8: EP1-4 日常
8話へようこそ
登場人物ごとに、人生があり、やることがあるのです
※本日1/2話目
西暦3019年、11月11日、協定宇宙時1000
海王星近傍、海王星近傍コロニー002
セイバー連隊司令部、訓練場
─side: ローランド
「どうなってんだ、マジで。」
俺は今さっきの模擬戦を思い出す。
第1バトルワーカー大隊の大隊長、シオンハート特務准将と俺は試しに1戦交えることになった。
結果は惨敗。
何度何をやっても1度も有効打を与えられなかった。
身体を作り替えた俺ですら身体能力の差がありすぎるんだ。
言い訳をしたくはないが、次元が違う。
そもそも、生身でしていいわけがない動きをしてきた。
何がどうなってるんだ...
「うーん...考えても仕方ないか...」
そう悩む俺の視界には、カエデ艦隊長と話す特務准将の姿が映っていた。
─side: エル
「いやぁ...焦ったな。」
「焦った? 珍しいな、エル。」
私の目の前にはレンがいる。
私の一応の上司で...恋人だ。
「そりゃあなぁ。 まさか私についてくるとは思わなかったからな。 」
「あの技術は元々そういうものだ。 仮にも生身のままのエルが勝てることが本来おかしい代物なんだがな。」
レンが溜息をつく。
...まぁ、それに関しては否定できないのだけど。
「まぁ、そうなんだがな。 まぁともかく...彼はしっかり鍛えて...あの身体に慣れてくれば化けるだろうな。 私も本気で相手をしないといけないかもしれん。」
「エルがそこまで言うか。 ...ふぅむ、本当にそうならいいんだが。」
レンが不安そうにする。
...何事にも例外があるとは言うのだけれどもね。
でも、この例外は本当に...
「まだ1週間であの強さだ。 ...ま、最悪負けることはないさ。 いくら身体が、技術があろうが私には絶対に追いつけない。」
「エルのリソースを削り切るのは人の身には無理があるか。」
「そりゃもちろん。 」
私は自信たっぷりに言い切る。
当たり前だ、私にはその理由がある。
ま、今はその必要も無いけどね。
西暦3019年、11月11日、協定宇宙時1500
海王星近傍、海王星近傍コロニー002
セイバー連隊司令部、指揮官執務室
執務室──
そこにはまたあの2人がいる
さも当たり前かのように、しかしてその雰囲気は常のそれでなく──
「シオンハート、本部から緊急通達だ。」
サイラスの表情は珍しく焦っていた
「どうした? 急に呼び出すほどのことか?」
それを訝しむエル
「そうだ。 情報部からでな... デイモスの極秘輸送艦隊を取り逃したとのことだ。」
「はぁ!? また、か? 3年前のように?」
エルの顔が驚愕に染まり、続けて呆れ顔を見せた
「いや...ステルス特化艦隊でこちらの警備が交代するごく僅かな隙を突かれたらしい。 情報部が今総出で行方を追ってる。」
「...ったく、最近のジャッジメントは何してる。 今度スノーのとこにカチコミ行くか?」
呆れに呆れ果てた、そんな調子で言い捨てるエル
「...まぁ、それはさておきだ。」
「なんだ?」
サイラスが表情を引き締める
「カエデに言っておけ。 可能な限り第一艦隊を結集させろ、と。 まぁ、俺からも追って正式な指令として伝える。」
「了解。 ...やり合うつもりか。」
「あぁ。」
西暦3019年、11月19日、協定宇宙時0900
海王星近傍、海王星近傍コロニー002
セイバー技術研究所
俺はまたここに来ていた。
エルズバーグから呼び出されたが...要件は不明ときた。
他の職員達がキーカードでドアのロックを開け入っていく中、俺はそのうちの1つに右手をかざすだけでロックを開け入る。
これもこの身体の機能だ。
あらゆる電子機器との無線通信。
この2週間でだいぶ慣れてきたが、やはり便利だ。
まだ不慣れなことも多いけどな。
さて、エルズバーグは...あぁいた。
俺はロビーで何やら食べているエルズバーグに近づく。
すると俺に気づいた彼女がこちらに手を振る。
「お、来たねローランド。 チキン食べる?」
「あぁエルズバー...シンシア。 また急に呼び出すなんて何かあったのか?」
この2週間、思ったよりも親しくなった俺たちは名前で呼び合う仲になっていた。
別に恋心があるわけでもなく、良き友人として、だが。
「チキン要らないか。 で、えーっと。 ENIのテストプロトコルが書き上がったんだ、バトルワーカー用のさ。」
「おぉ! ようやくか。 待ちわびたぞ。」
「あはは、ごめんごめん。 思ったよりも最終調整に時間かかってさ。 で、もうインストールしたバトルワーカーを試験場に駐機させてあるんだ。 ローランドさえ良ければ今すぐにでも始めれるけどどうする?」
そりゃ、もちろんあれだ。
「今すぐやろう。 あ、後シンシア。」
「何?」
「人に食い物勧めるなら早く実装してくれ。」
「あ。」
俺、まだ食事機能ないんだよな。
何せ電力だけで本来稼働できるからな。
この2週間飲み食い要らずだけどやっぱ違和感あるんだよなぁ...
─30分後
セイバー技術研究所、バトルワーカー試験場
「ほい、っていうことでこれが今回用意した試験機。 ライラ・ジーナの胴部モジュールを改装してENI系統にそっくり換装してある。」
「やっぱ相変わらずこの機体拡張性おかしいだろ。」
「もう12年前なんだけどねぇ基礎設計って。 その時点であらゆる拡張ができるよう設計してあったんだから凄いよね。」
「ほんとな。 さてと、じゃあさっそくやろう。」
「おっけー、じゃあまずいつも通り乗って。」
俺は飛び上がり開放してあるコックピットに乗り込む。
...なお、現在このバトルワーカーは立ち状態であって、コックピットは地上5m程度の高さにある。
この身体、素のジャンプ力もおかしいが、更に背中に短時間のみ使えるジェットパック的なものもある。
使う度に益々人間辞めた感を感じれる機能だ。
「ん、コックピットはいつも通りなんだな。」
「まぁ試験機だからね。 ここまで持ってくるのも手動操作だし、ENI系統もまだ完璧かは言いきれないしさ。」
「それもそうだな。」
試験機が完璧だったらそれはそれで怖いぞ。
「よし、ハッチを閉じる。 以降は通信で行う。」
『了解。 よし、それじゃあローランド、まずは普通に歩けるか試してみようか。 それができなきゃ何もできないし。』
「分かった。 やってみよう。」
マニュアルはもう頭に入れてある。
インストールって意味だが...
「自分の身体とのズレ..ってまず接続しないとな。」
ええと...これを...
そうだこれこれ、まず操作盤のモニターと繋いで...次に...
ENIリンク...異常なし...
起動待機から起動状態へ移行...
「よし、行けたか?」
『大丈夫そうならやってみて。』
「多分行けるはずだ。」
俺は前に1歩踏み出そうとする。
すると...
『お...おおー!』
「なんだこれ...足の裏にちゃんと感覚がある?」
『そっちも成功! さすが私!』
そんなことを言うシンシアが手元のタブレットで何か操作する。
「おーいシンシア、これ、どういうことだ?」
『あぁええとね。 せっかくだから実装してみたんだ。 地面の感覚が分かったほうが歩きやすいかなって。』
「なるほどな。」
確かにそうかもしれない。
今はここは金属製の床だが、これが土とかなら話は別だろう。
コロニー内に土はほぼ無いとはいえ、ESF領内の惑星なら、な。
と、俺は歩き回ってみる。
バトルワーカーの機動性、応答性では疾走するとはいかないが、慣れてくると通常のバトルワーカーと同程度、あるいは少し早いぐらいまではできるようになってきた。
『うーん...まさかこれほどとは...作っておいてなお恐ろしい...』
なんてことをシンシアが途中で言ってたりな。
「凄いなこれ。 バトルワーカーが自分の身体みたいに思えてきた。」
『でしょ? それがこれの目的だったんだ。 もっと詰めればもっとよくなるけど、まぁそこからは十分な稼働データと向き合っていかないといけないしすぐには難しいかなぁ...』
「まぁ、それでもいいさ。 これだけ動かせればな。」
『かもね。 私も私なりにできる限りはするよ。』
「あぁ。」
それから俺はしばらくの間シンシアの要望通りに動かしてデータを集めていた。
あぁ、楽しみだ。
これをもっと振るう日がな。
西暦3019年、12月21日、協定宇宙時1800
海王星近傍、海王星早期警戒観測所
通信ログ
「こちらNEWS、オーバーロードへ。 定時報告。 近傍宙域に異常を認めず。」
『オーバーロードよりNEWS。 報告了解。 通信をしゅう...待て...なんだ...これは? 何もない...? そんなことが...』
「オーバーロード?」
─3秒沈黙
『NEWS、この座標を集中スキャンしてくれ。』
「了解... ってこれ、NPC002のすぐ近くじゃないか。 そっちの方が早いんじゃないか?」
『それでもだ!』
「あ、あぁ...了解?」
─10秒沈黙
「なんだこれ? ...っ! オーバーロード! 事前のジャンプアウト通知は!?」
『なんだって? そんなもの...』
─2秒沈黙
「オーバーロード! 強行ジャンプアウト警報! パターン...ESF! ESFのだ!」
『おいおい...まさか...』
その日、CAUは...いや、人類は数世紀ぶりの経験をすることになった
誰が再び起こるなどと予期したであろうか
いや、あるいは、彼らは分かっていただろう
あの日から3ヶ月、十分すぎる時間はあったから