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幸せにするって言ったのに!

 今日、こんなことになるなんて、全く予想をしていなかった。


 今日は29歳の誕生日だ。誕生日は例年、王都でも評判のレストランの中から一つを私が指定し、彼が予約を取る。


 彼はあまり高価な食に興味がないらしく、うちの母が作った素朴な料理などを好む、変わったところがある。


 私は、高級な食べ物は、食材だけではなく、食べる側にも旬があると思ってる。


 父や母に一度奮発して高級なお肉を食べさせたところ、脂っこいだの少し胃にもたれるだのと評価され、意外にも好評とは言えなかった。


 そこから私は一つの結論を導き出した。つまり消化能力のしっかりした若い頃こそ、美味しいものを食べるべきなのだ。


 美味しいものか美味しくないものかを判断するのは、簡単だ。レストランの料金表を見て、一番高いものをオーダーすれば良い。


 高いということは、材料費や手間がかかるということだ。高い材料に手間をかける、当然美味しくなるだろう。


 そして、私や彼にはその料金を払う経済力がある。


 彼は国内でも唯一のSクラスの冒険者で、私は恋人兼彼の冒険でのパートナーだ。


 彼はこの世界でも 即死系、破壊系能力の最高峰である彼唯一のスキル『物質崩壊』の持ち主で、あらゆる敵をあっさり葬る能力がある。


 彼は私が側にいるだけで頑張れると常々言っていたので、私は応援以外、特になにもしなくていい。ただ一緒に戦うだけがパートナーではないのだ。


 ただ私は、彼氏がそう言っているからと甘えるような女ではない。私の生米をご飯に変質するスキル『炊きたてご飯』で、夜営時には活躍する。


 私はこのスキルはとても自分にふさわしいと思う。


 炊きたてのご飯には、どんな高級料理も受け止める圧倒的な包容力がある。この包容力の高さは私と類似しているので、このスキルが私に授けられたのは必然だと思う。


 ちなみにおかずは彼が用意するので、私の好みを伝え、用意してもらう。


 その私の献身的なサポートの結果、幾つもの高難易度クエストを達成した。私もその功績が認められ、Aクラスとなった。そのため、ある程度の収入があるので、高級な料理を食べる資格がある。


 今日もきっと美味しいものが食べられるだろう、もしかしたらプロポーズなんてされてしまうかもしれない。そう思っていた。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

「ミランダ、もう別れよう」


 彼、ユランが言った。


 待ち合わせのカフェ。彼は時間ぴったりに来るので、その時間に合わせ、彼がいつも頼む紅茶をすでに私がオーダーしてあった。


 彼は席についてから、しばらく私の話に考え事をしているように生返事で、手をつけられず放置された紅茶が冷めてしまい、私のせっかくの気遣いを無駄にされたという思いをやや非難気味に伝えたところ、突然そう言った。


「そういうの、面白くないわよ?」


 私は努めて冷静に、そう言った。彼はこの国で比類なき能力の持ち主ではあるが、冗談のセンスは正直褒められたものではない。堅物で、真面目だ。彼は話をするよりも、私の話をいつも真剣に聞いてくれる、そんな役割だ。


「……もう、無理なんだ色々」


「色々ってなに? 詳細を説明しないのに相手に理解を求めるのはただの甘えだわ。それに急にそんなこと言われてもそれこそ色々無理よ? ちゃんと話してくれない?」


「……」


 そう。彼と付き合って7年。自分の都合が悪くなるとこうやって沈黙する。やめてと言ってもこれはこの7年間改善されなかった。それに……


「あなた、私を幸せにするって言ったじゃない。嘘をつくの?」


 そう、ユランが嘘をつくのを私は見たことがない。私の確認にユランが答える。


「そういうところなんだ……僕の話を、まるで言質を取る手段くらいにしか思ってない……そう言うの、窮屈なんだ……」


 この話を、大勢の前で公開しているなら「聞きました? みなさん」と問いかけたい。正しいことを言った私を、事もあろうか悪者の様に非難したのだ。だから私は思いをストレートに伝える。


「まるで私、悪者ね。私の言ってることそんなに間違ってた?」


「別にそんなこと、言ってない。君の言うことはいつも正しいよ。ただ、相手がそれでどう思うかという思いやりが少しだけ欠けてるだけだ」


「結局悪者じゃない? それって」


「……もう、いいよ。とにかく別れる。もう無理なんだ」


「いやよ。せめて具体的に言って、なにが無理なのか」


「……じゃあ、例えばだけど最近、僕は少し僕らの関係に悩んでた。そのせいで少し髪が抜けて円形脱毛になったのは覚えてるよね」


「ええ、覚えてるわ、私たちの関係で悩んでたなんてことは今はじめて知ったけど」


「見たとき、君笑ったよね?」


「ええ、可笑しくて。それが気に入らなくて怒ってるの? なら謝るわ、ごめんなさい」


 なんだ、要はそんな事でふてくされてたのか。私は男を立てることができる。その為ならこのように謝罪もいとわない。


「……彼女は違った。心配してくれたんだ」


「彼女? 何、浮気でもしてるの?」


「違う、そんなことしてない。でも……気になっている」


「……」


 要は、彼は新しい刺激を少し求めてるのだ。確かに7年という期間は、マンネリな気持ちを誘発してしまうのかもしれない。ただ聞く耳を持たない彼に、今それを伝えても意固地になるだけだろう。ならまずやるべきことは、情報収集だ。


「可愛い娘なの?」


「……ん、まぁ、普通の娘だと思うよ。外見で言えば、おっとりとした感じだと……」


「そう」


 私は、私の外見に対して特に過信していない。女性が100人集まれば、10番目程度の外見的な美しさだろうと思う。上に9人来ることを許容できる謙虚さがある。話からすれば、私の上9人に入ることは無さそうだ。


「そう、それで……どんな娘なの?」


「これ以上は……君に言うつもりもない。彼女を抜きにしても、もう無理なんだ」


「そう?」


 これ以上は無理に聞き出そうとすると、彼をより意固地にさせる可能性がある。それにもうひとつ、確認しておきたいこともあった。


「別れるつもりなんて無いけど、もし仮に別れたとしても、冒険のパートナーは継続してくれるのよね?」


「いや、それも……解消だ」


「困るわ。ユラン無しで高難易度のクエストなんてクリアできないわ」


「それなら、身の丈にあったクエストを受注すれば良いだろう?」


「嫌よ、労力と収入が見合わないじゃない」


「……君は別に、今までもほとんど労力なんて、無かっただろう?」


「もしそうなら、あなたがそうしたの。そのせいで私が自立する能力をあなたが奪ったのだとすれば、その責任を取るべきじゃない?」


「そうやって、自分の事を正当化して僕を非難するんだね。僕は君の『スキル』じゃないんだ、君に使われるなんてもうごめんだ」


「……ごめんなさい、変な言い方になってしまったけど、要するに、貴方無しの生活なんて考えられないってことなの。だって私たち、7年も一緒に居たのよ? 女にとってのこの7年の意味、わかる?」


「今までの報酬をある程度貯金しておけば、少なくとも30年は普通に生活できたはずだ。それを湯水の様に使ったのは、君じゃないか」


 私の質問には応えず、彼は話を変えた。彼は幼い頃に両親が他界し、貧しい生活を送ったらしい。その為必要以上に節約する傾向がある。彼の生い立ちには同情すべきかも知れないが……


 ダメだ、どうしても非難がましくいってしまう。それがさらに彼の決意を固めてしまうとわかっていても……。


「それに、時間は、お互い様だろう? それに8年無駄にするよりは早い方がいい。君はいつもいってたじゃないか、男とか女とかすぐに持ち出すなって」


「あら、さっきは私が貴方の発言を言質取る手段にしてるなんて非難しておいて、そんな事言うの? ずっと一緒にいれば、何も無駄にならないわ」


「……なんでわかってくれないんだ!」


 そう言って、ユランがテーブルをドン! と叩く。この7年で始めて彼が声を荒げるのを見て、少し萎縮する。


 そんな私を見て、ユランがはっとした顔をする。謝ろうとしているのだろう、ユランが何か口を開こうとするが……


 彼は言葉を飲み込み、立ち上がった。そして二人の飲み物の料金よりやや高額なお金を置いて立ち上がる。


 まさか立ち上がってまた座ったりはしないだろう、そう、彼は立ち去ろうとしている。何か言わなければ……


「嫌よ、ユラン、愛してるの」


 彼は立ったまま先程と同じように、何かを言おうとして、それを飲み込んで立ち去った。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 その後の記憶は曖昧だ。何をするわけでもなく、何を考える事もなく……


 気が付くと、一軒のお店の前にいた。


 去年、ユランが私の誕生日を祝ってくれたレストラン。


 ふと、窓ガラスに写る自分の姿が目に入る。


「酷い顔……」


 思わず口にする。泣いたつもりは無かったのだけど、泣き腫らして、朝セットした髪は既にくしゃくしゃ、不釣り合いに着飾った姿が、余計にそれらを強調する。


 その後、レストランの中に視線が移る。


 高級そうな料理を、楽しそうに食べる男女二人。女性は幸せそうに微笑んでいる。


 そう、去年の私のように。


 彼女の今見ている景色は、きっと素晴らしいものなのだろう。


 そう考えると唐突に気が付いた。


「私が今まで見ていた景色は、ユランが見せてくれてたのね……」


 今度ははっきりと、自覚した。ちゃんと涙が出ていることを。




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