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名家の落ちこぼれ、裏の実力魔法者  作者: 桜澤 那水咲
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学園編・変わり始める私生活

ツカサから死刑宣告をされたあの日から、私は意味もわからない授業を受けている。

座っているだけだけど。


男の教師は黒板にチョークと教科書を見ながら魔法の話をしていた。


私はそれを聞いているように顔だけ前を向けているが、全てが意味不明なのでただもんもんと終わるのを待っていた。


当然隣の席にはツカサがいて、目を合わせること無く真剣に授業を受けていた。

ジゼルは折り合いの悪さからやや体を右側に向けて左手で頰杖をつきながら居心地が悪そうに座っていた。


後ろからクラスメイトを眺めていてもみんな真面目に取り組んでいた。誰一人ふざける者すらいない。


それもそのはずだ三年が終わるこの時期には学年末テストが待ち受けている。

この最後の試練をみんな必死に逃れようと頑張っているのだ。


こんな時期に呑気にしていられるのもきっと私ぐらいだろう。


私の場合は欠席日数からアウトなため、今更足掻いても留年は決定事項になってしまう。


そんなことを分かりきっているなら、授業自体で無くて良いと思うが、そうも行かなかった。


私を今引き取っているのが隣にいるツカサだ。ただでさえ不自由に感じているが、私がもし彼に拾われ無ければ自由すら無かっただろう。


そんな私が彼の足をこれ以上引っ張ることになれば彼の評価も落ち、今の生活を維持できなくなってしまう。


それを知っているからこそ今ジゼルはこの場にいたのだ。


と言ってもこれまでを思い返してみれば彼の足など既に引っ張りまわし過ぎているが、私が出来る最後の足掻きはごく普通の生徒でいることだけだった。



「おい、授業はちゃんと聞いているのか?」


そんな時横にいるツカサに声をかけられ彼の方に顔を向けた。彼は私の白紙のノートを見ると鋭い視線をこちらに向けた。


「…聞いてるよ。」


「よくそのノートで言えたな。」


確かにと思いながらツカサは呆れたような顔をした。そして彼ら切り替えたように話を持ち出した。


「テストは何が何でも受けろよ。じゃないと留年すら危うくなる。」


「点数は0点かもよ。」


「……。」


彼は私に身が入らないのを見て僅かに沈黙になった後は顔を前に戻した。既に、いや大分前に救いようも無いとツカサはそれ以上何も言うことは無かった。


後日、学年末テストは予定通り行われ、散々な結果となった。


そして、私の元に届いたのは予想通りの留年決定のお知らせだった。



四月、新たなステップアップでは無いが今日からまた高等部三年として引き続き学校に通うことになる。



ツカサ達は見事私以外は進級し、最上級として別校舎にいるだろう。



新しいクラスメイトとは仲良くやっていけるか不安だが、今回ばかりは進級しろとツカサに釘を刺され今はとても気だるかった。



しかし、自由を手に入れるためには、大会でツカサに勝利をおさめ、どうにか今年は進級しなくてはならい。



ジゼルはため息をつくと止まっていた足を前に向けて歩いた。



仕方がない。少し本気で行くか。

私が不出来な生徒を演じるのも全て自由のため、手抜きは目立たず、楽に過ごせる。少々厄介なことになったが、テストのクリアは余裕だ。



しかし大会については少し頭を悩ますな。



私は誰も知らない人間に囲まれたクラスに入ると、見覚えの無い顔にクラスの連中はチラチラと視線を寄せていた。



私はそんなことには興味も無く、ただ指定された席に座った。今更周りからどうこう言われても既に慣れていることだと自分に区切りをつけた。



外見も変に目立つ私は気味悪がられる時もあるが、物好きな奴はバレンタインデーに逆チョコを送ってくる変人もいた。



それがからかいか、純粋な気持ちかは分からないが、この外見もあって私は出来るだけ目立つ行動は控えるようにしている。



かといってそんなフラグが立つものなら私自身が上手く回避していた。



そんな私に厄介な緊急イベントが発生した。

先程まで人が群がっていた女子グループの中心にいた生意気そうな女がグループを引き連れて私の前にただずんでいた。



「貴方?名前は?」


彼女はくるくるとした茶髪の髪を後ろに促して上から目線で物を言う。



「ジゼル・グレイ…ですけど。」



ジゼルは一瞬年下に対する言葉を使ってしまいそうになりとっさに回避する。

しかし彼女は私の名前を聞いて素直に反応した。



「…グレイ。ああ、あの名家の家ねぇ〜。でも可笑しいわね。そんな家柄の方が留年だなんて。笑えちゃうわねぇ〜。」



笑みを振りまきながら目の前の失礼な女は私を堂々と嘲笑った。それに続くように後ろにいる女子達もニヤニヤと笑いだす。



どうやら私は面倒くさいクラスに留年してしまったらしい。ここまで人を馬鹿にすると言うことは恐らくこの女も高貴な家柄なのだろう。

本当にこんな奴いるんだなとジゼルはここの中で値踏みした。



所でいつまで笑ってるんだろうか、この女は。そん様をさらすと見苦しいと心の中までに抑えた。



「まぁ、そうですね。」



私が出した答えは周りが拍子抜けするような解答。


今は安全第一を優先して、多少イラつくが受け流す選択をする。

そんなことをすると案の定目の前にいる女は立派な天狗になっていた。



「それはそうでしょうね。私は事実を行ったまでだもの。」



そこは否定出来ないな。確かに事実だし。

嫌味を言われているのに関わらずジゼルは素直に納得した。


しかし、突如浮上したのは、貴方の名前は?


だった。


その思いが伝わったのか目の前の女は思い出したように言った。



「あぁ!そうだった。私の名前はローナ・アグリシア、貴方と同じ名家の家の者よ。でも貴方よりは高貴な人間よ。」



いちいち一言多いと思いながら他人事のように私は無視をする。



「貴方何か言ったらどうかしら!それでも名家の人間でしょ。」



どうやらローナと言う女は軽くあしらわれるのは好まないようだ。その証拠に酷く机を叩き真剣な表情になる。仕方ない少し彼女に付き合うとしよう。


「残念だけど、ローナさんみたいな名家の誇りとか栄誉なんかはいらないの。私は所詮貴方達とは違う人間だもの、わざわざそこに囚われる必要はないわ。」



「貴方私を馬鹿にしてるの!」


なんでそうなると思いながら、苛立ち始めた心を静かに収める。あくまでも冷静さを無くしてしまったらこちらの負けだ。



「そうじゃないわ。貴方の価値観と私の価値観が違うだけ。私はそれ攻めるつもりも否定するつもりも無いと言っているの。」



ここまで言えば流石に馬鹿でもわかるだろう。簡単に言えばこうだ。お前のことは否定しない、だからお前も自分の価値観を押し付けず干渉してくるな。



ただそれだけだ。いい加減気づけよ馬鹿女。



今の私の発言によって相手にされていない所か鬱陶しいと言われているのが丸わかりになり、ローナは密かに恥をかくことになった。



それに気づかないほど愚かでは無いだろう。

だからこそプライドの高い彼女に助け舟を出してやる。



「ローナさん、お話しの所悪いですが、そろそろチャイムが鳴りますよ。」



いい頃合いだと思いながら、ジゼルの視線は上の時計に向けられ、ローナもつられて時計を見る。



「そっ、そうね。…それじゃぁ、失礼するわ。」


ローナは調子に乗った鼻を折られて焦った顔をしながら、静かに退散していった。



案外簡単に折れてくれて助かったと私は心のそこからそう思った。


そしてやっと平和な時間がやってくると思い、心の中で腕を伸ばしながら突然の緊急イベントを回避することに私は成功した。



程なくしてチャイムが鳴ると周りは次々と席に座っていく。

一瞬で教室は静かになると前のドアは開かれ静かに女の教員が入ってくる。



キッチリした教員なのだろう、顔つきから服の着こなしまで整っていた。手に持っていた薄い本を教卓に置くと教員は顔を上げた。


「どうも。このクラスの担当をするリズ・グアンです。よろしく、まず始めに転入生を紹介する。」


リズ先生の発言は一気にみんなが反応した。それもそうだろう、時期的にはおかしくも無いが転入生ともなれば誰もが注目するだろう。


リズ先生は入るようにドアに向かって言うと静かにその扉は開かれた。



綺麗な水色の髪に死んだ青い瞳、整った綺麗な顔はよりクラスの連中の興味を誘った。


「初めまして。ルキ・リーザと申します。よろしくお願いします。」


簡単な自己紹介をすると、彼女は頭を下げた。何故だろうか、彼女とはどこかであったことがある気がする。



そう思いながらルキに目を向けていると、彼女が顔を上げたと同時に視線がぶつかり、冷たい瞳で一瞬口を笑わせた。



その笑みはなんとも言えない威圧感があった。

この時わかったのはただ一つ、知っているのは彼女の顔ではなくあの黒い表情だった。



その後は彼女と視線が合うこともなく、何も無かったようにやり過ごすが私の警戒レベルは上がりつつあった。



幸い彼女が私の近くに座ることも無く手前の人が少ない席に座った。

席が自由に選べるこの環境ではどの席に座ってもおかしくは無い。



今の状況にジゼルは素直にホッとするとその日の授業は終わった。


放課後になっても例の転校生への注目は止まず、女子が群がっていた。当然それを見ていたローナは気にくわない顔をしていた。



彼女は耐えかねて席から立つと先程と同じような光景が繰り広げられていた。


クラスの女子がローナに上手く合わせるのは彼女の権力があるからこそだった。


本来なら誰も関わろうとは思わないだろう。

だが意外にもルキと言う転校生はハッキリした性格らしく、当たり障りの無い挨拶をして切り抜けていた。


そろそろ私も教室を出ようと会談を登って後ろの席から出ようとすると一瞬あの転校生と目があったような気がした。



それでもジゼルは歩みを止めずに廊下に出て行った。


校舎から出て丁度外に出た時だった。


「おい…。」


声をかけられると直ぐに誰かわかった。


「ツカサ、ルーカ。」


そこにいたのは生徒会の二人だった。

二人は私が名前を呼ぶとそのまま近づいてくる。


「どうしてここにいるの?」


「君が心配だったからだ。」


果たして本心で言っているのか分からないが話をそのまま進める。


「ジゼルはいろいろ危なかっしいものね。」


付け加えてルーカが楽しそうに口を開いた。


「…それで要件は?仕事?」


「いや、あの事件以来だいぶ魔法警備隊の手も空いたらしくてな。しばらくは回って来ないだろう。その間しっかり勉学に励めとのことだ。」



やっと魔法警備隊が手を打ち始めたかと思いながら私は少し気持ちに余裕を持った。



「そう、それは良かった。…わかったわ。」



私は冷静にキッパリとそう言った。



「前も言った通り、友達作って見たら?楽しむのも大事よ。」


「まぁ、気が向けばね。私は勉強で手一杯だから。」



「本当可愛くない。たいして勉強もして無いくせに。」


ルーカはいつも通りふざけたように言うが私の対応は至って普通で冷めていた。


「せっかくの休暇だ。大会の準備をするなり、休むなり上手に時間を使え。」



「うん。わかった。」



「それじゃそろそろ帰るとしょう。また連絡があったら伝える。」



ツカサはそう言うとルーカと共にどこかに行っていった。



久しぶりの長い休暇か。いつぶりかと思いながらいつもより遅く感じる時間の流れについだらけてしまいそうになる。



これが普通の生活と言うやつか。結構退屈かも知れないと率直な意見を私は思った。


今のこの場を見ている者がいるとも知らず。




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