30: EP3-6 兵器
...始めよう。
コロニー協定連合体 "CAU"
ライトニングストライク作戦 ─ ブロークンソード作戦
1日目
西暦3020年3月18日、協定宇宙時17:49
火星近傍宙域、CAU-ESF艦隊交戦宙域
最前線、セイバー第2艦隊索敵艦アイサイト
時に『兵器』は予想もし得ない手段で生まれ、使われる
時にそれは、兵器でないものからでさえも
時に、人間でさえも
─セイバー第2艦隊、索敵艦アイサイト艦橋
「通信科より艦長、敵前衛への測量要請です。」
「了解、艦長より索敵科、敵前衛を集中スキャン、2Fネットワークにアップロードせよ。」
「索敵科了解、指揮所より第2観測所へ、敵艦隊前衛にスキャナーを集中。」
第2艦隊の目の1つである索敵艦アイサイトの艦橋は戦闘開始以来、ひっきりなしに指示が飛び交っていた
「航宙科より艦長、まもなく移動時間です。」
「了解、艦を右方...正規軍艦隊デルタ位置まで移行。 索敵科、移動しながらのスキャンに備えろ。」
「航宙科了解、移動を開始します。」
「索敵科了解。 指揮所より第2、第3観測所へ、スキャン安定化プロセスを起動しろ。」
索敵艦は遠距離砲撃戦において最も重要であり、その位置を特定されないように定期的に移動し続ける必要があった
「しかし...正規軍の連中もよくやるな、副長。」
「だな、艦長。 2Fネットワーク自体も正規軍ネットワークに情報共有は行っている以上、我々の功績は多大なものだろう。」
「そうだな。 あぁ、そういえば、副長...」
艦長が副長へ何かを言いかけたその時
「通信科より艦長へ! 敵スポッターからの集中スキャンを検出! 最低でも5つからターゲットされています!」
「っ! 通信科、対電子戦プロトコル展開! 航宙科、機関全開、回避運動!」
恐らくアイサイトが索敵艦であることがESF艦隊に察知されたのだろう
艦橋が一気に慌ただしくなる
「ECM起動! 対スキャンフィールド展開! ...ダメです艦長、敵スポッターの出力が高すぎます!」、
「航宙科、手近な友軍戦艦の陰へ急速移動、索敵科、スキャンプロファイル軽減のため索敵を一時中断しろ!」
「航宙科了解! 」
「索敵科了解、指揮所より全観測所へ、全スキャンを停止せよ。」
アイサイトは機関の許す限り移動を続けた
しかし...戦場は非情だ
「まもなく正規軍ランティッヒ級の陰へ入ります、艦長。」
「よし...間にあ」
艦長が全てを言い切ることはなかった
それと同時に、火星の方向から...極光が迸った
─同刻...火星軌道上、ESF軍超長距離対艦レーザー『オービタル・イージス』指揮所
『観測所より指揮所、敵艦への命中を確認した。』
「了解... 次弾をリチャージする。 引き続き敵スポッターを照準せよ。」
ESF軍の切り札...『オービタル・イージス』は艦隊長ウィルクスの予想通り、火星軌道上に展開されていた
一撃でCAUの主力戦艦であるランティッヒを撃沈するその火力は、移動能力を犠牲に、つまりはある程度決まった方向のみにしか砲撃できないものの、それで十分にCAU艦隊を苦しめていた
『司令、ブラボーHQより入電、軌道エレベータ送電システムに不具合が発生。 一時的に送電を中止すると。』
「了解した。 融合炉と太陽光発電のみでもリチャージは可能だが... 少し時間がかかるな。」
『予備の融合炉を起動しては?』
「...まぁ、必要ないだろう。 CAUはこちらの存在すら把握していないだろうからな...」
こういうのを、フラグというのだろうか?
あるいは...
本当に、敵艦を撃沈できていたのだろうか?
─セイバー第2艦隊、索敵艦アイサイト艦橋
「ゴホッ... 副長、損害報告! ...副長?」
「艦長... 副長は戦死されました。 私が臨時で...引き継ぎます。」
「...あ、あぁ... 頼む...」
『オービタル・イージス』の砲撃に被弾したアイサイトには致命的な被害が出ていた
被弾の衝撃に揺さぶられた艦内では多数の死傷者が出ていた
副長もまた、飛んできた部品が頭部に直撃し、即死だったようだ
そして、指揮経験のあった索敵科のオペレーターがその後を継ぐ
「機関付近に被弾...機関室からの応答なし。 全推進システムがオフライン。 艦体制御、スキャンシステムが機能停止、生命維持システムが動作不安定です。」
「...生きていたのが奇跡か? 自力航行は不能か。」
「はい。 ...通信科より報告、通信システムは奇跡的に問題なし。 損害報告に更新、被害を免れたEWEリアクターが1つ... それから、ワープドライブがEWEリアクターごと無傷です。」
「よし... 第2艦隊へ...メイデイだ。」
「了解... 通信科、旗艦へメイデイを発令。」
「通信科、了解。 RTSベータ、メイデイメイデイ、こちらスポッターアイサイト、敵兵器により航行不能、至急救援を。 繰り返す、こちらスポッターアイサイト、航行不能、救援を要求する。」
『こちらRTSベータ、アイサイト、メイデイを受信した。 直近の救助艦が急行する。 退艦準備せよ。』
「スポッターアイサイト了解、艦長、急ぎ退艦準備を。」
「ありがとう、艦長より全クルーへ、本艦はメイデイを発令、艦を放棄する。 作業を停止し、直近の脱出艇へ向かえ。」
索敵艦は第2艦隊のような長距離艦隊にとって要であり、その艦長は特に優秀であることが求められていた
この艦長も類に盛れずセイバーの艦長でも有数のエリートであり、その判断は一瞬だった
「...艦長、これを!」
「なんだ? ...まさか。」
退艦のため機密情報の処理をしていた通信科のオペレーターが偶然にも発見したもの、それは戦況を変えうる可能性のあるものだった
「被弾計測... 火星軌道上? まさか、敵長距離兵器の座標データか...? 」
CAU艦隊の艦には被弾時のあらゆるデータを自動収集するシステムがある
本来は反撃の際の照準補正に用いるためだが...
これが偶然にも、『オービタル・イージス』の存在、そしてそれが火星軌道上にあることを捉えたのだ
「よし、持ちだ...いや、あぁ、持ち出してくれ。 救助艦から旗艦に報告してネットワークにアップロードしよう。 戦況を変えれるかもしれない。」
艦長が一瞬言い淀むのに通信科のオペレーターは訝しむも、時間が無いと作業を再開する
...艦長はベテランであり、エリートであった
だからこそ、一瞬見たデータから全てを察してしまった
敵兵器までの距離、それが、このCAU艦隊のどの兵器でも手が届かないものであることを
それでも、それを言わなかったのは希望を捨てないため、捨てさせないためだろうか
作業する間、アイサイトが敵艦に狙われなかったのは、アイサイトが隠れようとしていた正規軍のランティッヒが直近で被弾したアイサイトに気づき、盾になるように動いていたからだ
ほんの少しの間の後、アイサイト艦橋からオペレーター、クルー達が次々と退出する
「艦長、行きましょう。」
通信科オペレーターが艦長を促す
「あ、あぁ... ちょっと...待ってくれ。 もう1つ削除しておくものがあった。 先に脱出艇へ行っておいてくれ。」
「了解、艦長。」
通信科オペレーターも退出し、艦長が1人残される
「...これしか、手段はないか。」
艦長がぼそりと呟いた
艦長も艦橋を退出し、脱出艇のハッチへと向かう
「艦長! 早く来てください! もうすぐ救助艦が来ます!」
やはり通信科オペレーターが手招きして待っていた
「最後まで船にいるのが艦長の役目だ、先に乗ってくれ。」
「了解、さぁ、艦長!」
艦長がハッチに近づく
そして
「っ!? 艦長、何を!?」
「行け! 私は...最後の仕事をやる。」
艦長がハッチを封鎖するレバーを降ろし、1人艦に残される
先程、艦橋に残った艦長の脳裏には悪魔的な手段が閃いていた
あの兵器を破壊するための、手段が
「艦長、何を言ってるんですか!」
「救助艦の連中にはよろしく言っておいてくれ。」
そう言うなり艦長が踵を返し艦橋の方へと歩き出す
「艦長! 艦長!」
脱出艇が切り離され、アイサイトから離脱していく
艦長を除けば、確かに全クルーがアイサイトからの退艦に成功した
「...らしくもないな。 だが...」
何故かは分からないが、艦長には、彼にはそれが成すべき使命だと感じられた
それが自らを犠牲にすると分かっていながらも
自身も脱出すべきだというのに、何故か、だ
「成功すれば...状況は変わるだろうよ。」
少なくとも、彼は自己犠牲精神の持ち主などではなかった
では、何故彼はその道を選んだのだろう?
「...面白い、面白くない、か。 ...神の気まぐれか?」
彼の目に何が見えていたのかは分からない
ただ、それは、偶然か、必然か
「...スポッターアイサイトよりRTSベータ艦橋、コードレッド、コードレッド。 艦隊長へPECを要求する。」
─Side: ウィルクス
「艦隊長、メイデイ発令のアイサイト艦長よりコードレッド、PEC要求です。」
「アイサイトから、だと?」
PECコードレッド...
最優先緊急通信だ。
不必要な使用は軍法会議ものの最重要事項だが...
「...繋げ、何かあったのかもしれない。」
メイデイの発令された艦だ。
それにアイサイトの艦長は信用出来る...無意味なことはしないはずだ。
「アイサイト、通信開きます。」
『艦隊長、すいません。』
「どうしたんだ? コードレッドまで使って?」
モニターに映ったその顔は酷く冷静だ。
...人間味がないように見えるほどに。
『ウィルクス艦隊長。 アイサイトの全クルーは退艦しました、自分を除けば。』
なんだって?
「...なら、どうしてお前がそこにいる? 何故退艦していない?」
『艦隊長、敵超長距離兵器の所在が分かりました。 火星軌道上です。』
な...
「ならどうしてそれを報告しない!」
『被弾計測のデータで判明しました。 データ抽出していない乱雑な大規模データであって、通信に向かないためデータドライブごとクルーに持たせました。 救助艦のほうから整理してネットワークにアップロードさせるつもりでした。』
...何かおかしい。
例え大規模データであっても、艦隊ネットワークならそれを処理できる。
「...分かった。 だがそれがどうしてお前がそこにいる理由になる?」
『艦隊長。 ...火星軌道を攻撃できる兵器は今のこの艦隊にはありません。』
「それは...」
言う通り...だが。
『艦隊長。 ですが、唯一手段があります。』
「なんだ? 敵艦隊を突破するのは現時点では... あの敵兵器が動いている限りは無理だ。」
『艦隊が今持ちうる最も射程の長い兵器...それが今ここにあります。』
なんだ?
何を操作して...
『ワープドライブ、スタンバイ』
待て、今のシステム音声は...
「ワープドライブ...? 何のつもりだ、まさか... いや... まさか!」
『艦隊長、今までありがとうございました。 無事に生きて帰り、どうか自分の勇姿を語り継いでください。』
「ダメだ! 今すぐそれを止めろ! 命令だ!」
『艦隊長、共に戦えて光栄でした。』
「おい! 話を聞け! お... 通信科!」
「アイサイトから通信を切断しました、システムは正常です。」
「クソっ!」
台を叩く音が艦橋に響く。
音の出処は...私だ。
無意識に台を叩いていた。
「...ワープドライブは衝突回避システムがある...だが...」
「艦隊長?」
「衝突回避システムを遮断したら...あるいは機能停止していたら...?」
モニターにネットワーク経由で送られてきたアイサイトの映像が映る。
ボロボロで、今にも撃沈しそうだが...
「ワープドライブが砲... なら、船を砲弾に見立てたら...?」
「あの、艦隊長? ウィルクス艦隊長?」
「...」
モニターに映るアイサイトから淡く光が漏れ始める。
見たことがない現象だ。
...まさか、ワープドライブをオーバードライブさせているのか?
そんな事をしたら...
「ダメだ...やめろ、やめるんだ...」
気づけば私はうわ言のようにそう言っていた。
「艦隊長? 艦隊長! しっかりしてください!」
アイサイトの輝きが一際眩しくなった時...
一瞬、世界が止まったような気がした。
「...演算完了。 3番予備リソース枯渇、廃棄を実行...」
「...閣下?」
「確かに状況進行中に手を出すのは原則無理だ。 でもね、ブラック君... 膨大なリソースを1点に収束させれば話は別だ。 戦況を変えるにはこれしか無かった。 私だってやりたくはなかったさ。 正直、さっきはああも言ったけど、手を加えちゃ物語は面白くないんだ。」
「閣下...」
「今更皆まで言うんじゃない。 私は私の好きなようにやる。 私に課せられた役目でもあるんだ。 ...玲奈にも言われてるからね。」
「エージェント・Rに、ですか?」
「そ。 今更言わなくても意味は分かる...よね?」
「それはもちろん。」
「私...あぁまぁ、ユキとしてもこれは譲れない、かな。」
「ま...これが...この行いが、『君達』の目にどう映るのか...私には分からないけどね?」




