7: EP1-3 セイバー連隊
7話へようこそ
人物設定と兵器設定の詰め直しをしていたらだいぶ間が開きましたがともかくようやく更新となります
21/4/24 誤字修正
西暦3019年、11月5日、協定宇宙時1000
海王星近傍、海王星近傍コロニー002
セイバー連隊司令部
まぁ先に言っとく。
あの後面白い話は特別なかった。
俺がサインをしたのを皮切りに、話は一気に進んだ。
エルズバーグ技術中佐が言った通り、1週間で準備は整い、俺は流れに身を委ねるままにしていた。
CAUの軍病院、それも最高の設備が揃うこのNPC002で行われた手術...もとい人体実験は実に15時間に及んだ。
目が覚めた時、世界は変わっていた。
今でも思い出せる...いや、この表現はもうおかしいんだったな。
記録しておきたいなら、いつまでも、そして、いつでも見返すことができる。
「ローランドさん? 大丈夫ですか? 認識できますか?」
「...あ...あぁ...?」
ここは...俺は...ええと...
「一応合言葉で確認しましょうか。 新時代のフロンティア。」
「切り開くのは俺達だ。 ...っと思い出してきたぞ、エルズバーグ技術中佐、どうだ、成功か?」
「一通りは。 ...立てますか?」
「ちょっと待ってくれ... よし... 大丈夫だ、動けそうだな。」
「無理はしないでね。 私も実測は初めてだから。」
脳と全身の接続は...問題なさそうだ。
俺はまず起き上がろうとする。
「んん...なるほど...よし...」
少々ぎこちないが、ベッドの上で起き上がれた。
そのまま身体を滑らせ縁に座るようにする。
「よし、立つぞ。 一応支えてくれ。」
「はいはい。 ...どうぞ!」
「よっ...とと...よし。」
俺の足がカツンと音を立てた。
それと、踏み込んだ感覚が硬い。
「...では次、歩けますか?」
「離さないでくれよ。 ...よっ...ちょっと違和感はあるが大丈夫そうだ。」
カツンカツンと音がする。
とりあえず問題はなさそうだ。
...意識すると、色々と違うな。
これが、ENIか。
「良かった、どれも数値は計算の範囲内... で、では! これを!」
「うん? あぁ...」
タブレットを見せてきた。
画面表示は『ENI Testing』と安直。
それからタップ用にボタン部。
たしか手が媒体になるんだったな。
俺はそれに触れずに、手を翳し、画面のボタンを押すように考えた。
すると、表示が『Confirmed』に変わった。
「...正常に動作...ENIリンク経路に異常なし...やった...成功した...」
そこまで言うと、エルズバーグ技術中佐が崩れ落ちた。
「お、おい!?」
「あ、あぁ、すいません、つい、嬉しくて。」
そう言って顔を上げたエルズバーグ技術中佐の顔は、涙が溢れていた。
シンシア・エルズバーグセイバー技術中佐。
17歳にしてCAU技術官として入隊。
わずか3年でセイバー連隊にスカウトされ、セイバー技術研究所に配属される。
それから9年。
...うち5年はこのSSPに注ぎ込んできたんだ。
それが紆余曲折を経て...成功したんだな。
こうも...なるか。
...とまぁ、ともかく、無事に俺は身体を置き換えた。
得体の知れないものをその場の思いだけで受け入れるのは今となってはどうかとも思うが後悔もしていない。
やってみれば、便利なものだ。
それで...俺は今日、ここセイバー司令部に来ている。
要件は今後のこと、だそうだ。
さてさて何を聞かされるんだか。
「ローランド・エリソン。 ふむふむ...これが、か。」
「...ええと、ファルコナー大佐、こちらのお方は?」
セイバー司令部の大会議室に通された俺は今、明らかに偉そうな男と会っていた。
「こちらのお方は、セイバー連隊統合指揮官のサイラス・セイバー元帥だ。」
「げっ...元帥?」
「あぁ...畏まらないでいいぞローランド。 そうだ、この俺がサイラスだ。 以後よろしく頼むぞ。」
そう言って手を差し出してきた。
とりあえず俺は握手する。
...元帥。
CAU軍の最高階級だ。
セイバーでもそれは変わらない。
つまりは、トップだ。
「...冷たいな。」
「申し訳ありません、サイラス元帥。 温熱機能はまだ未実装でして。」
「...いや、だから畏まらないでいいぞ? 元帥だなんだと大層な肩書きに見えるかもしれないが、私とて君と同じ人間だ。 セイバーにおいて階級は指揮系統のためのものでしかない。 それにおいて人間関係を窮屈にしたくはないからな。」
「で、ですが。」
「...まぁいい。 さて、本題に入ろう。 時間を無駄にはしたくない。」
サイラス元帥がそう言って席に着いた。
「ローランド、君もそこに着くといい。 クレイグ、彼らを呼んできてくれ。」
「了解。」
ファルコナー大佐が部屋を出ていく。
「さてローランド...これから君に会ってもらうのが2人いる。 君の配属先だ。」
「配属先、ですか。」
「そうだ。 安心してくれ、俺が選んだ精鋭だ。」
「セイバーの精鋭...つまりは...」
「察しが早くていい。 彼らは最高の部下だよ。」
自信満々の表情だ。
と、部屋のドアがノックされる。
「あぁ、来たか。 入ってくれ!」
スライド式のドアが開くと、男女のペアが入ってくる。
後から入った女がドアを閉め、2人並んでこちらに向き直ると同時に男が口を開いた。
「レン・カエデ中将、エル・シオンハート特務准将両名、ただいま到着しました。」
「時間を取らせてすまないね。 さ、君らもそっちに着いてくれ。」
俺の対面に2人が座る。
「さて紹介するよローランド。 彼らがセイバー第1艦隊の艦隊長、そして第1バトルワーカー大隊の大隊長だ。」
「レン・カエデ中将、セイバー第1艦隊長だ、よろしく頼むよ。」
「エル・シオンハート特務准将だ。 セイバー第1バトルワーカー大隊長をやっている。 ローランド、君の直属の指揮官になる、以後よろしく願う。」
男のほうがカエデ中将、女のほうがシオンハート特務准将か。
「お二方とも、よろしくお願いします。 自分はローランド・エリソン...ええと。」
「あぁそうだったね。ローランド、君にはセイバー中佐の任を与えることになった。 基本的にセイバーにおいてはCAUに比べ1つ上の待遇で扱われる。 つまるところ、セイバー中佐はCAU大佐と同等さ。」
...ここでもセイバーがエリート部隊だと認識させられる。
...ん? 待てよ、シオンハート特務准将の階級って...
「...あの、失礼ながら、サイラス元帥。 質問があるのですが。」
「何かな?」
「CAU、セイバー共に変わらずバトルワーカーパイロットの階級は大佐が最高位では...」
「あぁ、シオンハート特務准将のことか。 何、これは特例でね... シオンハート特務准将の功績は他者のそれを軽く、遥かに上回っている。 故に、大佐位では足りず、本人もあくまで自分はパイロットで、准将ないしそれ以上になる気はないということでね... 結局、特務准将...つまり准将でありながら特務としてバトルワーカーパイロットを務めるという形にしたんだよ。」
「なるほど...そんなことが。 とても憧れます。」
「褒めても何も出ないぞ、ローランド。 だが、ありがとう、受け取っておく。」
シオンハート特務准将がそんなことを言った。
見た目はキッチリ決めたスーツに黒のショートヘアと、やり手のクールビューティって感じで話しづらそうな印象だったが...そういうわけでもなさそうだ。
この時の俺は知らなかったが、このシオンハート特務准将こそが俺の憧れだったんだ。
その事を俺が知るのはもう少し後の事だ。
「うんうん、ローランド、上手くやってくれ。 カエデ、シオンハート、この新人は有望だ、しっかり面倒を見てくれ。」
「了解、元帥。」
「そう言われちゃあな。 ま、やるだけやるさ。」
カエデ中将、シオンハート特務准将がそれぞれそう言った。
「はい、よろしくお願いします、カエデ中将、シオンハート特務准将。」
これが俺と、シオンハート特務准将の出会いだった。
─30分後
セイバー連隊司令部、指揮官執務室
セイバー連隊司令部、その中枢の1つたる指揮官執務室には2人の人影がいた
片や、執務室の机に据えられた椅子に座る男
セイバー連隊統合指揮官、サイラス・セイバー
「...それで? デイモスの動きは?」
「それが全くない。 気味が悪いな、あれだけ大きくこちらに分かるように動いたんだ、すぐに追撃があると思ったんだがな。」
「警戒は要るだろうな、サイラス。」
そしてもう1人
その机に雑に腰掛ける女
セイバー連隊第一バトルワーカー大隊長、エル・シオンハート
続けざまにエルが振り向いて言う
「ジャッジメントはどう動くつもりだ?」
サイラスがエルの顔を見る
「...現時点では静観だ。 まぁ、既にライブラをこちらに寄越しているからだろうが...」
「ふん、あの黒いのも頭が硬い。 ...まぁ、安易な例外規定は組織の崩壊の始まりにもなる。 理解ができないわけじゃないな。」
エルが吐き捨てるように言いながらも同意を示した
「こればかりはな。 ミッチェルに常に連絡は取ってもらってる。 何かあればすぐに動けるようにな。」
「そうしておいてくれ。 私とて奴らに遅れを取る訳はないが、全て守りきれるわけではない。」
「分かってるさ、シオンハート。」
「...相変わらず名前じゃ呼んでくれないな、サイラス。」
「君こそ嫌がってるわけじゃないだろう?」
「まぁ、な。」
誰もいない場だからだろうか
彼らの口調は常のそれではない
あるいは...
「そうだ、サイラス。 アリアは最近どうしてる?」
少し表情を緩め、エルが問う
「ウィルクスか? 最近は...木星方面に駐留してるが。」
「木星か。 最近会ってないからな。 後で顔出しとくか...」
少しばかりエルが考え込む
「あぁ...そういえばウィルクスと言えばまた言ってたぞ。」
「また、か? ルイナもいい加減成長したらどうなんだ...」
また、の部分にアクセントをつけサイラスが言い、呆れ顔のエルが同じように続けた
「それを含めても第二バトルワーカー大隊長には適任だからな。 実力も指揮能力も高い。 ...確かにこっちとしてももうちょっとウィルクス以外に従順であってほしいんだがな。」
「ま、無理なことは言うな、サイラス。 あれはアリアとの信頼関係によるものだ。 無理に引き裂けば取り返しがつかなくなるのは言わなくても分かるだろ?」
「当然だ。」
キッパリとサイラスが言い切る
「...あぁそれと...サイラス、リグはどうしてる?」
「マルコシアスは...うちの馬鹿共が本当にすまない、だとさ。」
「気にするほどでもないんだけどな。 アイツは何も悪くない。」
「それでも気になるんだろうよ。 マルコシアスは誠実な男だ。 誠実すぎるまでにな。」
「名前がそもそもそうだしな。」
そこでエルがよし、と立ち上がる
「まぁ、分かった。 とりあえず彼のことは任されたよ。 まずは模擬戦でもやってみるかな。」
「頼んだぞ、俺は戦闘はサッパリだからな。」
エルが手を振り、執務室を出ていった
『セイバー連隊』
その歴史は古く、かつてはCAU成立当時からあるとされている
初期のセイバー連隊はCAU軍の一特殊部隊であり、今のような規模、権限は持たなかった
それが時の流れと共に拡大、今ではCAU軍独立エリート部隊として活動している
セイバーは第1艦隊、第2艦隊、第3艦隊の全3艦隊を保持しており、それぞれ下部に第1バトルワーカー大隊、第2バトルワーカー大隊、第3バトルワーカー大隊が付いている
それぞれにサイラス・セイバーが任命した艦隊長、大隊長がいる
また、中隊長以下は各艦隊長の裁量に任されており、サイラス・セイバーはそれを承認するのみである
セイバーの主な任務は特定指定犯罪組織の鎮圧であり、CAU正規軍が手に負えないほどに成長してしまった犯罪組織に対してその力は振るわれる
近年では犯罪組織の勢力は日に日に拡大しており、セイバーの出撃命令も増加傾向にある
以下は各艦隊の艦隊長、大隊長の簡易プロフィールである
詳細なものは機会があれば後に掲載するものとする
・第一艦隊
-レン・カエデ中将 (艦隊長) 男性: 37歳
(Ren・Kaede)
彼は古くは西暦2000年代初頭まで家系図の残る名家、カエデ家の出身であり、その指揮能力はCAU軍でもトップクラスのものである
年齢の割に若く見える人物であり、しばしば20代後半程度と10歳近くも若く見られることがある
得意とする戦術は高速機動打撃群による長距離砲狙撃戦であり、敵艦隊のアウトレンジからの攻撃を主とする
乗艦はCAU軍艦隊長の恒例である改装型主力戦艦『UBS-RT-CC ランティッヒコマンド』である
-エル・シオンハート特務准将 (大隊長) 女性: 28歳
(El・Shionheart)
彼女はCAU史上最強のバトルワーカーパイロットの名を欲しいままにするエリートパイロットである
乗機のあまりのピーキーさに直属部隊こそいないものの、戦闘をこなしつつも大隊を指揮し、常に優位を取り続ける
その戦いぶりはまるで魔法のようとも評されるものである
艦隊長のカエデ中将とは籍こそ入れていないものの同居中であり、自他ともに認めるカップルである
乗機はライラ・ジーナの高機動モジュールであるベータフレームをより機動性に特化させた超近接格闘カスタム機『UF3G-07Lβ-ESC ライラ・ジーナ シオンハートカスタム』である
第1バトルワーカー大隊内での呼称は『マリエル』
・第2艦隊
-アリア・K・ウィルクス中将 (艦隊長) 女性: 年齢不詳
(Aria・K・Wilkes)
セイバー内でも特に素性の不明な人物である彼女は年齢はおろか出自すらもが不明である
外見上は24歳程度であるがその通りであるかは前述の通り定かでない
しかし、サイラス・セイバーが艦隊長に任命している事からも分かる通り、指揮能力はかなりのものであり、常に的確な指示の元、作戦を遂行する
部下思い、そして慈悲深く、周囲からの信頼も厚い人物である
重砲撃艦隊による超長距離砲狙撃戦を得意とし、演習時の艦隊損耗率は極めて低い数値を記録している
ミドルネームのKは定かではないが、酒の席での本人の談を信じるのであれば、カズノコの頭文字であるらしい
乗艦はカエデ艦隊長と同じく『UBS-RT-CC ランティッヒコマンド』である
-ルイナ・ルプスレフィア大佐 (大隊長) 女性: 22歳
(Luina Lupusrefia)
史上最年少である21歳でセイバー大佐、そして大隊長まで昇りつめた実力を持つ彼女は自身の能力に絶対の自信を持ち、それを証明する機会を常に模索している
その性格はセイバー上層部からすれば扱いの難しいじゃじゃ馬であるが、反面、部下からの信頼は厚い
乗機はライラ・ジーナの重装甲モジュールであるガンマフレームをより重装甲かつ重武装化させた遠距離砲撃カスタム機『UF3G-07Lγ-LLC ライラ・ジーナ ルプスレフィアカスタム』である
第2バトルワーカー大隊内での呼称は『アルティア』である
・第3艦隊
-オルグ・C・エンスウェン中将 (艦隊長) 男性: 26歳
(Orgu・C・Ensueno)
26歳という驚異的な若さで艦隊長を務める彼は、艦隊指揮だけでなくバトルワーカー大隊、そして艦隊長直轄バトルワーカー部隊の指揮を同時に行うほどの常人離れした指揮能力を持つ
見た目の若さに反し、既に歴戦の勇士と言った風格を持ち、その発言は真意こそ理解出来る者はほぼいないが、的確かつ有無を言わさぬ力を持つ
様々な戦術を用いる彼ではあるが、最も得意とするのは機雷等を用い敵を撹乱、牽制した後に多対1で各個撃破を狙うものである
乗艦は他2名と同じく『UBS-RT-CC ランティッヒコマンド』である
-リグ・マルコシアス大佐 (大隊長) 男性: 28歳
(Rig・Marchosias)
彼は肩書きこそ第3バトルワーカー大隊長であるが、前述の通りその指揮はエンスウェン艦隊長が務めている
リグ・マルコシアスという彼が大隊長である所以はその高い状況把握力、そして戦闘能力にある
自身に合わせ調整された専用機を駆り、艦隊長の懐刀として独自の指示を受け、艦隊長直轄バトルワーカー部隊のみという少数で苛烈な任務を切り抜ける様はまさしく『誠実な獣』であるだろう
乗機はライラ・ジーナのバランス型モジュールであるアルファフレームを純粋に強化した汎用型高性能機『UF3G-07Lα-RMC ライラ・ジーナ マルコシアスカスタム』である
第3バトルワーカー大隊内での呼称は『カンペアドール』である
いつもの事ながら評価、感想等々よろしくお願いします