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人機のアストライア  作者: 橘 雪
EP2 『流転する形勢』
15/122

15: EP2-3 紡ぐは刻の調べ

15話へようこそ


時すらも支配することこそが...

西暦3020年2月1日、協定宇宙時(STC)1400

海王星(ネプチューン)近傍、海王星近傍コロニー(NPC)近傍宙域



『NEWSよりオーバーロード! 早期警戒ライン付近に超高速で移動するバトルワーカーを確認! 既に第1防衛ラインを突破、最終防衛ラインまで1分30秒! 信じられない速度だ、しかも1機しかいない!』

『こちらオーバーロード、了解した。 至急迎撃機を上げる。』


それは彼らにとっては青天の霹靂であった


『NEWSよりオーバーロード、接近中のバトルワーカーは機種アンノウン、ただしESFの識別信号有り。 敵機だ。』

『オーバーロード了解、第一種戦闘配備を発令する。』


突然の襲撃にも関わらず、彼らは完璧な対応をした

ただ1つ、抜けていたことがある

もう少し冷静に考えればそれに気づけたのかもしれないが...


そのバトルワーカーが、『通常のものでは無い』という事だ


『オ...オーバーロード...こちらNEWS、接近中のバトルワーカーがレーダーから消失...いや違う! 最終防衛ライン内にいる!』

『何だと? レーダーの誤作動ではないのか?』

『間違いない、望遠映像でも捉えた! そちらからも見えるはずだ!』

『...確認した。 非常事態だ、セイバーへ出撃要請を行う。』

『NEWS了解。 観測を続行する。』



同刻、セイバー司令部



「急に何だってんだ!? カエデ、エンスウェン、バトルワーカーを上げられるか?」


セイバー連隊元帥、サイラスは正規軍司令部からの急の出撃要請の対処に追われていた


『こちらカエデ、第1艦隊はちょうどこれから訓練開始の部隊がいる。 至急で回す。』

『第3艦隊は少し待ってもらう必要がある。 当直が10分で上がる。』

「分かった、2人とも頼む。」


セイバー連隊のパイロットは皆優秀だ

彼らに成しえぬことはない

誰もがそう思っていた




CAU正規軍第5艦隊、第2バトルワーカー大隊、第3中隊


『敵は素早い! 複数で囲んで叩くぞ!』

『了解!』


彼らは訓練通りに動いた

敵が通常のそれであれば有効であっただろう


『ん? 敵がレーダーから消え...3-4! 後ろだ!』

『えっ?』


後にこの戦いを生き延びた兵はこう答えた

「まるで熱したナイフでバターを切っているかのようだった」と


『3-4がやられた! クソ、散開しろ!』

『コイツいつの間に!』


事実、その通りだった


単騎で突撃してきたそのバトルワーカーは全身を白で塗装した、よく目立つ機体だった

見逃すわけなどない

だと言うのに、3-4の機体はまるで瞬間移動してきたかの如き動きを見せたそのバトルワーカーに切り裂かれた

文字通り、バターを切るかのような手軽さで、だ


『クソ、また消えたぞ! 背後に注意しろ!』


どんなトリックかは分からない

しかし、その敵は確実に異常な動きをしていた


『隊長! 下だ!』

『なっ!?』


3-1、分隊長である彼も3-4の後を追うことになった

分隊長であった彼はその攻撃を受け止めようとソードを振るうも、それごと切り裂かれた


『隊長ぉ!』

『第3分隊下がれ! 後は俺達がやる!』


続々とCAU正規軍の隊が集まる

その敵はそれを見ると...


『また消えたぞ! どこだ!』


しかしそれは姿を見せず...



『危ねぇ!』


次にそれが現れたのは幾ばくか後方にいたセイバー連隊、第1艦隊のバトルワーカー隊の元だった

初撃を奇跡的に回避してみせた彼は、しかして、その奇跡は続かない


敵がその勢いを乗せたまま手に持ったハルバードの如き武器を先と逆向きに、切り上げるように振るう

その一振でバトルワーカーの装甲を両断する


セイバーの彼らはそのたった一瞬の邂逅で把握する

『勝てる相手ではない』と


彼らはそれから回避に専念し、被害を減らすよう、時間を稼いでいた

彼らのよく知る『最強の切り札』の到来を待って




『ダメだ下がれ! 正規軍は全員撤退しろ! 無駄な犠牲を増やすな!』


『こちら第1中隊、第12分隊の通信が全員途絶えた。』


『セイバー司令部より第1大隊、間もなく大隊長が出撃する。』


『司令部より全隊、セイバー連隊に後を引き継ぎ撤退せよ、繰り返す...』


『何だって言うんだ、たった1機しかいないのになんで勝てない!』



被害は増す一方だった

既に30機が撃墜された


そこで、ようやくそれは到来する



『うわあああああああ!! ...あれっ...?』

『下がれ! コイツは私が止める!』

『シオンハート大隊長!』


セイバー連隊第1艦隊、第1バトルワーカー大隊長、エル・シオンハートだ


『んー...? ようやく来たのかな?』

『通信っ...』

『ねぇ、貴女がエル・シオンハート?』


シオンハート機─マリエル─の持つ片刃のショートソードとその敵機の持つハルバードが激しく鍔迫り合いをする

初めて受け止められたその攻撃に、機体の主が近接通信をシオンハートに投げかける

通信から聞こえてきた声は若い女の声だ


『だとしたらどうする!』


言い切ると同時にシオンハートが鍔迫り合いから押し切る


『どうする...かぁ。』


敵機が構え直す

その機体には通常では考えられないほどのブースターやスラスターが搭載され、その全てが、機体を構成する『全て』が白く塗装されていた

後からの分析で分かったことだが、その機体は今までのどのESFバトルワーカーとも共通点がない新型であった


『せっかくだから殺す。』


敵機が消える


『瞬間移動? 私と』


シオンハートが何かを言い切る前に再び敵機が現れる


『貰ったぁ!』

『何っ!?』


ハルバードを振りかぶりながら近づくその敵機にシオンハートは素早く反応しソードの背で受け流す


『今のを防ぐ。 ...面白い!』

『そりゃどうもだ!』


次の瞬間、マリエルの姿が消えた


『っ! やっぱり私と同類かな! そうじゃなくっちゃ!』


敵機のパイロットがそんな事を言い放つ


直後、マリエルが敵機下方から突如現れソードを腰だめに構え突撃する

しかしそれを敵機は再び消えて回避する

それから敵機がマリエルに攻撃を仕掛けるも、マリエルも消えて回避する



そんな光景を遠目に見ていたセイバー連隊のパイロット達は困惑していた

確かにシオンハート大隊長の今までの戦い方はおおよそ正常なものではなかった

大隊長だと言うのに敵陣に単騎突入し不可解なレーダー反応と共に敵を葬りさる

しかし、目の前のそれは、その今まですらをも越えていた



幾順かそれを繰り返したマリエルと敵機は示し合わせたかのように距離を取り構え合う


『...さすがは最強って言われるだけあるね、シオンハート。』

『どうだかな。 そもそもお前は誰なんだ、何故私を知っている?』


互いに牽制しあいながら話は続く


『なんでだろうね? さて、シオンハート、もっと続けようか!』

『答えないつもりか、なら!』


両機が構え、そして


どこからともなく一筋の光条が差す


それは敵機に吸い込まれていき



『っ!? 被弾!?』

『待たせたなシオンハート嬢!』

『マルコシアスか! 助かる!』


光条の主はセイバー第3艦隊、第3バトルワーカー大隊長リグ・マルコシアスが駆る『カンペアドール』だ


それを見た敵機のパイロットが話を続ける


『マルコシアス? ...貴方があの裏切り者か。』

『裏切り者だと!? それは奴らの』

『安い挑発に乗るなマルコシアス! だが、どうしてお前がその事を知っている!』


マルコシアスが激上しそうになるのをシオンハートが止める

一方敵機のパイロットはそれに再び挑発するかのように誤魔化す


『どうしてかなー? まぁ、いいや、さすがに2対1は不利だから...』

『逃がすか!』

『待てマルコシアス! ...っ、消えたか。』


逃げようとするその背に撃ち続ける2人を後目に敵機は姿を消し、そのまま再び現れることはなかった


『...逃がしたか。 ...だが、どうして...』

『今から問い合わせてみる。 恐らく白いのかブラックあたりが何か知ってるだろう。』

『分かった。 頼んだぞ、シオンハート嬢。』


2人は通信越しに頷きあう




AAR(戦闘終了後報告): シオンハート


『よし、サイラス、報告だ。 あの敵は何かおかしかった。 先んじて送った映像データは見ただろうが、私の能力が通用しない、それが意味する事は1つ。 何らかの異常テクノロジーか能力を持った敵だ。 交戦データ、それに環境データを送る。 ミッチェルにも送って本部にも解析させる。 ...私の所見だが、あの機体はまるで時間を巻き戻しているかのように即座に修復を繰り返しているようにも見えた。 思ったより厄介事の可能性もある。 また奴が現れないとは言いきれない。 少なくとも、奴と一般兵は交戦させるな。私の想定が正しければ... 私以外に奴の攻撃を受け止めることはできない、無駄な犠牲を増やすだけだ。 ...報告終了、何かあれば追って伝える。』



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