11: EP1-7 NPC002攻防戦-3
11話へようこそ
来たる反撃の一手、そして終焉
西暦3019年12月21日、協定宇宙時2230
海王星近傍、海王星近傍コロニー002
近傍宙域
─Side: ローランド
『お待たせぇ! さぁて! やっちゃおうか!』
なんだ!?
全帯域通信?
『声紋パターン分析... 完了、セイバー第2艦隊、第2バトルワーカー大隊長、ルイナ・ルプスレフィア大佐と同定。 第2艦隊の増援です!』
「第2艦隊!? ようやく来たのか!」
ディケからセイバーの残りの艦隊が来るとは言われていたが...ようやくか!
...もしかしてさっきのは...
「なぁディケ、なんで気づいたんだ?」
『あぁいえ、先程吹き飛んでいった敵機とその原因の解析によってです。』
「なるほど...よく分からん。」
今気にしてる場合じゃないな。
後で聞くことがどんどん増えていく...
─Side: レン
「艦隊長! 第2艦隊より長距離通信です!」
「第2艦隊!? 想定より早いな! 通信科、旗艦へ通信開け!」
「了解!」
モニターに即座にそれが映った
『やぁ、カエデ。 何とか無事のようだな。』
金髪の少々小柄な女性だ
「ウィルクス! 想定よりもだいぶ早く...助かります!」
『あぁ、待たせてしまってすまない。 私もちょっと混乱はしているんだが... まぁいい。 結果を出すぞ。 通信科、全艦隊へ、フィールドジャンプに備えろ!』
「ジャンプ? ウィルクス、この宙域はまだESFジャマーの...」
『考えが古いぞカエデ。 それを打ち破る手段があってもいいだろう?』
「なんだって...? 一体どういう...」
CAU、そしてESFが用いる宙間高速航行には2種類ある
1つはワープドライブによる超光速航行、そしてもう1つがジャンプドライブによる瞬間転移だ
ワープドライブがあくまで超光速での航行なのに対し、ジャンプドライブは文字通りの瞬間移動を行うものである
ジャンプドライブは異なる2点間を空間を繋げることで瞬間転移を行うが、当然異常な原理でもあり、要求される出力が異常に多く、搭載できる艦は少ない
よって、通常ジャンプドライブは専用艦を用意し、フィールドジャンプと呼ばれる艦隊の一斉転移を行う
ジャンプドライブの動作方式であるが、まずジャンプドライブを起動するとジャンプ先の空間にジャンプ予約をしかける
これは転移先に大質量物体があって、それと激突する事故を防ぐ安全装置でもある
予約が完了すると即座にジャンプ可能であり、ジャンプさせる質量、及びジャンプドライブ機関の出力に応じ一定時間をかけてジャンプを完了する
当然戦況を一気にひっくり返すような機能であり、両陣営共に『ジャンプドライブジャマー』と呼ばれる装置を開発している
これはジャマー範囲内に対し空間安定度の低下を発生させ、ジャンプドライブ機関の発動抑制、及びジャンプ予約を妨害する効果を持つ
範囲内はジャンプドライブの効果が失われるが、ジャンプドライブ側に十分な大出力があればこれを突破することも不可能ではない
なお、本戦いにおいてはCAUは事前警戒をしていなかったためジャマーを発動しておらず、戦闘開始後の起動となったため現時点でのESF増援の到着を妨害するのみである
一応、ESF艦隊の撤退妨害にもなってはいるのだが
─Side: ベリル
今のは多分...ルイナ大佐...つまり...
「ルイナ大佐...セイバー第2艦隊...? まさか、ウィルクス中将か!」
『ウィルクス中将って...例のベリル隊長の元カノですか?』
「茶化すな... ってそれはいい、セイバー第2艦隊が来るぞ!」
ウィルクス中将が来たならもう負ける理由はない!
俺の憧れたあの人なら!
─Side: ルイナ
「ふんふーん... 的はいっぱい... で、使える玩具もいっぱい!」
ルイナ・ルプスレフィアというパイロットは非常に優秀だ
頭が残念すぎることを除けば、だが
『UF3G-07L-Mγ-LC ライラ・ジーナ モデルガンマ ルプスレフィアカスタム』、通称『アルティア』と呼ばれる彼女の機体は彼女のためにカスタムされた超重量機であり、その運用コストは通常の3倍にも及ぶ
「ねぇねぇ艦隊長! これ全部やっていいんだよね!」
『もちろんだルイナ。 今日は気にするな、経理には私から言っておく。』
「やったぁ!」
...忘れそうになるが、彼女は22歳である
「さてさぁて... ミサイルポッド展開! 自動ロック、よし、いっけー!」
現在の彼女の機体は増加装備を身につけている
『LXY17-AO-HFA 重装フルアーマーアルティア』と呼ばれるこの状態であるが、通常全高10mであるアルティアの全高の倍の20mサイズになっている
早い話が、戦闘機型の形態である
その機体の上面...つまり背面に搭載されたミサイルポッドから『50mm機対機マイクロミサイル』が一斉に発射される
直径僅か50mmの小型であるが、威力は絶大であり直撃したESFバトルワーカーを次々と全半壊させていく
この光景には友軍であるはずのCAU兵すらもが恐れを抱いた
そのままアルティアと彼女は戦場の中心を駆け抜けていく
たった1度の掃射で戦況が傾き始める
それもそのはずである
彼女の機体はこの日のために強化され続けてきた
いつか起きうるであろう、CAU-ESF戦争のために
良くも悪くも、犯罪鎮圧のための装備でしか無かったシオンハート特務准将の機体『マリエル』とは違い、戦争のための機体
それが、ルイナ・ルプスレフィア大佐の『アルティア』だ
一方、ESF艦隊の旗艦では...
「なんだ今のは!」
ルプスレフィアは最初の通信だけESF側にも伝わるようにしていた
その直後、ESFバトルワーカーに大損害が発生する
これには艦隊司令のレライエも驚愕を隠せなかった
「お...大型の制宙戦闘機らしき機影がレーダーに一瞬映りましたが...すぐに離脱していきました。 それにレーダー範囲内で突然消えています。」
「離脱して消えて...? 違う、それは離脱ではない! ステルス状態で旋回しているだけだ! オロバス! すぐにバトルワーカー隊に回避機動の指示を」
彼がそこまで言いかけたところで艦橋を激震が襲う
突然のことに床に倒れた彼は即座に立ち上がり指示を飛ばす
「今のはなんだ! 状況を確認しろ!」
艦橋のオペレーターが応える
「被弾です! 第3主砲が破壊されました!」
ESF艦隊旗艦である戦艦『エールシュトゥーム』の本戦い初の被弾である
「!? 隔壁閉鎖急げ! 内破するぞ!」
突然のことに若干混乱しつつも艦長でもある彼は判断する
しかし、続けて艦橋を揺れが襲う
「艦体右舷側各所に被弾! 破口多数、応急科間に合いません!」
「...! キネティックシールド、右舷側出力全開!」
何から攻撃されているかは分からないが、被害は右舷側に集中していた
そして、レライエは即座に気づき『キネティックシールド』の展開を指示した
『キネティックシールド』は通常展開されていないことの多い対物理攻撃シールドだ
レーザー兵器の多いCAUを相手するにあたり、ESF艦隊は基本的に『エネルギーシールド』を展開している
『キネティックシールド』は意味が無いどころか、『エネルギーシールド』に比べ要求出力が多く常時起動には向いていない
「被弾停止、応急科が修復に回っています!」
「手遅れの区画は封鎖しろ、通信科、周辺艦に密集陣形! 旗艦防衛だ!」
「了解!」
レライエが次々に指示を出す
旗艦の指揮能力喪失はイコールで艦隊の壊滅が大幅に早まることになる
例え優勢な現状であっても、一気に逆転される危険が高まるからだ
...と、いう阿鼻叫喚の状況を作り出した張本人はこう言うだろう
「え? 適当に...その、1番おっきいのを狙っただけ、っていうかー...」
他でもない、ルイナ・ルプスレフィア大佐だ
彼女の機体...アルティアにはもう1つの装備がある
ミサイルポッドと同じく背部に搭載された『120mm機対艦レールガン』だ
通常この装備は駆逐艦の重要防護区画程度であれば容易に貫通する程度の火力であるが、重装フルアーマーの強化システムにより初速の大幅増加に成功
結果として戦艦の主要装甲を貫通する過剰なまでの火力である
まぁそれもそのはず
重装フルアーマーアルティアは、通常のバトルワーカー6機分のコストなのだから...
時を同じくして、セイバー第1艦隊旗艦、RTセイバーアルファ
艦隊長、カエデは起死回生の一手を見出していた
「第2艦隊のジャンプに備えろ! どうやるかは知らないが手段があるらしい! 通信科、艦隊へ一斉通達!」
「了解!」
セイバー第2艦隊が到着すれば戦力比は一気に変わる
今までに撃沈した敵の数を考えれば逆転の目すらあるかもしれない
艦隊長副官が彼に報告を伝える
「艦隊長、索敵科より報告です。 敵艦隊の一部が密集陣形を取っています。 また、通信科が敵通信波の傍受を試みた結果、通信の中心となっている敵艦を特定しました。 この2つのデータを統合し検証した結果...密集陣形の中央にいる敵艦と通信の中心になっている敵艦が一致しました。」
「...! よくやった! 恐らくそれが敵旗艦だ! 通信科、全艦隊へ! 敵旗艦と思わしき敵艦のデータを送れ! また、可能な限り砲火力を集中させろ!」
「了解!」
カエデの顔に一筋の光条が射したように見えた
─その頃のローランド
『ローランド、004の方面に回れるか?』
「了解、准将!」
シオンハート特務准将の元、彼は飛び回っていた
目に入った敵機を次々に撃破していく
もちろん、背後に気を配りながら
『エリソン、反応炉のエジタイト残量が50%です。 可能であれば1度補給を行うべきです。 ビームライフルのエネルギーにも使っていますので。』
「補給か... シオンハート准将、一旦補給を行いたいのですが...」
『分かった、旗艦傍のに今丁度1つ空きがある。 連絡を回しておくから向かえ。』
「了解、ありがとうございます。」
彼と彼の機体、ライブラは補給艦へと向かっていく
『補給艦バーグより誘導シグナル確認。 私の操作で着艦します。』
「頼む、ディケ。」
ディケと名乗るそのAI
さながら、高度なオートパイロットのようなものだとローランドは思っていた
『おいおいなんだこの機体...ってローランド!?』
ハンガーの整備兵から通信が入る
「あ? あぁ、お前か! マイルズ!」
『どうしたんだよローランドこの機体! 見たことないぞ!』
「俺も今日初めて乗ったんだ。 とりあえず、一通り補給頼めるか? 特にエジタイトだ。」
『なんだか分からんが、任されたぞ。 ええと...ここか。』
その整備兵は偶然にも、ローランドの知り合いである『マイルズ・イーストン』であった
『ここまでの戦闘データを集積中... 機体ファームウェアのアップデートを実行中... エジタイトブレードの機能を解析中...』
ディケがその傍らで機体をリアルタイムで最適化していく
「一旦一息つくか...」
ローランドも右足太腿部分のカバーを開くと中に入っていたエネルギーバーを取り出し、口に放り込む
彼の身体は何かとスペースに空きがあり、その一部を収納スペースとして有効利用していた
尤も、彼は現時点においても特別飲食が必要というわけでもなく、単純に気分転換の意味合いが強い
『エジタイトブレードの機能を一部解析完了しました。 未確認のエジタイト反応を確認。 高周波発振機能を復号しました。』
「高周波...なんだって?」
『この機能は、エジタイトブレードの刀身を高周波振動させることにより物質破断性能が大幅に向上します。』
「そりゃいいな。 デメリットはあるのか?」
『反応炉の消費ペースが極わずかに増加しますが、ほぼ無影響と推測します。』
「分かった。 使っていこう。」
『了解。』
CAU正規軍が壊滅的状況にある中、彼らの命運はセイバー連隊にかかっていた
しかして、ローランドはまだまだ未熟であった
元からのセイバー連隊の彼らこそ、この戦いの切り札である
─ESF艦隊旗艦『エールシュトゥーム』艦橋
「司令! 砲撃が激しすぎます!」
「第7駆逐艦隊、通信ロスト。 第3分遣隊全滅。」
レライエは悔いていた
咄嗟の密集陣形指示が失敗だった
恐らくは敵にこの艦が旗艦だということを特定されたのだろう
敵の砲撃が集中し、護衛の艦隊が次々と沈んでいく
先程までは圧倒的優勢だったはずだ
だと言うのに、今では追い込まれつつある
尤も、まだまだ艦隊は健在であり、勝利は掴めるだろうが...
しかし、その考えが甘いことは直に証明される
『レライエ、ダメだ、一旦バトルワーカー隊を収容しないといけない。』
「何故だ? オロバス?」
『あの化け物の攻撃で次々殺られてる。 トラベラーでもなんでもない癖に一体なんなんだ。 それに、セイバーの旗艦に向かった連中もあのイカレトラベラーとなんだかよく分からん黒いのにほとんど殺られた。 これ以上は戦闘継続できない。』
「...だが、今バトルワーカー隊を下げれば押し込まれる。 艦隊を建て直すまでどうにかならないか?」
『...ったく無茶を言う。 分かった、可能な限り持たせる。』
オロバス、彼は本戦いにおけるESFバトルワーカー隊総指揮官だ
レライエにも言えることだが、ここ数年で頭角を現し、一気に地位を高めていた
その彼ですら劣勢を悟っていた
そもそも、CAUの損害は大半が正規軍のものであり、セイバー第1艦隊は未だ戦力をある程度維持していた
この局面において、セイバー第1艦隊はきっかけさえあれば戦況をひっくり返すだけの能力を未だ持っていたのだ
そして、そのきっかけがついに訪れる
「司令! 緊急事態です!」
索敵科のオペレーターが突然叫ぶ
「どうした!」
「こちらの艦隊後方にジャンプアウト警報! セイバー第2艦隊の反応と酷似しています!」
レライエは一瞬絶句したが、すぐに我を取り戻す
「なっ... ジャ、ジャマーはどうなってる!」
「け...健在です。 恐らく出力差で押し切られました! まもなくこの宙域に出現します!」
「マズイ...マズイぞ! このままでは包囲される! CAUのジャマーはどうなってる!」
ここにきて彼は今日最大の焦りを見せていた
正面には交戦中のCAU正規軍、そしてセイバー第1艦隊がいる
そして、背後にセイバー第2艦隊が出現しようとしている
もちろん、この宙域はCAUジャンプドライブジャマーの影響範囲内
逃げる手段など、ない
「複数の強力な発信源からの干渉でとてもではありませんが押し切れません。 ジャマーを片っ端から潰す他ありませんが...」
そんなことはできない
レライエはそれをよく分かっていた
それはつまり、この場にあるコロニーを片っ端から潰せというようなものだ
CAUはコロニーの複数にジャンプドライブジャマーを搭載していた
しかも、なるべく奥深くに、だ
ESFのスパイはそのことも報告に上げていたが、ESF軍司令部はどうせ占拠するのだから破壊することもないと優先度は低かった
それが、ここにきて牙を向いたのだ
「ジャンプアウト確認! ...セイバー第2艦隊です、旗艦RTセイバーベータを望遠映像で確認しました。」
「...よし、分かった。」
レライエは名将であった
消耗した自艦隊と増援の来た敵艦隊を比べた場合、最早自分達に勝機がないことは理解出来た
元々、この艦隊はどちらかと言えば少数精鋭だったのだ
CAUに察知されないよう、火星圏から一気に海王星圏までジャンプするにあたり、出力の都合上多くは送れなかった
訓練終わりの正規軍とセイバー第1艦隊しかいないからこそ、これでいけるはずだったのだ
「通信科、全艦隊へ通達。 現時点を持ってヘッドハンター作戦は失敗と判断。 各艦はドライブ艦を中心に連携し、CAUジャンプドライブジャマー圏外へ離脱後、可能な限り纏めてジャンプせよ。」
彼が下したのは、撤退戦の命令だった
そこからの推移は早かった
『全艦隊、1隻たりとも逃がしてやる必要は無い! 全て墜とせ!』
セイバー第2艦隊は艦隊長アリア・K・ウィルクス指揮の元、ESF艦隊を背後...コロニーから離れる方向から包囲するように展開していた
故に、最短距離でジャマー圏外へ逃げようとした場合、ESF艦隊は第2艦隊を強行突破する形になった
当然、彼らは多大な犠牲を払うことになった
突破できずにいれば、背後からは第1艦隊が追撃にまわり、指揮系統を建て直したCAU正規軍も追ってくる
完全な包囲網の中、ESF艦隊は数を減らしていった
最終的に、ESF艦隊は強行突破に成功した旗艦を含む僅か10%を残しこの世から消滅し、あるいは鹵獲された
バトルワーカー隊も撃墜されるか、捕虜になるかし、その殆どが帰還しなかった
翌、12月22日、STC0330
CAU軍司令部は宙域の戦闘配備を戦闘進行中を表す第1種より、戦闘直前準備を表す第2種に引き下げた
事実上の、勝利宣言であった
しかし、CAU正規軍第1から第3艦隊はその戦力の70%を喪失、セイバー第1艦隊も40%を失っていた
ESF艦隊が死に物狂いの強行突破をしかけたセイバー第2艦隊も決して無傷とはいかず、戦力の10%弱を失っていた
奇跡的な勝利であり失ったものは多い
しかし、彼らは間違いなくそこへ立っていた
こうして、CAUとESFは戦争状態へと陥った。
俺は...ハッキリ言って、大きな活躍は出来なかった。
慣れない機体だとか、そういう話じゃない。
ただ、セイバー連隊というものの凄さを思い知った。
もちろん、俺は諦めない。
これから、もっと忙しくなるだろうからな。