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名家の落ちこぼれ、裏の実力魔法者  作者: 桜澤 那水咲
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学園編・裏の仕事3

長く走り続けて遠くの方に見えて来た数人の黒い影を見て標的と判断し、光の玉を撃ち放つ。



ようやく近くまでたどり着いた時には一人の黒魔法使いが崖かられ蹴り落とされていた。



仲間割れか?



その光景に目を見開きながら距離を開けて立ち止まる。


そして警戒をしながら崖の上にいる白い女を見つめた。


いち早く気づいたのは、体に浮かぶ文様だった。



「魔族…」



この女は私が先程打った魔法弾に早々と気づいていた。



充分避けることも出来ただろう。なのにあえて、仲間を盾にした。まるで見せしめだ。



いくら敵でもあまりにも残酷だ。両方がみつめる合うと彼女は少し目を見開いてから微笑んだ。



「まさか、こんないい収穫があるとは。フフ…イルさん、それでは頑張って下さいね。ではさよなら…ジゼルさん。」



私の名を何故知っているんだ⁉︎こんな奴なんて私は知らない。



「貴様!…何故私の名を…!」



彼女はそれ以上何も言わずに去っていく。動揺しながらもジゼルは標的を切り替えて、砂埃が舞い上がる崖下に目を向け敵に銃口を向けた。



「…お前が指揮官だな。」



敵は(しび)れた体を起こしながら洗い息を吐いた。羽織っていた黒いマントも既にボロボロになっており所々血がついていた。



絶望とも言えるこの状況で指揮官は歯を食いしばった。立ち上がった時に顔を一瞬苦くすると右腕をとっさに抑えた。



「ああ、私が指揮官だよ。」



目を開く力すら残っていないのか、それとも絶望しているのか彼女の瞳は目を細めて歪んでいる。



「そうか…ならここで死ね。」



構えたままジゼルはそのまま引き金を引く、不意をつかれたイルはとっさになって手を前に突き出して紫の薄い膜を張って魔法弾を弾き飛ばした。



その反射的行動にイルは荒い呼吸を吐きながら目を見開いていた。



こんな状況だ、イルが死を免れないことは彼女自身が一番わかっていた。しかし本能的にたった今それを妨害していることに不思議な感覚を覚えた。



「死ぬと分かりきっているのにな。」



イルが肩を上下に揺らしながらそう呟いた。

そして目の前にいるジゼルを睨みつけると後ろに隠し持っていた短剣に手を伸ばし前に踏み出し

た。



ジゼルはその一振りを後ろに下がって軽くかわすと眉間に皺を寄せた。



イルが持っているあの短剣は私の持っている銃とは相性が悪かった。

距離を取ればこちらに有利だが、近距離となるとそうはいかない。



相手の方が先手を取りやすい状況だからだ。

しかし、距離を取るにしてもイルの攻撃速度が速い以上すぐに距離を詰められることになるだろう。



ジゼルは少し苦戦しながらも二丁の銃を構えてイルをとらえようとするが、動きが風のように変わるせいで打てずじまいになっていた。



「っ、ちょこまかと!」


ーー ーー


「ーー死ね‼︎」



そんな時、後ろを取られてしまいそうになったためジゼルはとっさに足を使ってから飛ばした。

イルは苦しそうに声を上げるが体をひねって体制を整え地面に着地した。



「くそ、仕留め損ねたか。」



その一手をジゼルは逃さまいと銃弾を撃ち込むが再び風のように消えて行く。



今のこの状況でイルがここに残る意味も戦う理由も無い、すると彼女は姿をくらませたのでは無く逃亡を選んだはずだ。



ジゼルは周りを見渡しながら考えた。この状況で思いつく案は一つ、仕方がない。少々厄介だがあれをやるか。



実行することを決めた途端ジゼルは微かにイルの気配を追って走り出す。

向かった先は黒い森だった。手に持っていた二丁の銃は一旦背中にしまうと代わりにある物を取り出した。



装備した途端ジゼル森から一旦空に飛ぶと左腕を何かを投げるかのように振り下ろした。



それと共に鋭い音が一線を作るように落ちて行く。そのまま地面に着地するとジゼルは勢いよく右方向に走り出した。



あれから数分してもなおジゼルは足を止めることは無かった。どれだけ深く森に入り込んだだろうか。しかしそんな時にやっとトラップに引っかかった音がジゼルの指に届いた。



その瞬間に勢いあった足を止めて、地面に砂埃が舞った。そしてその方向に視線を向けると大体の位置を割り出して左方向に一気に攻めて行く。



当然のことだが、イルにはこの仕掛けのことも、場所を特定された事すら気がついていなかった。



目的地を一直線に目指し木々を乗り越えた先にいたのは案の定疲れ切ったイルだった。

イルは私の足音で気づいたのか、私が目の前にいる頃には既に短剣を構えていた。



「鬼ごっこは、終わりよ。」



わざと間を開けて強調するように言う。

彼女は動揺しながらも疑問を投げかける。



「何故!私のいる場所がわかった…」



冷静さを保とうとしているが、恐怖が全て表情に出ていた。



「あぁ…それはね。これよ、これ。」



ジゼルがそう言うと先程使っていたある物を彼女の目の前にちらつかせた。



そう、それは細かくて鋭い



「…糸⁈」



イルはあっけらかんとしたように言う。その姿は拍子抜けしたとも言えるだろう。



「そう、でもただの糸じゃないわ。見ての通り肉眼でも捉えるのが困難に近いぐらいの細さと透明感があるわ。」



ジゼルは自慢げに言いながら彼女に一歩一歩近づく。イルは説明を聴きながら後ろに下がり始めるがその途端ジゼルは止まった。



「…でも、そんなの触れれば気づくし、こんな短時間で森全体に糸を張り巡らすことも出来るはずが無い。」



「確かにそうね。でもそれが可能なら問題は無いでしょ。」



ジゼルは冷静にそう言うと解答を求めるイルに嫌な笑みを浮かべた。



「どう言うことだ。」



「簡単な話よ。この糸は私が所有する神経伝達糸と言う魔法で出来ている物ってこと。糸が対象に接触することで私の神経に刺激が加えられ、私だけが知ることが出来るってわけ。指を通して糸を持つことによってそれが可能となる。」



イルはそれを聞いて目を見開きながら口を震わせた。



「つまり、私の敗因は森に逃げたことか。」



「その通り、森に居ると分かればこの手がやりやすいし手間も省ける。それに森は右から左へと広がっていた。この糸はもう一つ特殊な力があって、糸が同時にあらゆる方向に張り巡らされて行く仕組みがあり、右の端からそのまま一直線に走ることで一気に全体に糸が行き届くことが出来るというわけ。」



その説明を聞いてイルは心底森に逃げたことに後悔した。彼女の顔は既に絶望一色に染まって顔をしたし背けた。まるで逃げる気力を無くしたかのようだ。



ジゼルはそんな彼女に容赦なく糸を放って体中を高速した。



「…そんな手を使われてわ最早逃げるのは見苦しいな。」



彼女の中で絶対に逃げ切れないと先を見越したようにそう静かに呟いた。



「でも、結果がわかっていようと貴方は森に逃げたんじょう?」



その言葉を聞いた瞬間力が抜けたようにイルは顔を上げた。



「…何故そう思う…」



「私なりの意見を言うなら、貴方は馬鹿じゃない。確かに森に逃げることは自然な行動とも言えるけど、貴方のその素早さを使えば森に隠れる必要も無い。何より敵が飛び道具を使うならなおさらね。入り組んだ場所に入るのは良いように見えてデメリットでもある。貴方の素早さを上手く活用しにくいもの。」



それでもあえてイルが森に行くことを選択したのはどうしてもそこに行かなくてはならなかったから。



イルは全てを見透かされていることに気づいて負けを認めるように笑った。



「危険をおかしてまで森に行ったのは抜け道があったからじゃないかしら。黒魔法いの連中ならここら辺の特色や状況を把握していてもおかしく無いもの。」



「フン…その通りさ、あの森は木々が多いから比較的に歩きにくい、この場所の特徴を分かっているなら尚更選ばない。だからお前も森の外側を走ったんんだろう?」



「えぇ、その通りよ。」



結果として抜け道を知っているということはある程度森を把握していることになるがやはり通りにくさに欠けている所が最大の欠点であり、ジゼルが予想外の魔法を使ったことでイルの計画は崩れたことになる。



「…抜け道、知りたいか?」



イルは笑って興味を誘うように言うがジゼルはそれにはのらなかった。



「いいえ、お断りするわ。」



「…理解不能だな。敵の本拠地を暴くことも出来るかもしれないのにか?」



「貴方はそれで良いわけ?」



「あいにく、私は見捨てられた身だ、拘束された今あの国がどうなろうと知ったことでは無い。」



彼女は吐き捨てるように言う。



「残念だけど、私は別に黒魔法国を潰そうとは思っていないわ。私は仕方なくこの仕事を受け持ってるだけに過ぎない。」



つまりジゼル自身に使命感も正義感すらも存在しないということだ、今やっていることは自分を助けるためと思って大人しく従っている。



ジゼルにとってどちらが滅ぼうと関係ない。ただ自分に自由があるならそれで良いと思っていた。



「…この世には面白い奴もいるものだな…」



そう言うとイルは大人しく目をつぶって時を待つ。



「…どうだろうな。」



ジゼルは平然とそう言うと糸を素早く引いた。

その瞬間、イルの首に巻きついていた糸が引っ張られ血が舞った。そしてイルの体はドサリと音を立てて地面に落ちていく。



糸を即座に回収すると死体を確認してその日の任務は終了した。





任務が終わって数日後、私は司に言われた通り彼の横に座って授業に参加するようになった。

クラスのほとんどの人間に忘れられた私は教室に入った途端、(誰だアイツ)から始まったのだった。


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