
「ま...待ってくれ。 色々聞きたいことがある。」
『すいません、話は後にしましょう。 今はこのコロニーを守らなければいけません。 生き延びたらなんでもご説明します。』
「わ、分かった。」
少女の声が必死とも取れる声で言ってくる。
さすがにそう言われちゃ反論もできない。
「でも、どうやるんだ、これ?」
『あなたの身に宿る、その力を...ENIを。』
「そういうことか。 よし。」
ENIに集中...これか!
『DLPSへのENIリンクを確認。 操縦系統のロックを解除。 エリソン中佐。 やってください。』
「こうするんだろ? ...行くぞ...」
俺は慎重に『立ち上がった』
バトルワーカーが立ち上がる。
「なんだこれ...すごい応答性がいいな...」
正真正銘自分の身体かのようにバトルワーカーが動いた。
『武装はあちらの壁にかけてあります。 と言っても最低限ですが、今は無いよりもマシです。』
「あれだな。 ありがたく使わせてもらうさ。」
壁にかけてあるライフルらしき銃が光り縁取られる。
手に取るとそれは光を失い元に戻る。
俺はそれを少し眺める。
...何か変わった形だな。
『JBW-02ライブラ用に開発された最新鋭装備、JBW-SW1試作ビームライフル。 バトルワーカーサイズにまで小型化するのには相応の時間がかかりましたが、性能は十分です。』
「はっ? ビームライフル?」
『はい。』
「そ、そうか...」
ビームライフル...未だ実用化どころか試作の目処すら立っていなかったはずだろう...?
次に隣のソードが光る。
ライフルを腰のマウントに取り付け、それを手に取る。
『JBW-02ライブラ用に開発された最新鋭装備、JBW-BW1試作エジタイトブレード。 純エジタイト鉱をブレード化したもので、その性能はデータ不足により未知数です。』
「エジタイトブレード?」
「はい。」
「お...おう...」
エジタイトは...反応そのものは優秀だが、物性としてはそう頑丈なものじゃない。
だから、CAUはカイパタイト合金を装甲板とかに使ってる。
『現在使用できる装備はこれだけです。』
「ライフルとブレードか。 まぁ、好みだ。」
『きっと驚くと思いますよ。』
「そうなのか?」
「はい。」
それじゃ、行くか。
『出口は向こうです。 ...警告、セイバー司令部付近に敵バトルワーカー部隊を確認。 外に出た場合...この部隊と接敵します。』
「さっそくかよ。 でも、やるしかないんだろ?」
『はい。 やらなければやられます。』
「オーケー... そういえばお前のことは...」
『ディケ、と呼んでいただければ。』
「ディケ、か。 俺のことは...エリソン、だけでいいぞ。」
『分かりました、エリソン。 』
俺はそこで話を切ると、歩き出した。
ここまで意味不明なことばっかり起きてるが、やるしかないんだろう。
時にはその場の勢いに身を任せることも必要だ。
よし、やってやろうじゃないか!