2: S1Prologue-2 ローランド・エリソン
2話へようこそ
前話の通り、まずは次の『3: S1Prologue-3 バトルワーカー』までお楽しみください
西暦3019年、9月22日、協定宇宙時0900
海王星近傍、海王星本星コロニー002
CAU軍本部、長官執務室
ここはCAUの本拠地であるコロニー、NPC001のすぐ近く、CAU軍の本拠地として割り当てられたNPC002はその中枢部
そう、CAU軍の本部である
円筒形コロニーであるが故に極端に高くは出来ないが、それでも可能な限り大きく建設されたビルである
そこの最上層、長官執務室にてCAU軍長官、つまりは制服組のトップである彼は補佐官の報告を受けていた
「...第44試験小隊が隊長のローランド・エリソンを除き輸送艦まで全滅、それにそのエリソンも救助したが重傷、意識不明だと? おいおい、冗談はよせ...」
長官、彼は齢70に届こうかという歳ではあるが、未だ衰えを見せず生涯現役とまで噂される人物である
その彼は、ここ数年、あるいは数十年で最も『有り得ない』という顔をしていた
「長官、冗談に聞こえるのはよく分かります。 えぇ分かりますとも。 でもこれが今の事実です。 詳細は技術屋連中が急ぎ解析しています。」
対する補佐官、彼はまだ歳は30半ばと長官に比べれば若いが、その腕は長官も認める実力を持つ
「いや...まぁ分かってはいるんだ。 あの、嘘を言うと震えが止まらずついには生死の境を彷徨う将軍すらもが同じような報告を朝一にしてきたからな...」
散々な言い草ではあるが、今この場にいない将軍こそがCAU軍軍服組のトップである
「なら話は早いです。 今からお伝えするのも全て事実です。 第一に、攻撃してきた敵は所属不明。 機体デザインは既存のESFの物とは一切共通点がありませんし、所属章も未確認の物、ついでに識別信号もESFでも当然CAUでもありません。 ざっくり言えば何ら情報がありません。」
長官は宙を仰ぐ
それから姿勢を正し、補佐官へと言う
「まぁ、そうとなれば仕方ない。 引き続き技術局には解析を。 将軍には全境界宙域、及び惑星近傍宙域の警戒を厳にするよう、それからエリソンが目覚めたらすぐに聞き取りを行うよう手配しておいてくれ。」
長官は人遣いが荒い、それが補佐官である彼の口癖だった
「...あぁそれからもう1つ... 戦死者の葬儀は待ってやるよう、そっちも手を回しておいてくれ。 ...1人だけ残されることになるのだろうからな...」
長官が追加で申し付けたこの要求
これが、後の太陽系を大きく変える原因となったことは、後世の歴史家までも含み、ついぞ最後まで誰も気づかなかったという
西暦3019年、9月25日、協定宇宙時2300
土星近傍、土星本星コロニー002
CAU軍軍病院、集中治療病室
「う...あ...?」
ここ...は...
「あれ? ...エリソンさん?」
「だ...れだ...?」
「っ...せっ先生! エリソンさんが! エリソンさんがー!」
「おはようございます、エリソンさん。 時間的にはこんばんは、ですが。」
「あ、あぁ...こんばんは、か... ここは...あれか、どっかの軍病院か?」
俺は...生き延びたのか?
なら、目の前に白衣の明らかに医者っぽいのがいるという状況からしてここは病院のはずだ。
「えぇ、ここはSPC002の軍病院です。 ...記憶のほうは大丈夫ですか? ご自身が何をしていたかも覚えていますか? ...あぁ、無理に思い出そうとしなくても結構です。」
何を...
「...っそうだ、パスカルは? 皆はどうなった!?」
「その...残念ですが...」
医者はそれ以上何も言わない。
そして力なく首を振った。
...おいおい、嘘だろう...?
「それじゃあ、なんだよ。 ...おい、まさか...皆...俺だけか...?」
「...はい。」
冗談だと言ってくれ。
クソ...生き延びた、なんて言葉は合わない。
生き延びちまった、か...
「先生...まだ名前も聞いてなかった...が... すまない、ちょっと、1人にさせてくれないか?」
「...はい、容態は...安定していますし、また明日の朝に来ます。」
そう言って、まだ名前も聞いていなかった医者は部屋を出ていった。
...そうか...皆死んじまったのか...
あの敵は強いとかそういう次元じゃなかった。
手も足も出なかった。
機体性能もだろうが、何より技量が違った。
でも、そんなのは言い訳にもならない。
...俺達は負けた。
それが事実だ。
西暦3019年、9月26日、協定宇宙時0830
海王星近傍、海王星本星コロニー002
CAU軍本部、長官執務室
ローランドが意識を取り戻した翌日
長官の元には2つの報告が上がっていた
「エリソンが目覚めた...が、軽いパニック状態、か。 ...無理もあるまい...」
「医師には落ち着き次第再度土星支部に連絡するよう伝達してあります。 それと長官、技術局が不可解な情報を報告しています。」
「不可解な? あぁ、続けてくれ。」
では、と補佐官は数枚の画像を出す
「この1週間、技術局が破壊されたバトルワーカーの検証をあらゆる観点から行っていましたが、複数の損傷痕について、有り得ない損傷痕だと結論づけました。 こちらがその報告書です。」
補佐官は続けて報告書の束を渡す
この時代、文書も電子化が最早常識だが、この長官は面倒をかけていることは分かりつつも、その前に物理的書面で見る拘りがある
「...なんだと? 小口径エネルギー兵器による貫通痕...? 有り得ない、我が軍もESFも、この太陽系にいるあらゆる勢力はまだバトルワーカー用のエネルギー兵器など実用化していないだろう?」
「そのはずですが、技術局の言うことは確かです。 将軍も検証に立ち会っていたと言えば納得しますか?」
「...あぁ、納得だ。 将軍が運ばれたという話は聞いていないからな...」
ろくでもない納得方法だと補佐官は言っておきながら思う
「...ともかく、引き続き解析、検証を進めさせてくれ。 ...あぁそうだ、エリソンの...身体の見たての報告はあるか?」
「確定版ではありませんが一応。 低酸素脳症は重度までは行っていなかったものの、軽度は認められるそうですし、そもそも右腕の肘から先を切断しているので...」
「...そうか。 それは...残念だ。」
第44試験小隊
彼らは長官も一目置く優秀な部隊だった
故に、その言葉は本心から出たものだった
「...こればかりは悔いても仕方あるまいな。」
当然CAU軍にも戦死による二階級特進制度は存在する
だが、この時ばかりは長官は、除隊になるであろうローランドにも適用されるよう特例を考えていたほどだった
それもそのはず
この『土星沖第44試験部隊奇襲事件』は太陽系戦争以降、初の戦死者の出た軍事衝突だったのだから
「...よし...引き続き検証を続けるよう技術局に指示してくれ。 どんな些細な点でもおかしいと思えば報告するようにな。」
「了解。」
補佐官は短く答えると部屋を出ていった
「...何が起きているというんだ...」
長官は1人、呟いた




