10: EP1-6 NPC002攻防戦-2
10話へようこそ
絶望的状況下、しかし、まだ希望は潰えてはいなかった
Update: 20/1/30: 一部表記ミスを修正(本編への影響なし)
西暦3019年12月21日、協定宇宙時2030
海王星近傍、海王星近傍コロニー002
セイバー司令部、正面側広場
─Side: ESFバトルワーカー部隊
セイバー司令前の広場にはESFのバトルワーカー部隊がいた
『隊長、ホントにここにいるのか?』
『ここ以外のどこにいる? 探せ。』
『はいはいっと。』
彼らは『誰か』を探していた
『ゴルフ6-6より指揮官! 敵歩兵と遭遇! 現在交戦中、恐らくここだ、守りが硬い!』
『了解... ダメだな、バトルワーカーは入れない。 仕方ない、我々はここで対バトルワーカー防衛線を敷く。』
『了解! だったら増援をくれ!』
『今周辺の他部隊へ通達している。 持ち堪えろ。』
彼らは散開し位置に着く
『でもよ隊長、今ここにいないんじゃ、こっちに来る敵なんていないんじゃないか?』
『その油断が命取りだ。』
『へいへい... もっと楽な仕事だと思ったんだけどなぁ。』
『1-3、私語は慎め。』
そう忠告された彼はというと、内心では悪態をついていた
『レライエより各隊へ。 現在敵目標コロニーは厳重な防衛線により突破困難。 暫く増援は送れない。』
レライエ大将
それが、この戦いにおけるESF指揮官だった
『隊長、報告があります。』
『なんだ?』
『一瞬ですが、そちらの近辺に高エネルギー反応を確認しました。 レーダーのノイズの可能性もありますが。』
『ふむ...警戒はしておけ。 敵が予想外の反撃をしてくる可能性もある。』
『だから隊長はいい加減心配しす...ん?』
『どうした?』
『いや...今こっちか』
彼はそれ以上言い切ることは出来なかった
何故なら、彼が指さそうとした壁から、一機のバトルワーカーが壁を破壊しながら飛び出し、彼の機体を蹴り飛ばしたからだ
『なんだ!?』
『各員! 敵機だ! 1-3がやられた、交戦しろ!』
部隊の反応は良かった
しかし、この場合は相手が悪かったのだろう
『隊長、ダメだ! コイツ動きが早すぎる!』
『なんなんだコイツ! うわっ! 来るなやめ』
『クソッタレ、1-4がやられたぞ!』
黒いフレームに装甲板、各所に白く発光するラインの刻まれたそのバトルワーカーは常識外れの機動で彼らを追い詰めていった
それは一気に彼らに詰め寄ると、手にしたブレードでまた一機撃破していた
『隊長! 撤退してください!』
『何故だ!? 確かに不意を突かれたがまだ...』
『今こちらでそちらからの映像を分析しましたが、敵機肩にこれを確認しました。 部が悪すぎます、今すぐ撤退してください!』
『何だと!? ...まさか...クソッタレ! 奴ら、こんなものを投入していたのか! 各機、形勢は不利だ、撤退する!』
『了解!』
『了解した!』
『奴らが? 予想外すぎるぞ!』
彼らはそのバトルワーカーから目を離さず、撤退し始めた
そのバトルワーカーはある程度追う素振りを見せるも、すぐに引いていった
彼らは命からがら、コロニーから脱出することに成功したのだった
─Side: ローランド
「っはぁっ! ...凄い...疲れるな。」
いや、身体は別になんてことはないんだが、精神的に来るものがある。
逆に応答性が良すぎるぐらいだ。
『周囲をスキャン中... 敵機反応なし。 セイバー司令部付近の安定化を確認。 現在当エリアに友軍バトルワーカーが接近中。』
「そうか、了解だ。 なら俺達も動こう。」
『了解、エリソン、次の戦術オプションを提案します。 現在、当コロニーNPC002を含む海王星近傍コロニー群はESF艦隊の包囲攻勢に晒されています。 コロニー内は地の利もありある程度優位に転じ始めていますが、外部での戦闘は大幅に劣勢です。 そこで、本機はコロニー後部の射出デッキより外部へ出撃。 遊撃機として敵バトルワーカー部隊、及び艦隊への攻撃に加わるプランです。』
「宙間戦闘か。 久しぶりだけどま、どうにかなるだろ。」
『では射出デッキまでの最短距離をナビゲーションします。』
俺の視界にこのAIと出会う前にも見たような矢印が追加された。
「なぁ...やっぱりこれ、ディケの仕業だったのか。」
『すいません、エリソン。 これ以外なかったのです。』
「別に怒っちゃいないさ。 逆に助かるぐらいさ。」
『ありがとうございます。』
「よし、それじゃ行くか。」
『了解。』
─STC2100、戦闘開始より3時間
CAU軍司令部
「ESF艦隊、依然として70%が残存!」
「当方艦隊の残存率60%、更に被害拡大中。」
「木星方面軍より入電、補給の完了した艦隊の一部が増援として出撃。 ジャンプドライブジャマーの妨害により最大船速にて急行中。」
戦闘開始から3時間が経った
未だCAUは増援すら満足に行えずにいた
それでも、ここまでの抵抗を見せている彼らを賞賛すべきだろう
しかして、それも無限ではない
いつか終わりが来る
もちろん...それを避ける手段はある
...それが可能かどうかは分からないが。
─STC2115
NPC002後部
『ベリル隊長、敵が多すぎるぞ!』
『いいから黙って撃て! これだけいりゃ目瞑ってても当たる! 稼ぎ放題だぞ!』
『こんな時に稼ぎって。 ったく隊長らしいですよほんと!』
『お褒めどうもってよ!』
コロニー後部にある主となる軍港、バトルワーカーデッキの外部にて彼らは決死の防衛戦に当たっていた
CAU正規軍NPC002駐留防衛砲撃中隊、コールサイン『スコルピオンプライム』
隊長は歴戦の勇士である『ベリル・マッケンジー少佐』であり、その練度はセイバークラスとも言われている
『っとまぁ...軽口叩いてても状況はよくなんねぇな。 こんな時あの人ならなんて言うかなぁ。』
『またその話ですか隊長?』
『おうよ。 あの人は本当にすごか...おわっ!』
『隊長危ない! プラットフォームを動かしましょう、的になります!』
『分かってらぁ!』
彼らは展開された移動式プラットフォームに機体を固定し砲撃を行っていた
『スコルピオンⅡ』
そう呼ばれる彼らが駆る機体は第2世代バトルワーカーの中でも特殊用途における傑作機の1つである『スコルピオン』を近代化改修した第2.5世代バトルワーカーとでも呼ぶべきものである
その特徴は通常の人型形態から四脚の固定砲撃形態への可変機構にある
搭載している背部武装もそれにより超大型化しており、1門だけ、かつ射撃レートもそう早くはないが高火力を誇る『150mm機対艦無誘導砲』を搭載している
手持ちの武装はライラ・ジーナの正式配備以降は同一のものを流用している
余談ではあるが、この世界において砲狙撃戦用バトルワーカーの背部武装である大型砲はどれも駆逐艦のそれよりも大型であることが多い
これは砲数、射撃レートに大幅に劣る代わりにバトルワーカーを小回りの利く移動砲台として運用するコンセプトに基づき開発された経緯からである
参考資料として、CAUの主力駆逐艦である『UDS-ST シェルティア級』の主砲である『105mm艦対艦単装砲』は口径こそ『スコルピオンⅡ』より劣るが、分間100発前後という高速サイクルを実現している上に当然多数搭載されている
『隊長、バトルワーカーデッキからバトルワーカーの射出シグナルが出てます! 3番デッキからです!』
『何だって? 敵か? 味方か?』
『今シグナルを解析中です!』
『敵だったら一斉攻撃で叩くぞ。』
『...出ました! これは...アンノウン?』
『は?』
『データベースに未登録のバトルワーカーです!』
『マジかよ。 おい各機、すぐに撃つなよ。 味方だったら色々マズい。 中隊長より各小隊長へ、3番バトルワーカーデッキから射出されるバトルワーカーはすぐに撃つな、友軍の可能性がある。』
ベリルはそこまで言うと通信を切り
『...アリア隊長、まさかセイバーがまた何か作ったのか?』
そう呟いた
─STC2120
セイバー連隊第1艦隊旗艦『UBS-RT-CC-SV1 コールサイン:RTセイバーアルファ』、艦橋
セイバー第1艦隊の指揮を執るこの場、艦隊長は常に次の一手を考えていた
「艦隊長、艦隊の残存80%です。」
「了解。 クソ、ここまでこれだけの損害だけで持ち堪えてるのが奇跡だ。」
「第2艦隊、第3艦隊も現在再武装中との事です。 散々使い尽くした後で冥王星以遠の基地から運搬中とも。」
「3時間半ではそうは終わってくれないか。 よりにもよってこの日に来るなんて。」
艦隊長であるレン・カエデ中将は悔しげに話す
「ともかく、現有戦力で敵を抑えるしかない。 増援は...6時間はかかると見た方がいい。 物資だけでなく人員も疲弊した部隊を無理に送り込んで余計な犠牲を増やすようなことはウィルクスもエンスウェンもやらないはずだ。」
カエデはこう考えていた
確かに現行CAU存続の危機ではあるが、だからと言って無理な用兵を行えば自ら致命傷となってしまう
...そう、カエデは最悪セイバーの他2艦隊が自分達が全滅しようともこの海王星圏を奪還すると信じていた
故に、それが適切と判断されたのなら自分達は見捨てられるだろう、とも
CAUはコロニー国家であり、最悪首都機能、本部機能を移転してでも存続はできる
ある意味では、合理的な判断であると言えただろう
『おいレン! NPC002の後部から異常反応だ! バトルワーカーっぽいが...』
「なんだってエル? 異常...いや、まさか。」
バトルワーカー大隊長のシオンハートから送られてきたデータを見たカエデは勘づく
「まさか、アイツが起動したのか? おいエル、後部に向かってみてくれ。 エルの機体なら一瞬だろ?」
『了解。 まさかアイツか。』
シオンハートも何かしらに気づいたようだった
─STC2125
NPC002後部
3番バトルワーカーデッキ
『射出シークエンス完了。 タイミングを譲渡します。』
「了解だディケ。 よし...」
ここを出れば宇宙だ。 スキャンによればここの外は防衛隊が抑えてるから安全に出れるだろう。
...少々不安なのはその防衛隊に撃たれないかだが。
「ベルトよし、ペダ...はないんだったな。 いつもの癖が出た。 JBW-02ライブラ、ローランド・エリソン、出るぞ!」
射出を開始する。
一瞬だけGを感じるがすぐに補正される。
そしてレールカタパルトの終端で一気に踏みきる!
『機体安定。 宙間モード異常なし。 武装を解放。 出力再調整。 リアルタイムでの調整に切り替え。 エリソン、機体の制御は私に任せてください。 エリソンは戦闘に集中を。』
「頼むぞディケ。」
さて...状況は...あー...?
「なぁディケ、気のせいかもしれないが防衛隊の砲がこっち向いてないか?」
全部でもないけど一部が...
『いえ気のせいではありませんね。 ...分かりました、友軍の識別信号を出していませんでした。』
「おい。」
『すいませんエリソン。 今出しま』
『おいソイツは撃つな! 味方だ!』
突然全帯域通信に誰かが入って...いや、この声は。
「シオンハート准将!?」
見ると防衛隊より少し離れた位置に見覚えのある機体が...
いや、見覚えが...ん...?
『やっぱりな、ローランド。 お前だったか。 その機体はどうした?』
今度は直接通信だ。
「どうしたって... 拾った、は語弊があるか...ええと...」
『いや、別に責めてはいない。 予定が狂ったがまぁ予定調和だからな。』
「予定調和?」
どういうことだ?
シオンハート准将は...この機体を知ってる?
『...あー、いや、気にするなローランド。 』
「そ、そうですか。」
はぐらかされた。
『ともかくローランド、それに乗って出てきたなら仕事はしてもらう。 乗ってみて分かっているだろう?』
「はい。 これならやれます。」
『よく言った。 お前はとりあえず私の指示で動け。 今から隊に組み込んでいる暇はない。 そして最初の指示だ。 艦隊旗艦周辺に敵が集結しつつある。 こっちの指揮系統から殺るつもりにしたみたいだな。 行ってくれ。』
「了解、准将。 よしディケ、ナビしてくれ。」
『了解、エリソン。』
「艦隊長! このままでは囲まれます!」
「分かってる! 」
頭で分かっているのと実際にできるかどうかは別だ。
そして今の状況は...
『レン! そっちに今強力な増援を寄越すぞ! やっぱりライブラだ! 誰が手引きしたかは知らないが、ローランドが乗ってる!』
「そうか! よし、ツキが回ってきたか。 」
ライブラ...あれの性能はおかしい。
現行機の数世代先の性能はある。
...さすがは、というところだ。
『レン、俺だ、サイラスだ。』
「元帥?」
通信越しのサイラス元帥がやけに余裕のある顔をしている。
『朗報がある。 ...上が動くらしい。 具体的に何とは言っていなかったが、ミッチェルからそう連絡があった。』
「...! 了解、予定は?」
『後1時間、だそうだ。』
「...了解、後1時間必ず持たせます。」
1時間、最後の正念場だ。
彼らが動くのなら...
「艦隊長より各員、現在戦域に友軍増援が接近中。 到着まで1時間。 必ず持たせるぞ! 各分艦隊へも通達!」
「了解!」
『分かったレン、こっちも何とかしてみる。』
─STC2140
セイバー第1艦隊、旗艦周辺
『エリソン、注意を。 多数の敵機が接近しています。』
「分かってるさディケ。 」
レーダーには軽く見積って100は映ってるな。
こっちも数だけはまだ互角...か。
...というか、さっきからレーダーに映ってるシオンハート准将の機体が異常な動きをしているんだが...
「ディケ、この...シオンハート准将の反応はどうなってるんだ? まさか故障じゃないよな?」
『レーダーシステムは正常です。 ...確かに、シオンハート特務准将の機体はレーダー上では瞬間移動...とでも言うべき動きをしているようですが...』
レーダー上に出たり消えたりしてるってどういうことだ...?
敵機の反応に追われてると思ったらその敵機の後ろに急に反応が動いたり...
シオンハート准将の機体は確かに異常な機動性特化のカスタムらしいが、レーダーが誤作動するほどとは思えない。
『各隊へ、こちらシオンハート。 定位置につけ、旗艦含む周辺艦隊を防衛しろ。 旗艦を喪失するのは絶対に避ける必要がある。』
『了解。』
『ネズミ1匹通さなきゃいいんでしょう?』
『こっちも了解だ。』
「了解、准将。」
...あの機動戦をしながら指示を出せるのはなんでなんだ...?
『エリソン、間もなく敵が射程に入ります。』
「オーケー... 周りに合わせるぞ。 こういうのは一斉射撃が効果的だ。」
『了解、FCS再調整、友軍機同一ターゲットへの集中砲火。 』
「艦隊長! 第3シェルティア級打撃群の残弾が間もなく尽きます!」
第3シェルティア級打撃群...となると...
「第7、8分艦隊、ランティッヒのRPMCを切り離せ!」
「了解! 通達します!」
シェルティア級が下がる時間を稼ぐ必要がある。
今は1隻でも惜しい。
背後のコロニー側である程度は補給できるはずだ。
「第8分艦隊旗艦、機関部に被弾、総員の退艦が発令されました!」
「救難艇を回せ! 少しでも救うんだ!」
尤も、この激戦では...
「正規軍司令部より通達、正規軍艦隊の5割が撃沈、現在指揮系統が機能不全との事です。」
「ここでか... 正規軍の増援はどうなってる?」
「まだです、間に合うかどうか...」
「分かった。 ...怪しいな...」
こちらも数は減りつつある。
被害規模は...2割か3割...
正規軍が機能不全となれば...被害は一気に増えるか。
敵旗艦が割り出せれば...いや...
「...ともかく、耐えるぞ。」
─???
「閣下、何するつもりですか!?」
「分かってるだろうブラック君、これしか手段がない!」
「で、ですが!」
「くどい! デイモスが力をつけるようなことは絶対に避けなければいけないんだ。 これをやれば、救える。 私にしかできないことだ。」
「分かりました閣下... 後のことはお任せ下さい。」
「それでこそブラック君。 よし...」
─STC2220
『エリソン、後ろ!』
「あいよ!」
1機、また1機...
...撃墜してもキリがない!
「ジャマーは本当に有効なんだよな?」
『はい、NPC002含め当宙域のCAUジャンプドライブジャマーは正常に動作しています。』
「逆に嬉しくないような気もするな。 増えてないのにこの数か。」
喋りながら接近戦を仕掛けてきた敵を切り捨てる。
「ディケ、推測はどうなってる?」
『敵機の残存... 以前推測不能です。 不確定データが多すぎます。』
「そうか。 ...やるしかないな、このまま。」
手を止めれば死ぬだけだ。
『前方2機、突っ込んできます。』
「厄介だな! だが...!」
左前方の敵をまず撃ち牽制...そして右前方の敵にこちらからも詰め寄り切り捨てる!
んで...もう1機も...!
『...っ! エリソン、後ろです!』
「なっ!?」
マズい! 振り抜いた姿勢からじゃ戻せ...
「うぉぉおおおおおおっ! 戻れぇっ!」
『っ!? エリソン、待ってください!』
「うぇ?」
『敵機反応が急に消失...いえ、吹き飛びました。 一体何が...』
吹き飛んだ?
『この機体にこのタイプの近接防衛装備は... いえ、まさか、これは。』
「どうしたんだ? ディケ?」
『...来ました、ようやく!』
「何が来たんだ? おい?」
ディケが突然言い放ったそれ。
それは、反撃の狼煙だったんだ。
『お待たせぇ! さぁて! やっちゃおうか!』