学園編・実技実戦
寮への道を歩きながら私のことを知らない周りの連中は私にチラリチラリと視線を向けていた。
やはり見たこともない上にこの姿ともなれば仕方がないことかと思いてため息をつく。
確かに見たことも無いよなぁ〜こんな髪、真っ白な髪に紅い毛先、異質だ。
そんな時、後ろから何か来ると思ってとっさに立ち止まり振り向くと、誰もいなかった。
おかしいなぁ〜確かに誰かいると思ったんだけど、そう思って前を向くと私の目の前に背の高い人がいた。
私はびっくりした声を上げると、目の前にいる顔の整った男子は私の腕を引いた。
「ごめん、驚かせた見たいだね。」
そりゃそうだ、いきなり目の前にいたんだから誰だって驚くわ!
優しく微笑む金髪に少し切れ長の青い瞳の彼は穏やかで落ち着いた青年に見えた。
そんな彼は背を合わせるように私をのぞき込んだ。
黒いブレザーに腕を通さずただ羽織っているだけのその姿はいつでも余裕のありそうなタイプに見える。
きっとこのルックスならモテるだろう。いわゆる口数の少ない王子様タイプの属性に入るだろう。
彼は私の腕を掴んだまま魔法科の教科書を私の手につかませた。
「…これ、忘れ物だよね。」
何故と疑問を持ちながら、よく見ると私の教科書だった。まさか忘れ物をしているとは思わなかった。
「…えぇ、そうね。わざわざありがとう。」
私がそう言うと彼は掴んでいた手を離し、少し微笑んだまま校舎側の方に黙って歩き出した。
彼を目で追うと後ろにはもう一人の男子が彼に向かって声をかけていた。
黒っぽい赤髪につまらなそうな顔をしている彼はあの金髪美青年とは真反対な気質を感じた。
「リヒト、間に合ったかぁー。」
「ああ、ちゃんと届けたよ。」
「そうかぁ、なら行くぞぉ〜。」
そう言うとリヒトと呼ばれた美青年ともう一人の男は反対方向に歩き出した。
見たところ寮とは真反対の方向なため、寮に帰るわけでは無いようだ。
一応この学校は寮は男女同じになっている為、帰る時はこの道しかない。
しかしあの二人の整った顔なら校内でも有名になってそうだが、私はそんな噂すら聞いたことが無かった。
つまり全くの初対面だったと言うことだ。
私は取りあえず届けてもらった教科書を鞄に戻して寮へと向かった。
必要な物意外置いてない自室に戻ると私は鞄を机の上に置いてベッドに寝っ転がった。
確か明日は魔法を使った実技授業があったはずだ。参加していればそれで良いと思っている私にとって実力をみんなの前に発揮するのは何より疲れるものだった。
もしペアを組まされたりチーム戦なんかをやらされたら私にとっては死を表すことになるだろう。
内容によっては更なる死と隣合わせだ。
何せ今を思い返したらろくなことしか起きてない。変なフラグは立ちまくるし、大会の準備だってある。
イケメンに会えたからと言って私にとっては変なイベントが起きないように回避することしか考えていない。
しかし待てよ、なんであのリヒトと言う男は教科書の持ち主が私だとわかったんだ?
初対面なら名前を見ても分かるはずもない。
教科書を届けられたと言うことは教室の人間に違いないが彼の姿は見たことも無かった。
考えれば考えるほど謎は深まるがどれだけ考えてもその解答は分からなかった。
今なら心境に今年は厄年決定だなと思いながら、静かにその日を終えた。
そして実技授業の日を迎えて私は内心嫌々ながら、ベッドから起き上がった。
朝の支度をしようとドアの方に近づくと一枚の紙が折りたたまれて落ちていた。
まるでドアの下からこちらに入れたような状態だった。私は警戒して周りを見回した後、その紙を静かに拾った。
ジゼルはその紙を開くと静かに目を見開いた。
〝貴方の全てを私は知っています。もちろん裏の任務のこともツカサ先輩との昨日の会話も。〟
この文章から私の正体がバレていることはわかった。問題は誰にバレているかだ。
そして私の知らない過去の記憶すら知っているということは私も必ず知っている人間のはずだ。
そしてこの手紙をわざわざ私によこすことでなんらかの意味もあるだろう。
ツカサに先輩をつけると言うことは後輩に限定できる。
そしてあの時話を聞いていたともなればクラスの人間、または同学年の人間に違いない。
しかしこの状況はツカサに言うべきか否か。
かといって誰かが裏切っている可能性もある。無闇に人に言うのは避けるべきか。
しかし、どうやら魔法には長けているようだ。この文字自分で書いた訳ではなさそうだ。
だから文字で判断することも出来ないが、恐らく魔法を使って黒インクで書いている。
なかなか操作の難しいこの魔法は失敗なしに書くことは今の学生には不可能だ。
とりあえず、私はその紙を折り畳むと制服のポケットにそれを入れた。
どうやらこれからは警戒をしなければいけないようだ。
私は準備を済ませ、寮を出ると他の生徒を警戒しながら生徒の大群と共に教室に入った。
ジゼルは教室に入るとすかさず一番後ろの席に腰を下ろす。
こうすることでクラス全体を見渡せる。
しかし、私が警戒心を外部に漏らすと明らかにおかしく思われるため、ひとまず外の景色を見て誤魔化していた。
そうしていると突然前の教室のドアが開いた。
その途端クラスの女子はキャーキャ〜と騒ぎ出した。
私は一瞬驚くと静かに視線を向けた。女子に囲まれていたのは予想通り昨日の彼ら二人だった。
しかし、前から堂々と入ってくるとは思わなかった。それはあの二人の性格を見ての判断だった。
この教室の作りは独特な仕組みになっていて、約二回部の広さを使った作りになっている。
そして席は一段一段階段のようになっている形式で後ろの席に行くに連れてどんどん高さが上がっていく仕組みになっている。
つまり、前のドアは位置的に二階の廊下に、後ろのドアは三階の廊下につながっている。
私も最初ここに来た時には面白い仕掛けだと思ったものだ。
もう一人の強気な男はまだしもリヒトと呼ばれる青年は案外気さくに女子と話していた。
そんなことよりも、この二人が同じクラスなんて聞いてないぞ。
なんかまた新しいフラグが立ちそうで怖いんだけど。
ただでさえ警戒してんだけど。
そんなことを無表情で思っていると、最後列の長机に誰かが座った。
私は自分の隣に視線を寄せると軽く目を開いた。
「おはようございます。ジゼルさん。」
「…おはよう。」
私の横に平然と座っていたのは紛れもなく昨日の転入生だった。私は警戒したままそのままでいることを選択する。
「昨日はお話し出来なかったので…隣構いませんか?」
…いやすべに座ってるし。
「…えぇどうぞ。」
「ありがとうございます。」
あれ、この子こんなに丁寧な子だっけ?
昨日の様子を見ていたら、大人しそうに見える普通の子だったけど、今の横にいる彼女はまるで表情なロボットのようだった。
既にクラスの注目は彼女から彼らに変わったようだ。
「…友達と話さなくて良いの?」
私のような人間と居れば自然に浮くのが当たり前だろうに。
「大丈夫です。気の合う方もいませんでしたし。」
「…そうなんだ。」
逆にそんなキッパリ言うのかとも思いながら、案外変わった子なのだと納得する。
そして類は友を呼ぶと言うがこういうことかと再度理解した。
やはり変わった者同士似たような連中が寄ってくるようだ。
とりあえず彼女のことは気にせず、注目の的に目を向けた。クラスの女子はリヒトにどんどん言い寄ってっていた。
今の所、クラスで怪しそうな人間はいない。
「ねぇ〜ねぇ〜、リヒト君昨日はなんで学校来なかったの?」
「…そうだねぇ〜面倒くさかったからかな。」
なんて微笑んで誤魔化すが、堂々と授業サボりかよと思いながらも女子はその反応に更にドキドキしていたのだ。
顔がいいだけで、ただの不良ではないかと思うがきっとそんなのはどうでもいいのだろう。
あの女子の囲まれようにここまで来ると気持ち悪いとも思いながら、私はただ顔を歪ませていた。
対して後ろにいたあの男はただ女子を虫けらのような目で見ており、リヒトの後ろでただじっとしていた。
「シド君も昨日はザボッてたの?」
すると突然あの男にも話が周り始めた。どうやら彼の名前はシドと言うようだ。
そして、当然だが彼も顔は整っている為女子にとってはターゲットの中に入っているのだろう。
「ああ、そうだけど。」
少し威圧した態度にも見えるが女子はそんなことお構い無しだった。
「クラスの人気者ですね。」
今まで黙っていたルキは突然話し始めた。
「そうね。顔が良いと得する世の中よね…。」
「ええ、でも少し意外なのはアグリシアさんですが。」
ルキから出てきたのはまさかのあの馬鹿女の話だった。どれどれと思ってローナを探すとただ席に座っているだけだった。
「確かに、こういう時すかさずイケメンに媚び売りそうなのに…今日は静かじゃない。」
まるで柄にも無い陰キャラぶりに少し意外だとジゼルは思った。
少し彼女に目を向けていると、ローナと私は一瞬目が合ってしまい、何故か物凄い勢いで睨まれた。
彼女はすぐに顔を前に向けたがまさかこの女が?と思いながら彼女の後ろ姿を見つめた。
だがあの馬鹿女に出来るのか?あんやり方が。
まぁ〜不可能では無いか。限りなく0に違いが、一応名家のお嬢様らしいしな。
丁度良いタイミングで今日は実技授業がある。私にとっては二回目の授業なため何をやるかも把握済みだ。
この機会にローナ・アグリシアという人間を見極めておくとしよう。
実技授業の時間は刻々と迫っていた。相変も変わらずあの二人の周りには女子がいるがそこは置いといて。
クラスの連中も実技授業ともなれば、苦い顔を浮かべるもの達も沢山いた。
話したがりな女子や口がすぐに動く人間はその話で持ちきりになるだろう。
「なぁ〜今日実技授業じゃん!どうすんだよ。」
「だよなぁ〜。俺たち魔法は苦手だもんなぁ〜。」
「運動もあるなら俺は死ぬゾォ〜。」
三人の男子は頭を抱えて嘆いていた。
どうやら魔法も運動も苦手なやつがいるそうだ。まぁ、珍しいことでも無いが大抵の人間は出来ても好きで無い限り嫌いな分野だろう。
だからこそ私も手抜きをしやすいし、出来なくても目立つことは無い。
ある意味楽に出来るかもしれない。…フラグが立たなければ。
そんなことを考えているとチャイムはいつの間にか鳴り、リズ先生が教室に入ってきた。
「おはよう、今日の授業は一日中魔法の実技を行います。今から魔法衣に着替えた後各人訓練場に集まるように。遅刻した者、見学者は原点とする。」
リズ先生は早々と説明するとそのまま教室を出て行った。その途端にクラスの連中は嫌そうな顔になり話をしだす。
それもそうだろうどうやっても逃げられないようにリズ先生はわざと最後に忠告していた。
次の実技授業に遅刻しないよう、それぞれ更衣室に行ってシンプルな白黒の魔法衣に着替える。
魔法実習をするときはいつもこの服に着替える。比較的に動きやすい服で特別な服に喜ぶ生徒もいる。
みんな遅刻しないように急いで着替えると訓練所に早々と集まった。
男女別に別れて並ぶと自然的に無口な私とルキは後ろになった。
当然だ。私は留年生だし、ルキは転入生だ。元々あった並びに私達が入る余地も無かった。
しかしお互い厄介な人間では無いとわかっているので別に気にすることも無かった。
「それでは、実技授業を始める。まずやることは魔法試験をする。それぞれが所有する魔法や基本的な風、火、水、土の基本魔法を使っても構いません。今目の前にある的に的中させれば良いだけです。それでは五人ずつで始める。」
遠くに用意された四角い的に魔法を的中させるだけの簡単な実力試験だ。
だがこれはみんな頑張るだろうな。出来ない人間はいつの時も恥ずかしいものだからだ。
わざと公開する形で試験をするのも手抜きをさせないためだろう。
私は手についている魔法制御装置を見つめる。これがあるおかげで変に暴走することも無いだろう。
幸い最後列だからみんなの出来ばえと実力を平均して普通路線を目指すことにする。
最前列の男女が五人ずつ出て試験が始まった。
各人魔法陣を展開させ緊張しながら的を目指して狙い撃ちする。
過半数は的を外したり、距離が届かなかった者もいた。その中でもユキと言う女子は水魔法をうまく使って的を的中することに成功していた。
他にも男子は二人、土と水が的中していた。
その三人には皆素直な驚きを見せていた。
そして半分の列が終わっていき、結果は大体わかった。 やはり所有魔法を使う人間はいなかった。
それを隠しているのか、的中力を高めたいがために基本魔法を使っているのかは分からないが、所有魔法を持てる者は稀なケースみたいだ。
しかし、今の年頃にもなれば基本魔法を取得している人間は多いようだ。
的を当てられると人間も最初を見て少ないと思っていたが、案外みんな出来るようだ。
特に多く使われているのが水と土だった。
比較的重さを感じる物の方がコントロールしやすいのかも知らない。
それに一番最初の的中率の高さからみんな無難な方を選んでいるのかもしれない。
その考え方は私も同じだった。失敗するよりかは成功した方がいいし、失敗するとわかっているのに自ら試そうとする人は少ないだろう。
そして気になっていたローナの出番がやって来た。これまで一人一人注意して確認したが、試験で手抜きをしている人間は見られなかった。
つまり最大限の結果を振っていたということになる。そのことから今までの人間は少なくとも除外はしてもいいだろうと判断する。
そしてローナは前に出ると、何故か私のことを睨んだ。その態度は更にジゼルの疑いをかけた。
そして彼女は位置につくとまさかの風魔法を発動させた。
今まで誰も試みなかった風魔法を使うことに周りの人間は興味をそそった。
そしてその威力の強さにも驚いていた。
酷く荒れた風を作り得意げに彼女は笑って的に振るった。そして凄まじい衝撃音が響いた。
一瞬みんなは顔を伏せるとしばらくして顔を上げ、的の方に顔を向ける。しばらく砂埃が舞うと数秒後それは姿を現した。
「う、嘘だろ!」
一人の男子が驚いた声を上げると他の連中もそれに続いた。
「ま、的が…無い‼︎」
その瞬間ローナは満面の笑みを浮かべ周りの人間はそれを褒め称えた。
ローナが放った荒々しい風は狙った的と共に左右の的三つを破壊していた。確かに名家のお嬢様なだけはあるな。
「流石、ですね。」
「そうね。」
この歳にしては優秀な人材として見られるだろう。しかし、所有魔法は使わなかったか、恐らく彼女の性格上、人よりも優れていたいタイプだ。
つまり最大限の差をつけようとするはずだ。
今のは恐らく本気を出しただろう。そんな人間が所有を持っていて使わないはずが無い。
だからこそ、彼女ではないと言い切れるのだが今のあの態度をどうにかしないと本質は分からない。
ジゼルにとっては些細なものでも危険な対象は排除しておくべきだと今の状況を見て痛感した。
今後のことを考えて速やかに排除するしかないな。
そして最後列の私達の番が回ってきた。私は一瞬目配せするとそのまま立ち位置に歩いていく。的が三つ壊れたことによって空いてる所に私とルキは立った。
そして男子の方に目を向けると、最悪なことにリヒトとシドが立っていた。
というかちゃんと参加するのかと率直に思いながら手を前に出し構えた。